さて、一応、輝夜にゲンの様子を見てきてもらい、二人のもとに歩み寄る。行動がいつも通り過ぎたけどな。
永琳は俯いて震えていた。
サキはこちらをずっと見たまま涙を流していた。
これは随分と待たせてしまったらしい。別れ際、サキとは話したが永琳は無理やり気絶させて連れて行ってもらったからな、なんか怒られそうな予感。
「永琳」
目の前まで歩き、止まって名前を呼ぶ。俺の声に反応して一際激しく身体を震わせる。次の瞬間、顔を上げた永琳は涙で顔をぐしょぐしょにしながら睨みつけてきて手を振りかぶり、俺の頬を叩いた。
避けずにしっかりと受けた。この一撃に、永琳の気持ちが込められていたから。
叩き終わった永琳は、その勢いのままぎゅっと抱きついてきた。
「…………馬鹿」
「悪かったな……」
簡潔な幕切れだったが、この短い間でお互いの気持ちはしっかり伝わったはず。これだけでいいんだから、俺達って凄いよなぁ……。
安心させるように、こういうのも変だが…身体全体で抱きしめた。比喩だよ、それくらい大きく抱きしめたってこと。二本の腕と胸で。
「おっと、そう言えば……サキ」
頭だけ上げてサキの方を見る。腕で何回も目を拭いていたが、俺に呼ばれたことでそれもやめて唇を噛み締めていた。
「………おいで」
「……ッ!!」
片腕を差し伸べて呼んでやる。一度だけ、ぎゅっと目を瞑ったサキは閉じた目を開けると同時に走って抱きついてくる。うんうん、サキはこうでなくちゃな。
「レ、イ…!心配…したんだから…ッ!!」
「はは、悪い悪い。でも約束守ったろ?……死ななかったぞ、俺は」
「ッ!!ばか…ばかばかばかッ!!当たり前なんだから!!破ったら私が殺すもん!!」
「破ってたら死んでるから殺せないけどな」
俺は小さく笑い、顔を上げさせて二人に…キスをした。
キザったらしい?知るか、今はこれでいいんだよ。何も知らない奴が傍から見ればウザいと思うだろうが、理由を知ってる奴からすればハッピーエンドだ。第一、ここに居る奴の他に人は居ない。ならいいじゃないか、俺がこんな感情になっても。
二人をまとめて抱きしめながら顔を上げれば、ゲンが居た。
「ああ、そう言えばお前も居たなぁ」
「おいおい、忘れんなよ。ま、しょうがないか?」
苦笑しながら濡れたゲンがやってきた。ビショビショって…格好つかないな。
「お前のせいだがな。ま、いいか……」
「そうだな。それより……苦労かけたみたいだな。ありがとよ」
「お前から礼を言われるなんて…明日は雪か?それと気にすんな。対して苦労はしてないさ…二人は強かったぞ」
「そうか……それと月神のことだが」
「ああ、俺達がもしかしたら神になったお前なら生きていられると思って信仰してみたんだが…無事なれたみたいだな」
「俺はもともと不老だ。余計なお世話だぞ。ま、神も悪いもんじゃない。崇め奉れ、馬鹿野郎」
「ハハハ!!そうだな、アマギ神様。お会いできて光栄ですってか?」
その後二人で暫く笑ってから、ふと気づいたように隣を見た。そこにはなぜか泣いているゲンの奥さんがいた。
「うぅ…感動しました~」
あ、ちゃんと俺達の事を見ていたんだな。
「そうだ、紹介するわ。こいつは俺の嫁の松岡弥生(まつおかやよい)っていうんだ」
「え、あ!弥生です!よろしくお願いします!あ、あのあの、アマギ神様にお会いできてほんとうに嬉しいです!」
「弥生は小さい頃からアマギ神…まあ、零のことが好きだったらしくてな」
わたわた慌てながら喋ってくるこの子は小柄で可愛い子だ。
「しかし…ゲンが結婚なんて……ありえねぇ」
「おい。まあ、俺には勿体ないくらい、いい嫁さんだよ」
