魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

304 / 341
一日更新だとやっぱ8000文字越えくらいが限界やね。ガイ君青年編。まあこの人格が変わるまでのプロローグは一瞬で終わります。そんな特筆すべきことはないので()


魔物討伐隊

 広い土の大地の上に、群となった影がある。

 空は曇天。日差しはそれほど差していないものの、時折、横からの光によって影が出来るのだ。

 しかしその影は直ぐに数を少なくしていく。一方の影は逆に勢いを増して動きを激しくしていく。

 二つに別れた影の正体。それは魔物と──人間だった。

 

「──っ、反撃が来るぞ! 備えろ!!」

 

「お、おおっ!」

 

 人間は誰も彼もが何かしらの得物を手に持ち、防具などの装備品を一応は揃えている集団であった。

 彼らはこの辺りで活動する魔物討伐隊、“魔狩りの戦士団”という魔物討伐隊であった。

 所属隊員数五十名。魔物討伐隊としては小規模に分類される一団であり、隊員の練度も中程度。団が発足してから約五年が経っており、それなりの戦闘経験を積んでいる、まともな類の魔物討伐隊であった。

 柄は多少悪いが、冒険者や魔物討伐隊に所属するような者達の多くは荒くれ者であるため、それほど珍しいことでも問題になるようなことでもない。彼らにとって、魔物を討伐することは生きる糧を得るための大事な商売なのだ。

 魔物の巣になっているようなダンジョンには高価なアイテムや、食料が手に入ることもあるし、魔物の素材は商人に卸せば売ることが出来る。この世界でそれなりの旨味を吸って生きるには戦いに身を投じる必要があるだけのことだ。

 故に彼らはいつもどおり、魔物を探しながらも、そろそろ何処か適当な場所に野営地を築こうとしていたのだが、運悪く、魔物の群れと遭遇してしまった。

 本来なら、魔物は彼らにとっての獲物でもあるのだが、その逆も然り。魔物にとっても、人間とは野良の獣の様なもので、狩りの対象でしかない。

 業腹ではあるが、魔物討伐隊といった魔物との戦闘経験が豊富な集団であっても、同数以上の魔物と戦うのは基本的にあり得ないことだと誰もが知っていた。

 人間は基本、個人の強さで魔物に劣る。勿論、鍛えれば一部の魔物を上回ることも可能だが、それは才能のある者達の話であり、基本人間は個体差を数で補い、徒党を組んで戦うのが古来よりの基本戦略だ。

 故に、同数であれば負ける。一人一殺すればいい、とかそんな簡単な話ではない。魔物よりも圧倒的に強い人間が一人でもいれば多少の数の不利を覆すことが出来るかもしれないが、戦いの規模が大きくなればなるほど、それは難しくなる。

 5対5。10対10などであれば、戦術や状態、場合によっては同数で勝てる可能性もそれなりにあるが、これが50対50。100対100などになれば、途端に勝つのは難しくなる。それだけ戦力差に開きが出るからだ。

 故に同数以上はタブー。安全マージンを取るのであれば、半分以下の数を相手に一方的に叩くのが望ましい。それ以上の数に遭遇した場合の対処法は、基本的に逃げることだ。

 なので魔物討伐隊とはいえ、相手に出来るのは少数の群れ程度。大規模な群れや、ましてや魔軍などを相手に出来るのは、魔物討伐隊の中でも1000に届く隊員数を誇る大規模な一団くらいであるし、そんな一団は片手の指で足りるほどしか存在しない。

 そんな界隈では誰もが知る有名な魔物討伐隊であっても、魔軍のたった一個軍、二万の数には逃げるしかなく、相手を出来るのは哨戒や人狩りに出ている魔軍の分隊などである。

 同業者の噂話だと、冒険者たった五人で魔軍の一個部隊、二百名を壊滅させられるほどの腕を持った冒険者もかつては居たと聞くが、今では眉唾ものだと殆どの者に信じられてはいなかった。

