魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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旅立ちの日

 ガイは混濁する意識の中、自分を取り戻してゆっくりと意識を覚醒させた。

 

「っ……ここ、は……?」

 

 普段暮らしているミストラルの家とは違う空気だ。そもそも、天井の景色も違うし、背面から感じる柔らかいベッドの感触も初めてのもの。

 故に自分は今どうなっているのかと独り言を発した時だ。少し離れた場所から、

 

「! 目覚めました!」

 

「ほんと!? それじゃあ早く女王様達に報告しなきゃ!」

 

 ドタバタと部屋から何名かが出ていく音。慌てる女性の声。

 それらを聞いたガイはようやく自分の置かれている状況を僅かながら理解した。

 ……僕は……里を襲った人間を見て、それで──。

 盗賊らしき人間の集団。彼らがカラーを襲おうとしているのを見て、ガイは思わず飛び出していってしまったのだ。

 そして、鍛錬で使っていた剣を用い、いつもとは違う鮮やかな剣さばきで盗賊達を圧倒し、そして斬り殺した。

 しかしそれは、

 ……あれは……僕じゃない……! 

 そう。あれは自分ではない。自分の中に潜む、邪悪な何かの仕業なのだ。

 しかし自分がやったことであることも事実だ。自分では認めたくないが、あれは自分の中の意識であり、自分の身体を使ったものであるのだから。

 少なくとも、客観的に見れば、あれは自分がやったことだと誰もが言うだろう。

 その証拠に、自分が身を起こすと同じ部屋にいたカラーの一人が、

 

「そ……その……身体は大丈夫? あ、水でも飲む?」

 

「……あなたは……?」

 

「……憶えてない? 私、盗賊に襲われかけてて……それで、君が剣を持って助けてくれて……」

 

「…………それは」

 

 覚えている。

 が、それを自分とはあまり認めたくはないため、視線を逸らし言葉を濁してしまった。

 それを見て何を思ったのか、カラーは少し慌てた様子で頭を下げ、

 

「た、助けてくれてありがとねっ。君がいなかったら、私だけじゃなくて、他の子にも被害が及んだと思うから……」

 

「……そう、ですか……」

 

「あはは……あ、それと……目が覚めたら、女王様が連れてくるようにって命令されてるんだけど……歩ける? それとも、もう少し休む?」

 

 女王様。その言葉から思いつくのはただ一つ。カラーの里、ペンシルカウを治める女王のことだ。

 おそらく、こうして見つかったこと。そして自分がしたことについての処分が決まるのだろうと、ガイは後ろ暗い気持ちからそう思った。

 身体にはまだ僅かに倦怠感のようなものが残っているが、歩いている途中で回復するだろうと、ガイは判断する。故に首を横に振り、

 

「……いえ、大丈夫です。その、女王様の元に案内して貰えますか?」

 

「あ、うん。それなら付いてきて」

 

 と、カラーが道案内をしてくれる。それに従い、ガイはその部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 カラーの女王が住む屋敷の中は、ガイが今まで見てきたどんな建物より広く大きかった。

 聞けばここは、女王の居住場所というだけでなく、執務の際にも使ったりするため、それなりの広さを取られているのだと言う。

 里の中では一番大きな建物であるらしい。とはいえ、お城などと比べたら全然小さいらしいが、ガイはそもそも城などを見たことがないためよく分からなかった。教えてくれたカラーも、実は聞いたことはあっても見たことはないらしい。

 世界には、この屋敷よりも大きな建物があるのかと想像つかないものを感じていると、ようやくガイは女王のいる部屋に辿り着いた。

 

「……貴方が、ガイさんで間違いないですか?」

 

「! は、はい。そうです……」

 

 中には、女王らしき杖を持ったカラーの姿と、何名かのカラー達がいた。

 その中には、ガイを飼っていたミストラルの姿もあり、女王の隣で複雑そうな表情を浮かべている。

 それに気づきつつも、ガイは女王の言葉に頷くと、女王は真面目な顔で言葉を発した。

 

「この度は、人間の襲撃からカラーを救ってくださり、ありがとうございます。ガイさんがいなければ、少なくない数のカラーが犠牲となっていたでしょう」

 

 女王は目を伏せ、頭を下げて感謝を述べる。同じ様に、側近であるミストラルなども頭を下げた。

 それを見て、ガイは偉い人が頭を下げた事実に若干戸惑い、

 

