頑張った君へ   作:黒色狼

7 / 7
『注意』
今回はバドミントン要素がとても強いです。わかり易く書いたつもりですが分かりにくいかも知れません。


最終話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだいけるか、秋?」

 

「愚問だな。当たり前だろ真人、まだ点数は折り返し。こっから取り返していくぞ」

 

「へへっ」

 

「あ?何笑ってんだよ」

 

「いや、なんだかおかしくってさ。俺とお前がこうして同じ側のコートに立ってるのがな」

 

「今更何言ってんだよ。昔はどうあれ今の俺たちは『相棒』だろ?なら隣に立ってるのは当たり前だ」

 

「おう!じゃあちょっくら逆転しますか!」

 

 

 

俺がみっともなく大泣きしたあの時から随分と時が流れた。

 

夏が過ぎて冬が来て春が訪れる。止まっていた俺の中の時間はあの時、卯月と出会ってから再び動き出した。道も分からず何も見えない暗いくて深い谷底にいた俺を明るく照らしてくれた。

 

キラキラと輝く姿に俺は魅せられたんだ。

 

だから俺は今こうしてまたコートの上に立っている。確かに俺の怪我は後遺症が残る程のものだった。けど決して動けない訳ではない、ただ制限時間があって無茶が効かないだけでやれないこともないのだ。

 

怖かった。

また怪我をして何も出来なくなるのが。そのせいでまともな動きが出来なかった俺だが今は違う。

 

あの日から俺はまた練習を再開した。このままじゃダメだって思ったから、何より変わりたいって思ったから。あの全盛期だった頃の俺は何よりインターハイという全国舞台をずっと目標に頑張ってきた。それが心の支えだったと言っても過言ではない。

 

俺は何か明確な目標を持っていないと頑張れない空っぽなやつだから。ずっと何かを目標にして頑張ってきたからこそ俺は目標を見失った時に何をしていいのか分からなくなる、それがこの前までの俺だ。けど今は違う、俺にはある目標が出来た。だからこそ練習を再開したんだ。

 

長くラケットを握っていなかったブランクもあって全て最初から上手くいったわけじゃない。今までやってきたように。いや今まで以上に努力をした。その結果が今だ。

 

 

 

インターカレッジ。略してインカレ。

高校での全国大会がインターハイであるように、大学での全国大会であるインターカレッジというものがある。

 

そこの団体戦の舞台に俺は立っている。決勝だから周りで行われている試合は1つもなく会場にいる全ての人達が自分達に注目しているしコートの周りには幾つものカメラのレンズが自分達を覗いていて、これによって所謂決勝ならではの緊張感がある舞台が出来上がっている。

 

ここまで来るのは簡単じゃなかった。まず怪我もあって普通に活躍するのはとてもじゃないが無理だった。だからこそ俺が注目したのは団体戦だ。個人戦はシングルス、ダブルス共に1日に何試合もこなさなくてはならないが団体戦に限って1日1試合のみになる。だからこそ俺は全力で試合に望むことが出来るんだ。

 

そこで入学した大学でなんの縁か自称ライバルの真人とダブルスを組む事になったわけだが……まぁ悪くないな。11点という1ゲームの折り返しに設けられるインターバル、休憩が終わりコートに戻っていく。

 

バドミントンという競技は昔は違うが今はラリーポイント制が設けられていて、1ゲーム21点で先に2ゲームを取った方が勝利となる。

 

そして団体戦はシングルス3回、ダブルス2回が行われ先に3本取った方の学校が勝ちになる。

 

今は8-11で俺達の劣勢だ。団体戦という事もあって先に行われているシングルスではこちらが負けていてここで負ければあとがない状態、だからどうしてもここは負けられない。

 

基本的にダブルスというのは守りのサイド・バイ・サイド、攻めのトップ&バックという位置取りをするのが基本的な形になる。攻められている時はコートで2人横並びになるのがサイド・バイ・サイド。攻めている時に前衛と後衛に上下で分かれるのがトップ&バックだ。前衛と玉回しでゲーム展開を動かすのが得意な俺が前に入り強打が得意な真人が後ろに行くのが俺達の強みが出せる並びなんだがそれをさせてもらえない。

 

