死の支配者と星の御子   作:識神
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〜前回あらすじ〜

エン「秘密は暴かれた!!」
クレリックA「情報流出!!」


第8話:三者三様の食指

 帝都アーウィンタール。精緻に整備された石畳の通りは行き交う人々で活気にあふれている。通りに面した建物の外観は統一され、まるで巨大な一つの建物であるかの様に錯覚させる。

 

 この洗練された街並みのおよそ中央に皇城が鎮座している。この国の象徴でもある城の中に、ごく限られた者しか入室を許されない部屋があることを知る人物はかなり少ない。

 

 贅を尽くした造り、と表したら良いだろうか。足元は一面赤い絨毯が張られている。極上の柔らかさと手触りを持つそれは、行儀悪が許されるならば転がって全身でその感触を楽しみたいと思わせるほど。部屋の周りを飾る調度品の数々も、いかにも高級品であるという顔付きをしている。そのどれ1つをとっても、おいそれと手を出せるようなものではない。

 

 その部屋の中に置かれた落ち着いた色調の長椅子に、スラリと長い下肢を投げ出してくつろいだ姿をしている男が1人。

 

 眉目秀麗。男の容姿を一言で表すならば最も適当な言葉であろう。紫の瞳は知性と威厳を秘めており、ただ美しいだけの王者ではない事を示している。

 

 彼こそがバハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスその人である。

 

「それで? その治癒に長けた旅人とやらは今どうしている?」

「はっ。我が国の領内の集落を転々としているとの事ですが、時折急に見失う事があるとの事です」

 

 

 ジルクニフは淀みなく口を動かす秘書官のロウネ・ヴァミリネンの報告を聞きながら思考を巡らす。

 

 

「ジイ……、お前はどう思う?」

「ふむ。生まれつきの異常を治癒できるならば、魔法で言うところの少なくとも《ヒール/大治癒》相当……第6位階の力を持っているという事ですな。それに、恐らくじゃが転移の魔法が使えるか、それに準じたマジックアイテムを持っているようじゃの。手練れの監視から逃れるとしたら、それしかないでしょうな」

 

 

 腰の高さまで伸ばされた真っ白な髭に同じ様に真っ白な髪。顔に刻まれた深いシワは長い年月を生きてきた証である。皇帝であるジルクニフに『じい』と親しみを込めた声で呼ばれ、またその彼に不敬にならない程度の言葉使いで意見を述べられる。それはつまり、それを許される立場にあるという事である。

 

 彼の名はフールーダ・パラダイン。帝国の首席宮廷魔法使いであり、この世界における人間の中での最高戦力の1人だ。普段は物腰柔らかく智慧に富んだ男であるが、今現在、妙に浮ついているように感じられる。

 

 

「じい、わかっていると思うが……、そやつがこちらの仕掛ける檻に囚われるまでは自重しろよ?」

 

 

 ジルクニフはフールーダの本質を知るだけに、念のために口頭でクギを刺す。『分かっておりますとも』と至極落ち着いた声が返ってくるが、本当に分かっているのかはジルクニフにも分からない。

 

 さて魔法狂いのフールーダはともかく、神殿に紛れ込ませている密偵から情報が上がってすぐに、ジルクニフはエンを監視する為の人員を向かわせている訳なのだが、状況はなかなか面白い事になってきている。

 

 

「カルネ村の一件といい我が領内の件といい、妙な事が続くものだ。アインズ・ウール・ゴウンなるマジックキャスターとエンなる旅人に繋がりがあると思うか?」

「可能性はありますな。エンという旅人、やはり魔法による覗き見は出来ませんでしたからな」

「ふん。同等の実力者、あるいはマジックアイテムを有している者が同時期に現れたのだからな。可能性があるとしたら、別働隊……。アインズ・ウール・ゴウンから視線を外させる為……と考えるべきか」

 

 

 小癪な手を……。とジルクニフは含み笑いを漏らした。

 

 

「よし、ここは奴らの手に乗ってやろう。単独行動をしているなら引き込むチャンスだ。上手くやれば、アインズ・ウール・ゴウンとも有利に交渉できるだろう」

「では、皇城へ招くべく使者を送りましょうか?」

「あぁ。じい、お前も使者に同行しよく見て(・・・・)来るがいい」

「もちろんですとも。いかなる力を秘めているのか、この目でしかと見て参ります」

「それから遺跡の方も同時進行だ。その方が気取られにくくなるだろうからな」

「畏まりました陛下」

 

 

 ジルクニフは諸々の支度のために部屋を後にする2人の背を見送り、ふぅ……っと長い息を吐き出し、不敵な笑みを口元に浮かべた。

 

 

「さてさて、鬼が出るが蛇が出るか。1つ知恵比べといこうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国。かつてこの地に降り立ち人類のために戦った6人の神が作った国。人類の守り手として、純粋な人間のみの栄華こそを是とする国。その国の中枢を司る最高機関、そこでは高級ではあるが華美ではない、きっちりとした司祭服に身を包む者達が荒げた声を口々に挙げていた。

 

 

