魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

121 / 341
ガウガウ・ケスチナ

 森の中での探索は数時間に及んだ。

 一帯の森を全て調べ尽くすには至らないが、その三分の一ほどを調べ終えたところでレオンハルトは傾き始めた日を見ると、背後からついてくる二人に向かって、

 

「――そろそろ戻るぞ」

 

 と、声を飛ばす。するとこちらを見ていたハンティは頷いたが、何かを見つけたのか茂みでごそごそとしているキャロルが、遅れて立ち上がり、

 

「レオンハルト様ー! 珍しい貝を見つけましたわー!」

 

 肩に少女を乗せたキャロルが左手を掲げてそう報告してくる。掌の上には、キラキラ光る黒色の貝があり、

 

「……貝なんて見つけてどうする。まさか生きた貝じゃあるまいしな」

 

 モンスターの古代種の貝は、現在では殆ど絶滅しており、その死骸が貝殻として残るのみである。生きた貝であれば多少は珍しいが、それでも全く見ないという程でもない。

 なので呆れつつキャロルを嗜めたのだが、キャロルは声を大きくして、

 

「レオンハルト様! お言葉ですがこれは珍しい貝ですの! おそらくこれは……鋼鉄黒飴貝ですわ!」

 

「……それは凄いのか?」

 

「好事家やコレクターの間では超レアな貝だと、この前読んだ貝図鑑に書いてありましたわ!」

 

 そうなのか、とキャロルの言葉を聞いて改めて貝を見てみる。隣からハンティも視線を向け、

 

「……確かに綺麗だけどさ。目的は生き物でしょ」

 

「まあ捨てるなとは言わんが……とりあえずしまっとけ。珍しいなら持ち帰って貰ってもいいぞ」

 

「ありがとうございますの! 大事にしますわ!」

 

 了承したキャロルが懐から取り出した透明なケースに、その何たら貝を入れる。持ち帰ってコレクションにでもするのだろう。キャロルが探索で珍しいものを拾ったり買ったりしてくるのは珍しいことじゃない。聞くところによればキャロルの部屋には色々と珍しい品が保管されているらしい。物集めが半ば趣味になっているが、別に構わない。こちらも迷宮で色々と見つける時もあるが、自分の場合は武器や実用性のある物の方が多く、趣味的な珍しい品は適当に城の宝物庫に入れてしまうか、誰かに上げてしまう。それで喜んでくれるなら安いものだ。

 

「……よし。それじゃ戻るぞ」

 

「了解」

 

「帰還ですわー!」

 

 元来た道に引き返す。一日目はそこまで収穫が無かったが、最初から直ぐに見つかるとも思っていない。

 ……ナイチサが興味を持つほどの珍しい生物など、一日やそこらで見つかるはずもないからな。

 それこそ一年や二年では済まず、数年か十年以上かかる可能性だってある。

 しかし魔王や魔人の感覚でいえば人間でいう数年など、少しくらい長期間であっても問題ない。なのでゆっくりと探索を進めてもいいが、あまりこの作業に時間を取られるのも億劫な上、長過ぎればナイチサに小言を言われるかもしれないので出来る限り早めに終わらせるつもりだ。

 とはいえ一年くらいは掛かるか、とも見ているが。なので焦ることなく、レオンハルトはライゼンがいる森の窪地まで戻っていった。

 

 

 

 

 

 ――だが途中、異変を感じ取り、レオンハルト達は身を固くした。

 

「――今のは」

 

 そろそろ着く頃かと思っていた矢先、森に衝撃が走った。

 凄まじい音が鳴り響き、宙を駆ける衝撃の波が木々の間を抜けてこちらに風を寄越してくる。

 それを感じて思うのは、

 

「……ライゼンに何かあったか?」

 

「迷い込んできた魔物と戦闘してる可能性がありますわ!」

 

 キャロルが言った通り、そういった可能性が高い。しかしそうだとしても、

 

「……こんな周囲に被害が及ぶほどの相手……?」

 

 ハンティが訝しげに目を細めて言う。レオンハルトとしてもそれには同意だ。

 魔物と戦ったとして、これほどの衝撃を周囲に届かせるほどの攻撃を、ライゼンが放ったにしろ、魔物が放ったにしろ、それは相手が強大であるということに他ならない。

 ライゼンであればそこいらの魔物は難なく征することが出来るだろうし、そうでないのだとしたら、

 