 だから彼らは自分達を超える数の魔物と相対した時、真っ先に逃げることを考えたし、成功していれば逃げていたはずだ。

 だがそうはなっていない。彼らの不幸はそれだった。

 しかし、不幸中の幸いがあるとすれば、それは──彼がいることだった。

 

「──“デビルビーム”!」

 

「ッ!!」

 

 魔法光が発生し、それと同時に闇の線が魔物の前面を叩いて死滅させた。

 それを行ったのは動きやすい比較的軽めの鎧に身を包む、右目側だけを隠すような長い前髪を持った青年だった。

 左手にロングソードを持ち、右手で魔法を放つ彼は、少し前にこの魔物討伐隊に所属しはじめた魔法剣士である。その名を、集団の前線に近い中心で指示を出す隊長は呼びつけた。

 

「──ガイ! まだ行けるか!?」

 

「……ああ、問題ない」

 

 暗い印象を感じさせる低い声が答える。長い前髪や表情の乏しさから陰気だと陰口を叩かれるガイだが、戦闘面での貢献は群を抜いていた。

 

「──“ライトニングビーム”!!」

 

 彼は再び魔法を発動する。今度は雷の上級魔法だった。

 魔物が雷の槍に貫かれ、一部が絶命し、その周囲にいる魔物にも多少の傷と痺れを与える。

 それと同時に、ガイは魔物の群れへと突っ込んでいた。

 

「ふっ!」

 

「──!」

 

「グアッ!?」

 

「ぶぐぅっ──」

 

 左手の剣を振るい、一刀で三体の魔物を屠る。魔物の血飛沫。断末魔を気にも掛けず、ガイは次の魔物に向かって斬りつけ、同時に魔法も放っていた。

 

「っ、今だ!! 押し返せ!!」

 

「あ、ああっ!」

 

「行くよっ!」

 

 ガイが単身で魔物の群れの中で暴れたことで、魔物の群れに綻びが出る。それを見逃すことなく、隊長は指示を出し、隊員達もガイの強さに戸惑う者を出しながらも前に出て血に飢えた得物を振るった。

 中心で暴れるガイだけに注力することは出来ない。故に魔物の群れは混乱し、剣や魔法に倒れ、次々と数を減らしていく。

 数が少なくなってくると、逃げる個体もいた。魔物は基本的に、集団行動を得意としない。魔物の群れも、ただそこに何となく集まっていたりするのみで、意志の統一は殆ど取れていないのだ。

 故に形勢が悪くなると逃げる者も出てくる。人間のように、指示を出せるような魔物は魔物の中でも数少ない。

 そういったことが出来るのは、それこそ魔軍に所属する魔物隊長や魔物将軍といった魔物くらいであり、他にはバトルノートのような一部の魔物くらいである。だがそれも、魔軍以外だとあまり見ないレアなモンスターであり、冒険者や魔物討伐隊が相手にすることは少なかった。

 彼らのような魔物がいれば、魔物は統制の取れた集団行動を取ることが出来る。そうなればキツいが、今はそういったことはない。

 故にガイが活躍を見せてからの10分後には、その場に生きた魔物はいなくなっていた。

 

「ふぅ……ヤバかったな……」

 

「ああ、疲れたぜ。さっさと剥ぎ取りを済ませようぜ」

 

「だが……へへっ、今日は飲み明かせそうだ」

 

 と、ほっと胸を撫で下ろし、魔物の素材や落としたGOLDなどを集めていく魔物討伐隊の面々。ピンチではあったが、それを乗り越えた後の旨味は格別である。GOLDを集め、魔物の素材などを商会などに売れば、五十人の人間が宴会したとしても大量のお釣りが来る。これでしばらくは食べるにも呑むにも困らない。

 多くの者はそうやって徐々に欲に塗れた笑みを浮かべ始めていた。

 そんな中、戦いの貢献者であるガイは、誰の輪にも混ざらず、一人で黙々と魔物の素材を集めていた。それを見た隊員達は、

 