「い、いえ、そんなことは……僕はただ……その……」

 

 否定しようとし、しかし言葉が出ない。どう言えばいいのかが分からないのだ。

 だがそれを見て、女王は微笑を浮かべる。口元に指を当て、

 

「ふふ、謙遜せずとも構いません。大勢の盗賊達の襲撃に対応を迫られ、手薄になった場所から侵入してきた盗賊達二十数名を、一本の剣で斬り捨ててみせたという報告があがってきています」

 

「で、ですから……その……」

 

「謙遜も過ぎれば嫌味になりますよ?」

 

「う……」

 

 そう言われると、二の句が継げなくなってしまうガイ。謙遜している訳ではないのだが、相手の言葉と笑みに呑まれてしまっているような形だ。

 怯んでしまったガイの代わりに言葉を繋げるように、女王は続けた。

 

「事実として、ガイさんはカラーを助けてくれました。それが結果です」

 

 それが全てなのだと女王は言う。だが、それに続けて意味深な笑みを浮かべると、

 

「……どのような経緯でここに居て、その場に居着いていたとしても、助けてくれたこととは別の問題ですからね。ねぇ、ミストラル?」

 

「っ……」

 

 横目でミストラルに話を振ってみせる女王。ミストラルが詰まったのを見て、ガイも気づく。

 やはり、自分がミストラルの家に厄介になっていたことはとっくにバレているのだと。

 だが女王はそこでミストラルを責めるような言葉を一度だけ吐いたが、それを直ぐに消してこう言った。再び柔和な笑みで、

 

「しかし、そのおかげで命が救われたことも事実。今回の件、貴方への罪は問わないことにするわ、ミストラル隊長」

 

「……寛大なお言葉に感謝致します」

 

 ガイがここにいる理由や、原因については追求しないという女王。それを聞いて、ガイは少しばかり安堵した。

 このせいで今まで自分を住まわせてくれたミストラルに罰が与えられてしまうなど、恩を仇で返すようなものだ。

 故にガイはほっと胸を撫で下ろした。しかし、

 

「──ですが、ガイさんにはここを出ていって貰わなければなりません」

 

「……やはり、そうなりますか」

 

「…………」

 

 女王の言葉に、やはり、という言葉を使うミストラル。

 ガイも、その言葉に同意したいところだった。

 薄々と、そうなることは分かっていたのだ。この屋敷の部屋で目覚めた時から。

 いや、バレたら出ていかなければならないと言うこと自体は、ずっと前から分かっていたことであり、それほど驚きはない。

 だが、寂寥感のようなものを感じるくらいだ。

 そんな中、ミストラルは言い辛そうに、

 

「……しかし女王様。里を助けてくれた恩人に対して、ただ追い出すだけで済ませるというのは……その、あまりにも……」

 

「……うーん、それが掟なのだし、里に入り込んだことに目を瞑るだけでも優しいとは思うのだけど……まぁでも、一理あるわね」

 

 と、女王は軽く考え込んだ末に、近くの者を呼びつけて何かを持ってくるように言った。

 すると、直ぐにカラーがある袋を持ってくる。その速さから察するに、何気に予め用意していたのではと思うほどだ。

 それを女王は手に取ると、ガイに向かって手渡す。

 

「これを差し上げますわ」

 

「……? これは……?」

 

「その中に入っているのは、この里で作られた多くのマジックアイテム。それと、死んだカラーのクリスタルですね」

 

「えっ!?」

 

 前者の物までは大人しく聞いていられたが、後者の、死んだカラーのクリスタルと聞いて、ぎょっとしてしまうガイ。

 何故そんなものを、と分かりやすく頭に疑問符と驚きを浮かばせたガイに、女王は言った。説明するように、

 

「幾ら掟とはいえ、少年を着の身着のままで外に追放するのもあんまりです。聞けば魔法の腕もそれなりだとか。カラーのクリスタルは様々な魔法の媒体として使えますし、マジックアイテムも外で生きるには役に立つでしょう。外ではそれなりの値で取引されるとのことですし、売ればお金にもなります」

 

 それを聞いて、ガイは一応納得する。

 確かに、何もなしで外に行けば死にに行くようなものだが、これだけの装備があれば、外で生きるにしてもそれなりに保つ。

 死んだカラーのクリスタルという部分には若干戸惑いが生じるものの、それに目を瞑れば有益であることには違いない。

 そして、同じ様な結論に女王の隣にいるミストラルも至った様で、

 