「大丈夫だとは思うが……少し急ぐか」

 

「了解ですわ!」

 

「先行って見てくるよ」

 

 二人がその言葉に頷くのを見て、レオンハルトは足に力を込めた。

 ハンティがその場から消えるのを確認するまでもなく、木々の間を、先程の数倍以上のペースで跳ぶように駆け抜けていく。キャロルが後ろから付いてくるが、それよりも少し早いペースだ。

 すると一分も経たず、レオンハルトは窪地に到着する。ハンティが先に到着しており、その背中が見えるが、こちらもその隣に並び、その光景を目の当たりにする。

 そこには、白の巨大なドラゴンの姿と、紫の目玉のような何かがあり、

 

「――はぁ……全く、梃子摺らせおって――む、遅かったなお前達」

 

「ノ、ノーーー!? ミーの身体からどくするね! ドラゴン!」

 

「……何やってんだ?」

 

 地面においたその手に挟むように触手を掴んだライゼンが、疲れたような表情でそこにいた。

 触手の中心にいるその赤い瞳の目玉は、黒焦げになりながらも必死にじたばたと暴れており、

 

「……そいつは……」

 

「ん、これか?」

 

 レオンハルトが目を向けて思わず疑問の声を呟く中、ライゼンは首を向け、考えるように頭を捻った末に、

 

「……よく解らんが捕まえた」

 

「……その説明じゃ分かんないっての」

 

 ハンティが真顔で言う。言われたライゼンの方は、しかしなぁ、と微妙に困った様子を出しつつもやがて迷いながらも状況を説明しようと口を開いた。

 

「いやな? 同胞が襲いかかってきたと思ったら身体にこれが付いてて、こちらにも襲いかかってきおったから、ちょっと本気を出して新技でぶっ飛ばしてから捕まえたのだ」

 

「……だから周りの木が消し炭になってるのか?」

 

「如何にも」

 

 如何にも、じゃねぇよ。

 見れば周囲、窪地の周りにあった木が円形に伐採されたように無くなっている。

 地面も軽く抉れ、焦げ付いている辺り新しい技とやらの凄まじさが窺えるが、それを聞くような無粋はしない。少なくとも自分が聞くわけにはいかない。

 ゆえにその話題をスルーすることにし、代わりに目を向けるのは、その件の目玉であり、

 

「……ふぅ、やっと追いつきましたわ。って、あら? 何か変な目玉がいますの」

 

 どうしたものか、と思っていると追いついてきたキャロルが目玉を見て首を傾げる。そして新しく現れた存在に反応したのか、じたばたしていた目玉がキャロルの姿を捉えると、

 

「! 何故ミーのマスターがここに!?」

 

 ……ミーのマスター?

 その言葉に疑問を覚えつつも、声の先であるキャロルに視線を移す。キャロルもその言葉が自分の方に向けられたことだと気づいたのか、若干戸惑いつつも、

 

「……よく分かりませんが、わたくしがマスターだったとは……」

 

 違うだろ、と思いつつ、目玉の言葉を聞くと、

 

「ノー! ユーが抱えているヒューマン!」

 

「ミーの?」

 

「ユーよ! あなた、ユー!」

 

 よく分からない会話を展開させるキャロルと目玉。それを皆が半目で見つつ、

 

「……で、それどうするの?」

 

「解放するのは危ないので捕まえていたが、どうするかは俺も迷っていてな」

 

 ハンティの問いに答えたライゼンは、眼下でキャロルと言い争いを続ける目玉を見て息を吐く。それを聞いたレオンハルトは顎に手を当てると、

 

「…………」

 

「……レオンハルト?」

 

「……ん、そうだな……」

 

 ハンティの問いがくるまで少し考え込むと、ややあって低い声で、

 

「……連れて帰る」

 

「――えっ、それにするの?」

 

「珍しい生物には違いない」

 

 再度の疑問の言葉が来る頃には、レオンハルトの答えは決まりきっていた。ゆえにレオンハルトは目玉を捕まえるライゼンと、言い争いを続けるキャロルに声を飛ばす。

 

「とりあえずその目玉は俺が持つ。抵抗出来ないよう触手を纏めるから、しばらくそのままにしておいてくれ」

 

「それはいいが……ううむ……」

 

