「じゃ、次のやつ」
「あ、ああ……鬼の四天王が一人、星熊勇儀だ。正直、勝てる気がしない…だから最初から全力で行かせてもらおう」
「ん…まぁ、いいだろう。直ぐ終わるならいいさ」
勇儀は持っていたデカイ盃を投げ捨て、妖気を全力で出し始めた。ん~…若いからこの程度か。しょうがない。
「ハァァァァーーーーーッッ!!!!」
ちょ、声でかいですから。あぁ、でもさっきの宣言は撤回することになりそうだな。地面さん、ごめんなさい。
「三歩必殺ッッ!!!」
マジで?初っ端からクライマックスですか?でも……それもそれで面白いなぁ…。いいだろう…俺もそれに乗ってやろうじゃないか!
ニヤリと笑い、勇儀に合わせて叫んで脚を踏み出す。
「「一歩ッ!!」」
共に叫び、共に踏み出し、共に弾幕を展開させる。勿論俺のほうが多く強いため、ぶつかり合った弾は俺の弾幕によって飲み込まれていった。地面が陥没し、罅割れた。目の前では勇儀が同じ事をしたのに驚き、視界の端では麗鬼も同様に驚いていた。それでも技を止めることはない。
「「二歩ッ!!」」
更に脚を踏み出し力を溜め、体勢を整える。衝撃が地面を奔り、互いにぶつかり合って周囲のもの全てを吹き飛ばす。
「「三歩ぉぉぉぉおおおおおッッ!!!!!」」
最後の叫びでお互いの拳をぶつけ合う。凄まじい光と熱と音と衝撃波が生み出され、視界を奪った。少しの拮抗もなく、俺の拳が勇儀の拳を砕いて、振り抜いたと同時に腕を破壊した。足元が陥没し、振り抜いた拳による拳圧が勇儀と背後の木を襲う。吹き飛んだ勇儀の周りは消し去られたかのように何も無くなり、腕と口から血を流して気絶した勇儀だけが残されていた。
あ、今更言うがちゃんと手加減はしたぞ?俺の本気は…なんだっけ、出したこと無いけど爺に言われたんだよな…え~っと、最低でも星が跡形もなく無くなり、宇宙が消えて新しく形成されるだろう、とかなんとか……。そんなわけないだろ、厨二みたいじゃねぇか。
まあ、能力ある時点で何も言えないがな。大体宇宙を新たに形成するとか、マジで意味が分からんし、そんなことできたら拳一つでなんでも出来るだろうが。
まあいいや、どうでも。それより勇儀だが、近づいて容態を確かめてみると、内臓破裂、各所粉砕骨折、筋肉断裂、多量内出血、右腕消失……いやいやいや、待て待て待て!右腕は原型を留めてないだけでまだあるから!骨が皮を貫き、筋繊維が見えて肉の塊にしか見えないけども!
「やっべ……やり過ぎた…」
死んではない…死んではないぞ?でもな?瀕死なんだよ。もう数分で死ぬんじゃないだろうか?
……さっさと終わらせるか!