「アイツ、戦いに勝ったっていうのに喜びもしねぇぞ……」

 

「ああ、不気味だよな……話にも混じってこねぇし、何考えてんだか……」

 

「あんな陰気な奴ほっとけよ。それより──って……」

 

 隊員の一人が、誰かを探して周囲を見渡したところで、その姿を発見する。

 だが声を途中で止めたのは見つけたからではなく、見つけた相手が、その人物に駆け寄っていたからだ。

 

「──ガイっ!」

 

「ん……」

 

 と、それは見渡す限りの男所帯の魔物討伐隊の中において、唯一の高い声だった。

 ガイも自分の名を呼ぶ声に反応し、振り返る。するとそこにいたのは、やはり女性であった。

 

「……トーチカか。何か用でもあるのか?」

 

「用はない、けど……でも、その……ガイは、今日も凄く強かったねっ!」

 

 ガイがトーチカと呼んだ女性は、この魔狩りの戦士団の紅一点の隊員であった。

 小麦色の肌と戦いの邪魔にならないように短めに切り揃えた黒髪。小柄だが出るとこが出ていて、顔立ちも整っている。この隊のムードメーカーであり、明るい印象をもたせる彼女は、紛れもない美少女であった。

 誰に対しても分け隔てなく接し、笑顔を絶やさない彼女はしかし、得物としている槍を後ろ手に持ちながら、何やらぎこちない様子でガイに向かって話しかけていた。

 それはひょっとしたら、無理して話しかけているのかもしれないが、それは彼女の頬が僅かに赤みがかっていることと、チラチラとガイのことを見たり、視線を逸したりとしていることから、別の事実を浮かび上がらせる。

 しかしガイはそんなことを気にもせず、

 

「……大したことではない。いつもどおり戦っただけだ」

 

「それが凄いんだよっ。ボク達だけだったら、あれだけの数の魔物なんて倒せっこないんだし……その、だから、ガイは強いし…………か、かっこいいと思うよっ」

 

 と、何やら意を決したように言うトーチカに対し、ガイは暫しの間無言となりつつも、

 

「……そうか」

 

 と、素っ気なく一言で終わらせた。

 だがそんな反応すらも、トーチカは笑顔になり、

 

「え、えへへ、そうだよ。だから……えっと、これからも、頼りにしてるからねっ!」

 

 それじゃあまた後で! という言葉を残し、トーチカはそこから逃げるように去り、魔物の素材を集めに戻っていく。

 だがその一部始終は、しっかりと隊員達に見られており、

 

「……チッ、アイツ……陰気で新入りの癖に、女には色目使いやがって……!」

 

「トーチカちゃんの優しさに付け入りやがってよ……ムカつくぜ」

 

「あんな根暗野郎のどこが良いんだよ……クソが」

 

 彼らは口々に、ガイに対する陰口を叩き始める。

 その様子は明らかに、ガイに対する嫉妬に満ちていた。

 紅一点の女性隊員であるトーチカはこの隊のアイドル的存在であり、多くの隊員が彼女に好意を抱いていた。男所帯の小規模魔物討伐隊にとって、女性の、しかも可愛くて誰にでも優しい彼女は癒やしであり、色々と堪らない相手であるのだ。

 だがトーチカは誰かにそういった好意を抱いているような感じはしないし、多くの隊員達が狙いながらも、牽制しあっていることから、いつからかちょっとした聖域と化していた。

 互いの眼もあるし、一応は同じ隊に所属する仲間だ。無理矢理襲うようなことは出来ないし、かといって落とすことも出来ない。

 であればこのまま密かに裏で盛り上がるくらいがちょうどいいと隊員達は思い始めていた。

 そんな折にやってきたのが、ガイという男である。

 少し前に多くの魔物の首を手土産に現れた不気味な男。その時のことを、古株の隊員達は皆記憶している。

 

『──私を隊に入れてくれ。腕には多少の自信がある』

 