 何とも言えないような微妙な表情を浮かべるライゼン。未だ目玉を見て考え込んでいるようだ。

 それを無視し、次にキャロルに声を掛けた。

 

「キャロル、帰り支度をするぞ。後、そいつにはあまり近寄るな」

 

「イエス! オーケーね、レオンハルト様! ミーは帰り支度を始めますのよ!」

 

「……口調が移ってるよ、キャロル」

 

「はっ……! ミーとしたことが……」

 

 頭が痛くなるような会話をしていたので、頭を抱えつつも、さっさと済ませようとライゼンの左手に近づき、触手を丁寧に一本一本抑えながら縛っていく。その間も、目玉はじたばたとしており、

 

「ノー! ノーーー! ユーら、ミーと、ガウガウさんを離しなさい!!」

 

「……ガウガウ?」

 

 聞き慣れない名前に眉をひそめると、目玉は、はい! と普通に返事をして、

 

「ガウガウさんは私を作った偉大な創造者! 傷つけるするは――ミーが死をプレゼント・フォー・ユー!」

 

「……そうか」

 

 その言葉に納得がいく。察するに、あの森で見つけた子供がこれを作った創造者である人間だということだ。目玉はその未だに目を覚まさない少女を主と認めているのか、物騒な言葉を言いつつも少女の身を案じている。そこに不可思議なものを感じつつも、レオンハルトは目玉を縛りつつ、

 

「……なるほどな……」

 

「何を納得してるか!? ミーを解放しないとユーをダイ! キル・あなた、するね!」

 

「出来るもんならやってみろ――ふん」

 

「の、ノォーーー!?」

 

 触手を丁寧に縛り、目玉を丸め終えると、それを軽く地面に叩きつける。ちょっと黙らせようと思ったのだがうるさいだけだ。そのことに辟易としながらも作業を終えたことに一息つくと、こちらを見ていたキャロルが目玉を見て興味深そうに、

 

「何か良い感じの球になりましたわ! テニスすると楽しそうですの!」

 

「打ちにくそうだからやめた方がいいと思うけど……まあ触手を棒に括り付けて練習用とかなら出来なくもないかな」

 

「こらこら遊具として見るな。とりあえず帰るぞ。――ライゼン」

 

「――ん、ああ……そうだな」

 

 目玉を見て遊び道具の用途を模索しはじめた使徒達を注意し、ライゼンに、帰るぞ、と声を掛ける。

 しばらく何かを考えていたライゼンだったが、こちらの声に頷くと飛び乗りやすいように身を低く屈めてくれた。

 

 そうしてレオンハルト達は、謎の目玉と、一人の少女を連れて魔物界に帰還していった。

 

 

 

 

 

 朝日の昇る時間。

 静かで広いその部屋、しっかりと整えられたふかふかのベッドの上でガウガウ・ケスチナは目を覚ました。

 白い布団を跳ね上げ、

 

「……っ、ここは……?」

 

 完全に思考が回っていない状態ではあるが、ゆっくりと状況を理解していく。

 まず自分の部屋、屋敷ではない。自分の生活スペースである研究室は物で散乱しているし、こんなに綺麗ではない。自分で言うのも何だが、ここの倍は散らかっている。間違いなく知らない誰かの部屋だ。

 次に何故ここにいるのかだが、起きる前の状況を思い出す。

 確か自分はレッドアイを連れて魔物の森に向かい、そこでアレとはぐれた。そして一人森で彷徨い歩き、魔物に追いかけられ爆走し、木の陰で疲労し、休んでいたはずだ。

 そこに魔人と思われる者が現れ――記憶はそこで止まっている。

 

「まさか……」

 

 ガウガウの心に最初に浮かんだ言葉。それは、

 ……魔人の家?

 魔人に攫われた、と考えるか。記憶がそこで止まっているならそれは当然の帰結である。

 だがそれなら、こんなに丁重に扱われているのに説明が付かない。牢屋にでも入れられているならともかく、見る限り、かなり上等な部屋だ。

 それとも通りすがりの誰かが魔人から自分を助けて、屋敷に連れ込んだのか。これだと丁重に扱われるのに納得がいくが、通りすがりの人間が魔人に勝てるのか、という疑問が湧いてくる。これも微妙な線だろう、と、しかしそこで、

 ……考えても意味はないな。聞いたほうが早いし。

 思考を無駄と断じ、身を完全に起こしながら周囲を見る。誰かがいるなら聞いたほうがいい。

 ここまで丁重に扱われてるのだからいきなり殺されることはないだろう。ないよね。ないと信じたい。

 だんだん不安になってベッドに潜り込みたくなってきたが、ここで現実逃避、もとい引きこもっても意味はない。生き残るために魔人に媚びを売る方法でも考えようかな……、と考えていると、不意に扉が開き、

 

「――起きていたか」

 

「!? は、ははははいっ!」

 

 そこから室内に入室してきた人物を見て、ベッドから飛び跳ねるように起き、正座してベッドの上に着地する。何故なら、

 ……さ、さっきの魔人……!?