「麗鬼」
「な、なんだ?」
「さっさと始めて終わらせるぞ、ちょっと用事ができた!」
勇儀治すという用事が!こう見えて結構テンパってるんだぞ?今までは殺しても良かったし、弱い奴らにはちゃんと加減ができていたけど、鬼が他の妖怪よりも強いのがいけないんだ。神は死んでも信仰さえあれば生き返れるからな。
「それじゃあ、始めようか」
「うむ!鬼神、麗鬼!いざ参る!」
「断るぜ!」
互いがぶつかり合い、拳と蹴りでラッシュをかける。拳で攻撃を弾き、蹴りで相手にダメージを与える。
「セイッ!」
「残念でした」
戦っていくうちに落ち着きだし、普段通りに戻っていく。ふぅ…これならちゃんと加減できるな。いやぁ、勇儀のはアレだよ、技が初見殺しや必殺と言われるくらい強かったのにそれの全力以上の攻撃を受けたからだよな。予想外というやつだ。
「ぐぅ…やるねぇ」
「だろう?だが、そろそろ終わらせないと死んじゃうからな」
勇儀が。ということで終わらせることにした。隙を見て両膝を蹴り砕き、姿勢が低くなって頭が丁度いい位置になったので顎を膝蹴りで砕いた。
「おっと、結構飛んだね」
もう既に意識がないだろうが、宙に舞って落ちてきた所を回し蹴りでとどめ。吹き飛んで倒れた麗鬼はぴくりとも動かなかった。
それを見た天狗は雄叫びを上げて喜んでいた。
「アマテラス、後処理と萃香を頼む」
「はい!任せて下さい!」
俺の中から出てきて元気よく返事をしてくれた。ルーミアも戻ってくるだろうが、アマテラスが居るからいいか。
勇儀をお姫様抱っこたるものをして持ち上げ、麗鬼を背負う。背中がいい感じですね。直ぐ様俺の部屋に連れて行き、二人を布団に寝かす。
「あ~あ、永琳に組織修復剤貰っとけばよかったな」
アレがあれば傷は一瞬で治ったのに…残念だ。取り敢えず勇儀からだな。
「ちょっと失礼……下半身は大丈夫だが、問題は上半身ね。内蔵系が殆ど壊れて骨が粉々…妖力も無しか。う~ん…俺の能力使えばいいか」
【消す程度の能力】、これを使えばいいんだ。ほら、幽香のところの向日葵もそれで助けてやったろ?
「じゃあ、パパッと…」
『勇儀が傷ついたという事実』を『消去』した。能力を発動させた瞬間に勇儀の体は傷一つなくなり、綺麗なもとの体に戻った。いやぁ、便利便利。さっすが俺の能力。
「ぅん……」
あ、もう起きやがった。体が全快したから目が覚めたのだろうか…ま、どうでもいいや。
「おはよう、気分はどうだ?」
「……不思議と、いい気分だよ。体が軽い気がするね………」
そう言った勇儀は手を目の前に持ってきて握ったり開いたりと確かめていたが、それで何がわかるの?よくアニメなんかでもキャラが掌見るけど…馬鹿なんじゃないだろうか、といつも思う。それと膝枕してもらっているのに気付いた勇儀が顔を赤くしていた。
さて、次に麗鬼だがこいつは放っておいても治るだろうが、さっさと鬼どもに説明して欲しいのでな。勇儀の横に寝転がっていた麗鬼も同じように治した。
麗鬼も時期に目を覚ますだろう。取り敢えず、タフな勇儀に説明だな。
「あの…さ…勝負はどうなったんだい?」
「俺の勝ちで、お前は死にかけた。右腕が潰れて内蔵が破裂して骨が粉砕されて出血が大量だった。なんというか…スマンな」
「いいさ、戦いで決まったことだからね」
なんという男前な…まあ、こういった奴は楽でいいから嫌いじゃないがな。一撫でしてから膝を抜き代わりに枕を挟み込む。
「………ぁ」
「ん?……まぁそれより、お前はまだ寝ていろ。一応、もう大丈夫だが安静にしてろってことだ。俺はコイツと話を付けてくる、分かったな?」
「……わかったよ」
布団をかけてやれば、布団の端を引っ張って頭まで被ってしまった。ま、寝てくれるならそれでいいか。
「はぁ…ほら、起きろ。もう起きてんだろうが」
隣に居た麗鬼の頬をペシペシ叩き、目を覚まさせる。叩かれた麗鬼は小さく唸ってから起き上がった。
「ここは……そうかい、負けたんだねぇ…」
「そうだ。というかいきなりフランクになったな?」
「ふらんく?」
「砕けた態度になったな」
「ああ、そういうことかい。負けて私には発言権が無くなったんだ、楽に行こうと思ったのさ」
見てみると、本当に緩んだ気になり軽い感じになった。ふむ……結構いいやつっぽいな。
「それで、私達はどうなるんだ?」
「ああ、別に此処で暮らしていいがいざこざだけは勘弁な。面倒臭いことは嫌いだ、問題は起こすな。天狗共にも言っておく」
「それはありがたいね。子供たちにも言っておくよ…それと、なんで勇儀は布団被ってるんだ?」
「さあ?」
此方に背中を向けて俺の布団を被った勇儀は、さらに丸くなった。
「それとだね…零、アンタ私と結婚しないか?」
…ハァ?いきなり何言ってんだ、コイツ。あ、勇儀がビクってなった。
「理由は?」
「私より強い男が好きなのさ。それに零が気に入ったっていうのが一番か?これでも男妖怪に言い寄られたのは数知れず、どうだ?」
「残念、もう二人と結婚してるぞ」
「二人?ならまだ増えてもいいってことだ」
基準がわからないんだが?なんで増えてもいいことになってるの?なんでニヤリと笑う?