「ロリコンか……」
「ちょっと待て!今なんて言った!?俺はロリコンじゃねぇ!それに弥生は成人だ!」
「いや、でも子供の頃から俺の信者ってことは…俺が神になる前から一緒に居たお前にとっては……なぁ?」
「ぐっ……!!」
小柄っていうだけで子供には見えないが…成人にも見えねー。
「弥生ちゃん?」
「ふぇ!?は、はい!……弥生ちゃん?」
「こんななりだけど、君より遥かに歳上だぞ?」
「そうでした!」
「さて、なんでゲンを好きになったかもわからないし、何がいいのかもわからない」
「馬鹿にしてんのか!?」
「実際馬鹿だし、弄られるの大好きな奴だが……」
「ちょっと待とうか!」
ゲンうるせえ。本当のことだろうが。見ろ、弥生ちゃんは一生懸命聞いているぞ。
「こんな奴でも何かしらいいところはあるのだろう……こいつは良い奴だ。曲がったことが嫌いなやつだ。でも自分のことが何にもできない糞野郎でもある。だから……誠意一杯支えてやってくれ」
「………はい!勿論です!」
「いい子だ。勿論、弥生ちゃん自身も自分を疎かにするなよ?ま、こんなやつだが、好きになってやってくれてありがとな」
本当にいい子だ。ゲンはいい子を見つけたなぁ。頭を撫でてやると嬉しそうに笑った。ついでに最大級の加護も与えてやる。
「ぐすっ……」
「ん?」
なんか聞こえたからゲンの方を向くと……泣いてた。
「おいおい……どうした」
「うぐ……零にそんなに言われるなんて……嬉しかったんだよ、馬鹿野郎め!」
「何故罵倒されなければならん……」
もういい、暫く放っておこう。
「零さん、僕にはなにかないんですか?」
「うわっ!?」
近くにゲイがいた!ついついサキと永琳にぎゅっと抱きついてしまった。
「お前には何もないわ!こっちくんな!幸せになっちまえ!!」
「はい、幸せですよ。ありがとうございますね」
え……いや、そういう意味で言ったんじゃないんだが……もうシュウとは関わらまい。そっちの道に完全に堕ちてしまった奴はもうダメだ。前はバイで済んでたのに……。
「はぁ、やれやれ…相変わらず濃いメンツだ」
「いいじゃないの。面白そうで」
「輝夜か……」
いつの間にか輝夜が隣にいてこっちを見ていた。
「永琳もこんなに可愛くなっちゃって」
「姫様…お仕置きしますよ?」
「冗談よ、冗談。じゃ、私はちょっと用事を済ませて来るわね」
そう言って輝夜は家の中に入っていった。多分、お爺さんとお婆さんに挨拶にでも言ったのだろう。不老不死の薬は渡すのか?
本当なら帝が集めた兵士なんかが居るはずなんだが、俺のせいでそんな場面は無い。だが、俺が思うに輝夜が居ないことが帝に伝わり、貰ったのなら蓬莱の薬を献上するんじゃないか?
それでそのまま捨てに行って途中で妹紅に盗られると。憶測だから真実は知らないし、これからのことだから尚更わからない。
ま、俺にはどうでもいい話だ。妹紅頑張れとだけ言っておく。
「さて、そろそろ離れてくれ、二人共」
「え~、もう?」
「いいじゃないの、少し位。感動の再会なのよ?」
「自分で言ってる時点でもう感動味は無くなりました。いいから」
ぶつくさ文句を言い始める二人だが、引き剥がす。もうそろそろ疲れてきた。改めて二人の顔を見る。少し濡れていたが、これくらいなら気にならないだろう。
「二人とも、本当に久し振りだな。しかし綺麗になったな」
「当たり前よ。いつ、零に会えてもいいように綺麗にしてたわ」
「綺麗だなんて~///」
サキも一層綺麗になって大人の色香が出てきている。喋ったら全部消えて可愛くなるけど。
永琳もなんか、知っていた永琳より美人のような?努力の賜物?