「本来、病や怪我の治癒は神殿の占有事項だ。いくら旅人とはいえ、神殿の権利を侵害したのなら連行し聴取すべきだ」

「何を言う。強い治癒の力は非常に稀有だ。それは貴様も分かっているだろう。ならば、丁重に迎えて神殿に取り込めば良いではないか!」

「帝国がすでに接触を図ろうと画策している。先手を打たれる前に、まず連れて来る事を優先すべきではないか」

「だから、その口実を話し合っていたのだろう。耄碌したか」

 

 

 まさに喧喧囂囂。収拾はつきそうもない。しかし、陽光聖典が行方不明、様子を見ようとした土の巫女姫は不明の攻撃により死亡。漆黒聖典からは裏切り者が逃亡し、しかも裏切り者は闇の巫女姫から叡者の額冠を奪い去っている。その影響で闇の巫女姫は発狂して使い物にならない状態。ここに集っている全員が懸念している通り、破滅の竜王が復活するまで時間的猶予のない今、戦力の増強は急務でもある。

 

 

「ええい。仕方あるまい。破滅の竜王を調査している漆黒聖典を向かわせる事とする。抵抗されるようなら多少手荒になるが、力づくで連れて来させよ。説得だなんだは後からでもどうとでもなる!」

 

 

 最高神官長の一喝で静まり返る執行部。反対の意を示す者がいないのを確認すると、最高神官長は漆黒聖典へ指示を出す段取りを部下たちに命じる。

 

 

 

 

 だが、彼らは知らない。その相手が不倶戴天の敵である『異形種』である事を。

 

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 

 

『アインズ様。例の小屋の主であろう人物と思しき者の情報が入って参りました』

 

 

 エ・ランテルの一角、先程までアンデッド騒ぎで混乱の様相を呈していた街は、魔獣を従えた漆黒の戦士の活躍により落ち着きを取り戻していた。もっとも、それなりの代償があった事はあったが、アインズからすれば特に気にもならない程度であった。

 

 アルベドからの連絡を受けアインズは気を引き締めた。と同時に(ようやくか……)と、思っていたより時間がかかったために安堵感にも似た感情が湧く。アウラの配下に見回りをさせていたが例の小屋の主は一向に現れず、待ちぼうけを食らった気分になっていたからだ。

 

 

「そうか。すぐにナザリックへ帰還する。守護者及びセバスとプレアデスを玉座の間に集めておけ。時間は……そうだな、3時間後だ。詳しい報告はそこで聞く」

『畏まりました、アインズ様』

 

 

 アインズはメッセージを切ると側に控えるナーベラルと、 薬師の青年の護衛任務の途中で支配下に置く事になった、ハムスケと名付けた巨大ハムスターの方へ体を向ける。

 

 

「ナーベ、一度ナザリックへ帰還する」

「は。このちくしょ……ハムスケはどう致しますか?」

「……連れて行く。ナーベ、お前は帰還後すぐにハムスケを連れてナザリックの者達に面通しをしておけ」

「はっ! 承知致しました……」

「殿? ナザリックとは宿の事ではないのでござるか?」

「あぁ、私やナーベの本来の拠点だ。まぁ、私の配下になったのだから、食われる様な事はないだろ」

「ひぇ、拙者は食べられてしまうでござるか?」

 

 

『食われる』と言う部分に過剰反応するハムスターから目をそらすと、「殿〜」と情けない声が聞こえてくる。ハムスケにはすでにオーバーロードとしての姿を見せている。迂闊に話す様な事はしないだろうし、見た目に反してこの世界では強大な魔物に分類される為、好き好んでハムスケに近づく者もいないだろうが、今後の事を考えて身内に知らせて置くべきだと判断したのだ。まぁ、大丈夫だと思う。いや、思いたい……。

 

 そしてナーベ……いやナーベラル・ガンマはあまり気がすすまない様子であるが、アインズは敢えてそれを無視する事にした。

 

(今はハムスケよりプレイヤーだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリックへ帰還したアインズ一行は、それぞれのやるべき事を行う為に墳墓の入り口にて別行動に移った。アインズは地表部で受け取ったリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動させ、9階層のロイヤルスイートに転移すると、自室の前へと徒歩で向かう。

 

 

「プレイヤー対策か。考えたくないけど、万が一に備える必要があるな……。はぁー……行きたくない………………」

 

 

 自室の目の前でアインズは宝物殿のアレを思い出し、自分の心が羞恥に染まるのを感じていた。右往左往と扉の前を行ったり来たりしながら、うんうんと唸っている姿は完全に不審者だが、このナザリックにそれを指摘するものはいない。色々と葛藤はあるが、アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明こと『ぷにっと萌え』の教えを蔑ろにする訳にはいかない。十全な備えこそ何よりも武器になり得るのだ。己の黒歴史如きに負ける訳にはいかない……。

 

 

「悩んでも仕方ない。覚悟を決めるか」

 

 

 

 

 

 

 目の前にそびえるのは黄金の山。指輪で転移したのは宝物殿のエントランス部分。ここには『とりあえず』の名目で適当に放り込まれた資材や金貨、アイテムがうず高く積まれていた。しかもその山は1つではなくいくつも並んでいるのだから、それだけでもアインズ・ウール・ゴウンの財力がズバ抜けている事が窺い知れる。

