Re.Dive タイムコール   作:ぺけすけ

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伏線と平和(?)な日常回。

結構長いかもです。


A's 第1話 6月3日の私

 

日差しが燦々と輝き、空は晴れ模様。

 

季節も春からゆっくりと夏に変わり始めた事を実感させる様に少し暑い。

ゆっくりと何時もの桜並木の道を歩きながら目的地を目指す。

 

こんなにもいい天気なら、何処か遊びに行くのも悪くないなー、何て普段はどちかと言えばアウトドアよりインドア派の俺も思ってしまうくらいには、和やかな時間と雰囲気が流れている。

 

 

「……アレからもうすぐ1ヶ月経つのか」

 

 

なんて呟くとふつふつと蘇るはジュエルシードを巡り様々な出会いと戦いを消化した怒涛の物語。

 

今はこうして静かで平和な日々を過ごす事が出来るようになって嬉しいと思う反面、ここだけの話少し物足りないなんて思ってしまう時も正直ある。

 

不謹慎かも知れないがあの時の経験は俺の中の何かを刺激した様で、時折魔法を十分に使えない事にちょっぴり残念な気持ちにもなる。

 

ちゅんちゅんと鳥の鳴き声が聞こえる。

 

 

「けど、こののんびりした世界を捨ててまで魔法の世界に飛び込もうとは思わないんだよなぁ……」

 

 

染まり過ぎたと言われれば素直に首を縦に振るだろう。

ここは、海鳴市はあまりにも住むには心地よ過ぎた。

今だから考えてしまうがもしなのはと出会わず、それでいて魔法を先に使い、アースラの人たちと出会っていたならばまた違った未来だったのかも知れない。

 

けど、それはIFの話だから。

過去は決して変える事はできないし、もし変えられてもそれはしちゃいけない事だから。

 

今の俺は俺だし、この生活に満足している。

……あえて言うなら士郎さんたち高町家やはやて、この海鳴の人たちに甘え過ぎているから恩を返したい、と言うくらいか?

 

 

「……っと、またか」

 

 

気づけばもう八神という表札前。

やっぱり思考を深くし過ぎるのはよろしくないなぁ……。

 

取り敢えず、とインターホンを鳴らして扉の前で待つとすぐに元気な少女の声が聞こえる。

 

 

「あ、いらっしゃい。随分早かったね」

 

「おはよ、まぁ暇してたしな」

 

「ユウさんって、何時もそれ言ってるで?」

 

「え、マジで?」

 

 

なんて会話をしながら家に入る。

さて、何をするんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あれから一時間くらいお茶会的なノリで雑談しつつ、気づけばもうすぐ11時になる。

 

同じく時計を見たはやてが何やら準備をしだす。

 

 

「ユウさん、買い物付き合ってー」

 

「はいよ」

 

 

どうやらお昼と夜のお買い物の様だ。

 

まぁコレもはやての家に来てからの日課の様な物で、もう慣れてしまった。

 

する事と言えば献立の組み立ての手伝いと荷物持ちくらい。

 

それとはやてとの行き帰りの散歩が楽しいくらいかな。

 

献立に関しては大体俺の食べたいものを聞いてくるのだが、大抵それがお昼ご飯となる。

 

ありがたや……ありがたや……と拝んでいるとはやてから白い目で見られたのでやめる。

 

 

「またやってるん?」

 

「いや感謝してるんだぞ?」

 

 

はいはい、と流されてそのままの流れで、はやての車椅子を押しながら家をでる。

 

最近はやてが俺の絡みに対して雑になって来て悲しいよ……少し前ならいい反応してくれてたんだけど、ここの所冷たい気がする。

 

何だかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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買い物や昼食、ふと気がつけば時間はあっという間に過ぎ、16時。

 

はやてとの雑談もいい感じに一区切りしたところでそろそろお暇しようと、席を立つとふと見慣れない一冊の黒茶色の大きな本が置いてあるのに気づく。

 

 

「……ん?あ、それ気になるん?」

 

 

俺の目線に気づいたはやてがよいしょ、と言いながら鎖で封印された様な本を目の前に持ってきてくれる。

 

 

「ああ、何だこれ?」

 

「私も良くは分からないんよね、昔からウチにあって私の部屋を掃除する時にこっちに移動させてから、そのままココに置きっ放しにしてたんよ」

 

 

そう言いつつ、その本をはいっと俺に手渡してくるはやて。

 

えっと、受け取ればいいのか?

 

……まぁ、俺も中身が少し気になったし持ち主のはやてがいいなら……

 

そう思い、彼女の手から本を受け取ろうと指先が触れた瞬間——

 

 

バチンッ!!

 

 

「………っ!?」

 

「ん、どうしたの?」

 

「え、あ、……え?」

 

 

何だ?

今確かに……この本から電撃の様な痛みが伝ってきたような……そんな気がしたんだけど……?

 

疑問に思い受けったら本を裏返したり、左手に持ち替えたりとしてみたが特に異変も無く、俺に別段影響もない。

 

 

「気のせい……かな?」

 

「だから、どうしたん?」

 

「あ、や……気のせいだったみたいだ」

 

 

不思議そうに俺の事と本を交互にみるはやて。

それにつられて、俺も本をよく見てみる。

 

外装は何処から西洋風の柄と古めかしくも何となく、歴史を感じるような色合いの茶色で、その周りを鎖のようなもので十字に何処か封じられる様に括られている。

 

 

「まるで封印されてるみたいだな、コレ」

 

「あ、ユウさんもそう思うやろ?こういうの私結構好きやで」

 

「ああ、ロマンを感じるな」

 

 

軽く本のタイトルを確認しようと見回すが、それらしきモノは何処にも書いておらず、少し気になる点は掠れて読めなくなっているが、日本語でも英語でもないその文字が何処から見覚えがある事くらいだ。

 

 

「何か魔法の本みたいだな……」

 

「へ?」

 

「ん?………あ、いや、えっと……比喩だよ比喩!こんな感じの本はファンタジーモノの映画でよく見るだろ?」

 

「あー、わかる!最近見たのでもこんなんあったんよねー!」

 

 

つい何時ものなのはと会話するみたいにナチュラルに魔法の話を出してしまって動揺してしまったが、すぐに話題を変えられた。

 

はやてがそっち系のも好きで助かった。

 

なんてやりとりをしているとはやてが時計を見て、

 

 

「あ、ユウさんそう言えば時間大丈夫なん?」

 

「……へ?」

 

 

時計はあれから20分ほど針が進んでいた。

 

マズイ、そろそろなのはを迎えに行かなければ。

……そこでふと、時計の隣のカレンダーに付けられた4日の所の赤マルに気がつく。

 

何だか忘れちゃいけない事を忘れている気がしてはやてに聞いてみる。

 