「あ、そうだった!責任、ちゃんと取ってね~。永琳には許可取ってあるから今から私はレイのお嫁さんなんだからね!」
………まあ、約束だったしな。そんな気もしたし。それと、永琳と仲良くなったんだな。呼び捨てしてるしさ。
精神世界の二人がちょっとうるさいなぁ…。
「じゃ、一応指輪でも渡しときますか?」
腕輪から指輪を取り出す。俺の加護付きの指輪だ。真ん中に小さなダイヤが嵌めこまれている。
「本当!?」
「やっと認めてくれるのね…長かったわね」
「まあまあ…ほいっと」
二人の指に着けてやる。二人の白く細長い指に指輪は大きかったが、嵌めた瞬間にサイズが変わり、ぴったしの大きさになる。
「よし。俺も同じのを持ってるからな」
俺の分も出して見せてから左手の薬指と中指に嵌める。
二人はうっとりと指輪を見てから再度、抱きついてきた。嬉しかったのかね?
『零さん!私が一番付き合い長いんですからお嫁さんにしてくれてもいいんじゃないですか!?』
『ズルいわよ、御主人様!』
あ~もう、うるせぇ~。叫ぶなっての。
それからゲンのもとに行ってちょっとこれからの話を聞く。どうやら輝夜の言ってる所で暫く過ごしてから月に帰るそうだ。腐った奴らは排除してるから大丈夫だとさ。
サキは残って、四人で帰るらしい。そんな話をしていると、丁度輝夜が帰ってきた。
「お帰りなさい、姫様。どうでした?」
「ええ、お別れはちゃんと言ってきたわ」
永琳と輝夜が今度は話し合いを始めたので、シュウ達二人を除いた四人で雑談をしていた。
「サキも大きくなったな~」
「でしょう?背も胸も大きくなったんだよ!」
まだ大きくなったのか。
「私もサキさん位大きければ、ゲンくんを喜ばせてあげれたんですが……」
そう言って自分の胸をペタペタ触る弥生ちゃん。
「「ゲン……」」
「え!?俺か!?い、いや、小さい弥生も好きだぜ!俺は!」
この一言で沈んだ弥生ちゃん。これは酷い。
「ゲン……最低だよ。女の子に向かってそれはないよ……」
「弥生ちゃん、しっかりするんだ。あいつはロリコン…だからそれでいいのさ。弥生ちゃんのあるがままの姿で魅了するんだ」
「アマギ神様……私、頑張ります!」
「うむ」
「まて、弥生!色々騙されてるぞ!相変わらず口が巧いやつだな!そんなやつを信仰するな!」
あ?なんだとテメェ。
「縛って吊るして二刀流木刀でボコった後にセメントで固めて落書きして死にたいくらい恥ずかしい格好にしてから往来に晒すぞ」
「ごめんなさい!!!!!」
即効で土下座してきた。プライドの糞も無いのな。
頭をグリグリ踏みにじって笑ってやる。
「無様だなぁ、うんこマン」
「うんこマン!?くっそ、いつも通りか!いい加減離せ!」
「却下」
一蹴して更にゲンで弄っていたら輝夜と永琳がこっちに来た。話し合いは終わりか?
「今から姫様が言う住処に行くわ。それで、零は……」
「ああ、俺はついて行かない」
「ッ!?それは……なんでかしら?」
「俺は今旅をしていてな。そろそろ此処も離れるし」
鬼が出るとか茶屋のおばさんが言ってたしな。妖怪の山には暮羽や文が居るからな。ちょっと心配なんだよ。
「でも、お前らのところにはちょくちょく帰るから、心配すんな。長くても数年って感じだからな。悲しむ必要はない、直ぐ会える」
「………そう、分かったわ。零はそういう人だものね。それに、生きてるって分かったし、安心できるわ」
「う~…もっと触れ合っていたかったけど、我慢する……今度あったらちゃんと相手してね?」
「ああ。勿論だ」
月からここまで乗ってきたのであろう船に乗り込んで飛んで行く皆に手を振り、俺は家に帰ることにした。
行動に起こすのは明日からでいいだろう。約束通り、今夜は二人の相手をした。
やっと再会。