旧・東方神零録   作:異山 糸師

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名前付けと宴会と

 廊下を歩いて他の所より豪華な作りの部屋についた。ここが天魔の暮羽の部屋であり、俺のくつろぎ場だ。日当たり風通し共に良く、縁側で寝たら最高だ。春になると桜で満開になり、庭で花見をしたりする。ノックもせずに勝手に入ると、着替えた暮羽と黒猫を抱えた文がいた。

 

「あ、零さん!先程はありがとうございました」

「いいってば。それより俺が頭になった件だが、もうそれでいいよめんどくさい」

「そう言っていただけると嬉しいです。天狗の総意でしたからね」

 

 暮羽の近くに座り、久し振りに抱きついてきたので俺も抵抗せずに愛でてみた。暮羽は甘えん坊だからなぁ……と言うか、俺の周りの奴らは皆そうだけど。

 

「というわけで、文もおいで」

「はい!零さん、お久しぶりですね!」

「にゃあ!」

 

 暮羽共々文も抱きしめ、黒猫が頭に乗ってきた。なんだかんだで文と仲良いんだな。昔は引っ掻き回してたのに。黒猫だが、猫又になって妖力もしっかり増えていた。二本の尻尾を自在に操り、俺の首にくるくる巻き付けてきたのだが、ちゃんと首を絞めていないところが愛情を感じられるな。案外ふわふわで気持ちいいわ。

 

 暫く二人と一匹とじゃれあい、黒猫に名前を付けようってことになった。

 

「黒いからなぁ……」

「黒と言ったら零さんですね」

「流石に同じ名前はアレですし…今まで一緒にいて黒猫で済んでましたしね」

「ふふ…文ったら何処にいても一緒に居たものね。そんなに猫が好きなのかしら?それとも黒猫を零さんだと思って……」

「そ、そそそんな訳無いじゃないですか天魔様!猫好きです!大好きですよ!」

 

 真っ赤になりながらそう叫んだ文から離れていく黒猫。身に危険でも感じたのだろうか。俺の膝の上でごろごろとしだした黒猫の喉を撫でながら、名前を考える。そもそもだ、こいつはオスなのか?メスなのか?

 

「ちょいと失礼」

「にゃっ!!?」

 

 確認しようと思って股広げたら、瞬時に俺の手の中から脱出して離れた畳に着地した………女の子が居た。

 

「雌だったか」

「主様のえっち………」

 

 んなこと言われてもしょうがないだろう。

 

 黒髪ショートカットの15歳位の美少女。黒の短いワンピースを着ていて、今は真っ赤になってスカート部分を内股で押さえていた。猫の姿だったんだから関係なくない?猫耳がへにゃりと伏せ、二本の尻尾が力なく揺れている。

 

「人化できたんだな」

「私も初めてみましたよ…」

 

 ん?じゃあ今まで一度も人化したことなかったのか。

 

「主様に…最初に見せたかったから……」

 

 主様…まあ、俺が飼い主だし、それでいいか。お、ちょうどいいから名前のアンケートでも取ってみようか。

 

「なあ、名前は何がいい?」

「ん…主様が付けてくれるなら、なんでもいい…」

「じゃあ、招き猫で」

「それでいい…」

「冗談だ」

 

 適当に言ったら真面目に帰された…ちゃんと考えてあげよう。観察した所、物静かなあまり表情を変えないタイプみたいだ。猫の時はテンション違うのにな。聞いてみたところ…

 

「猫の時は…なんて言うか…高ぶる?」

 

 何がだ。よく分からん子だが、これからはコイツ含めて四人で旅することになるんだし、ちょっとずつ分かって行けばいいか。

 

「にゃぁ……」

「俺のことが好きなのだけはよくわかった……」

 

 擦り寄ってきて身体を擦り付け、尻尾を俺の腕に巻き付けて離れまいと現してくる。

 

「女の子だったんですね」

「文も擦り寄ればどうかしら?」

「天魔様!」

「あらあら」

 

 そう言いながらもちゃっかりくっついてくるんだな。それより名前名前………う~ん、

 

「まねき」

「うどんですか?」

「王将」

「ラーメン?餃子?」

「マルちゃん」

「正麺ですよね、それ」

「「「う~ん………」」」

「にゃぁ………」

 

 三人とも頭を抱えて考え出す。ただ一人、黒猫だけが俺をじっと見ていた。いかん、これはちゃんと考えなければ……。

 黒猫黒猫……あ!