 

「なぁ、4日って何かあるのか?」

 

「ん?……あぁ、その日は私の誕生日や」

 

 

しれっとまるでその日が特に普段と変わりない様な感じではやてが答える。 

……いや不味いな、非常に不味い。

 

何が不味いって何も用意していないのが一つ、そしてはやてはこの家に一人で……その……

 

 

「えっと……ごめん、またやっちまった」

 

「気にしてへんよー、そんな事でユウさんも気にしないで大丈夫よ?」

 

 

そう言いつつ、何処か寂しそうな笑顔を向けるはやて。

 

……何が気にしてないだ、そんな顔してそれは無理がありすぎるだろう。

 

むぅ……。

 

すぐにスケジュールをデバイスで確認してみれば3日と4日は何とか空いており、多少だが士郎さんにお願いすればたぶんだが、間に合うはず。

 

軽くメモ等を書いているとそれを覗き込む様にして、はやてがぽかーんとしている。

 

 

「ユウさん?さっきから何してるの?」

 

「まぁ、何だ……折角の誕生日なんだし、俺何かが祝っても大丈夫だろ?」

 

「え、え?」

 

「普段からお世話になってるし、それくらいさせてくれよ。……っと3日から行っても大丈夫か? こういうのって_____ 」

 

 

0時になった瞬間に祝うんだろ?と続けようとしてそれが途切れる。

 

目の前のはやてが困惑した様な……それでいてどうしたらいいか分からないといった顔をしながら、少し涙目になっていた。

 

 

「え!?あ、はやてさん!?」

 

「……何でもないんよ……ぅん」

 

 

グスッ……とか嗚咽聞こえるし!え、まって俺何かやらかした?やっぱり迷惑だった!?そうだよな突然そんな事しても、何だこいつ馴れ馴れしいな、とか思われるよな!?

 

と、テンパって俺がアワアワしているとボツボツとはやてが何かを話してくれる。

 

 

「違うんよ?……こういう事してくれるのお父さんやお母さん以外じゃ始めてで、久しぶりで、どんな顔したら……ええかわからなくなって……」

 

「なら、えっと……」

 

 

ずびーっ!っと俺の持ってきたティッシュで鼻をかんだはやてはいつも通りの笑顔で

 

 

「うん、3日待っとるよ!約束!」

 

 

何て、可愛らしい笑顔で言ってくれた。

これは色々と買って来なきゃな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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はやての家を後にし、そのままなのはが待っているであろうバス停の方へ急ぐ。

 

今日の分の買い物は俺となのはで行く約束をしていたのをすっかり忘れていた。

 

軽く走ると既に着いていたなのはが此方の方に手を振って待っていてくれた。

 

 

「すまん、遅れた!」

 

「大丈夫、私もバス降りたのついさっきだから」

 

 

行こ!と俺の手を引いて少し駆け出すなのは。

何か嬉しそうだけど、何かあったんだろうか?

 

 

「ご機嫌だけど、何かあったのか?」

 

「え、そうかな?」

 

「俺には嬉しい事ありましたーって顔に書いてあるように見えるけど」

 

 

えー、そうかな?なんて言いながら自分の顔を触っているなのは。

なーんか浮かれてるな?

 

 

「えへへ……」

 

「んー……?」

 

 

なんかやたらとくっ付いてくるなのはと一緒に買い物へ。

ホントに何があったんだろうか?

 

 

「あ、夜ご飯どうするの?お父さんたち帰ってくるの明日のお昼前くらいだからお惣菜とか買う?」

 

「そうだな……ユーノも今はクロノたちと向こうにいるんだっけ?」

 

「うん、だから今日は2人だよー!」

 

 

あ、またテンション上がった。

なのはのツインテールがぴょこぴょこ跳ねてるのが幻視できる。

 

 

「だよなぁ……たまには俺が作ろうか?」

 

「え、作れるの?」

 

「ん、ああ。そんなに期待されるような物は作れないけど、ある程度なら」

 

「へー!食べてみたいな」

 

 

はて、なのはに俺の作ったものって見せた事無かったかな?

 

 

「何か前に作らなかったか?」

 

「え?そうだっけ?………多分始めてじゃないかな」

 

 

うーん……誰かに作った記憶あるんだけど、なんだったかな。

 

 

「あ、フェイトにか」

 

 

思い出した、あの島でそんなこともあったな。

あの時は適当にあり合わせで作った物だったのに美味そうに食べてくれるフェイトを見てこんな子が娘に欲しい、何て考えたんだっけ。

懐かしいなー、何て考えていると何やらチクチクと視線を感じる。

 

 

「むぅ……」

 

 

あら不機嫌。

さっきまでのテンションは何処へ行ったのやら、ぶすーっとしてらっしゃるなのはさんがそこにはいた。

 

最近、と言うかあのフェイトとのお別れの後から俺がフェイトの話題を出すと決まってこう不機嫌になる様になった。

 

原因がよくわからず俺なりに考えてみたがそれでも答えはでなかったので、ユーノ達に相談してみれば、"はぁ……自分で考えた方がいいとと思うよ" とか "馬鹿者" だとか "うーん……私からはノーコメント!"で終わっているのでどうしようもなかったり。

 

ただ聞いた相手全員が口裏でも合わせたんじゃないかと疑うくらい統一して言うのは悪いのは俺との事で、責任とれ!と必ず言われていた。

 

……なのでここから俺が取れる行動を考えつつ、なんとかなのはの機嫌を取らなければ……!

 

 

「ふーん……私は食べてなくてフェイトちゃんはもう食べた事、あるんた?」

 

「えっと……まぁ、はい」

 

「へー……」

 

 

どんどん空気が重く……!?

ここで俺に取れる最善手は……

 

 

「好きなもの!なのはの好きなもの何でも作るから!」

 

「………」

 

「それに今日は2人だし、できる限り俺にできることはするから!」

 

 

ピクッと反応するなのは。

 

行けるか?

 

すると何やら考え出し、急に赤くなりだす。

そしてボソっと"よし!"と言ってこちらに振り返る。

 

 

「……なら、いいよ?」

 

「え?」

 

 

前半が小さい声で聞こえず、聞き返してしまう。

 

 

「一緒に寝てくれるなら!……いいよ?」

 

「あ、うん。構わないけど……」

 

 

と言うと一瞬、呆けた顔をしてから、また段々と何かに納得していない顔になる。

 

 

「むぅ……」

 

「え、何でまた不機嫌になるの!?」

 

 

なんしてまた急に?俺、何か間違えたかな……

 

ずんずんと前を進んで言ってしまったなのはを追いかけるように軽く走りながらそんなことを考えるが、俺にはよく分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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最初はユウさんの手料理!って喜んでたけど、それを先にフェイトちゃんが食べてたって聞いて少しムッとする。

 

だって……何かムカムカするんだもん!私だって何でこうなっちゃうかは分からないけど、あのフェイトちゃんとユウさんの……別れ際の、えっと……アレを見ちゃってから時折、こうなっちゃうんだ。

 

そんな私を見て必死に機嫌を直そうとしてくるユウさん。

ふん!そんな簡単に今回は直らないから!