 いや、予想していたことだが、本当に現実になるとやはりテンパる。

 何しろ魔人を見るのは初めてだ。金髪の鋭い赤い目をしたイケメンだが、その内に秘められてるであろう力に凄まじいものを感じる。

 見た目が化け物でないだけ運がいいのか、悪いのか、魔人を初めて見た自分には判断がつかない。もう少しサンプルが欲しいところだ。いや、やっぱいらない。魔人とたくさん出会いたくないし。

 とか考えていると、

 

「……そこまで怯えるな。害を加えるつもりはない」

 

「……へ……」

 

「俺がお前を城に連れてきたのは、森で一人行き倒れていたから……気まぐれで拾っただけだ」

 

 という信じていいのか分からないが、良い人なのかと勘違いさせるようなことを言う魔人。

 警戒心が微妙に下ってしまうが、不可抗力だろう。そもそも抵抗したところで何も出来ないだろうし。

 ならば、素直に聞きたいことを聞いてみようと、ガウガウはゆっくりと口を開き、

 

「……し、城?」

 

「ああ。ここは俺の城だ――と、まだ名乗っていたなかったな。俺の名はレオンハルトだ」

 

 レオンハルト、という名前に肩をビクリとさせたがこれも不可抗力だろう。

 魔人レオンハルトといえば人間の間で調べた魔人の資料の中でも、最初に挙げられる名前だ。

 目撃情報こそ多くはないが、魔人の中でも最高位の実力者、つまり最も危険な魔人の一人であるのだ。

 街や国を一人で落とした、という情報もあり、どの魔人にもいえることだが、見かけたら逃げるのが最善と云われる。それと真偽不明だが、決闘を申し込めば苦しまずに死ねる、もしくは生き残れる、という噂もあるが、それこそ確かなものが少ないので情報としては不十分だ。つまり取れる行動は多くなく、

 

「……私は……ガウガウ・ケスチナ……だ……」

 

 名乗られたので名乗り返す。普段なら天才魔法研究者だと声高々に言うのだが――

 ……いや、むしろ言った方がいいのか……?

 その方が利用価値があるとかで生き残れる可能性がある。危険な奴と思われて殺される可能性は――そこまで高くないだろう。魔人の技術は人間のそれより高いと聞くし。

 

「……魔法具を作ってる……研究者で……その……」

 

「……そうなのか。その歳で大したものだな」

 

「……え?」

 

 その歳で、と言われ思わず首を傾げてしまう。自分はもう二十――うん歳だが、研究者としては高くはないが、そう言われるほどでもないもので、

 ……あ、こいつ……私のこと、子供だと思ってるな……!

 直ぐに結論が出た。よくあることだ。背丈や顔で判断されるのは。そのことに苛立ちを微妙に覚えつつも、しかし都合が良いことに気づき、ガウガウは、

 

「……う、うん。わたし、こどもだからー。まほうぐいっぱいつくって、おとなにほめられたんだー……」

 

 生き残るために子供の演技を初めた。ある程度良識のありそうな目の前の魔人なら、さすがにいたいけな幼女を殺すことはしないだろう。自分で言ってて悲しくなるが、そこを堪えて、

 

「だから、魔人の……お、おおお兄ちゃんっ。わ、わたしを、お家に帰してくれる?」

 

 ……うああああああ! 恥ずかしいいいいぃぃ……!

 言った。微妙にどもったが、可愛らしい少女を演じて言った。

 心の中で死ぬほど悶えるが、しかしそれを聞いた魔人は、眉を少し動かし目を細めると、

 

「……急にどうした?」

 

「…………な、なんでもないよ? と、とりあえず、わたしお腹空いたなー……?」

 

 ……素で返されたあーー!! ちくしょーーー!!