「……確かに、それだけあれば旅をするにしても、何処かに定住するにしても大丈夫そうね……」

 

「ミストラルさん……」

 

 呟く様なその言葉には、こちらの身を案ずるような響きが混じっており、ガイは思わず名を呼び、ミストラルを見た。

 ミストラルの方も、目を合わせてくる。いつも通りのクールな表情だが、そこには何処か温かな色も混じっていた。

 

「……ま、いつかはこういう日が来るとは思っていたけどね……思ったよりは、長く楽しめたかしら」

 

「ミストラルさん……僕は……その……」

 

 だがじっと見ていると、寂しさが湧いてくる。

 何か言葉を発しようとしたが、上手い言葉が出てこない。

 だからガイは俯いてしまった。しかし、

 

「……こら、何俯いてるのよ」

 

「っ……」

 

 下から顔を向けて注意され、ガイは怯んでしまう。

 そうだった。下を見ても、既にガイの身長はミストラルを超えてしまっている。

 出会った当初であれば、俯いてしまえば表情を見られずに済んだというのに。

 今はもう、それは出来ない。自分は、

 

「……ふふ、大きくなっても性格は中々変わらないわね」

 

 と、ミストラルは懐かしむようにそう言う。

 だが、そうだ。自分はもう、大きくなってしまった。

 もうただの子供ではいられない。まだ大人ではなくとも、一人の少年。男として生きていかなければならない。

 こうやって弱い部分を見せれば、直ぐにまた地獄に逆戻りだ。頼れる人はまたいなくなるのだから。

 

「……ガイ。貴方が何を抱えているかは知らないけど……」

 

 そしてミストラルは、そんなガイの内心を見透かしたかのように言った。

 

「貴方の才能は、一級品よ。私に教えられることは全部教えたし、とっくに私なんか超えてる。それがどういう意味か、貴方には分かるかしら?」

 

「!」

 

 ミストラルのその言葉は、いつも何かを教える時のような、試すような口調そのものだった。

 それに答えられる時もあれば、答えられない時もある。今回は、

 

「……分からない」

 

 首を横に振る。するとミストラルは口端に笑みを浮かべ、

 

「貴方はもう、昔の弱いままの貴方じゃないってことよ」

 

「──ぁ」

 

 ガイはその言葉に顔を上げる。

 それはかつて、ガイが欲し、目指したものだ。

 

「もう弱いだけの貴方じゃない。一人で生きることだって出来るし、誰かを守りたければそれが出来るだけの力もある。意志だって、昔と比べて随分と自己主張するようになったわ」

 

「……でも、僕は……まだ──」

 

 言う。本当は、まだまだ教わりたいことがあると。

 いや、そもそも──と言おうとして、

 

「──あと、その子供っぽい喋り方ももう止めなさい」

 

「えっ?」

 

 突然の発言にガイは面食らう。

 だがミストラルは毅然としてそれを注意した。

 

「そんなんじゃ舐められるわよ。言葉には力がある。弱々しい喋り方や振る舞いをしてると、周りからそれ相応の態度を取られる。それじゃあこの先も苦労するだろうから、この機会に改めなさい」

 

「……そんなの、どうすれば……?」

 

「まず、僕とかを止めなさいな。俺、とかでもいいでしょう?」

 

 言われ、ガイは考えることもなく嫌だと思ってしまう。特に、

 

「……“俺”って言うのは嫌だ」

 

「そうなの? なら、“私”にしなさい。それで、何事にも動じないような毅然とした振る舞いを意識するの」

 

「……う、うん。なら──」

 

「うん、とかも駄目。そういう時は、“ああ”とか“わかった”って、一言だけ言えばいいわ。ちょっと素っ気ないような、クールな感じをイメージしなさい」

 

「……う──わかった」

 

「そう、それでいいわ。……後は、そうね──」

 

 ここを出ていく上でのアドバイスをしてくれるミストラルは、そうして、ガイの口調を改めさせ、後は何かないかと考えた末に、

 

「……ま、私の弟子なんだから、情けない真似なんか見せないで……元気でいてくれれば、それでいいわ」

 

「っ……」

 

