いつもとは違うほんの少しだけ甘い物語。
どちらもあったかもしれない出来事。
でもどちらも無かったかもしれない出来事。
あの後少し休み動けるようになった俺は汗と疲れを落とすためにもう一度温泉に行く事にした。
何でも24時間入れる温泉らしくこの時間では家族湯なるものになってると書いてあるのを見ていた。
俗に言う混浴と言うやつだが、何故この深夜に設定されているのかはよく分からない。
最初に入る時に聞いた話によると深夜時間は滅多に人が入らないからゆっくり出来ると女将さんが言っていた。
せっかくだし使わせてもらうかな。
部屋に戻ってきて居間の方で先ほど脱いだ浴衣を回収、下着とタオルに財布を持って寝る準備をしているなのはに話しかける。
「それじゃ俺は温泉に行ってくるよ、おやすみ」
「え、温泉に今から行くの?」
「ああ、この時間でも空いてるみたいで人も少ないからゆっくりしようかなって」
寝てしまったユーノを布団に入れてから此方の方にくると何かを思い出したようになって聞いてくる。
「あ、あの家族湯っていうのに行くの?」
「そうそう、この時間帯はそれしかないしな」
んー……と何かを考え始めるなのは。
どうしたんだろ?
「それって混浴になってるよね?確か」
「ん、そうだな」
「それなら私もユウさんと一緒に入れるよね?」
「えっと……混浴だし問題はない、かな?」
「なら私も行く!少し待ってて!」
と何処か嬉しそうに慌てながらバックを漁りタオルやらを取っている。
そんなに焦らなくても別に置いて行ったりしないのにな?
部屋に付いてる時計を見ると0時過ぎを指しており、もうこんな時間かと思いつつぼーっとする。
部屋を出て扉の前でぼーっと待っていると数分ほどで準備を終えたなのはが出てくる。
「ユウさんおまたせ!」
「お、準備できたか。なら行くか」
こんな時間なのに元気だな、流石小学生。
尻尾でもあれば振ってそうな程、元気ななのはに手を引かれ温泉の方に歩いて行く。
なのはのこういう感じ動物に例えると猫みたいだよな、偶に天邪鬼な所もあるし。
そう考えるとフェイトは犬っぽいよな。はやては……狸?なんてバカな事を考えてるうちに温泉の前に着く。
温泉の前には張り紙があり、この時間帯は混浴であるという節と何時から何時までは混浴かなどの注意事項が書かれていた。
「と、どうした?」
急に温泉の扉の前で止まるなのは
なんだか何かを思い出して固まってる様な……?
「なのは?」
「っ何でもない!いこう!」
そして少し赤い顔をパシッと叩くと何か覚悟を決めた顔をして入って行く。
なんなんだ?
そのまま扉を潜り抜け、脱衣所に来る。
俺はそそくさと服を脱ぎ腰にタオルを巻いて準備完了。
さて、なのはは……
まだ脱いでないのか?
「俺、先入ってるぞ?」
「え?あ、うん!」
とりあえず身体を洗いつつ、なのはを待とうかな。
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「俺、先入ってるぞ?」
温泉の扉を指しながら私に聞いてくるユウさん。
これは助かった。
「うん、すぐ行くから先に入ってて!」
そう言うとああ、と言って温泉の方に入って行く。
もっと早く気付くべきだったなぁ……私お父さん以外の人と一緒にお風呂に入るの初めてだ……。
ヤバイどうしよう恥ずかしい……!
最初ユウさんがお風呂に行くって聞いてピンと来た。
そう言えばお母さんが夜遅くになると混浴になるみたいな話をしてたなーって。
もしかしてユウさんと一緒にお風呂に入れるのでは?と思いつき更にはこの時間帯だから人も居ないなら普段話せない事とかも話せたりなど考えてるうちに行動に起こしてしまった。
気づけば温泉の前に着いていた。
ここでハッとなる。
あれ?お風呂って事は裸?