 

とは言え少し意地を張っちゃってるよね、私。

そろそろ機嫌を直しても……

 

 

「それに今日は2人だし、できる限り俺のできることはするから!」

 

 

………できる限り?できる限りなら言う事聞いてくれるってこと?

 

瞬間、私の中に沢山の選択肢がぐるぐると回り始める。

 

例えば、普段少し遠慮してしてもらえない様な事とか?膝枕してもらったり、髪を乾かしてもらったりとか……もしかしたら一緒に寝てもらったりとかも!

 

とここでふと先ほどの会話であるフェイトちゃんとユウさんがしたアレが脳裏をよぎる。

 

………いや、アレはダメだ。恥ずかし過ぎて私の方が死んじゃう。

 

ぶんぶんと自分の頭を振り、グッと拳を握る。

 

 

「……よし!」

 

 

なら今回は一歩引いて、一緒に寝てもらう……うん、そうしよう。

とは言え何か恥ずかしい……けどここで言わなきゃなんかいけない気がするし……

 

 

「一緒に寝てくれるなら……いいよ?」

 

 

言った!言っちゃった!

ユウさんの反応は……

 

 

「え?」

 

 

き、聴こえてない……

もぅ……恥ずかしいのに……!

少し多めに空気を吸い込み、ユウさんの方を見て言う。

 

 

「一緒に寝てくれるなら!……いいよ?」

 

 

す、少し大きい声すぎたかな?

でも今度は聴こえたはずだし、ユウさんの反応は……?

 

キョトンとした顔で

 

 

「あ、うん。構わないけど……」

 

 

と言われた。

 

え、あ、うん。

嬉しい、嬉しいんだけどさ。

 

何かこう、少しは驚くとか動揺するとかさ、そう言う反応をしてくれるのを待っていたわけで、そんなにもあっさりと承諾されると、何となくだけど負けた気がして……

 

だって私、女の子だよ!?

ユウさんにとっては子どもだと思うけど少しくらい反応してくれてもいいよね?

 

それが"あ、うん。構わないけど……"で終わりは何か、こう……納得できない。

 

 

「むぅ……」

 

「え、なのは?」

 

 

少しむしゃくしゃして先に歩く。

 

……むぅ、私めんどくさいなぁ……こんな事してユウさんに嫌われないかな……とか考えちゃう時点でもう色々と負けてる気がするけど

 

チラッと後ろを見れば、頭にハテナを浮かべたユウさんが追いかけてきてくれる。

きっと私が不機嫌な訳は分からなくて、でも必死にユウさんなりに考えてくれてるんだろうなーって思うと少し心が暖かくなる。

 

ホントにこの感覚は心地よくて少し切なくて、それでいて……

 

コレはなんなんだろう?

あの公園のフェイトちゃんとユウさんを見てから前より強くなったけど、この感覚は未だに慣れなくて、それでいてぽわぽわする。

 

私にはこの感情が何なのかわからないけど、お母さんやお姉ちゃん、アリサちゃんやすずかちゃんに聞いてみればわかるかな?

 

でも、きっとこの感情は悪くないものだって思ってるから、もう少しだけ私の中に隠してるのもいいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………ふぁ……」

 

 

大きな欠伸が出る。

 

時間を確認すればまだ20時前で寝るには早すぎるし、なのはが何か一緒に寝たいから待ってて!と言ってお風呂に行ったばかりだった。

 

さてどうしたもんかなと、しまってなかった鞄を開けて整理を始めると

 

 

「あれ、これ」

 

 

俺の鞄から出てきたのは夕方、はやてに見せてもらった西洋風の古本。

ぽいっと自分の鞄を横に投げて仕舞い、そのまま本と端末を片手にベットに座り、なぜコレが俺の鞄に入っていたのかを考える。

 

間違えて鞄に入れちまったのか?いや、でもそんな記憶ないし……

 

 

「とりあえず、メールだけ打っとくか」

 

 

はやてに本を持ってきてしまった事とその謝罪をまとめた文を送る。

 

とりあえずはコレで大丈夫だろ、明日か明後日には持って行かなきゃな。

 

 

「そういや丁度いいし士郎さんにも連絡しておくかな……」

 

 

明後日にはやてへの誕生日ケーキを持って行こうと思い、なんなら翠屋のケーキにしようと思ったが今、士郎さんたちがいないなら用意できるかわからないんだよなぁ……

 

とりあえず相談だけしようと電話をかけてみる。

 

基本的に士郎さんと恭也はメールをあまり好まず、電話の方が楽だと言ってるから基本的に電話をかけるがあんまり出ないんだよな……

 

今回はどうだろう?と考え始めた時、ガチャと通話が開始する音がして

 

 

「もしもし、ユウくんかい?」

 

「あ、もしもし士郎さん、今大丈夫ですか?」

 

「うん、平気だよ。どうかしたかい?」

 

「実は……ーー」

 

 

 

そこから取り敢えず用意したい物とワケ、それから予算や、あの歳の女の子が喜びそうなものを聞き、悩んでいると電話の向こうから士郎さんの笑い声が聴こえた。

 

 

「えっと……なんです?」

 

「いや、ユウくんがそこまで悩むのも珍しいけど、それ以上にこのユウくんを見たらまたなのはが嫉妬しそうだなってね」

 

「うぇ、それは勘弁です……さっきも少しやっちゃったんで……」

 

「ははは!またかい?」

 

 

そこからは今日あったことや、はやての事などの雑談に入った。

 

 

「ふむふむ、なら3日は早めに上がってそのまま行っていいよ?」

 

「いや、でも週末ですし…忙しいですよ?」

 

「大丈夫さ、それにそのはやてちゃんって子もユウくんの事待ってるだろうしね。男として女の子を待たせるのは感心しないよ?」

 

 

そう言われてあの時のはやての顔がよぎり、言葉が詰まる。

 

 

「えっと……ならお言葉に甘えます、すみません」

 

「うん、それがいい。ならケーキは僕たちに任せてくれ」

 

「ホントに何から何まで……」

 

「いいんだよ!何時もなのはの事見てもらってるからね。………話は変わるんだけど、なのははどうしてるかな」

 

 

少し士郎さんの声のトーンが変わり、何処か不安そうだった。

 

 

「今は風呂入ってますよ、もう少ししたら寝ると思いますし」

 