俺は高校時代それなりに知名度もあったからか怪我の事もこの業界では殆どの人に知られている。ブランク持ちの俺を頻繁に狙ってくる相手だが実はレシーブに関して言えば真人より俺の方が上手かったりするので少し助かっている。そりゃあまり動けない俺は皆のショットをその場で受け続ける練習が必然的に増えてレシーブが鉄壁になっていた、ほんとこれは俺も予想外。けど嬉しい誤算でもある。

 

レシーブを軸に球回しをする。相手はインカレの決勝に出てくるような大学の選手、低めの球で勝負に出るのは危険だ。だから俺はしっかり相手を見て主にセンター、クロスのネット前にシャトルをレシーブしていく。このレベルまで来るとヤマを張られて完璧なレシーブでさえも決められる事さえあるが幸い相手は慎重にプレイしてくれていてそんな様子は見られない。綺麗にネット前に繋げられた球は必然的に相手は勝負せず確実にロングリターンを返してくる。そこからは速かった、真人のスマッシュは馬鹿みたいに速い。相手は自信があったようだが面白いように決まり帰ってくる球も自分がしっかり捕まえて決めていく。

 

1ゲーム目は21-14でこちらが取れた。

 

このままいけるか?と思った矢先に相手の動きが変わった。狙いがセンター寄りの真人に変わったのだ。別にそれぐらいで崩される俺達ではないが思ったように動けないで俺が後ろ、真人を前に持っていかれる場面が多くなる。粘ったがやはりどうしても強みが出せず我慢比べで負けて2ゲーム目は19-21で取られてしまった。

 

さっきのゲームもそうだったがこの流れではもうどちらに勝利が転がってもおかしくない。だからここからは流れをいかに自分たちに持っていけるか、それが1番重要になってくる。

 

しかしどうしても攻めきれずお互いに硬直状態のまま11-10のこちらが劣勢でインターバルとなった。

 

 

 

「くそっ、なかなか攻めきれねぇ。秋そろそろお前ヤバいんじゃないか?」

 

「まぁな。けどやれなくない、それに泣いても笑ってもこれが最後なんだ。こんなとこで引き下がる男に見えるか?」

 

「はっ、聞くだけ無駄だったな。俺達は俺達のプレイをする、悔しいが俺の球回しじゃ攻めきれねぇ。頼んだぜ相棒」

 

「任せろ、お前はいつも通り後ろで馬鹿みたいにスマッシュ打ってりゃいい」

 

 

 

短いインターバルが終わり試合が再開される。あぁ、そうそう。伝え忘れていた事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秋くぅぅぅぅん!頑張って下さいぃ!私、見てますからっ!ここにっ、いるからっ!」

 

 

静まり返った会場にそんな声援が響いた。

 

 

俺は額に掌を当てて天井を見上げる。

何やってんだよ、あいつ……

 

 

「おい、今のって……」

 

「間違いない。アイドルの島村卯月だ!」

 

「どうしてここに!?」

 

 

それ言わんこっちゃない。この試合はテレビで生中継されている、そんなところで目立てば報道陣にバレても何も文句は言えない。

 

チラッと横目で声の方を見ると今更気が付いたのか少し顔を赤くした卯月がちっさくなって会場の席に付いているのが確認できた。こりゃ試合が終わったあとのヒーローインタビューすっぽかして報道陣はみんな卯月の方に行くんじゃないか?

 

 

 

まぁ、けど。

 

 

 

「真人」

 

「おっ、なんだ秋くん?」

 

ニヤニヤしてこちらを見てくる真人にひと睨みする。いつもならケツでも蹴ってやるところだが今の俺は非常に気分がいい。

 

「そのムカつく顔はやめろ……取り敢えず、ぜってぇ勝つぞ」

 

「へーへー。王子様のご命令通りにってね」

 

 

 

もう俺は1人じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優勝おめでとうございます!」

 

「ありがとうございます」

 

 

流れてくる汗をタオルで拭きながらインタビュアーの質問に受け答えをする。あのあと先程までの我慢比べが嘘のようにあっさりと勝ってしまった。さすがは卯月というべきか、それとも俺達がまだまだなのか。まぁ完全に後者だろうなぁ、と思いつつ汗を拭う。

 

勝利した俺達はその勢いのまま後のダブルス、シングルスと連続で勝ち見事に優勝を果たした。実際にこのお立ち台に立っていると優勝したんだなぁ、と実感してくるがやはりまだ何処かまだ現実味がなかった。