当たり前であるが風呂に入ると言う事は身につけている衣服を全て脱ぎ、生まれたままの姿で身体を清める事を指す。
完全に抜けていた自分を責める。
どうしよ……メチャクチャ恥ずかしい……!
しかしここまで来てしまったのも事実。
先に入ってているユウさんをいつまでも待たせるわけにはいかないし、女は度胸!ってお姉ちゃんも言ってた。
「よし……いこう」
それにさっきの事とかについてもちゃんと聞きたいしここで逃げる様な真似はしない。
身体にタオルを巻き、いざ!と扉を開ける。
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「痒いとこないか?」
「んー大丈夫ー」
アレから少ししてなのはが入って来たが何やら緊張していたので訳を聞いたが何でもないの一点張りだった。
取り敢えず湯に入る前に身体を洗っていたのだがせっかくなので今頭を洗ってあげている。
鼻歌を歌ってる辺りご機嫌になってくれた様だ。
「ほれ流すぞ?」
「はーい」
なのはの髪に着いたシャンプーをシャワーで落としていく。
誰かの頭を洗ったのは前にフェイトと風呂に入った時くらいなのでまだあまり慣れない。
「次は私がユウさんの背中流すよ」
「ん、頼む」
任せてーと言ってタオルに石鹸を馴染ませ、背中をゴシゴシと洗ってくれる。
……おお、中々に気持ちいいなこれは。
自分でやるのと他の誰かに背中を流してもらうのはここまで違うものなのか。
「よいしょ……痒いとこない?」
「ああ、大丈夫だ」
「なら今度は前なんだけど……」
いやソレはマズイだろう。
いくら子どもとは言っても流石に女の子に男の前を洗わせる訳にはいかない。
「いや前は俺が自分で洗うから大丈夫だよ」
「だ、大丈夫。ちゃんと前も私が洗うから!」
「ちょ!」
こちらの方に回り込んで腕の中にスッポリと収まり俺の胸板あたりをゴシゴシと洗い始めるなのは。
なのは自身も緊張してるのかそれとも熱いからか顔が赤く少し強張っているのが見える。
………ヤバイ何だかんだ言って俺もドキドキしてきた。
落ち着け……落ち着け……相手はまだ子どもだ、と思考を落ち着かせて出来るだけなのはの方を見ないように上を向く。
2人だけの空間にゴシゴシと言うか音だけが酷く大きく聞こえる。
こんなにこの中って暑かったかな……
と言うかそろそろ良いよな?十分に洗ってもらった。
「な、なのはそろそろ大丈夫だ…」
「え!?あ、うん……」
ふぅ……取り敢えずシャワーで身体を流す。
何でこんなに緊張したんだ俺。
横の方に座ってるなのはをチラッと見るとあちらも俺のことを見ていたのか目が合い逸らされる。
うーん……何だこれ。
「取り敢えず湯に浸かるか?」
「うん…」
疲れを癒しに来た筈なのに逆に少し疲れた様な……?