「そうか、なら少し聞きたいんだけど、最近なのはとはどうだい?」

 

「え?」

 

 

なんだろ、質問の意味がよくわからず混乱する。

えと、最近のなのはと俺の事?を聞きたいって事だよな。

 

 

「そうですね、特に変わりないと思いますよ?別段何かあった訳でも……無いですし」

 

「ん……まぁ、そうだね。ごめんね、変な事を聞いたね」

 

「いえ、何かあったんですか?」

 

 

そう聞くと士郎さんは少し考え、話し始めてくれた。

 

 

「うーん、まぁ……いいかな。最近なのはが時折ユウくんのことをジッと見てるんだ」

 

「え?割と何時もの事、じゃないですか?」

 

 

これは桃子さんや美由希が良く食事中にネタにしているのだが、何かとなのはは俺のことを見ているらしく、それを弄られるとすぐに怒る。

……俺は全く気付かなかったけど。

 

 

「うーん……何というか僕も桃子に言われて気付いたから詳しくは分からないんだけど、最近のなのはのユウくんを見る目が……」

 

 

士郎さんと通話の最中階段を上がってくる音が聞こえ振り返るとガチャ……と扉を開けてお風呂上がりのなのはと目が合う。

 

 

「上がったよー……あ、ごめんなさい電話中?」

 

「ん、ああ。士郎さんだから大丈夫だよ」

 

「お父さん?」

 

 

てこてこ……と歩いて俺の座るベットの横にぺたんと座り、何話してるの?と聞いてくる。

 

なのはの様子がいつものと違うような……なんか、ぽけーっとしてる?というかねむそう?………ってそうだ、士郎さんと通話中だった。

 

 

「あ、ごめんなさい。何です?」

 

「あ、いや……うん何でもないんだ。急ぎでもないしまた今度で大丈夫だよ」

 

 

なのはが来た途端、何処か焦るように話を切る士郎さん。でもまぁ急ぎじゃないらしいし……いいか。

 

 

「あ、そうなんですか」

 

「うん、それじゃそろそろ僕ももどるから」

 

「はい、おやすみなさい」

 

 

ピッ……と電話を切りそのまま端末を枕元に投げて、なのはの方に振り返れば何か気になるのか、無いはずの尻尾を振るのが見えた。

 

 

「ねぇ、お父さんと何話してたの?」

 

「んと、まぁ色々と?」

 

 

そう言うとそっかぁ……と言ってドサッと布団に転がる。

 

やはりもうお眠の様で少し目がトロンとしている。

 

 

「俺、風呂入ってくるけど先に寝てていいぞ?」

 

「……ふぇ?待ってるよぉ〜」

 

「え、いやそんな眠そうな声で言われてもなぁ……まぁいいっか、行ってくるよ」

 

 

はーい……何て気の抜けた声に見送られてお風呂場へ。

さっきまでなんかすごいはしゃいでたし相当疲れてるな、あれは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「やっぱり寝てるか」

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 

20分ほどで風呂を済ませて部屋に戻れば予想していた通り爆睡するなのはの姿。

気持ちよさそうに寝ているその姿を見て俺も眠気が……

 

少し早いけど俺も寝ようかな。

電気を消し、そのまま布団に入ろうとして気づく。

 

 

「……寝れる場所、ないな」

 

 

冷静に1人用ベッドになのはが真ん中に大の字で寝ているのだから俺が横になるスペースは無く、どうしたものかと考える。

 

そこでふと前にタンスの中の奥にしまった敷布団の存在を思い出し、漁る。

 

 

「お、あった」

 

 

士郎さんがベッドか敷布団どっちがいいか分からないからと持って来てくれていたのだが、結局使わず今の今までここにしまっていたのだ。

有り難い、これを使わせてもらおう。

 

 

「ふぁ……眠い……」

 

 

一度睡魔が来たからだろうか?なんかいつも以上に凄く眠たい。

 

とっとと寝てしまうかな、と一応メール等の確認の為にデバイスを確認して見るとはやてから一通だけ。

 

 

"気にせんでええよー。

今度来る時にでも持ってきてな。

それと今日は色々とありがと、何かスッキリしたわ!あと楽しみにしてるでo(`ω´ )o

 

はやて "

 

 

………ホントに強い子だよな、はやては。

 

こうやって直ぐに立ち直れる強さが本当に羨ましい。そんなことを思いながら返信する。

 

 

「あ、そうだ一応本も」

 

 

忘れないようにはやての家から持ってきてしまった本を机の上から持ち、敷布団の横に置いてある自分の鞄の中にしまう。

 

にしてもいつ俺の鞄に紛れたんだろう?それともホントに俺の手癖が悪かったのだろうか……?

 

 

「それとも、ホントに何か魔法に関係してたり……なんて」

 

 

チラッと本を見るが特にそんな気配もないし、何よりそう言うのに敏感ななのはも特に何も言ってこない。

 

 

「ま、いっか……眠気が限界……だ……」

 

 

そのまま意識が深く深く落ちていく感覚の中で、瞳の端に映る本が一瞬、怪しく光ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………?

 

 

 

…………………?

 

 

暗くて、とても、寒い。

 

そんな感覚で目を覚ます。

 

あたりを見回すがそこにあるのは一面の闇のみで何も見えず、自分の手すらよく見えない。

 

誰か居ないか?そう声にしたはずなのに。

 

………声が出ない、ここはどこだろう?

 

そんな疑問だけが残り、この不可思議な空間を立っているのか横になっているのか、はたまた……浮かんでいるのかすら分からないが、動く手足を使い、前と思う方向に足をのばす。

 

不思議なことに手足を動かしている感覚はあるし、身体が移動してるのも分かるが、一向に体全体が何処かに触れているような感覚が消えない。

 

少し気持ち悪いこの感覚に身を委ねながらどれ程の道程を歩んだのだろうか?

 

 

____それは、突然目の前に現れた。

 

 

現れた、何て言うのも生易しく一瞬きの瞬間に最初からそこにあったかのように居た。

 

それはヒトの形をしていた。

 

けど俺の中の何がそれはヒトではなく、別のものと訴えていた。

 

その人のようなモノは黒い異国の衣服を身に纏い、銀色の髪をなびかせ目を閉じて佇んでいた。

 

恐怖しか最初はなかった、無かった筈だった。

 

それなのに見れば見るほど、何故だろうか?

 

とても、その人はとても_______

 

 

 

「______綺麗だ」

 

 

この永遠をも思わせる暗黒の中でなびく銀色の髪はとても美しく、その顔はまるで西洋人形のよう。

 

思わず溢れた声にハッとする。

 

声が出た?でも今は"出ない"

 

まるで出し方を忘れてしまったようだ。

 

いやそれよりも目の前の彼女は____

 

 

 

「________________________________ ?」

 

 

気づけばその人は目を開き、目の前の俺の顔をジッとみて、なにかを伝えてくる。

 

____なんだ、これ?

 

目の前の人から顔を背けることが出来ない?