 

そしてお立ち台には俺が呼ばれた。まぁそうなるだろうというのは分かっていた『1度大怪我をしてそれでも舞い戻ってきて優勝を果たした』んだからテレビ的には美味しいネタでしかない。普段なら素っ気なく対応してひと睨みしてやるところだが今回はそれを利用させてもらおう。その為に俺はまたこうしてコートの上に立ったんだから、少しでも君に近付けるように。

 

「では最後にお言葉を宜しくお願いします」

 

「応援して下さった皆さん、それに色々支援もして下さったOBや監督に保護者の皆さん本当にありがとうございます。お陰でこうして優勝することが出来ました」

 

 

多分出会った頃から俺は既に心を奪われてたんだと思う。あの胸の高鳴りに心地良さ、最初はなんとことかさっぱりだったけど今は良く理解している。

 

 

「こうしてコートの上に立っているのも良くしてくれた皆さんのお陰です。ここから少し個人的な事になるのですが……怪我を頑張って、また怪我をした時自分はもうダメだって1度諦めました」

 

 

あの時は本当に絶望した。まるでもう用済みだと言うように周りは自分から遠ざかっていって、身体は思うように動かせない。けれども。

 

 

「けどそんな時にある女の子に出会いました」

 

 

観客席の端っこで誰かが変な声を上げているような気がした。

 

 

「その人はとてもキラキラと輝いていて、とても笑顔が素敵な女の子です。きっと今までにそんな彼女のキラキラに照らされて心を動かされた人は沢山いるでしょう。もちろん自分もです」

 

 

「こうしてまたコートの上に立とうと思えたのも彼女のお陰で、怪我で苦しんでいる俺に彼女はずっと側にいてくれて笑顔で馬鹿の一つ覚えのように『頑張って』って言うんです。だから自分はここにます。何よりそんなキラキラと輝く彼女に届かせたくて……」

 

 

伝えたいことは沢山ある、けど何よりも。

 

 

「卯月」

 

「わ、わたし!?」

 

 

会場がどよめきだす。まぁあのアイドル島村卯月が本当にいるんだからな。俺の大学のチームメンバー達に急かされるように2階の観客席からお立ち台の側までやってきた卯月の前に俺はニヤニヤとした真人から渡された1つの箱を差し出す。

 

 

「えっと、伝えたい事が沢山ある。けど俺にはそれを全部伝えれる自信が無い。だから簡潔に言うよ。卯月、君の事が大好きだ。結婚してくれ」

 

 

箱を開けて指輪を取り出す。この時のために頑張って貯めた貯金をほぼ全部突っ込んで買ってきた指輪、負けた時の事なんて考えないで一括で購入した指輪はキラキラと光を反射している。

 

会場の皆が卯月に注目している。

 

この静寂が永遠のようにも感じられて心臓が止まりそうだ。

 

顔を赤くしたり恥ずかしがったりしていた卯月は今は顔をしたに向けているのでどういう顔をしているか分からない。ここで失敗したらもう田舎に隠居しようかなぁ、なんて何処か他人事のように思っていると。

 

ばっ、と卯月が顔を上げる。

そこにはいつも自分を明るく照らしてくれていて、そして何よりも俺が1番大好きな笑顔がそこにはあった。

 

涙を流しながらニコッと笑って卯月はとても大きな声で

 

 

「はいっ、幸せにしてくださいね?」

 

 

 

 




ここまで読んでくださった方ありがとうございました。

ずっと島村卯月ちゃんを使ってそれに沿った何かを書きたいなぁと思っていてはいたんですが中々自分がアイドルマスターにわかでもあって筆が進まず、「そうだ!実際にあった話と混ぜて書いちゃえ!」となって出来上がったのが本作品です。

もう別に卯月ちゃんじゃなくても良かったんじゃないか?と思わなくもなかったですが実話の方の女性の方がとても卯月ちゃんと似ている性格でもう切りなして考える事が出来なくなってしまってここまで来ました。完全に実話、という訳でもないですが大部分はノンフィクションです。こんなことあったんだなぁ、程度に覚えてて貰えると幸いです。

繰り返しになりますがここまで読んで下さりありがとうございました。この作品を読んで少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。ありがとうございました。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。