 ガイはそれを聞いて、涙腺が緩んでいくのを感じた。

 だがそれは、強い毅然とした男としてはやってはいけないことだとガイは思う。

 故に必死に耐え、そしてミストラルも、

 

「……ほら、さっさと行きなさい。情けない顔が見られるわよ」

 

「っ……あ、ああ……!」

 

 ガイが後ろを向いて、その場から去っていく。

 自分の師からの最後の教えだ。それを守りたいと強く思う。

 だが、最後にこれだけは言っておきたいと、ガイは後ろを向いたままその想いを告げた。

 

「……ミストラルさん」

 

 と、自分を今まで世話してくれた恩人に向かって震える声で、

 

「今まで、お世話になりました……!」

 

「っ……」

 

 ミストラルが息を詰めた気配を感じる。しかし、

 

「ほ、ほら、分かったから早く行きなさい! でないと酷いわよ!」

 

「っ……はい……!」

 

 ガイが、ほぼ駆けるようにその場から立ち去っていく。

 警備の兵が多少、一人で行くことに戸惑ったが、女王の目配せでそれは許可された。一人で外に出る最中に、狼藉など働かないだろうと信頼して、

 

「……全く、情けない顔が見られたくないのはどっちなのかしら……貴方でもそんな顔するのねぇ、ミストラル」

 

「っ、別に、私は……っ」

 

 女王が初めて見る側近の表情に、軽く息をつく。呆れるような強がりだ。

 そして、掟とはいえ追放してしまったことに今更ながら罪悪感が湧いてくる。

 しかし、

 

「……別にこれで今生の別れとは限らない。その気になれば、貴方から会いに行くことだって出来るのだから」

 

「はい……そうですね……っ!」

 

「はぁ……ほんと、女王って貧乏くじねぇ……これじゃあ私が悪者じゃない……」

 

 眼から雫を零す部下を見て、女王は呟き、ガイの旅立ちの見送りを終える。

 だが仕事はこれで終わりではなかった。

 

「──さて、次は“お客様”を迎える準備をしないとですねぇ……」

 

 女王はそう言って、別の恩人を迎えるために、周囲に指示を出していった。

 

 

 

 

 

 カラーの里ペンシルカウを抜け、カラーの森からも抜けたガイは久し振りに目の当たりにする外の景色に懐かしいものを感じていた。

 

「……そうだ……確か、こんな場所だった……」

 

 数年前にカラーの森に迷い込む時も、同じ様な道を見たような気がする。

 あの時は無我夢中であったため、周りのものは殆ど目に入らなかったが、今見れば気づけることは沢山ある。例えば、

 

「こんなに広い森だったんだな……」

 

 自分が通ってきた道。背後に広がるカラーの森の広さ。

 正面には一面の緑。上を見上げれば世界一の標高を誇る山、翔竜山が見える。

 空に浮かぶ雲。地面に生えた草木。岩山や砂、荒野といったその何もかもが、子供の時にも見てるはずのものだ。

 しかし、何処か新鮮さを感じられる。目新しいものを見ているかのような錯覚に囚われる。

 それに、どうも身体が軽い気がするのだ。それは、

 

「……ああ、そういうことか……」

 

 ガイはその錯覚に陥っている理由を理解した。

 今までは、子供で、誰かに養われ、流れに沿って生きているだけだった。

 しかし今は違う。これからは何をするにも自由で、自己責任。自分で考え、行動し、生きていかなければならない。

 何からやればいいのか分からないほどに、取れる選択肢は今までよりも格段に多い。

 ……これが、大人になるってことなのかな……。

 と、内心でそう呟いてしまうが、やはりミストラルに注意された口調などは直っていない。

 ああ言われた以上は直さなければならないが、慣れるまでは苦労しそうだと思う。私、なんて今まで一度も使ったことがないし──

 

『なら、俺でいいだろ? お前は一々細かいし女々しいんだよ』

 

「……っ! お前は……!?」

 

 不意に声が聞こえ、ガイは表情を崩す。

 しかしそれは、外に聞こえている声ではなく、自分の中でのみ響くもので、

 

『安心しろ。俺の声はお前以外には聞こえない。俺としても、この状態がバレるのは面倒だし、都合が良い』

 

『……お前は、まだいるのか……!』

 

 自分で声を出す必要がないと本能で理解し、内心で声を飛ばす。

 すると向こうもこちらにしか聞こえない声で、

 