しかし湯に浸かればまた気分も変わり一気に脱力感が俺の身体にくる。
「「ふへぇ……」」
「あっ……えへへ」
「はは……」
気の抜けた声がなのはとハモりつい顔を合わせ笑う。
先程までの変な空気は霧散していた。
「ねぇユウさん」
「んー?」
ぐーっと身体を伸ばし少し湯の中で軽いストレッチをする。
大分疲れていたみたいで結構痛いな……
「さっきの子、フェイトちゃんとはいつ知り合ったの?」
「あれ、フェイトの名前知ってたっけ?」
「ユウさんを探してる時に教えてくれたんだ。私が名前を聞いたら名前とユウさんの場所を教えてくれてそのまま何処かに行っちゃった」
「なるほどな、だからあんなにスムーズに俺の場所がわかったのか」
少し疑問だった事を聞けてスッキリした。
さて、俺とフェイトの事だよな……うーん何て説明するべきかな……
「最初にフェイトと会ったのはなのはがフェイトと戦った日だよ」
「私がすずかちゃんの家に遊びに行った日だよね?」
「その日だよ、あの後ユーノに聞いたと思うけど探したら……ばったりとな」
少し何があったか誤魔化しつつ話していく。
こればっかりは約束した事だしなのはにも話す事は俺からは出来ない。
もしもフェイトの方からなのはに話すと言うならば俺は何も言わないがな。
「……って感じかな。だから敵同士なのは変わらないよ」
「……そっか」
「フェイトの事、気になるのか?」
「うん、戦う以外にないのかな…」
少し顔を暗くしてしまう。
やっぱり優しい子だな、この子は。
ポンとなのはの頭に手を置く。
「一回フェイトとぶつかってみてもいいと思うぞ俺は」
「ぶつかる?」
「ああ、言いたい事全部フェイトにぶつけてみろよ。それでもダメならまた考えればいいさ」
アイツ中々に頑固だしな。
一度心を許してくれれば本来の優しい一面を見せてくれるが今は何かに追われてジュエルシードを集めている。
なのはの様な子と友だちにでもなればまた変わる様な気がするがどうなのだろう。
「まぁ存分に悩んでいいと思うぞ。なのはのしたい様にしてみてもしも助けが必要なら俺なんかで良ければいつでも相談なり頼ってくれていいよ」
「……うん、ありがと」
そう言って笑顔を見せてくれる。
どうやら少しは悩みのタネを解決できた様だな。
「でもユウさん」
「ん?」
「フェイトちゃん関係で隠してる事あるでしょ?」
……あれ、なんか少しむくれ始めてない?
と言うか完全に確信を持って俺が何か隠してるかどうか聞いてるよね、コレ。
「え、えっと……」
「だっておかしいもん。なんでそれだけの筈で敵同士の筈なのにあんなに仲良しなの?
ユウさんがさっき来てくれた時のフェイトちゃんの表情、何となくだけど親しい人に向けるものに見えたよ?」
うごごご……完全に何かを掴んでる感じだ。
何だろうこの感じ。
浮気がバレかけて彼女に少しづつ逃げ場を詰められて王手目の前みたいな……
「……ごめん、こればっかりは俺からは言えないんだ」
「ふーん……」
少しジト目のなのはからの視線が痛い……
でもこれはフェイトと2人の秘密と言う話。
俺の独断で話す訳にはいかない……
「うん、話さなくていいよ」
「……ん、悪い」
「ううん、フェイトちゃんとの約束なんでしょ?もしもユウさんがここで私に話しちゃったらフェイトちゃんが傷ついちゃうかもだし」
「俺からは話せないけどフェイトが話す分には問題ないからフェイトに聞いてくれ」
「うん、そうするよ」
何だかんだ言って納得してくれるなのは。
ふぅ、良かった。
「でも」
「ん?」
「でもユウさんが私に何か隠し事してたってのは事実だよね?」
「んぐ……それは…」
少し言い淀むとなのははここぞとばかり悲しそうな顔をしながら
「そっか……ユウさんは私に隠し事するんだ……」
「えっと、なのは?」
「私はユウさんに最初言われた通りコッチ関連のことは全部隠さずに話して来たのになぁ……」
……これが演技なのは分かっている。分かっているのだがなのはの言い分が正しい、と言うか全面的に俺が悪い……
最初に魔法関連は何かあれば全部共有しようと言ったのは俺でなのはは毎回何かあると全部相談してくれていた。
……しょうがない。
「…俺にできる事なら何でも……」
「えへへ、ならそれで許すっ!」
少し楽しそうに俺のほっぺを突いてくる。
最近のお返しか?
「これでなのはからの"何でも言うことを聞く"は2つか……」
「そうだね、私はユウさんに2つまでなら何でもしてもらえるんだよね?」
どうしようかなー?とニコニコしながら考えているなのは。
いい笑顔ですね……
「まぁ……決まったら言ってくれ。そろそろ上がるけどなのはは?」
「あ、私も上がるよ。そろそろ上がらないと寝る時間なくなっちゃう」
時間はもうすぐ1時を過ぎる。
流石に寝ないとまずい。
さてこの後からはどうなるやら……
ここまでお疲れ様でした。
次回はフェイトパターンです。
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