Re.Dive タイムコール   作:ぺけすけ

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第31話 [後日談] 戻り始める日常

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュエルシード事件から少しして、俺は結局この海鳴市にあるこの翠屋で居候兼、バイトとして働いている。

 

もちろんだが、何時までもここで迷惑をかけるつもりはないし、なんならあの事件の後クロノ達と向こうへ行こうとしていたのだが、高町家の皆んなが止めてくれ、寧ろしばらくいて欲しいとまで言われてしまったからにはソレを蔑ろには出来なかった。

 

今、俺の日常はここで、非現実とは関係ない普通で暖かな生活をさせてもらっている。

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

______あの日以来、俺は一部の魔法が使えなくなっていた。

正確には使おうとすると、リンカーコアからの魔力供給がストップしてしまう。

そして妙なのは、その魔力が戻って来る訳でもなく、消費だけされてしまう。

 

イメージとしてはチューブに流していた水が、一定の場所へ到達するとそこに穴が開き、溢れてしまい消えてしまう様なのだ。

 

 

「次のお客様はこちらへどうぞー!」

 

 

何事も対価は必要で、対価を払えばそれに応じた物が得られるのがこの世全ての法則であり、魔法もまたそれに乗っといている。

 

しかし、これでは俺の消費した物は何処にいき、対価は何処にあるのだろうか?

 

 

「お疲れ様、今日はもう大丈夫だよ」

 

 

「了解です、夕食の買い出し行ってきますね」

 

 

「うん、よろしく」

 

 

士郎さんにそう言われ、エプロンを外し、そのまま買い物に出かける。

時間は16時過ぎで綺麗な夕焼けが俺の顔を刺す。

 

 

………まぁ、それでも今の俺には必要ないものだって割り切れる場所に居られるのは本当にありがたい事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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振り返るのはあの日、なのはと久し振りに帰ってきた高町家の前、事前にリンディさんが知らせて置いてくれたのか、皆んなが揃って出迎えてくれた。

 

あの時、正直に言えば士郎さんや恭也に何て言われるのか怖くて緊張していたんだ。

 

だってそうだろう? あれだけなのはを助けるって、守るって言ったのに傷つけてしまったんだから。

 

けどケジメはつけなければいけないし、何よりあの人達だけには顔を背けたくはなかった。

 

 

 

 

ーー家が見えてきて、横にいたなのはが駆け出した。

ふと、冷静に考えればまだ9歳の女の子で、今回の旅は少し長すぎた。

嬉しそうに桃子さんや美由希と嬉しそうに話している。

 

何処か久し振りにみた高町家の人たちは嬉しそうに、優しくなのはと会話をしている。

 

 

「……ユウ?」

 

「ん、ああ」

 

 

ふと肩に乗っているユーノに話しかけられる。

どこか気遣う様に、ユーノが俺に聞いてくる

 

 

 

「どうしたの?何かユウ、悲しそうな顔してたよ?」

 

「ああ、何か……俺にもさ、あんな風にして待ってくれてる家族がいるのかなーって」

 

 

それは何処かずっと俺の心にあった疑問で見ない様にしていたもの。

本当は俺には今まで築いてきた物は何もなくて、でもそれを見ない様にしてきたんじゃないか……なんて。

 

 

「はぁ、ユウらしくないなぁ……」

 

「はは……俺もそう思ってた所だ」

 

 

何処か呆れた様に笑いかけてくるユーノに答える。

本当に俺らしくないよな。

 

___オレらしくない?

 

ああ、俺は俺だから。

 

 

 

「……?」

 

「どうしたの?急に振り返って」

 

「あ、いや……なんでもない」

 

 

気のせい……だよな。

後ろには見慣れた道が続くだけで通行人は誰もいない。

 

ふと視線を感じ、顔を前に戻すと皆んなが俺の方を見ていた。

 

 

「ほら、ユウ?」

 

「……おう」

 

 

少しうるさくなった鼓動を無視して前に一歩踏み出し、家の方に歩く。

すぐに目の前に着き、士郎さんが何かを待つ様に俺の目を見ている。

 

 

「えっと……」

 

 

ヤバイ、どうしたらいいのだろうか?

そんな風に焦っているとくすくすと俺を見ながら笑う桃子さんと目が合う。

そして

 

 

「お帰りなさい、ユウくん」

 

 

たったその一言、その言葉だけで何処か俺の心にあった重みがスッと軽くなった気がした。

その言葉に何かを待つ様に俺のことを見てくる桃子さん達に、俺は出来る限り感謝を込めて、

 

 

「ただいま戻りました!」

 

 

そう、言葉にした。

 

 

 

 

 

 

それから数日は士郎さんや桃子さん、恭也に美由希からどんな事をしたのかや、なのはの様子について聞かれたが、特に俺を責めるようなものがなかった。

 

安心する反面、何処か不安なところもあり士郎さんに直接聞いてみれば、笑いながら"何言ってるんだ、ユウくんはちゃんと約束を守ってくれたよ!" なんて言ってくれた。

 

 

 

なのはは直ぐにアリサとすずかに連絡をしたらしく嬉しそうに出かけて言った。

何でもアリサの家に遊びにおいでと誘われたらしい。

どうやらもうあの時のようなすれ違いは無く、仲の良い友だちの関係に戻れたようで安心した。

 

余談なのだが、この後すずかからも連絡があり、なのはとアリサの件の解決と"今度はユウさんも一緒に遊びに来て下さいね?"とのお誘いを頂いた。

 

