魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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BGM 魔軍→おまぬけ


使徒エルシール

 私の名前はエルシール。元人間の貴族だ。

 貴族といっても悪党に家を没落させられ、領地内の村落で性処理用の共用奴隷として飼われていたので、元貴族、というのが正しいかもしれない。

 だが今の私は元人間の使徒エルシールだ。性奴隷として苦しんでいたところを魔人ケッセルリンク様に救われ、血を分け与えられた。人間を止めて、使徒になる。その意味は知っていたが私を地獄からすくい上げてくれたケッセルリンク様のためならば、使徒になって仕えることにも後悔はない。そして人間にも未練はない。大切な方と共にに居れる生であればそっちの方がいい。

 かくして私は姓を捨て、ケッセルリンク様のお世話をする使徒メイドになった。なったのだが、

 

「――あっ!」

 

 ガシャン、という音とともに白い破片が地面に飛び散る。お皿を割ってしまったのだ。その音に反応して、近くにいた女性が見かねて近づいてくる。

 

「エルシール?」

 

「あっ、ご、ごめんなさい!」

 

 声を掛けてきたのは同じく、ケッセルリンク様の使徒メイドを務めるパレロアだ。使徒としては二番目らしい。彼女に注意をされ、慌てて頭を下げるも、

 

「大丈夫よ。まだ慣れていないものね。それより怪我は無い?」

 

「それは大丈夫ですけど……」

 

「なら良かったわ。私も手伝うから片付けましょう?」

 

「は、はい……」

 

 申し訳無く思い、しかし一先ず割ってしまったお皿を丁寧に片付けていく。

 パレロアはこう言ってくれているが、これでもう五回目だ。メイドの仕事、家事全般がとても苦手な私は使徒になってからというもの迷惑をかけてばかりである。これではケッセルリンク様には勿論、先輩方にも申し訳ない。

 

「……私、ちゃんと出来るようになるんでしょうか……」

 

 不安に思い、そんなことを口に出してしまう。言ってから、弱音を吐いてしまった、と少し後悔するが一度吐いた言葉は飲み込めない。パレロアが苦笑を向けて、

 

「大丈夫よ。私も、最初は失敗ばかりだったから。エルシールも慣れたら大丈夫よ」

 

「そうでしょうか……」

 

「ええ、きっと。それに、使徒の仕事は家事だけではないわ」

 

「他の仕事……ですか」

 

 パレロアの言葉を反復する。使徒になって日が浅いのでそれほど仕事をこなしたことはない。

 だが、人間時代に貴族としての教育は受けてきたので、それが活かせるような仕事なら出来るだろうか、と思う。後は、

 

「もしかして、戦いとか……」

 

 不安になって尋ねる。戦いなどしたことがないからだ。魔人の使徒になったのだから少なからずそういう機会は巡ってくる。なので怖じ気付いてはいけないのだろうが、それも徐々に慣れるだろうか。

 そんなことを思っているとパレロアが少し間を置いて、

 

「……そうね。そういう仕事もあるわ。でも、使徒の仕事は主を支えること。だから戦闘だけでなく、本当に色んなことをするわ。例えば――」

 

「あら、何のお話?」

 

 と、不意に横から声が掛けられた。

 柔和な笑みを携えてそこに立っていたのは、ケッセルリンク様の使徒の中で一番の古株であるシャロンで、パレロアが簡潔に説明する。

 

「エルシールに、使徒のお仕事について教えていたんです」

 

「……はい……やっていけるかどうかが不安になってしまい……」

 

 顔を俯かせてしまう。しかしシャロンは、なるほどね、と頷くと、笑みのままで続けた。

 

「……エルシール。これからちょっとした集まりがあるのだけど、良かったら一緒に来ない?」

 

「え……集まり、ですか?」

 

「ええ。使徒同士の、ちょっとした仕事の調整なのだけれど、エルシールはまだ他の使徒と顔を合わせていないでしょう? レオンハルト様のところ以外は」

 

「はい。そうですね……」

 

 魔人レオンハルト。それはケッセルリンク様と仲の良い魔人であり、魔人筆頭、魔軍参謀である御方だ。

 以前、使徒になってすぐに城に行き、ケッセルリンク様に紹介してもらった。物凄く怖いイメージを持っていたが、意外とそうでもないような、少なくともケッセルリンク様や、同じく仲の良い魔人のガルティア様と話しているところを見る限りは親しみやすい雰囲気であった。