『いるに決まってるだろ。お前は俺で、俺はお前だ。この身体を共有する一蓮托生の間柄だぜ。ははは……まあ、仲良くやろうぜぇ……!』

 

『──断る。お前などいらない。お前の悪意に満ちた意識など、御免被るし、そもそも仲良くする気なんてないだろう……!』

 心の中でそう告げると、もう一つの人格は可笑しそうに声を響かせた。

 

『くくく、そう喧嘩腰になるんじゃない。それよりも、これからどうするかって方が大事だ』

 

『……何だと? それは……私の行動のことか? 私の行動とお前になんの関係が──』

 

『馬鹿か。今言ったばかりだろうが。俺とお前は一蓮托生。お前が死ねば俺も死ぬ。やりたいことが沢山あるってのに、こんなところで死ねるか』

 

 癪ではあるが、なるほど、と得心する。確かに、自分が死ねば自分と同じ身体にいるこいつも死ぬ。そうなっては困るという極めて分かりやすい理由だ。

 しかし、

 

『……生憎だが、私はお前の言うことを聞く気はない。私は……私のやりたいようにやる』

 

『けっ、喋り方を変えたくらいでもういっちょ前の大人気取りかよ。そんなこと言わないで、また交代するつもりはないか? 俺なら、お前にもこれまでのふざけた人生を取り戻すような良い思いをしてやるぜ?』

 

『誰もそんなことは頼んでない』

 

 きっぱりと断り、そのまま歩き出す。

 全く、ふざけた旅路だと眉間に皺を寄せながら先へ進もうとすると、

 

『チッ……あーあー、分かったよ。しばらくはまだ無理そうだから大人しくしてやる。だが、これからどうするかだけでも聞け。今度は悪巧みじゃないぞ。普通に生き残るための提案だ』

 

 諦めたように、もう一人の自分がそんなことをつまらなそうに口にする。やはり、自分が死ねばこいつも困るのだ。故に嘘は言ってないように感じた。

 だが、

 

『……聞く必要はない』

 

『あ? ふざけるなよお前。こっからは考え無しに行動すれば死ぬだけだ。何をやってでも生き残ることが──』

 

『分かっているし、知っている。だから聞く必要はない。これからやることも、もう決まってる』

 

『……お前、何を──』

 

 と、そこまで疑問を浮かべたところで、もう一人の人格は何かを察したように言葉を留めた。そして、再び納得の色の笑みを見せ、

 

『……ああ、そういうことか』

 

『ああ、そうだ。お前は私だ。だからお前が知ることは私も知っている。考え方は違っても、知識などは変わってない』

 

 両者共に理解する。

 お互いに同じ頭脳と身体を持っていることもあり、相手が得た知識や技術、経験などは共有されているのだ。

 だからこそ、もう一人の人格が思いついたことは、もう一方も思いついて当然の事なのだ。

 故に、ガイはこれからまずやるべきことを、明確にしていた。

 

『わかっているなら言わずとも良いだろう。ただ放浪している訳にもいかない。周囲に注意し、倒せそうな魔物を狩りながら、誰かを探すぞ』

 

『おお、完全に理解したぜ……だが、そのうち絶対に俺に代われよ。お前みたいな根暗じゃ愉しそうな事も出来そうにない』

 

 もう一人のガイが言うことに、表のガイは訝しんだ。さすがにその言葉だけで相手の考えていることを察することは出来ない。

 

『……愉しそうな事とは何のことだ?』

 

『そりゃお前色々あるが……最初は決まってんだろ──()()()()()

 

『セッ──って、いきなり何を言い出している……!』

 

 突然の卑猥な発言にガイは憤る。

 しかしもう一人のガイは笑みを絶やすことはなく、

 

『くくく……何をかっこつけてる。お前だってやりたいだろ? もう俺達もガキじゃねぇ。これからは良い女相手なら好きに襲ったっていいんだ。外じゃあ、強い奴が弱い奴を好きにするのは当たり前なんだからな』

 

 それは正しく、悪魔の言葉だった。

 ほんの僅かでも、自分の身体を共有する者として分かりあえるのではと思ってしまったが、それは間違いだと一瞬で気づく。ガイは更に声を鋭くし、

 

『ふざけるな! そんなことが許されて良い筈がない! 今まで培ってきた教えを忘れたか!?』

 

