死の支配者と星の御子   作:識神
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カルネ村からエ・ランテルへ戻ってきた日、モモンは潜ませた僕から、ンフィーレアを拐おうとする者が居ると報告を受けていた。誘拐犯をナーベに捕らえさせて、更なる功績を挙げようと画策したモモンであったが………。


番外編1:エ・ランテル薬師誘拐事件

「おかえりなさ〜い。あんまり遅いから待ちくたびれちゃった〜」

 

 

 突然に店の奥から発せられたその声は、まるで客に媚びを売る娼婦のようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜時間は少し遡る〜

 

 

「すみません。荷下ろしまで手伝って下さるなんて……」

 

 

 エ・ランテルの薬師、ンフィーレア・バレアレは冒険者組合から店舗兼自宅までの帰り道に、それは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

「良いんですよ。今回、私達漆黒の剣はモモンさん達に比べてほとんど活躍できてないので」

「報酬をそのまま受け取るには忍びないのである」

 

 

 漆黒の剣のメンバーはそれぞれここ数日の事を思い出し苦笑を浮かべた。任務を共にした2人組の強さが桁外れで、自分達が足手纏いにならなかったという自信が無いからだ。

 

 

「しっかし、つえー人はいるもんだなー。階級もすぐ抜かれちまうだろーな。ねぇ、ナーベちゃん」

「黙りなさいフルホンシバンムシ」

「くーっ! キビシー!」

「もー、ルクルット。いい加減諦めたらどうです? ナーベさんもすみません。モモンさんに頼まれたからと言って僕たちに付き合わせてしまって」

 

 

 マジックキャスターであるニニャが詫びると、ナーベと呼ばれた黒髪の美人は「別に」と短く返事をした。

 

 何故、アインズ扮するモモンの護衛であるはずのナーベが漆黒の剣について来ているかと言えば、当然アインズに命じられたからだ。でなければこの様な有象無象と行動を共にする訳が無い。

 

 命令の内容は『バレアレの店でンフィーレアを拐おうと画策している者が潜んでいる。漆黒の剣とンフィーレアを守り襲撃者を生かして捕らえよ。わかっているとは思うが、第3位階を超える魔法は使うなよ? もし、不測の事態が生じたらメッセージで連絡しろ』と言うものだった。

 

(何故アインズ様はわざわざこの様な下等な虫に目をお掛けになるのかしら……)

 

 既に何度も説明は受けていたはずなのに、ナーベはいまいち理解できずにいた。興味のない事にはとことん頭が働かないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 モモン達の強さについてや、エ・ランテルいちの薬屋との縁ができた事について、話に花を咲かせる5人と、その輪に加わらず最後尾を進む1人の一行は、やがて目的地へと辿り着いた。

 

 

「まずは一服休憩しましょう。よく冷えた果実水があるんです」

「そりゃ有難い。皆、お言葉に甘えようか」

「お、珍しく気が利いた判断するじゃんリーダー」

 

 

 馬車を店の前に止め、一行は店の入り口へ向かう。1人を除いて店内の気配に気付いている者はいない。ナーベはアインズの命令を守るため、いつでも迎撃できる位置へと向かう。

 

(はぁ。どうせ襲撃者とやらもコイツらと大差ない虫ケラなんでしょう……。さっさと終わらせてアインズ様と合流したい)

 

 はっきり言えばナーベは油断しきっていた。ここまで出会った下等生物達の中に、敬愛するアインズはおろか自分にすら届き得る強者はいなかった。この世界で強大と評されるあの毛玉ですら容易く屈服したのだから、人間など言わずもがな……と思っていたのだ。

 

 

「あれ? 鍵があいてる?」

「どうしました? ンフィーレアさん」

 

 

 ンフィーレアは鍵がかかっていない事に首を傾げた。祖母が鍵をかけ忘れるはずはないし、家に居るとしても明かりが点いていないのはおかしい。

 

 

「ンフィーレアさん?」

「いや、鍵が開いているのに明かりが……。おばーちゃーん? いるのー?」

 

 

 ンフィーレアはペテルの問いへの返事もそこそこに、扉を開けて中に向けて呼びかけてみた。しかし返事はない。今度は店の中へ入って、奥に向かって呼びかける。

 

 

「おばーちゃーん?」

 

 

 漆黒の剣とナーベもンフィーレアに続いて店の中へと入る。と、その時奥から足音が聞こえ、声がかけられた……。

 

 

 

 

 

 

 

 奥からノラリと歩いて出てきた声の主は、明り採りの窓から射し込む月明かりに照らされその姿を顕にする。それは金髪の女だった。女は体に最低限の面積しかない露出の多い鎧を纏い、顔には獰猛な笑顔を貼り付けていた。そしてよく見ると鎧には冒険者のプレートが無数に縫い付けられている。

 