 魔物の素材を大量に入れた袋を手土産に、ガイはこの隊に入隊した。

 素性は不明。だが、今の世でそういったことは珍しくもないし、そこはそこまで気にはならない。

 だがガイはまだ大人にもなっていないガキの割に、入隊したての時からこの魔物討伐隊でもトップの実力を持っていた。卓越した剣技に上級魔法を軽々と発動する魔法の腕。古株の隊員どころか、魔物討伐隊歴20年を誇る隊長ですらガイには敵わない。

 性格はよく分からないが、内気で根暗。話しかけてもノリが悪くてやりにくい。それだけに殆どの隊員からの評判は悪く、不気味でしょうがなかった。

 だが、そういった印象を抱かなかったものがいる。トーチカだ。

 彼女はガイの何処に惹かれたのか、入隊して間もなくしてから、先程のような反応をガイだけに見せるようになった。

 確かに、ガイはこの中で誰よりも強い。それに、前髪を伸ばしていて、表情もそこまで動かさないため分かりにくいが、顔立ちはかなり整っており、イケメンと言っても差し支えない容姿を持っていた。

 だが、それはそれだ。ムカつくことには変わりはない。

 あんな新入りの根暗野郎が皆のアイドルである紅一点の女性隊員から惚れられている。その事実は、酷く隊員達を嫉妬させた。

 幸いなのはガイにその気がないのか、未だ手を出していないらしいことである。野営する際も、隠れ里に泊まる際も、テントや建物、部屋は違えど、同じ場所ではある。そういったことになればさすがに隊員達も気づけるのだが、そういった気配はない。

 もしそうなれば最悪もいいところだが、あのガイという男の行動は読めず、何を考えているか分からないため、陰口を叩くだけに留めているのだ。

 厳格な隊長にバレたら叱責ものでもあり、それも隊員達を露骨な行動に出させるのを躊躇させている。

 ──だがそれも、もうすぐ終わる。

 

「──皆、集合してくれ」

 

 と、隊長が隊員達に集合をかけ、一瞬で隊列を組んで見せる。ガイもトーチカも、先程まで陰口を叩いていた隊員達も動きは迅速だ。腐っても魔物討伐隊の一員であれば、隊長の命令には即座に対応してみせる。のろまな奴は死ぬだけだと誰もが身にしみて理解していた。

 

「先んじて、斥候に出していた隊員が戻ってきた。この先に魔物の気配がない岩山の広場がある。今日はそこで野営を行う」

 

 野営地の厳選は何よりも徹底して行わなければならない。毎回、隠れ里のような比較的安全な場所で夜を過ごすことが出来るとは限らず、そういう時は野営することになる。

 夜に動くのは自殺行為にも等しい上、寝てる間に魔物に襲われでもしたら目も当てられない。明かりをつければ魔物を惹きつけるし、夜目が効かない人間と違って、魔物には夜行性の種も存在する。

 故に野営する際は出来る限り魔物の気配が無い場所を選び、細心の注意を払う。故に隊長の話や仕事の分担はしっかりと聞いて理解し、遂行しなければならないのだ。

 

「──そして、最後に一つ」

 

 と、隊長は少し顔を明るいものに変えて前置きを口にする。

 隊員達が訝しみながらも、隊長の言葉を待つ。すると、

 

「以前より、空いていた副隊長を誰にするか決まった」

 

「!」

 

 その言葉は、隊員達にとってはそれなりの朗報だった。

 副隊長は結構前の戦いにおいて魔物に殺されてしまっており、それからはずっと空席の状態が続いていた。

 だがそれが埋まるということは、指揮においても連携においても有用であるし、副隊長になったものは、それだけ権力を持つことになる。

 こんな小規模の魔物討伐隊で権力もクソもないだろうと視野の広い者はそう思うかもしれないが、そう侮ることは出来ない。

 小規模とはいえ、50人もの人間が在籍する列記とした集団であり、組織だ。彼らにとっては、このコミュニティこそが世界の全てと言っても過言ではなく、その中での人間関係や地位というものは何よりも彼らを満足させる。