 

 だが、その宝の山でさえここでは序の口だ。周囲に備え付けられた棚にも所狭しと宝が納められている。大粒の宝石をいくつもあしらった兜、見る角度によって七色に輝く全身鎧、豪華な装飾をされた魔道書、緻密な彫刻が刻まれた短杖……と挙げていけばキリがない。

 

 アインズは広大とも言えるエントランスを《フライ/飛行》を使い移動すると、扉の形をした真っ黒な闇の前に降り立った。

 

 

「奥に向かうのは久々だからな……。パスワードは……なんだったかな…………。……仕方ない、アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

 

 闇の前でブツブツと呟くと、闇の中に文字が浮かび上がる。

 

 

「えーと、ラテン語だっけ? ほんと細かく設定したもんだよな」

 

 

 ナザリックのギミック作成の一翼を担っていた『タブラ・スマラグディナ』の凝り性ぶりが思い出されて微笑ましくなるが、今は思い出に浸っている訳にはいかない。

 

 

「かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう……だったか?」

 

 

 記憶の隅に置いやられていた言葉を思い出し徐に唱えると、真っ黒な闇の扉は形を歪め何かに吸い込まれる様に一点へ凝集していく。後に残されたのは扉の中央辺りに浮かぶ拳大の黒い球体だけだ。

 

 扉の先、左右に巨大な棚がいくつも並ぶ通路を進む。棚には様々な武器が綺麗に陳列されている。シンプルな造形のナイフ、トゲ状の突起をいくつも生やす禍々しい棍棒、貴重鉱石から削り出された杖、どれも仲間達と収集した大事な宝である。

 

 通路を抜けると少しひらけた場所に出る。中央には簡単なローテーブルとソファーがおかれており、そのソファーに腰掛ける者が1人。

 

(あれ? タブラさんの姿?)

 

 水死体の様なブヨブヨと膨れた身体にタコの様な頭部を持つ姿は、まさにアインズ・ウール・ゴウンの大錬金術師、『タブラ・スマラグディナ』のものである。

 

 タブラの姿を借りるそれは、アインズに気がつくと徐に立ち上がり、首を傾げてみせた。

 

 

「児戯はやめよ、パンドラズ・アクター」

 

 

 言葉と同時にグニャリと身体が歪み、やがて先程とは別の姿が形を現す。現れた者を一言で示すなら軍服を着たハニワだ。

 

 パンドラズ・アクターは本来の自分の姿に戻ると、身につけた軍靴のかかと部分でカツンと音を響かせ、ビシッと敬礼をして見せる。

 

 

「これは我が創造主、ん〜モォモンガ様っ!」

「お、お前も元気そうで何よりだ……」

 

 

 アインズは内心で盛大に項垂れていた。いや、もはや精神の中のアインズは身体を支える気力すら失われ、屍の様な様相ですらある。

 

 

「はい、お陰様で元気にやらせて頂いてます。して、本日はどういった御用向きで?」

「…………」

「モモンガ様?」

「っは!? いや、何でもない。それよりも……だ。実は…………」

 

 

 一瞬、現実逃避のために意識を別次元に飛ばしていたアインズは、怪訝な顔(ハニワ顔でよく分からないが)をしているパンドラズ・アクターに事の経緯を話し、いくつかの課金アイテムを持ち出す事を告げた。

 

 経緯の説明中や課金アイテムを取り出している途中、何度かパンドラズ・アクターのドイツ語で精神的なHPをごっそり削られる目にも遭ったが、何とか1つ目の難所を乗り切る事ができた。

 

 

「さて、パンドラズ・アクター。これからはお前にも宝物殿の外の仕事に携わって貰う。いい機会なので、報告を聞く場にてお前の事を皆に紹介しよう」

「承知しました。アインズ様」

 

 

 アインズはパンドラズ・アクターにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡すと、連れ立って守護者達の待つ玉座の間へと向かうのであった。




時を同じくして


ブレイン「暇だな…。どこかに腕の立つ奴はいねぇもんかね」




第8話でございます。
動き始めましたね。スレイン法国だけは、漆黒聖典が主軸になるかと思うので、本国の描写が少なくなってしまいました。
果たしてエンのハートを射止めるのはどこの勢力になる事でしょうか?(違)

ちなみに当小説のアインズ様は、エンを警戒していたため原作以上に慎重に事を運んでおります。結果→エ・ランテルに忍ばせた僕からクレマン&カジットの動向が伝わる。ナーベを漆黒の剣とンフィーレアに付き従わせるも、ドジっ子ナーベの隙をつかれンフィーレアは攫われる。漆黒の剣は多少手傷を負うも命は無事。(なお、ナーベは失態に呆然自失なるも、モモンから多人数を守りながらでは仕方ない事だと慰められたとかなんとか…)
本文中のそれなりの犠牲は主に衛兵達の事になります。
番外編にてこの辺りの話を書けたらなぁと、画策中です。


次回もアインズ様のターンは終わらない!







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