 シャロンやパレロアも普通に接していたので怖くて強いだけの魔人ではないらしい。ケッセルリンク様もそうだが、魔人も結構お優しい人が多いのだろうか、と、ちょっとだけ胸のつかえが取れた気分だった。

 だが使徒の集まり、と言うと、

 

「……私なんかが行っても大丈夫でしょうか」

 

「ええ。大丈夫よ。仕事の調整もあるけど、それ以外はちょっとした世間話をするだけだから。慣れるためにもちょうど良いと思うわ」

 

「……それならお願いします」

 

 少しでも早く仕事とこの生活に慣れるため、やれることはやりたい。頭を下げてお願いすると、シャロンは、ふふ、と温かい笑みで告げる。

 

「なら早速行きましょうか。パレロア。後を任せるわね」

 

「ええ、いってらっしゃい。エルシールも、頑張ってね」

 

「はい。頑張ってきます」

 

 丁寧にお礼を言うと、内心で気合を入れて、シャロンの後に続いた。

 

 

 

 

 

 魔王城。その二階。

 一階とは違い、警備の魔物兵などを除けば魔軍の幹部、魔物隊長以上でなければ立ち入ることも許されないその階に、エルシールはシャロンとともに居た。

 ……初めて来たけど……凄い城……でも、ちょっと不気味なような……。

 やはり魔王が住む城となれば雰囲気もおどろおどろしい。城内は内装や調度品も含めて整っているが、不気味さは抜けない。上の階からは微かな音楽――曲のようなものが響いているのも、雰囲気に拍車をかける。

 気持ち、シャロンとの距離を詰めると、シャロンがそれに気づき、あらあら、と声を上げた。

 

「ふふ、これは魔王様が最近気に入っていらっしゃるというパイプオルガンの音よ。そんなに怖がらなくても大丈夫。普通にしていればいいわ」

 

「……そう、ですか……」

 

 と、言っても怖いものは怖い。だが、怖い、と認めてしまうのも癪だ。シャロンにはバレているだろうが、せめて態度だけでも虚勢を張っておく。ケッセルリンク様の使徒として、メイドとして恥ずかしいところを見せないように。

 そうしてしばらく歩いていると、目的の部屋に近づいてきたのだろう、もうすぐですよ、と、シャロンが告げてくれる。

 すると反対側から同じように歩いてきた男がいる。お互いに気づいて近づくと、部屋の前でちょうど合流する形になり、

 

「こんにちわ、七星さん」

 

「ええ、どうも。シャロンと……そちらの方は、ケッセルリンク様の新しい使徒ですか?」

 

 整った顔立ち、瞳を閉じた長身痩躯、長衣の男だ。察するに彼も使徒なのだろう。シャロンが笑みを浮かべ、こちらを紹介するように手で示す。

 

「ええ、新しく使徒になった者です。――エルシール」

 

「……はい。私は、新しくケッセルリンク様の使徒になったエルシールです。よろしくお願いします」

 

「私はカミーラ様の使徒――七星です」

 

 お互いに無難に挨拶をし合う。カミーラ。確かケッセルリンク様と同じ魔人四天王の一人だ。その使徒ともなればやはり貫禄がある。見た目は人間に近いが、どうも元人間ではないような気がする。そう推測していると、

 

「とりあえず、中に入りましょうか」

 

「そうですね」

 

 七星の言葉に頷くシャロン。先に七星が扉に手を掛ける。

 三人で中に入ると、そこは会議室のような広い部屋だった。

 

「――来ましたわね!」

 

 と、部屋に入るなりに声が聞こえた。

 そこにいたのは金髪ツインテールで、青い改造軍服のような服を着た少女。レオンハルトの使徒――キャロルだった。彼女は部屋に入ってくる三人を見るなり、最初に入ってきた七星にビシッと指を突きつけ、

 

「どうやら私の一番乗りだったようですわね! 七星、今回は私の勝ちですわね!」

 

「……そういうことになりますか」

 

 ふふふ、と得意気な笑みを浮かべて胸を張るキャロル。それを見た七星が軽く息を入れる。キャロルが続けて、

 

「ふふん、悔しいでしょう?」

 

「いや、別に構いませんが……」

 

「構いなさいっ! 敗者は悔しがってリベンジを誓うのがマナーですわー!」

 

 なんで悔しがってないんですのー! と、憤慨するキャロル。レオンハルトの城でキャロルには会っているので彼女のことは知っているが、こんな性格だっただろうか、と疑問を覚えていると、

 

「皆さん、どうもです」

 