それどころか先ほどまで動いていた身体が凍ったように全く動かない。

 

それでも、それでも抗い視線だけを身体にやると、そこには

 

 

黒く、どこまでも黑く長く長く太い大蛇がぐるぐると俺の身体を縛り上げていた。

 

 

________ッ!!

 

 

声にならない悲鳴を上げてしまう。

 

情け無いとか、男のくせにだとか、そんなものは関係ない。

 

アレはダメだ。

 

アレだけは触れてはいけない、手を出しちゃいけなかったものなんだ。

 

蛇から必死逃げるために体を震わせるが実際にはピクリとも反応せず、それでも身体を震わせる。

 

それを見て何処か嬉しそうに蛇がこちらを見て

 

 

_____ミツケタ

 

 

 

といった気がして、余計に恐怖が身体を支配していく。

 

 

そんな時だった。

 

目の前の女性が、ナニカ/本をめくり何かを呟くと蛇は忌々しそうにあの人を人睨みしてから……消えた………?

 

 

体は……動く。

 

少し安堵し顔を上げるとあの女性がこちらを見ていた。

 

助けてくれた?そう考えて、立ち上がりお礼を言おうとする………

 

 

「_________ 」

 

 

 

!? また、か…らだが……

 

目の前の女性の赤い目を見た瞬間、身体がまた固まり出す。

 

やっぱり……敵っ!!

 

 

______と思ったのも一瞬だった。

 

何故かって、だってその人は……泣いていたから。

 

 

「 _________________ 」

 

 

ナニカを呟き、その人は俺の首筋に思い切り、

 

 

 

「ーーーーッぁ」

 

 

 

齧りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…………はぁ………はぁ………」

 

 

 

目を開けるとそこには見覚えはあるがいつもとは違う角度で見える自分の部屋の天井。

 

いつもなら目が覚め少し憂鬱にすらなるこの天井の光景が嫌に現実だと教えてくれ安堵する。

 

起き上がり時間を確認すればもうすぐ早朝かと言った時間で、嫌にこわばった筋肉をほぐしながら起き上がる。

 

 

「うわ……何だこれ」

 

 

起き上がった瞬間、全身から流れるように水が零れ落ちる。

台風の中傘もささず、しばらく立っていたらこんな風になるじゃないか?

 

取り敢えずこの気持ちの悪い感じをどうにかしようと着替えを抱えてそのまま風呂へと歩いて行く。

 

脱衣所に入り服を全て脱ぎ、脱いだ衣服の重さにまた驚く。

汗だけでこんなに重くなるものなのか……?

 

そのまま風呂の中へ入り少し冷たい水を頭から被り、一気に目を覚ます。

 

 

「……アレは夢……アレは夢なんだ」

 

 

少し冷静になりつつ、先ほどまでの夢を忘れようとするが、どうも脳裏にこべりついて離れない。

それでも忘れようとシャワーの勢いを増す。

 

 

「………っ?」

 

 

シャワーからの水が少し強かったのか右の"首筋と肩の間あたりがズキッ!と痛む。

 

なんなんだ、一体と手で触れてみるがやはり痛む。

 

寝違えた痛み……ではなく何処か擦り切れた様な擦れた痛みだ。

 

ふと目の前の鏡の自分と目が合う。

 

そうだ、触ってわからないなら見ればいいじゃないかと目線を痛みの原因であろう場所に目を写すと

 

 

「………こ、れ?」

 

 

そこに移ったのは、まるで噛み付かれたかのような後に

 

 

「黑い、アザ?」

 

 

その噛み口後の中を円状に広がる黒いアザが出来ていた。

 

触れてみるが痛みはアザからは無く、この周りの噛み跡からの痛みが原因だとわかった。

 

この気味の悪い現象に動揺し、少し吐き気がする。

なんなんだ?これは。

 

ドッ!ドッ!とまるで心臓が耳の横についているんじゃないかというくらいに痛く鼓動している。

 

この一連の出来事に俺は……

 

 

 

「ユウさん?お風呂はいってるの?」

 

 

「……!? 」

 

 

 

つい反射的に構えてしまうが、今の声は……

 

 

「……なの、は?」

 

「うん、そだよ?」

 

 

一気に脱力し、肺に溜まっていた空気を思い切り吐き出す。

 

何か、なのはが来てくれて少し安心した。

 

 

「悪い、少し寝汗が酷かったから借りてる」

 

「うん、大丈夫。それじゃ私は部屋に戻るね?」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

とっとっ……と言うかなのはが歩いて行く音を聞き落ち着いた自分自身をもう一度見てみる。

肩の傷は明らかに新しいもので、寝る前は無かった。

ならやっぱり

 

 

「あの夢の出来事は……」

 

 

グッと黒いアザの部分を握ると何だか力が抜ける様な感覚に陥る。

 

……取り敢えず、今のところは様子を見てみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かちゃかちゃと店の後片付けをして行く。

アレから丸一日立ち、もうすっかり立ち直る事が出来た。

 

あの黒いアザも特に酷くなってないし、生活に何か支障が出ているわけでもないので取り敢えずは、と後回しにしている。

 

皿を拭き、棚にしまうという作業を終え、次の仕事に取り掛かろうとした時、桃子さんに呼ばれる。

 

 

「ユウくーん、ちょっと来てもらえるかしら?」

 

「はい、何ですか?」

 

 

横の厨房に入れば桃子さんが白い四角の箱を渡してくる。

 

 

「えっと、これは?」

 

「何って今日なんでしょ?ユウくんのお友達のお家に行く日って」

 

「あ、はい。そうですけどこれって……」

 

 

中を軽く見てみると大きなホールケーキが入っており、ネームプレートまで書いてあった。

確かにはやてのバースデーケーキを頼んだが、こんなに大きなものでも増してや、ネームプレートまで頼んではいなかった。

 

情け無いが予算と時間が足らず、簡単なものを頼んでいたはずなのに渡されたのは5000円はしそうなくらい立派なケーキだった。

 

 

「え、でも俺が頼んでたのは……」

 

「いいの!いつもユウくんにはお手伝いしてもらってるし、私からのプレゼント」

 

 

喜んでもらいたいんでしょ?とウィンクしてくれる桃子さん。

……本当に良い人だな、ここの人たちは。

 

 

「ありがとうございます、こんなに立派なの……」

 

「いいのよ、それよりほら、そろそろ上がっていいわよ?」

 

「え、でも……」

 

 

時間を確認するが、まだ予定より1時間以上ある。

こんなにしてもらった上に更に早上がり何て、流石に……

 

 

「いいんだよ、ユウくん」

 

「士郎さんまで……」

 

「偶には私達に甘えてくれてもいいじゃない。ほーら!」

 

 

と言って背中を押される。

……参ったな、こりゃ。

また返さなきゃいけないものが増えてしまった。

 

 

「えっと……それじゃお言葉に甘えて、行ってきます!」

 

 

いってらっしゃい、と背中から聞こえそのまま着替えに一度家に戻り、直ぐに支度を始める。

必要なものとプレゼントはもう鞄に入れたし、行くか。

 

 

「っとと、まずい、忘れ物」

 

 

机の上に置いてあったあの洋書を手に取り鞄に……?