 女はンフィーレアやその後ろに続く漆黒の剣とナーベをしっかりと見据えると、軽く舌なめずりをして見せて、ンフィーレアに向かって突進を仕掛けてきた。

 

 

「危ないっ!!」

 

 

 咄嗟にチームの前衛を務めるペテルがンフィーレアの前に出ようとしたが、間に合わずにンフィーレアを掻っ攫われてしまう。同時に女から蹴りを貰ったペテルは、斜め後ろに吹っ飛ばされてしまった。しかもその刹那の合間にンフィーレアを気絶させているのだから、彼女の実力は相当のものだと思われる。

 

 

「ンフィーレアちゃんゲットー! んふふふ。……ん〜。まだ少し時間もあるし〜、おねぇさんが遊んであげよっかー?」

 

 

 女は気絶させたンフィーレアを床に転がすと、腰に下げていた先の尖った武器を抜き放ち、獲物を前にした肉食獣を思わせる表情を浮かべる。

 

 

「くそっ! ペテル! 大丈夫かっ?」

「いっつつ…………。みんな気をつけろ。その女強いぞ!」

 

 

 臨戦態勢の漆黒の剣。実力差がありすぎる事が先の動きで十分に理解できた彼らは、死を覚悟していた。

 

 と、次の瞬間、漆黒の剣の間を縫って、鋭い閃光が武器を構える女に向けて飛んで行った。しかし、直線的な軌道のそれは女に難なく避けられてしまう。女の後ろにある商品棚に焦げた穴が開いたが、この場でそれを気にする者はいない。当の女は「も〜いきなり危ないな〜」と相変わらず獰猛ににやけた顔を崩さないで、さも愉快そうに鼻を鳴らす。すると今度は苛立ちを全く隠す様子も無く、閃光を放った女が口を開く。

 

 

「いい気にならないで下さいキリウジガガンボ! それと、お前達はさっさと失せなさい」

「ちょ、ナーベちゃん何言ってんだよっ!」

「足手纏いのゴマダラカミキリムシが何を言っているんですか? 巻き添えで死にますよ」

 

 

 ルクルットは戸惑った。いつも辛辣なナーベが自分(達)を逃がそうとして居るのだから。もちろん、ナーベが漆黒の剣を逃がそうとしているのは、アインズから守れと命じられているからに他ならないのだが……。ちなみに、この時のやり取りのせいでルクルットに『まだチャンスがあるに違いない』と勘違いさせてしまったとは、ナーベには知る由もなかった。

 

 

「ペテル、ルクルット! ここはナーベさんを信じて、僕達はモモンさんを呼びに行きましょう!」

「ニニャの言う通りである。下手に我々が加勢すれば、マジックキャスターであるナーベ女史の射線を遮ってしまうのである」

 

 

 2人の声にペテルとルクルットは互いの顔を見て頷くと、すぐに撤退をはじめる。後衛のマジックキャスターを、しかも大の男が女性を1人残す事に若干後ろめたさを感じたが、彼女の実力は自分達の相当上である事は分かっていたので、この場を任せる判断を下した。

 

 

「すぐにモモンさんを呼んできます。どうにか持ちこたえて下さい!!」

「ナーベちゃん! すぐに戻ってくっから!!」

 

 

 4人が店の外へ出て行くと、残されたナーベはようやく邪魔者がいなくなったと溜息をついた。対する武器を構えた女は少しつまらなそうな顔をしてみせた。

 

 

「あ〜あ〜……。置いてかれちゃったね〜。まさかマジックキャスターが残るとは思わなかったな〜。これじゃ遊びにもならないじゃん」

「そのよく回る口を閉じなさいチャバネゴキブリ。大体、誰が誰で遊ぶと言うの? 己の分を弁えなさい!」

 

 

 人の目が無い分、ナーベの口も3割ほど悪くなっている。その悪どさを増したナーベの言葉に、目の前の女はこめかみに青筋を浮かべる。

 

 

「あぁ〜ん? マジックキャスターごときが舐めた口きいてんじゃねぇぞ! このクレマンティーヌ様にかかれば、テメェなんてスッと行ってドスッだっつぅんだよ!!」

「ふん。なら口なんか動かしていないで、さっさと攻撃したらいいじゃない。それとも本当は怖気付いて足が動かないのかしら?」

 

 

 両者の間には得体の知れない火花が散る。お互いに睨み合いながら、いつでも攻撃を出せる体制を整える。その場の緊張感が指数関数的に膨れ上がっていくのがわかる。もう一瞬……後ほんの一瞬で互いに仕掛けるまでのカウントが終わる。しかし、その直前にしわがれた声が店の中に響いた。

 

 

「遊びは終わりじゃクレマンティーヌ! さっさとそのガキを連れてこっちへ来い! 早くせねば、今日中の計画に遅れが出るではないか!」

 

 