 と、同じくレオンハルトの使徒であるペールが挨拶してくる。シャロンが笑みを返し、

 

「こんにちは。今日もハンティさんはお留守番ですか?」

 

「あはは、そんなところですよう。まあ今日はちょっと、()()()()()()と被っちゃってるのもあるんですが……」

 

()()()()()()?」

 

 よく分からない語句に首を傾げてしまう。まさか、と思っていると横のシャロンが得心したように頷き、

 

「……ああ、アレですね。確かにハンティさん、アレの後は辛そうですし、来れないのも仕方ないでしょうね」

 

「そーなんですよう。見てる方もキツそうなので、今日はお留守番してもらいました。……巻き込まれたくないですし」

 

 最後、小声で呟いたペールだが、二人の会話にエルシールは困惑する。

 ……え、え? ()()()()()()で辛いって……いや、まさか……。

 使徒なら無い気がするんだけど、というか、二人共結構普通にそんな話するんだな、とか色々思ってしまう。魔物社会では結構そういう話題はオープンなのだろうか。自分もなにかあったら相談した方がいいのだろう。

 いやでも……、と、内心で抵抗を覚えていると、キャロルの方が七星との会話が一段落付いたのか、シャロンに向かって、

 

「シャロンさん。これ、先日遠征に行った時のお土産ですの! 是非、食べてくださいな!」

 

 と、何やら折り詰めされた箱を手渡してくる。食べる、というからにはお菓子だろうか。シャロンが、ふふ、と小さく笑い、

 

「ありがとうございます、キャロルさん。後で頂きますね。それと、この前のお土産のお返しにお菓子を焼いてきましたので良かったらどうぞ」

 

「まぁ、ありがとうございますの! でしたらシャロンさん、一緒に頂きましょう! シャロンさんとお茶したいですわ!」

 

「ふふ、ええ。構いませんよ」

 

 そう言って、キャロルが予め準備していたのか、お茶を入れ始める。笑い合ってる二人は何というか、

 ……二人、凄く仲が良いのね……。

 正直意外だ。主同士が仲が良いからだろうか、性格は結構違いそうなのに随分と親しげである。不思議を感じていると、シャロンは七星にも声を掛け、

 

「良かったら頂きませんか?」

 

「……仕事は――」

 

「やりながらでも出来ますわ! ほら、優しいわたくしはライバルを仲間外れにはしませんの! だから七星の分も用意してあげましたわ! 感謝して頂きなさいな!」

 

「……しょうがないですね」

 

 ふぅ、と息を吐きながら七星は、やれやれ、といった面持ちでお茶を頂く。しかしその様子とは裏腹に慣れた感じにも見える。キャロルの様子から察するに、いつもの事なのかもしれない。

 そうやって観察していると、

 

「ほら、エルシールさんも、一緒に頂きましょう!」

 

「え、ええ……」

 

 ペールがこちらの手を取って椅子に座らせてくる。

 ……使徒同士も、思ったより仲が良いみたい。

 もっといがみ合ってるイメージだったが、そうでもないようだ。シャロンが焼いてきたお菓子を口にしようか、と、テーブルに座りながら考えていると、再び部屋の扉が開いたことで皆がそちらに注目する。入ってきたのは、

 

「おう、来たぜー」

 

「戯骸さん! こんにちわですの!」

 

「戯骸、ですか……」

 

 すらりとした筋肉質の男。戯骸、と言うと確か、魔人ザビエルの使徒だったはずだ。同じ魔人四天王の。

 その登場にキャロルは快く迎えたが、七星は微妙な顔になる。それに反応した戯骸は煙管を加えながら七星に近づいていき、

 

「おお、七星。何だ、俺が来るのは嫌だったか? かーっ! 俺はお前と会えて嬉しいのによ! 薄情な奴だぜ!」

 

「い、いえ、そういう訳では……」

 

 ささっと、距離を取る七星。どことなく顔が青褪めているのはどうしてだろう、と、首を傾げる。

 すると代わりにペールが返事をした。少し勢いづいて、

 

「当然ですよう! だって、戯骸さん以外だとアレな人ばっかりで接しにくいですし、今日は戯骸さんが来てくれて嬉しいです!」

 

「ハハッ、嬉しいねえ。まー、あいつらはちょっと癖が強ぇからなぁ……。悪気はない、とは言い切れねぇけど、数少ない使徒仲間だ。あんまり邪険にしないでくれや」

 