 古株の隊員として、先輩として振る舞うだけでも気分は良いし、先輩に気に入られるだけでも悪い気分ではない。上位の者は下位の者に命令することが出来る。その鉄則はここにおいても当然の如く有効だ。

 立場上は全員平隊員なので、仕事において命令することは出来ないが、古株の隊員がお願いするような形で仕事を割り振ったり、何かをさせたりすることは出来る。それより下の者は、組織内での人間関係を気にして、言うことを聞かざるを得ない。組織に所属する以上はこれらのルールに少なからず縛られてしまうのだ。

 これを無視出来るのは、そもそもそんなことを気にしていない恐れ知らずの人間──ガイのような人物や、紅一点というある種の特権階級にいるトーチカくらいだ。その他大勢の人間にとっては、副隊長という隊長に次ぐ地位は何よりも重要なものだと言える。

 故に古株の隊員達は誰が副隊長になるのかと期待や不安などの様々な感情が渦巻いた。誰もが、自分であればいいなと、想像を頭に描く。

 そうなればここでの生活はかなり過ごしやすくなるだろう。隊長と自分以外の48人の平隊員より上位の立場になることが出来るし、気に入らない相手に貧乏くじを引かせることも簡単だ。それに副隊長になることで、今までは見向きもしていない紅一点のトーチカも、自分に振り向いてくれるかもしれないと、根拠のない都合の良い妄想を頭に浮かばせる。

 顔には出さずとも、それなりに古株で実力もあると自覚のある隊員達は内心でほくそ笑み、同時に同じ様な立ち位置にいる隊員達ではなく、自分を選べと天に祈っていた。

 

「副隊長は──」

 

 そんな中、隊長が遂にその名を発表する。

 その者の方へ、視線を向け、微笑を浮かばせると、

 

「────ガイ。お前だ」

 

「……ぇ……?」

 

 それは誰が漏らした声だっただろう。

 だが、呆然としたのは多くの者に共通することであった。

 冷静なのは、任命を受けたガイと、隊長くらいのもので、他の者達は驚いていた。

 

「……私ですか?」

 

「ああ、そうだ。お前を副隊長に任命する」

 

 隊長がもう一度告げる。その言葉で、今の光景が現実だと誰もが理解した。

 そして真っ先に声を上げたのはトーチカであった。彼女は驚きながらもすこぶる嬉しそうに、

 

「おめでとうガイっ! 驚いたけど、ガイなら納得だよ!」

 

「ああ。俺もガイなら立派に務めてくれると思っている。お前は強さの上でも隊で一番だし、頭も悪くないからな」

 

 隊長も続いて、ガイのことを褒め称える。堅物の隊長はガイのことを高く評価しているようだった。

 だがそれを受けたガイは、珍しく困惑したような困った表情を浮かべ、

 

「……私でいいんですか?」

 

「ああ。是非受けてほしい」

 

「ガイなら出来るよっ!」

 

 隊長の再度の頼みと、トーチカのキラキラした期待の視線。

 それらを受けてしばらく考え込んだガイは、少し間を置いてから頷き、

 

「……分かりました。謹んでお引き受けします」

 

 古株の隊員達にとって、最悪ともいえる発言を口にした。

 だがその場の雰囲気は隊長やトーチカのせいで穏やかなものであり、

 

「うむ。なら決定だ。お前たちも異論はないだろう。副隊長はガイで決定だ」

 

「……はい」

 

 隊長のその言葉に異を唱えることは出来ず、古株の隊員達も内心、憎々しげに頷く。

 その視線の先には、ガイの隣で彼を見上げつつ、頬を赤らめるトーチカの姿があり、

 

「えへへ……やっぱり、ガイは凄いなぁ……」

 

 そのうっとりとした様子に、多くの隊員達は嫉妬を更に募らせることになった。

 

 

 

 

 

 ──その夜。

 

 野営地のテントで一人過ごすガイは、人知れず深い溜息を吐いた。

 顔を押さえながら、考えることはこれから先の事と、現状の停滞感の事だ。

 ……いつまで、これを続ければいい……? 

