聖闘士星矢-龍星伝記- White Songs 作:発屋ハジメ
あの戦いのあと、元の世界に戻れば、その日の夜に白虎はアオイデーの元へと向かった。水鹿たちからは止められたが、白虎としては行かなければならない理由――REID-DAMOCLESを元の持ち主に戻さなければならない、といったことがあったからだ。だが、白虎はパルナッソス山でアオイデーと出会い、話をしたところ、REID-DAMOCLESはしばらくの間は白虎が持って欲しい、と告げられた。無論、最初は、それに対して納得できなかったが、アオイデーが持って欲しいというのだから、持つ他にないであろう。白虎は結局剣をアオイデーのところに戻すことはなく、帰って行った。帰ってくれば、圭熊から、「無駄足お疲れさん」と大笑いしながら言われた。白虎はその顔に拳を入れた。
そして、白虎はその後に、聖域にある聖闘士たちの墓場の中にある翔馬の墓へと向かった。白虎はその墓をしばらく見つめてから、その場にしゃがみ込んだ。出会った時のこと、和解した時のこと、さまざまなことが走馬灯のように思い出された。
(……翔くん、聖域の皆は元気だよ。アンタのお師匠さんも、ちゃんと元気に過ごしてるよ。まさか海鳥さんに黄金聖闘士の座を譲っているとは思ってもみなかったけどさ)
そう、本当思ってもみなかった。水鹿に海鳥のことを聞いてみれば、なんと、海鳥は数年前から黄金聖闘士になることをほとんど約束されていたようなものだったらしい。だが、本人は黄金聖闘士になるには、もっと聖域のこと、教皇のことを支えられるぐらいにしっかりしなければ、と思い、一度はそれを辞退したらしい。自分も黄金聖闘士になることは約束されたも同然だが、師匠でもなんでもないアンバーから約束されるなど、相当だ。
白虎は、「はぁ」とため息をつきながら、空を見上げた。今日も、空は青く輝いている。
「教皇。以前、文献室でこのようなものを見つけたのですが、天秤座という点から、貴方に渡した方がいいんじゃないか、と思って」
「そうか、ありがとう。文献室でこんな古い図書を見つけるとは、なかなかだな」
教皇は水鹿から、とある古い冊子を受け取りながら、ニコリと微笑みを浮かべていた。その冊子はかなり前に水鹿が文献室から見つけた、かつての天秤座の聖闘士がつけていた日記であった。冊子自体、よくここまで残っていたな、というぐらいのもので、日記の中身から察するに、今から大体450年前ぐらいの、かなり古いものである。
教皇はそんな冊子の中身をパラパラと軽くページを流し見つめてから、最後のページ、いわば裏表紙へと目を運んだ――途端に、教皇の瞳からは一筋の涙が出てきた。水鹿は突然涙を見せた教皇に対して、驚きを隠せずにいたのか、目を見開きながら、教皇に声をかけた。
「き、教皇、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……すまない。天秤座の聖闘士として、何か通じるものがあったようでな……お前が心配することではないよ」
教皇は涙を指で拭い取りながら、再び冊子の裏表紙の方へと視線を向けた。
(老師――……貴方の日記、この天秤座の紫龍が、確かに受け取りました……)
――そして、どこか、遠い世界。
そこで天秤座の聖衣をまとった青年が、五老峰の崖の上から、その世界のすべての全貌を見つめるかのように、視線を据えていた。その青年の容姿は、白虎に負けないぐらいの女性的な容姿であったが、比較的おっとりした顔の白虎とは違って、こちらの方が若干ながらに、凛々しさが多かった。
青年は、「ふっ」とその口元を緩めながら、崖を背にして、そこを後にした。
――次の戦いは、そんな遠い世界での話になる。
――Fine.