「戯骸さんがそう言いますし、レオンハルト様も露骨に態度を変えるな、って言うからちゃんと営業スマイルしてますけど……やっぱ苦手なんですよねぇ。特に魔導さんは生理的にちょっと……」

 

「おいおい、そりゃあしょうがねぇ部分だ。あんま言ってやんなよ? 不細工とか言うとアイツ怒るぞ」

 

「……イイマセンヨー」

 

 棒読みになるペールに、戯骸が肩を竦める。

 ……魔人ザビエルの使徒には気をつけろ、ってケッセルリンク様も言っていましたが……この方は、何となく良い人に見えますね……。

 さばさばした好青年、と言った感じだが、実は裏で酷いことをしてたりするのだろうか。いや、魔人の使徒なのだからほんとは皆酷い人、もとい魔物なのだろうけど。性格的な意味でだ。

 後、どう見ても人外っぽい。何の種族だろうか。加えた煙管から時折炎を吹き出しているあたり、炎に関係する魔物、と言った感じか。ちょっと強そうだな、と警戒していると、戯骸はこっちに歩いてきて、

 

「嬢ちゃん、隣いいかい?」

 

「え……あ、はい。どうぞ」

 

「あんま固くならなくていーぜ。俺は戯骸だ。あんたの名はなんて言うんだ?」

 

「……ケッセルリンク様の使徒、エルシールです」

 

「ほう? 道理でちょっとやりそうだと思ったぜ。まあよろしくな」

 

「? ええ……よろしく」

 

 やりそう、と評され疑問符を浮かべる。

 どういう意味なのか分からないが、悪い意味に聞こえないのはどうもこの戯骸の雰囲気というか話しやすさが原因だろうか。男はあまり得意ではないが、接しやすい気がする。魔人のガルティア様に近いだろうか。

 しかし、さっきの言を聞いてる限りでは、この戯骸以外はアレだったりするのだろう。そちらが来た場合は気をつけないといけない。

 そう思っている間にも戯骸はキャロルとシャロンに話しかけられており、

 

「戯骸さん、これ、この間の遠征で撮ったレオンハルト様の写真ですの!」

 

「うおっ!? これは……良い! 良い写真だな! 惚れ惚れするぜ! ありがとよ!」

 

「戯骸さんも良かったらどうぞ。お口に合うかどうか解りませんが……」

 

「おお、美味しそうじゃねぇか。ありがたく頂くぜ」

 

 ……やっぱり仲が良いのかしら。

 使徒って思ったより緩いなぁ、と思う。気が抜けた、というか拍子抜けだ。

 開き直ってこちらも少し気を抜いて楽しもうかと、紅茶を口に含む。香り立つ茶葉と染み渡る味が心地良い。そうやってようやく心を落ち着けた。

 その時だ。

 

「――こら、ジュノーの馬鹿ちん! あんたが寝坊するから遅れちゃったでしょうが!」

 

「――うるさいなぁ……昨日、朝方まで飲んでたから寝てないんだよ……ふわぁ……」

 

「それは私も同じだっての!」

 

 と、言い争うようなやり取りとともに扉が開けられた。怒った女の声と、気怠げな男の声。

 この部屋に入ってくるということは使徒だろう。次は誰の、どんな使徒だろうか。

 ……今の所、意外と良い人だらけだけど――

 と、エルシールは入ってきた二人を、特に一人を見て、凍りついたように固まった。

 一人、灰色の肌をした青い髪の女性がバツが悪そうに笑いながら入ってくる。

 

「ご、ごめーん。遅れちゃったわ。こっちの馬鹿のせいで……」

 

「そんなに待ってないから大丈夫ですわ、アトランタさん!」

 

 アトランタ、と呼ばれた使徒らしき女性はキャロルに声を掛けられ親しげに会話をする。しかし、

 ……な、なんで全裸……!?

 全裸だった。杖を持ち、灰色の肌で、耳が長く、スタイルの良い美女で明らかな人外だが、裸だった。

 それを誰も指摘することなく、普通に受け入れる。エルシールが困惑していると、もう一人が目に入った。

 

「もう、ジュノーさんは駄目ですねえ。あんまりアトランタさんを困らせたら駄目ですよう?」

 

「うわっ、ペール……相変わらずでかいおっぱい……うぷっ、吐きそう……」

 

「ちょっ! このつるぺた好き! なんて失礼なこと言うんですか!?」

 

「ハンティなら良かったのに……」

 

「……それ、聞かれたらハンティさんに殺されますわよ、ジュノーさん……」

 

 珍しく、キャロルが微妙な表情でツッコミを入れる。

 それを聞いた戯骸が笑い、

 