 

「黒歌!」

「アウトです!」

「じゃあ、五更瑠璃だ!」

「それもダメですよ!ストップ!他作品!」

「え~」

 

 じゃあ何にすればいいんだよ。ていうかメタいぞ暮羽、俺もだけどさ。しかし、名前決めるのにこんなに時間かかるとは思わなかったわ。う~ん…暮羽の大きな羽と、文の小さな羽をもふもふしながら考えること十分。疲れてきたので今度は暮羽に凭れ掛かり、後頭部で胸をもふもふ……やべ、寝ちゃいそうだぜ。すり寄ってくる黒猫の黒い耳をもふもふしながら……閃いた!

 

「よし、決めたぞ」

「にゃん?」

「今日からお前は、富士山だ!!」

「「ダメーーーッ!!!」」

 

 俺が叫んだと同時に、文と暮羽が叫んで止めてきた。暮羽は俺の頭を抱きしめ、文は腹に突っ込んできた。どんだけ俺を止めたかったのだろうか…よっぽど駄目らしい。ネタは駄目か……。

 

「わかったわかった…じゃあ、『三日月』でいいな?異論は認めん」

「別にいいですけど、何故です?」

「空を見てみろ」

 

 暮羽が名前に関して疑問に思って聞いてきたので、その理由を教えてやる。俺に言われて三人は既に暗くなり月が昇っている夜空を窓から見上げた。夜空には三日月が輝いており、妖怪の山を照らしている。

 

「なるほど…月からとったんですね」

「そうだ。別にいいよな?」

「三日月……三日月……うん、私はこれから三日月。ありがとう、主様」

 

 小さく名前を呟いてから、三日月をバックに綺麗な笑顔で笑ってお礼を言ってきた。どうやら満足してくれたみたいだな。めんどくさいから適当に決めたけど、よかったよかった。

 それと、名前を付けられて存在が確定したらしく、妖怪としての力も強くなった。ついでに式にしといたしな。あ、ルーミアの件で反省は対してしてないが式の札を改善した。俺の式になっても力がそこまで増えないようにする感じで。せいぜい大妖怪くらいさ。三日月が文を超えちゃったよ。

 

 さて、それから三人を引き連れてアマテラスたちの所に行ったんだが、なんとまあ…ルーミアとアマテラスが鬼共を仕切っていた。さすがというかなんと言うか……カリスマ?

 あと、鬼と天狗で宴会をする事になったんだが天狗が着いて行けないです。鬼の飲む酒、マジパネェ……と言いながら潰れていく天狗達。オーケー、敵は取ってやるぜ!

 

 度数99%を誇る、殆どアルコールみたいだが酒の味はするモノだ。どんなに酔わないような奴でも酔うようにした、これまた俺特製の酒。その名も【皆殺し】。ピッタリだろ?鬼もろとも皆殺しだ。

 

「駆逐してやる」

「何物騒なこと言ってるんだい」

 

 麗鬼に何か言われながらも、俺は誰にも見えないほどの速さで動いて鬼の持つ盃に『皆殺し』を注いだ。それを奴らが飲んだ瞬間、

 

「「「「「「ぶふぉあッ!!??」」」」」

 

 噴き出して屍と化した。99%位……なんて思う奴もいるかもしれないが、そこは俺手製の酒。一味も二味も違うのさ。唐辛子食ったと思ったらデスソース飲み干したぐらい違うのだよ、ワトソン君。

 

「ふぅ…静かになったんじゃね?」

「確かにね……御主人様鬼畜過ぎワロタ」

「にゃぁ………」

 

 残りは俺とアマテラスとルーミアに三日月。麗鬼に勇儀に角が折れたことを知らない萃香、それと暮羽と文。ただ、文がかなり危ない。

 

「ほらほら、もっと飲みなよ!」

「うぇっぷ……我が人生は…悔いだらけ……げふっ」

「文ーーーッ!!」

 

 萃香に勧められて飲みまくっていた文さんがログアウトしました。しかも悔いだらけなのかよ!