「どうかねぇ…俺が振り向くかどうか」
「言ったね?振り向かせてみせようじゃないか」
ほんと、鬼ってもんはよく分からんな。話し合いよりも戦いで語る……気に入れば仲良くなり、それ以上なら自分のモノにしたくなる…どこまでも欲望に忠実でどこまでも妖怪らしいな。ま、そういう俺も妖怪ほどではないが自分に忠実だがな。
さて、俺は外に行って皆と話をしてこようかね。
「じゃ、俺は話つけてくるわ」
「私はもう少し休んでから行くよ。勇儀と話もしたいしね」
「構わんが…俺の部屋だからな、暴れんなよ。それとちゃんと寝かせてやれ」
「はいよ」
それを聞き、部屋を出る。相変わらず広く長い廊下を歩いて家の外に出れば、玄関の前には天狗全員が集まっていた。暮羽が先頭に居るということは、あいつが集めたのだろう。
そこで、ルーミアとアマテラスだけが俺の側に来た。
「どうだった?」
「コテンパンにしたわ。全員気絶してるけれど、死んでは居ない。放置してるけどね」
「よくやった」
頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めて頭を手に擦り付けてくる。可愛いやつだ…っと、それより。
「あ~、大体俺がいうことはわかってるだろうが、鬼がこれから住むことになった。問題は起こすな、何かあっても俺達が居るし、居なくても天魔と鬼子母神が解決する。鬼にも説明はするし…あぁ、もういいや、お前ら!」
「「「「「「「ハッ!」」」」」」」
「仲良くしろ!以上だ!解散!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
こいつらにはこれでいいんだよ、まったく……。ノリが良い奴らは好きだぜ?
案外話が早く終わったので、もう一回麗鬼の所に行って話でもしてこようかね。今度はルーミアとアマテラスを連れて俺の部屋に入る。
「おや?そこの女が居るってことは…子供たちは負けたってことだね?」
「そうね。いい運動になったわ」
「ハハハッ!鬼全員を相手していい運動とは…おかしな妖怪だね!」
「そうかしら?」
なんか結構雰囲気良さそうだな。こいつらは大丈夫そうだが、後は他の鬼どもか…これはルーミアと麗鬼、それに勇儀に任せればいいだろう。それと、その勇儀だが布団から起き上がっていた。流石に昼だから寝れないか?
「そう言えば零…その二人は何なんだい?」
「ああ、こっちが俺の式のルーミアで、こっちがかの有名な天照大神だ。アマテラスに関しては普通に接してやってくれ、本人もそれを望んでいるから」
「はい、そうしてくださいね」
「わかったよ。それと…三歩必殺のことなんだが、なんで出来た?」
「見様見真似さ。攻撃モーションを一瞬で見切り、それを瞬時に真似た」
実際は知ってたからできたんだけどな、それのやり方でもできるから一応、嘘じゃない。納得してもらった所で四人には鬼どもの所に説明に行ってもらうことにした。勇儀も寝てないなら別に構わんよな?
俺が何者かというのは、まぁ、適当にはぐらかしておいた。俺は俺だからいいだろうが、的なことを言ったら麗鬼も納得してくれたし。
さて、誰もいなくなった俺の部屋で勇儀が寝ていた布団だけが残った。布団には血が付いていたので能力で消し去り、畳んで部屋の端に置いておく。じゃあ、暮羽のところに行きますか。文や黒猫にも会いたいしさ。
少し雑だったかな?
ま、気にしない気にしない。