「ハハハ、相変わらずだなジュノー。良い男で目の保養になるな。俺の隣、座れよ」

 

「げっ、戯骸。やめてよね。あんたと一緒にいると僕までホモと思われるじゃないか」

 

「あら、貧乳が好きなんだから良いじゃない。一回くらい掘られてみたら?」

 

「嫌だよ、気持ち悪い」

 

 アトランタの言葉にジュノーと呼ばれた男がツッコミを入れる。短く濃い紺色の髪、少しだけエルシールに似た髪の色に、どこか飄々とした褐色肌で引き締まった身体の美青年、と言った感じの男だ。

 しかし、その男も――

 

「あ、あ……」

 

「ん? 誰、そっちの。新入り?」

 

「馬鹿あんた、恰好的にケッセルリンク様の使徒に決まってるでしょ……。こんにちは、私はレキシントン様の使徒――アトランタよ。よろしくね?」

 

「ん、僕はジュノー。レキシントン様の使徒ね。よろしく――」

 

 と、エルシールは近づいてきた魔人レキシントンの使徒だというアトランタ。そして、ジュノーという――全裸の男を見た。

 エルシールの視線が徐々に下に降りていくと、そこにはジュノーの堂々とさらけ出された股間があり――

 

「――きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっっっっ!?」

 

 それを視界に入れたエルシールの悲鳴が部屋中に響き渡った。

 

「どうしたんですか、エルシールさん!? 急に叫んで……」

 

「――っ! ――っ!」

 

 何事か、とペールが身体を支えてくれると、口をパクパクとさせながらジュノーを指差す。それを見て、

 

「ちょっとジュノー! なに新入りを怖がらせてんのよ!」

 

「はぁ!? 僕は何もやってないんだけど!?」

 

「……ああ、そういうことですか」

 

 と、不意に七星が気づいたように声を上げた。皆が注目する中、七星は説明するように、

 

「ジュノー。……おそらく彼女は、あなたの裸を見て悲鳴を上げたのでしょう」

 

 あー……、と皆が納得したような声を一斉に上げる。しかしジュノーは納得していないようで、

 

「僕の美しい肉体を見て悲鳴を上げる要素がどこにあるのさ!?」

 

「前から解ってたけど、馬鹿でしょあんた。いや、私が言えることじゃないけどさ」

 

 ナルシストを発動するジュノーにアトランタが半目でつっこむ。他の者達も口々に、

 

「……はっ、そういえばアトランタさんにジュノーさんも! 全裸ですわ!?」

 

「今更ですよう!? いや、確かに慣れてしまった感はありますけど……そういえば最初はビックリしましたねぇ……」

 

「まぁ使徒的には、露出が高いのは珍しいことではないですが……カミーラ様もどちらかと言うとそういうのお好きですし……」

 

「俺も好きだぜ。ジュノーの裸」

 

「戯骸さんは意味が違うのではないでしょうか? ……とにかくジュノーさん? 一時的で構いませんので隠してくれませんか?」

 

 にっこりと笑みを浮かべてシャロンが締める。そのことにジュノーは不服そうに、

 

「一時的にって……これからも顔を合わせる度に隠さなきゃならないなんて、僕はごめんなんだけど。慣れてもらったほうが早いんじゃない?」

 

「一理あるわねぇ。魔物的には珍しくないし、私も隠す気はないし……」

 

「……とりあえず、今日だけはお願いします」

 

「ちぇっ、しょうがないなぁ……」

 

 と、シャロンにお願いされ、ジュノーが渋々とではあるが股間を隠す。テーブルに置いてあったお菓子の蓋だ。こっちの方が変態度が増すな……、と皆がしみじみ思う中、ペールとシャロンに立たせてもらいながら、不意に、横から何かを差し出される。そこにいたのは、

 

「…………」

 

 ……あ、確か、ラウネア……?

 魔人ガルティアの使徒――ラウネア。蜘蛛の下半身を持つ黒髪の少女の見た目をした使徒が、こちらにおしぼりを差し出してくれる。一番人外なのに妙に優しくて、その優しさが染み渡る。汗を拭きながら、

 ……私、本当にやっていけるの……?

 新たに始まった使徒生活が前途多難過ぎて、不安を隠せないエルシールであった。




タイトルはエルシールだけど、ジュノーとアトランタも登場。使徒達は割りと仲良し。魔人同士で集まるとアレだけど……。ハンティ? 月イチのアレの最中です(意味深)

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