 声と同時に店の中に異臭を放つ何かが投げ込まれ、その何かからゾンビが3体湧いて出てきた。

 

 ナーベは一瞬、ほんの一瞬臭いとゾンビに気を取られてしまった。そして気付いた時にはクレマンティーヌもンフィーレアも姿を消していた。

 

 

「しまった!」

 

 

 ナーベはゾンビを片付けると、店の外に飛び出した。すぐに《フライ/飛行》で屋根に登ってみたが、既に知覚できる範囲には彼らの姿は見当たらなかった。

 

(ど、どうしよう……。大変な失態だ。早く追いかけて、あの人間を取り返さなくては……)

 

 ナーベが上空から手当たり次第に探しに行こうとしたその時、意識が誰かと繋がるのを感じた。

 

 

『ナーベ、漆黒の剣から話は聞いた。首尾はどうだ?』

 

 

 声を聞いた途端、ナーベの体は緊張で硬直した。冷や汗が身体中を伝う感覚がよく分かる……。だが、至高なる主人に嘘を吐くなど以ての外である。ナーベは覚悟を決めると、状況を説明し始めた。

 

(ユリ姉さん、ルプー姉さん、ソリュシャン、エントマ、シズ、オーちゃん……失態により先立つ不名誉をお許しください…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインズから言葉が返ってくるまでの時間は、それはもう耐え難いほど長く感じた。

 

 

『状況はよく分かった。ならば作戦は変更だ。ちょうど薬師のリジィ・バレアレと合流したところに漆黒の剣がこちらに来た。ここはリジィに恩を売って、ナザリックの現地研究員として引き入れる事にしよう。それに、たった今この街に潜ませている僕から、ンフィーレアと誘拐犯が墓地にいると報告が来た。一度バレアレの店で合流する』

『本当に申し訳御座いませんでした。この失態、かくなる上は死を以って……』

『ナーベ、いやナーベラル。私は許可無く死ぬ事を禁じた筈だ。それに、あの状況でよく漆黒の剣を守りきった。お前が他者を守る術に乏しい事を考えれば、十分な成果だ。ンフィーレアが拐われた事は、確かにお前に隙があったからだと言える。しかし結果的にはより多くを手にする可能性が高くなったのだ』

 

 

 ナーベはアインズの言葉に思わず涙しそうになった。なんと慈悲深い事だろうかと、ナーベは己が忠誠心のメーターを大きく振り切らせた。そして、あのニヤけた露出狂に目に物を見せてやると誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜後日〜

 

 

「あ、モモンさんナーベさん! ミスリル級への昇進おめでとうございます!」

「これはペテルさん。ありがとうございます」

 

 

 礼儀正しい爽やか系のペテル・モークは久し振りに漆黒のフルプレートを見かけ、なかなか会えなかっために言えてなかった言葉をかける。すると、出会った時と変わらず驕らず穏やかな口調で礼が返ってくる。全く、既に自分達を通り越して昇進したのに律儀な人だと、ペテルは苦笑する。

 

 すぐ隣では、顔をやや赤く染めたチームメイトのレンジャーが獲物に狙いを定め、ややぎこちなく言葉を投げかけている。

 

 

「さっすがナーベちゃん。おめでとう! 今度お祝いに2人で飯にでも行きませんか」

「行きませんよ、コメツキバッタ。あなたは1人で野っ原の草でもかじっていなさい」

 

 

 相変わらずの辛辣さに思わず同情の念も湧かなくもないのだが、『ナーベちゃんの心には女神にも勝る慈愛が隠されている!』とよく分からない事を熱弁して、全く諦める気配が無いので、もう放って置く事にした。

 

 

「ルクルットさんは相変わらずですね……」

「あははは……。ナーベさんも……ね」

 

 

 そんなルクルットの様子を見て呆れたようにモモンが呟き、ペテルもまた相変わらずのナーベを見ながら相槌を打つ。

 

 そして彼らのやり取りは、いつしかエ・ランテルの冒険者組合のお決まりになるのであった。




という訳で、エ・ランテルの騒動のンフィーレア誘拐の部分でした。モモンとナーベ合流後はほぼ原作通りなので、割愛いたします。漆黒の剣も組合の要請で防衛に出向きますが、大怪我をする事もなく無事に生還します。(危なくなると物陰からアインズの僕が密かに手助けをしていたとか、していないとか…)
そして、本文中にも書かれていますが、ルクルットは本当に一欠片くらいは可能性があるんじゃないかと思い込み、会う度にアピールしては玉砕します。全くナーベも罪な女です。以後、漆黒と漆黒の剣は良い関係を続けていく予定です。

はい。そんなこんなで番外編で御座いました。よい箸休めになってくれていたら幸いです。

次回は本編。いよいよ各国が主人公と接触だ!




スペッキオ様、誤字報告有難うございます。







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