 

 

「あれ、この本こんなに綺麗だったか?」

 

 

何となく、本当に些細な事なのだが何処か2日ほど前に見た時よりも黒みが薄くなった様な……あと何だが不気味さが減った?

 

 

「うーん?」

 

 

くるくると見回すが特に変化もなく段々と自分の勘違いなんじゃないかと思い始める。

 

そんな時ポケットのデバイスからの音声。

 

 

《master》

 

「え?」

 

 

机の上に置いてあるデバイスを確認してみると時間が表示されており、アレから10分以上経ってしまっていた。

 

 

「まずい、行かなきゃ!」

 

 

今はこの違和感を無視して鞄の中に本を放り込む。

早く行かなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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少し息の上がった身体を落ち着かせるために深呼吸をする。

さて、目的地には着きインターホンを鳴らすところだ。

 

なーんか緊張するなぁ……俺が祝う!何て啖呵を切ったのは良いものの、俺自身祝い方が分からず、色々な人の知識だけを借りて来ている状態なのだ。

 

けど、男は度胸!と士郎さんから激務を貰っている。

ここでやらずしてどうする俺!

 

 

意を決してインターホンを鳴らすと直ぐに"はーい"と言う声が聞こえ、中からよく知った女の子が顔を出す。

 

 

「あれ、ユウさん?随分とはやい到着やね」

 

「お、おう、色々あって早く上がれたんだ」

 

「何でそんな緊張しとるん?」

 

「へ、や、そんな事ないぞ?」

 

「んー?変なユウさんやな」

 

 

くすくすと笑いながら、ほな押してなーと車椅子を任せてくれる。

 

よし、全力ではやてを喜ばせるぞ。

 

 

 

時刻は17時手前。

料理を作り始めるなら丁度良い時間だ。

 

 

「はやてー、冷蔵庫に物入れさせてもらうぞ?」

 

「ええよー」

 

 

まずはケーキと買ってきた食材を冷蔵庫にしまい、キッチン周りの準備から始める。

 

それを興味深そうにじーっと見てくるお客様が一名。

何だかやり辛い……

 

 

「えっと、別にリビングで寛いでて良いんだぞ?」

 

「んー……私はユウさんの料理姿見てたいかな」

 

「や、別に構わないけど面白いか、それ」

 

 

楽しいよーと笑顔で言われてしまっては何も言い返せず、ならいいかとキッチンの方に振り返り支度を始める。

 

誕生日らしいものなんてケーキしか思い付かなかった俺は何が食べたいかとはやてに聞いたところ、"そうやなぁ……あ、なら唐揚げ食べたいかも"との事だったので取り敢えずメインどころはそれにするとして、後はサラダと汁物、それから……と出来るだけ丁寧に、素早く下ごしらえを済ませて行く。

 

 

「へぇ……ユウさんって結構お料理するんやね」

 

「ん?あぁ、前にも話したと思うけどバイトしてる場所で軽食作ったりとかもするから、ある程度は作れるぞ」

 

 

油の温度は……よし、えっと次は……

 

 

「何かそう言うの素敵だと思うわ」

 

「そうか?」

 

「うん、ユウさんモテるやろ?」

 

「んー、残念ながらそんな経験は無いし、そんな相手もいないよ」

 

 

士郎さんと桃子さん見てるとすごい憧れるけどなー、気づけばイチャついてるし最近では恭也と忍さんのも見たから余計に胸焼けしてしまった。

 

俺もそう言う相手が出来たら何か変わったりするのだろうか?欲しいか欲しく無いかならそりゃ健全な16歳ですし欲しいけども、残念ながらそんな出会いも相手もいないのだ。

 

………何か、悲しいな。

 

っと、取り敢えず出来たものはテーブルに移動させておくか、と振り返るとはやてと目が合う。

 

その顔は何処か嬉しそうで、いつもより上機嫌な顔をしていた。

 

 

「そかそかー、いないんかー」

 

「何だよ、随分と引っ張るな?」

 

 

まぁ、はやてもそういうのが気になる年頃というのは分かっているからそんなに弄らないが、なのはやアリサ、すずかもこの手の話好きなんだよな。

前も何かそれ関連で話してたのを見かけたし。

 

……まぁ俺も恋話もどきみたいなのはよく美由希に付き合わされてるから知ってるけど、話し始めると面白いんだよな、あれ。

せっかくはやてが伸ばしてるし、少し話を振ってみるか。

 

 

「やっぱり、はやてもそういう相手が欲しいとか思うのか?」

 

「へ?」

 

「いや、彼氏とかそういうの。憧れたりするのか?」

 

「まぁ……そうやね、素敵やなって思うけど、あんまり考えた事ないなぁ……」

 

 

あ、まずい少し温度高いな、火強くしすぎたかな。

 

 

「ならどんな人が好みだー、とか気になる人みたいなのとかは?」

 

「え、えと」

 

「ん?」

 

 

何やら言い淀んだはやてが気になり少し振り返ると何処か赤くなり、ぼーっとしていたのか俺と目があった。

 

 

「はやて?」

 

「え、あ、何?」

 

「いや、誰か思いついたのかなーって」

 

 

まぁいいかと調理の方に戻る。

もう少しで完成かな?あとは米炊いて、盛り付けようのお皿を……

 

 

「気になる人、ならいるかも……?」

 

 

お、こりゃ意外。

なのはたちはそういう話はしても明確に答えを返してくれず、分からないか、教えないみたいな物ばかりだからつい俺も食いつく。

 

 

「いるのか、でも随分と疑問形なんだな?」

 

「えと、何というか今の会話で心当たりが出来たと言うか……」

 

 

どんどんと声が小さくなり、最後の方は殆ど聞こえなかった。

 

 

「ふーん、その人はどんな人なんだ?」

 

「え?……え!?」

 

 

なんか随分と取り乱しているな、珍しい。

少しするとぽつぽつと話し始めてくれる。

 

 

「私も、その人の事、すごく良く知ってるって訳じゃないんやけどね?」

 

「なら最近知り合った人なのか」

 

 

こくっと頷くはやて。

誰だろ、最近知り合ったって事ははやてが行くような場所だし、図書館か?