 カラーの森から一人、旅を始めた時からガイは少しずつ悩み始めていた。

 ただ放浪する訳にもいかず、素性を隠して魔物討伐隊に入隊したのは良いものの、世界の暗さ、厳しさをガイは甘く見ていたのかもしれない。

 魔物をただ討伐する日々というものは、なんとも味気ないものであった。

 隊員達とはあまり仲良くはないし、親しい者はいない。強いていうなら、隊長やトーチカくらいだろうか。それ以外の者達からは距離を取られているように感じる。

 出来れば仲良くしたいが、それも難しい。

 どうやら自分はそういった人と距離を詰めるようなことが苦手であるらしいと初めて自覚した。

 よくよく思い返してみれば、今まで親しくなった人達は皆、向こうから歩み寄ってくれていた。自分から距離を詰めて仲良くなった訳ではない。

 そして同年代の友達なども、今は何処にいるか分からない相手くらいで、それ以外は皆無であったことを考えると、人とどうやって仲良くすればいいのか分からない。

 ましてや自分の素性を隠さなければならない身では、自分の話をすることも難しいものだ。

 故に人と仲良くすることも出来ず、ただ魔物を討伐して生きる糧を得るだけの日々というものは、今までの生活と比べて酷く味気ないものであり、閉塞感を感じてしまうほどであった。

 生きることがこんなにもつまらないとは思わなかったと、ガイは思ってはいけないことを思ってしまうほどに憂鬱だった。

 

『──なら俺に代わるか?』

 

 と、そんなふざけた声が今日も聞こえる。

 この声も悩みの種だった。

 毎日毎日、悪の行為を囁きかけて来る上に、隙を見せれば身体の主導権を握ろうとしてくる。そのせいで気を抜くことが出来ない。自分がこの悪意に満ちた人格を抑えなければ、周りの人間に被害をもたらしてしまうことは確実だからだ。

 だが、この声も毎日続けば精神も摩耗する。

 殺せ、犯せ、奪え──それらの声が連続し、右手が時折、自分の意志に反して動いてしまわないかを恐怖し怯える日々だ。

 そして何より──これも自分であることに、酷い罪深さを感じてしまう。

 こんな悪意に満ちた人格を抱える自分が、こんなところでのうのうと生きていて良いのかとすら悩んでしまう。

 それでも耐えて生きることが出来ているのは、今まで自分に強い影響を与えてきた人達の思いが、まだギリギリのところで心の糧となっているからだ。

 

『しぶといな……一回くらい代わってくれてもいいだろうに……』

 

 ──黙れ。と、強い念を送る。こいつを解放することはあり得ない。

 この人格を解放した時に、どれだけの罪のない人間が犠牲になるのかは、考えたくもないことだ。

 しかしこれは自分だけが一人で抑えて、抱え込んでいかなければならない。そう強く心を持ちながら、頭を抱えていると、

 

「──ガイ……その、起きてる?」

 

「! ……ああ」

 

 不意にテントの外から声が掛けられ、ガイは返事を返す。

 女性の声はトーチカのものだ。彼女は少し遠慮がちに、

 

「良かった……入ってもいいかな?」

 

「? ああ……構わないが……」

 

 だがこんな夜更けに何の用だろうと、ガイは頭に疑問符を浮かべながら、彼女を迎え入れることにした。




人間って本来こんなもん。なんか、なろう小説の導入書いてる気分になった。次回もそういう無双シーンみたなのあるしな……。
というわけで次回、ガイ君が覚醒して初めてを経験します。そしてこの可愛い女の子の新キャラも次回で初めてを迎えます(白目) どうせ(ピー)なら名前もつけて可愛くしてやろうと思いました()

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。