 

 急いで傍により、抱きかかえて生死を確認してみると、白目で口から酒を流しながら気絶していた。女がする顔じゃねぇ……取りあえず激写。

 

「にゃははは!だらしないねぇ…もっと飲まないのかい?」

「萃香……あんた、角折れてるよ?」

「え?は、え!?えぇぇぇぇええええぇぇぇえっ!!?」

 

 勇儀にそう言われた萃香は、手で俺が負った場所に触れようとすると空を切った。あ~あ、安物じゃあここまでが限界か。俺の足元に落ちている角を拾い上げ、どうしようかと考える。取りあえず、投げるか。

 

「ほ~ら、取ってこ~い」

「ちょっと待って~~~ッ!!!」

 

 犬に骨を取って来させるが如く、角を軽く振り投げた。萃香、元気でな。いや、だって…ねぇ?騒がしくなりそうだったし俺がやったってばれそうだったし。萃香が落としていった伊吹瓢を拾い上げながら文をポイッと捨てる。

 

「ん~、貰うか」

 

 無限に酒が出続けるんだろ?俺も無限を司るから作れるけど、めんどいからこれでいいや。いつでも酒が飲めるんだからあって不便じゃないし。でも、萃香の飲んでるやつだから同じ物を能力で増やして俺のを一つ作った。まったく同じで本物と言ってもいいくらいの品だ。

 

 萃香が使っていた片方の瓢箪を床に置き、俺の伊吹瓢を……手首にでも括り着けとくか。

 

「あ、そうだ。なぁ勇儀」

「ん?なんだい?」

「星熊盃くれ」

 

 現在進行形で星熊盃で酒を飲んでいる勇儀に聞いてみた。酒のランクを上げることができるんだろう?伊吹瓢と相性いいじゃん。少し考え始めた勇儀を見ながら、俺の脚の中で猫の姿になって丸くなる三日月を撫でる。

 

「これは私が使ってるやつだからね……新しいのでいいか?」

「あ、それなら能力で何とかするからいいよ」

 

 星熊盃を勇儀の手から取り、残っていた酒を飲み干してから二つに増やした。増えた片方がカランと音を立てながら床に転がった。それを拾いながらもう片方を返す。

 

「……へぇ、面白い能力だね」

「まぁな、まったく同じものだからさっきまで使っていたのだ、わかるだろう?」

 

 そう言いながら俺の持っている星熊盃を見せてやる。中は先程まで酒が入っていたということを表すかのように濡れている。あと俺達二人が口を着けていた場所。

 見せ終わってから酒を注ぎ、飲んでみると確かに美味さが違う気がする。今度からこれで飲みますかね。

 

 勇儀が何故か俺に背を向けて飲みだしたので、俺はアマテラスと暮羽の所に行ったんだが…暮羽は寝てるな。

 ふむ……そろそろ皆限界なのかね?アマテラスも眠そうだし、ゴミを消し去り綺麗な場所に寝させてやる。さて、残りは勇儀に麗鬼に……って、コイツらだけか。意外や意外、勇儀が残っているなんて……と思っている時期が俺にもありました。

 

「御主人様、私を忘れてもらったら困るわよ?」

「にゃ……私もです」

 

 忘れてないって。ただ、ちょっと頭の中から二人のことが少しの間消えてただけだ。ほら、俺って能力があれだしさ、な?

 

「まあいいわ。それより、こう言った時間も久しぶりなんだから、もっと味わいながら飲みましょう?」

 

 妙に艶のある声音で言ってから擦り寄ってきて酒を飲む。ふぅ…と、熱の篭った吐息を一つ吐くルーミアの顔を…正確には目を見る。意識はしっかりしている…ってことは、襲われなくてすむな。よし、それ以上酔うんじゃないぞ。

 そう願いながら、口の端から一筋酒がこぼれて顎と唇を濡らしていたので、拭いてやる。それを目を細めてされるがままになっていた。凄い艶かしいが、慣れたものだ。

 

「「む~……」」

「にゃぁ……」

 

 俺が再び摘みを食いながらルーミアと飲んでいると、今度は三人が頬を膨らませながら近寄ってきた。あれだな、可愛いね。だから残った俺達で仲良く飲むことにした。これで勇儀と麗鬼と仲良くなれたんだから、宴会と酒は凄いものだ。

 


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