 

 

「その人はな、少し意地悪ですぐに私の事からかってくる人なんやけど」

 

「え、プラスになる要素なくない?」

 

 

言い方が悪いかもしれないが何でそんな人の事を気になってるんだ?

 

 

「でも、優しいんよ?すごく、すっごく。私が落ち込んでたり寂しいなーとか思ってると見計らったんじゃないかって疑うくらいのタイミングで電話とかメールしてくれるんよ。細かい事にもよく気づいて気遣ってくれるし、私の勘違いやなければ私の事凄く大切にしてくれてる……そんな人」

 

 

顔を真っ赤にさせながら俺の目を見てそう語ってくれるはやて。

なるほどなぁ、随分と仲の良い人がいるんだな、俺も会ってみたいかも。

 

 

「へぇ、そりゃいい人だな」

 

「……へ?」

 

「意地悪な所はマイナスかも知れないけど、そんだけはその人の良いところを上げられるなら少なからず好意はあるんじゃないか?」

 

「………」

 

「にしてもはやてにそんな人が居たんだな、同い年?それとも年上?俺も会ってみたいな」

 

 

と出来たものを盛り付け終え、皿を持ち振り返ると少しジト目かつ頰を膨らませて、先ほどの乙女な顔から如何にも私不機嫌ですー、といった顔に変わっていた。どしたの?

 

 

「何で急に不機嫌?」

 

「……追加でその人はバカで鈍ちんでバカ」

 

「一気にマイナスの要素増えたな、その人」

 

 

しかもバカって二回も言わなくても……可愛そうじゃないかその人。

名も知れず知らない人に少し同情する。

 

 

「それよりほら、出来たぞ?リクエストの物とその他」

 

 

テーブルには少し作り過ぎたんじゃないかと、思う位にはたくさんの料理が並んでいた。

 

 

「凄いけど……ちょっと作り過ぎやない?」

 

「張り切った」

 

「そんなドヤ顔で……」

 

 

まぁ作ってしまったものはしょうがないよな?そろそろいい時間だし、と時間を確認するためにデバイスを見ようとして……あれ?

 

 

「どうしたん?」

 

「いや、ちょっと……」

 

 

鞄をみるがやはりない。

おっかしいな、最後に見たのは……

あ、机の上か

 

 

「携帯忘れちまったみたいだ、時間って今何時くらいだ?」

 

「あ、それで探してたんやね、えっと20時前やね」

 

「うわ、凄い時間たってるな……ごめん」

 

 

始めたのが18時前くらいだったか、随分と待たせてしまった。

 

 

「大丈夫よ!私も見てて楽しかったし、ユウさんと話すのも好きやから」

 

「そう言ってくれると助かるよ。さ、冷めないうちに食べてみてくれ」

 

「うん!」

 

 

そのままテーブルに座り、はやてと向かい合う。

っと、そうだった。

 

 

「はやて」

 

「?」

 

 

いただきますのポーズをしたまま首を傾げるはやて。

まずいまずい、先に渡さなければ。

 

 

「あと4時間くらい早いけど先に。 誕生日おめでとうはやて」

 

 

はい、とプレゼントを渡す。

中身は色々と考えて俺が選んだものだけど気に入ってくれるかな……なんだかんだと1日しか無かったから外してたりしなきゃいいけど。

 

受け取ってくれたはやては一瞬ぽかーんとした後、笑顔で

 

 

「ありがとう!」

 

 

と言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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料理の方は高評価だったらしくもぐもぐと目の前で頬張ってくれるはやてをみて一安心。

 

こうやって自分の作ったものを美味しそうに食べてくれる子は凄い好感が持てる。なのはやフェイトしかり、はやてにも気に入って貰えたなら俺も嬉しい。

 

あれだけあって作り過ぎたと思っていた料理も殆ど空になり、片付け始める。

 

 

「今日はいつもより食べたな?」

 

「うん、凄い美味しかったからね、ありがとユウさん」

 

「こんなのでよければいつでも作るよ、ほいお茶」

 

 

ありがとーとお茶を啜るはやてを横目にそろそろケーキの準備をしようかとお皿を出す。

 

 

「このプレゼントって開けてええの?」

 

「ん?ああ、別に構わないけど、その……正直自信ないからそんなに期待しないでくれ」

 

 

と言ったのだが聞いてる途中からもう開け始めてるし。

大丈夫かな……

 

 

「あ……」

 

 

袋から出てきたのは40cmくらいの少し大きい狸のぬいぐるみ。

 

 

「いやその……話した時にぬいぐるみとか好きなの聞いてのと後は俺のイメージで……」

 

「………」

 

「は、はやてさん?」

 

 

やったか?これはやってしまったか?

やっぱりこう女の子が好きそうなアクセサリーとかそっちの方が良かったか?

プレゼント探して見つけた時はこれだ!ってなったけど持って帰ってきて冷静になると本当にこれで大丈夫か?となったがやはり失敗………

 

 

「かーわーいーいー!!」

 

「へ?」

 

「何やこれ!ユウさんいいセンスやな!」

 

 

え、あれ……すっごい喜んでくれてる?

ぎゅーと抱きしめて凄い笑顔だ。

 

 

「こういうぬいぐる持ってなかったから凄い嬉しいわ、ありがうユウさん!」

 

「あ、ああ喜んでくれたならよかったよ」

 

 

今日から一緒に寝よー!と凄いテンション上がってるはやてを見て凄い安心アンド嬉しい。

あー良かった良かった……と言いつつケーキをテーブルに。

 

 

「はやて」

 

「え、これ」

 

「そりゃ用意してるよ、誕生日ケーキ」

 

 

箱から出してロウソクを9本立て、火をつけたものをテーブルに置くとはやてが目を見開いて驚いてくれている、はっはっはー、そりゃこんだけ大きなケーキなら……?

 

 

「え、ちょ、はやて?」

 

「え?何?」

 

「何で泣くんだよ?」

 

「え……?」

 

 

何故か涙を流すはやてに焦る。

不味い何かやったか?でも変なことはしてないし……ケーキが嫌いとか?