 

_________5月27日

 

 

 

「……と、こんなもんかな」

 

 

バキバキ……と少し疲れた首を捻り、ペンを置く。

目の前にはA4サイズの日記帳があり、まだ数ページしか埋まっていない。

 

コレはなのはがたまたま日記を書いてるのをみていたら、桃子さんに"ユウくんも書いてみれば?"と日記帳を渡され、ならせっかくだしと始めたのだが、何分'日記なんて物は生まれて初めて書くから'これでいいのか分からない。

まぁ何事も経験か、と日記帳を閉じて伸びる。

 

 

「……ふぁ……」

 

 

いい感じに眠気が……最近は翠屋も忙しいし、少し早めに寝ようかな……

 

ふと、日記帳をデバイスに仕舞おうとしてストレージ欄にある項目に目が止まる。

 

 

・〔Data.Ap,Y〕

 

 

「なんだっけ、これ」

 

 

こんなもん俺、持ってたか?と気になり寝そべっていた体を起こし、ベットに腰掛ける。

なんだったかな、これ?とタップし、そのまま開くと何処か見覚えのある本が出てきた。

 

……あ

 

 

「マズイな、これ時の庭園で取りに行ったヤツか……」

 

 

すっかり抜けていた。

何か戦ってた時の事は殆ど覚えてないのにこの本の事は見た瞬間に思い出した。

プレシアの部屋に保管されていたもの……だよな?

 

 

「クロノ達に渡すつもりだったんだけどなぁ……すっかり記憶から消えてた」

 

 

少し汚れたこの2つの本。

一つは日記のようで、もう一つは何かの研究?の結果や過程を観察した物のようだけど……

 

 

「さっぱりわからん……」

 

 

何だこのProjectAp.Y Planって……

読めば読むほど訳がわからず頭が混乱する。

 

魔力の結合?変換時の倍率にその運用に対する………?

 

 

「……うん、やめよう、パンクする」

 

 

ぽいっとデバイスにしまう。

頭痛くなりそうな単語や、数式によく分からない魔法陣ばかりだった。

 

にしても……

 

 

「"ママがごめんなさい"だっけ……」

 

 

あの時、あの瞬間。

あの空間で、俺以外の誰かのそんな声を聞いて、ついその方向に無理をして行ってしまったが、その結果がこの2冊の本かぁ……

 

 

「まぁ、誰か取り残されてるとかじゃなかったからいいんだけども……」

 

 

あの声、なーんか聞き覚えあったんだけどな……

今じゃそれすらあんまり思い出せないけど。

 

 

「あ、もう一冊の方……」

 

 

ペラリ、と今度は青い方の日記上のものに目を通す。

………中身はやはりプレシアの日記に近しいものだった。

前半はまだ何も失わず、ただ優しい母親と子供の日常や研究の一喜一憂が書かれていた。

 

 

「聴いてた話や、書類とは正反対の印象だな」

 

 

何とも親バカな文章で少し苦笑いしてしまうがそれでも幸せが溢れ出てくるような日記に少し暖かな気持ちになる。

 

 

「……それがどうしてあんなことになったんだろうな」

 

 

そこからペラペラとめくって行き、半分を超えた辺りから少し様子がおかしくなってくる。

 

……研究の末、上層部の方と対立し始め、その末に強引な手段で研究途中のものを起動、そして俺もアースラで見たあの事故に至るとの事。

被害に遭い、死亡したのはプレシアの娘ただ一人で、その日プレシアの帰りを待っていたアリシアはそのまま……

 

そこからはプレシアの後悔、嘆き、悲しみが綴られていた。

 

 

「………」

 

 

ただページをめくる音だけが部屋を木霊する。

時空管理局では全てがプレシアに原因ありという資料だけだったが……コレは一体何なんだ?

 

そして、一つの項目のように区切られたそこには_____

 

 

「プロジェクト…… F ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふぅ……」

 

 

パタンと本を閉じる。

窓をみればもう明るくなり、早朝の5時前と言ったところだ。

 

 

「何で、コレ拾っちゃったかな……」

 

 

少しの後悔と、同情。

それだけで済めば、済ませればなんて楽なんだろう。

けど、

 

 

「見つけた物はしょうがないし、そのまま見なかった事に出来るほど俺は大人じゃない……だよなぁ……はぁ」

 

 

閉じた本の最後のページ最後の行をもう一度開きみる。

 

 

「"ごめんなさい、あの子の事頼んだわ"……か」

 

 

誰に対して書いたのかは分からないが、あの子って言うのは間違いなくフェイトの事で、それを見てしまって、この本を誰かに託さない限り、この遺言にも取れる事を成し得るのは俺だけ。

なら頼まれるだけ頼まれてやろう、それくらいなら俺にもきっと出来る。

ただ、一つ思うのは

 

 

「フェイトに直接言ってやって欲しかった……くらいかな」

 

 

この人からのごめんねの一言でどれだけ救われたのだろう?

けどもうそれをしてやれる人はこの世にはいなくて、だから代わりにって事なんだろうけど少し何かが心につっかえる。

 

 

 

「でも、終わったことはしょうがないよな」

 

 

よしっ!と顔を少し叩き、結局徹夜してしまった自分を恨みながら今日という日常を始める。

 

日記帳をデバイスにしまい、誰にも見つからないようにロックをかけ、俺の今日を始める。

 

 

 

____ありがとう、なんて聞こえた気もするがきっとそれは気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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