『ははは! 笑わせる! 今までの経験や教えがあるからこそ、そう思うんじゃねぇか! 強い奴は、どれだけ好き勝手しても許される! それが世界のルールだってな!』

 

『ふん……気分が悪い……お前の様な悪意に満ちた奴と話をしたのが間違いだった』

 

『くくく……そう言うな。さっきも言ったが、俺達は一蓮托生。だから仲良くしようぜ……?』

 

 含みのある声色を聞きながら、ガイはそれを無視するようにして荒野を進んでいく。

 悪意に満ちた人格が中にいて、声を飛ばすことが出来るのは癪に障るが、それでも生き続けるために考えて行動は取らなければならない。

 

『ふはは、まあ安心しろ。魔物には注意しなくちゃならないが、俺らと同じ様な年頃――いや、大人だとしても俺らに敵うような奴はそうそういねぇ。どこもあの盗賊共みたいな奴か、それにやられる雑魚ばっかだ。俺みたいに盗賊二十数人を無傷で殺せる奴なんていないからな!』

 

『何を根拠にそんなことを……世の中には、どんな化け物がいるか分からない。油断は駄目だ』

 

 ガイは注意を自分に向け喧嘩しながら、目的を持って歩いていく。

 少年ガイの旅立ちは、そんな自分自身との葛藤の中から始まったのだった。

 

 

 

 

 

 ──同時刻。カラーの森の中。

 

「……?」

 

「──どうかしたか?」

 

 森の中を歩くのは、金髪灼眼。鋭い目つきをした異様な雰囲気を持つ男と、一人の少年だ。

 少年は不思議なことに、この森に住む種族と同じ様な明るい水色の短髪と、額に赤いクリスタルが備わっており、男と同じ鋭い目つきであった。瞳も男と同じで赤く、容姿も同様にかなり整っている。まだ少年だが、男としての魅力を既に備えているといっても過言ではなかった。

 そして何より──その少年が身に纏う存在感は、傍らにいる男と同じ種類のものであった。

 体付きも既にがっしりと、少年にしては鍛え上げられた筋肉、引き締まった身体が服の隙間から覗いている。身のこなし、脚さばきも隙のないものであり、既に戦士としての基本は完璧に備わっていた。とても、まだ生まれて数年しか経っていない子供とは思えないほどに。

 何も知らない者が見れば、大人とは言わずとも、年の頃15かそこらの若い戦士だと誤認してしまうだろう。

 そんな不可思議な少年は大人顔負けの眼光を背後に向けた後に男に告げた。

 

「……いえ、なんでも」

 

「……そうか」

 

 男は少年のその言葉に納得する。男の方は気づいていたし知っていたが、態々言う必要のないことだ。故に今は少年の用事を優先するのみであると、男は足を前に進め、少年の名を呼んだ。それは、

 

「なら行くぞ────()()()()()。この先がカラーの里、ペンシルカウだ。後始末は終わってるだろうな?」

 

「……はい、()()。もうとっくに」

 

 少年が濡れた地面を踏みしめ、頬に付着した液体を腕で拭いながらそう言う。すると男も同じ様に地面を見渡して確認し、

 

「……うむ、よくやった。なら行くぞ」

 

「! ありがとうございます、パパ……!」

 

 その褒め言葉に少年が僅かに喜ぶように口元に微笑を浮かべたが、二人はその既に終わった場所に目もくれずに先へ行く。

 少年が見て、踏みしめていたその地面には──盗賊と思わしき男達、()()()()()()()()()()()()()()()()()




レオンハルト「……た、耐えきったか……これなら……!」

スラル「――何を勘違いしているの?」

レオンハルト「え?」

ジル「まだ私達のバトルフェイズ(意味深)は終了していない……!」

スラル「速攻魔法! “バーサーカーソウル”!!」

ジル「この魔法は自分の配下にいる魔人を一枚選択し、墓地に送ることで何回でも攻撃(意味深)が可能になる!」

全魔人「えっ」

レオンハルト「無茶苦茶じゃねぇか!?」

ガルティア「インチキ効果も大概にしろ!」

ジル「さあまず一体目……! ドロー! モンスターカード(魔人ノス)!」

ノス「ぐああああああああ!?」

レオンハルト「も、もう止めて!」

スラル「HA☆NA☆SE!」

――ということで、次回はガイ君の新しい日常と、生まれてきた息子の日々です。お楽しみに


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