アワアワしてると俺を見て、泣きながらも笑うはやて。

 

 

 

「違うんよ、これは嬉しくてつい出ちゃったんや。我慢してたのに、ここまでしてくれるなんて思ってなかったから」

 

「ああ、そういう涙か……てっきり何か失敗したのかと思った」

 

 

涙を拭きながらそんなことあるわけないよーと笑うはやて。

ホントに良かった、と一安心。

 

 

「それじゃ、えっと」

 

「ああ、消してくれ」

 

「うん!」

 

 

 

ふーっ!とはやてが息を吹きかければ火は全て消える。

 

 

「改めて、おめでとうはやて」

 

「ありがとう、さ!食べよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かちゃかちゃと食器を片付け、ゴミを捨てる。

ケーキを食べ、少しおしゃべりをした後今ははやてが風呂に入っている。

 

その間に俺は片付けだ。

最初は手伝うか?と聞いたのだが大丈夫!真っ赤になってお風呂に入っていたので今はとりあえず、と片付けをしている。

 

 

「前までならむしろ一緒にはいろーとまで言ってきたくらいなんだけどなぁ……」

 

 

いつも泊りに来ていた時は楽ちんやなーとか言って頭とか俺が洗ってたんだけど、どんな心境の変化だろうか。

 

 

「これが思春期?」

 

 

妹が離れて行くみたいで何となく寂しさを覚える。

そっか、これが恭也の言ってたやつか……

 

にしても何で急に?思春期はそんな突然発症するようなものなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ふぅ……とお風呂の中で一息つく。

 

このお風呂に入るというのも私からすれば結構大変で、何時もはユウさんに手伝ってもらって一緒に入ってもらうんやけど、今日は何だかと言うか……主にユウさんに自覚させられた感情のせいで一緒に入りづらくなってしまった。

 

 

「なーんで気付かへんかったかなー……」

 

 

お風呂に自分の言葉がこだまする。

 

確かに一緒にいて楽しかったし、近くに居たいって思った事もあった。

 

でもそれは……アレやお兄ちゃんみたいな感じとかそう言う理由だと思ってた訳で……

 

 

 

「急に自覚すると今までの自分の行動がすっごい恥ずかしくなってくる……」

 

 

ぶくぶく……とお風呂に半分くらい顔を沈めて息を吐く。

もう……ホント自己嫌悪だ。

 

 

「しかもあそこまで言ったのに全くこれっぽっちも気づかへんし」

 

 

我ながら結構大胆に、それでいてもうほぼ答えを言ったような気もする……というか言っていたはずなのに、それで返って来たのは"へぇ、そりゃいい人だな"という言葉。

 

何でよ!?普段一緒にいる男の人なんてどう考えてもユウさんしかおらへんやろ!だって私普段の生活の殆どを家で過ごしてるし、何なら最近できた知り合いなんてユウさんくらいだって話をつい最近したばっかり!

 

 

「ホントにバカで鈍ちんでバカや」

 

 

ホントにもう!私をこんなに悶々とさせてるのに何も気づかないし、なのに私が寂しい時とか困ってる時は一番に駆けつけてくれるし、優しく頭撫でてくれるし、楽しい話いっぱいしてくれるし………

 

 

「………やっぱり、気になるなぁ……」

 

 

今日だって私のためにこんなに色々なことをしてくれた。

私の誕生日を知ったのってあの時、2日前なのにお料理からケーキ、誕生日プレゼントまで。

 

 

「ふふ……」

 

 

マズイ、またニヤケてきた。

ユウさんの前ではできるだけ我慢したけど、油断したり思い出すだけで嬉しくなってしまう。

 

ホントにこのままずっとユウさんと過ごせればそれはどれだけ楽しくて幸福なことがあるんだろうか?

 

でも、それだと有り難みとか忘れちゃいそうで何だかもったいない気もする。

 

 

「ホントに、どーしたらええやろな」

 

「なにがだ?」

 

「うぇ!?」

 

 

え、え!?と振り返ると脱衣所の方で声がした。

 

 

「大丈夫か、すごい長風呂だけど?それと着替えここ置いとくぞ」

 

「あ……うん、ありがと」

 

「おう、じゃ俺はリビングいるから」

 

 

ガチャと扉がしまり気配が遠のいていく。

び、びっくりした。急にユウさんの声が聞こえるんだもん……

 

 

「ってもう1時間くらい経っちゃうんやな……」

 

 

普段どちらかといえば早く上がるのにこれだけ長風呂してしまえばユウさんも心配するよね。

 

 

はぁ……上がろ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かち……かち……と時計の針が進む音だけが聞こえる。

闇も深くなり、窓を見れば真っ暗でもう遅い事がすぐにわかる。

 

時間を確認すればもうすぐ日を跨いでしまう。

 

 

「はやて、そろそろ寝ないとマズイぞ?」

 

「ふぁ……うん」

 

 

おや、どうやら眠かったみたいで横で既にコクコク……と船を漕いでいた。

 

 

「ほらおんぶしてやるから」

 

「ん」

 

 

 

そのまま自分の鞄を前にしてはやてをおんぶして二階の自分(借りている)の部屋にいく。

 

……というか一緒に寝るにしても1階のはやての部屋の方が楽なのでは?というと、絶対ダメ!!と拒否られてしまった。なぜ。

 

部屋に入りすぐにはやてをベットに下ろす。

 

 

「ほれ、ついたぞ?」

 

「ん、ありがとなユウさん」

 

 

よいしょと降りてそのまま布団の中に。

っとそうだ。

 

 

「あと忘れてたけどこの本返しとくな、何処に置けばいい?」

 

「あ、そっか。そこの棚に入れて置いて」

 

 

了解、と本棚にしまう。

すっかり忘れていたがこれを返すのも今日の目的の一つだった。

 

 

「それじゃ、おやすみ」

 

 

と言って出ようとすると手が掴まれる。

 

 

「今日は、一緒に寝たい」

 

「ん、狭いぞ?」

 

「大丈夫よ、ベット広いし」

 

 

そう言ってずれてくれるはやて。

ならお邪魔させてもらうかな?

 

そのままベットの横に入るとはやてがくっついて甘えてくる。

この子、眠くなるといつもこうなるんだが、朝起きると大抵恥ずかしがってるんだけど、今回もまたかな。

 

 

「それじゃ、おやすみ」

 

「……うん、おやすみ」

 

 

と、電気を切ろうと横の時計を見ればあとちょっとで0時になるところだった。

随分と遅い時間まで起きていたな、と改めて自覚し、丁度0時に、3日から4日へと日が変わった。

 

 

 

_____瞬間、ここしばらく全く触れていない、感じていないモノを感じる。

 

 

「ーーーー?」

 

 

思わず寝ようとし電気を切ろうとしていた手を止め気配のする方を振り返れば………

 

 

 

 

 

 

 

《 封印 を 解除 します 》

 

 

 

 

 

 

目の前にはあの本が怪しく光勝手にパラパラって開き、音を発し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお疲れ様です、作者です(*´ω`*)
一応現段階で必要なフラグをばらまいたら1万字を超えてしまいました……申し訳ないです(´・_・`)

それでは次回またよろしくお願いします!


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