 この天才魔法研究者であるガウガウ様がここまでしたというのに、魔人はこちらを心配するかのような目で見ている。クソが、理解ってもそこは乗るべきだろ。ロリが嫌いなのか!? と、そこまで言うとやはり心にダメージを負う。これでも経産婦何だけどな、と微妙に苦い思い出を思い出しつつ魔人の言葉を待っていると、

 

「……まぁ、元より食事は摂らせるつもりだったから構わないが……それより先に、言わねばならないことがある」

 

「いわねばならないこと?」

 

 言われ、何だろう、と考えるより先に、魔人はそれを口にした。

 

「……森にいた魔道具――のようなものがいただろう」

 

「え、レッドアイを見つけ――って」

 

 思わず普通に口にしてしまったところで、しまった、という思いを抱える。あのキチガイの製作者だと知れたらどんな目に合わされるか。知っているということは攻撃されてるだろうし、あのキマった言動も聞いているだろう。

 自分相手には普通なのだが、と思っていると、魔人は続けて、

 

「……そのレッドアイだが――」

 

 と、魔人はそこで一息、間をおくと、

 

「――魔人になった」

 

「――――」

 

 と、衝撃の発言をぶち込んできた。

 思わず、絶句し、思考が停止する。

 ……え……レッドアイが……魔人に……。

 自分の生み出した魔道具が、魔人になった。

 その言葉は直ぐには受け入れきれない。

 だがなおも魔人は続ける。軽く息を吐きながら、

 

「……魔王様の命令でな、珍しいものを魔人にしようと、捕まえたレッドアイを献上したのだが……それをえらく気に入ってしまってな」

 

 と、言いつつ、魔人はそこでこちらを真っ直ぐ見詰めると、

 

「――だが、そんな言い訳が通用するとも、しようとも思っていない。俺は俺の意思と目的で、お前の物であったレッドアイを、魔王様に献上した。お前に話したのは説明の義務を果たしたのみ。ゆえに……俺に何を思うも自由だ」

 

 と言外に、恨むなら好きにしろ、と告げてくる。

 確かに恨み節をぶちまけたい気分だが、それよりも先に、研究者としての疑問が頭に湧く。それは、

 ……魔人になっても、私に従順であるのか……? 暗示は有効か……?

 問題はそこだ。もしそれが活きているのなら、さして問題はない可能性がある。むしろ性能向上した分だけ得だ。

 だが、活きていないのであればアレは己が予想した通り、人類の災厄になるだろう。元々、その危険性を感じて暗示を掛けたのだ。

 しかし暗示すら効いていないなら、問題は自分が死んだ後であり、

 

「……それで、どうする?」

 

「…………」

 

 今考え中だから話しかけるな、といつもの調子で言いそうになったが、それを呑み込んで代わりに別の言葉を口にする。意味を問う言葉で、

 

「……どうするって?」

 

「お前を送り届ける準備はある」

 

 つまり、帰ってもいい、ということだ。それは朗報である。

 さっさと引きこもって自堕落な生活を送りたいと思っていたところだ。外に出て危険な目に合うのは御免で、

 

「……そうだな」

 

 しかし、一応責任を果たしてからじゃないと研究者としても、生みの親としても落第だ。

 ゆえに言う言葉は、それではなく、

 

「……レッドアイに、会わせてくれ」

 

 それを確認しないことには、どうするも何もない。

 

「会ってから、決める」

 

「……そうか。分かった」

 

 危険、という言葉を呑み込んだであろう魔人は、こちらの言葉に頷き、

 

「……ならば付いてこい。食事を摂った後、魔王城にお前を連れて行ってやる」

 

「……っ」

 

 魔王城、という言葉に身が竦むが、それを武者震いと自己暗示しつつ、溜まった唾を飲み込む。そして軽く笑みを浮かべてみせ、

 

「……食事は……手早く摂れるカップラーメンとかで、いいよ」

 

「……駄目だ。栄養不足気味に見えるし、ここまで長い間倒れていたのもその所為だろう。ちゃんとした物を作らせてあるからしっかり食べろ」

 

「……ちぇっ」

 

 小煩い母親の様なことを言う魔人に口を尖らせつつ、ガウガウはその背を追いかけた。




ライゼン×レッドアイはお預け。
次回でレッドアイ&ガウガウ編は一旦終了となります

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。