私は元気に過ごしてますよ〜!
さて、今回の[バトルスピリッツ 欠落]最新話投稿という事で1つ挨拶をさせて頂きました!ではTurn-33話をお楽しみください!!
ここは…どこなのだろう?
炎の世界で必死に逃げていた俺はいつの間にか白い光に包まれていた。その眩しい光に俺が目を瞑った瞬間だった。突然、全身を包む柔らかく暖かい感触が段々と伝わってきた。
これは…一体何なのだ?何故いきなりこんな感触が…?
自分の置かれている状況を知るためにゆっくりと目を開けて目の前に映る世界を見る。俺の目に映る世界がどんどん広がっていくが目を開けた俺の視界はぼんやりとしていた。
徐々に明確になっていった俺の目が映した物は白い壁と照明だった。
パッと輝く照明の光が眩しくて反射的に目を細めた俺はベッドの布団に包まれながら仰向けの状態でそれを見ていた。
駆「…知らない天井だ」
人生で1回は割と言ってみたい憧れのセリフを吐いて俺はベッドから上半身を起こす。
後ろ髪がパサッと広がったことからヘアゴムが外れていたことが分かった。
俺が弾との対戦の後に意識を失ったタイミングで紛失してしまったのだろうか?ヘアゴムのスペアはもう無かったはず…いや、むしろ今まで使う機会が無いというのもあって少ないのは当然か。今週末、人里へ買い足しに行かなければならなくなってしまった。黒いシンプルなデザインが気に入っていたので割とショックである。非常に残念だ。
…少し脱線しそうになってしまったが俺は気持ちを切り替えて周辺を見渡した。
清潔感のある真っ白い部屋の棚には数十種類のなんかよくわからない薬品が所狭しと並べられていて俺の左隣にはベッドが2つ配置されている。そして俺の鼻をつつく薬品の匂い。
この事からここが学校の保健室であるということを理解した。
倒れた俺を誰かがここまで運んでくれたのだろう。そして俺は隣のベッドにもたれて倒れている明夢を発見した。
駆「明夢君…?大丈夫か?」
何故ここに彼がいるのか?もしかして俺を運んだのは彼なのか?その疑問を置いて俺は倒れている明夢に声をかけた。
明夢「……」
返答を待ったが彼は倒れたまま何も答えてはくれなかった。ベッドに寝かしてやりたかったが、こちらも倒れてしまった身。下手に身体を動かせる状況では無い。彼に申し訳無いと思いつつ仕方なく放置することにした。
…にしても驚いた。さっきまで燃え盛る世界で自分の所有しているバトルアーマーに殺されそうになっていたのに一瞬で周りの世界が変わり、今は保健室のベッドで寝ていたのだ。もしかしたらさっきの体験は夢の1つなのかもしれない。だが夢にしては地面に立つ感覚も首を締め付けられた時の痛み、苦しさも本物だった。
俺はあの時、バトルアーマーに絞められていた首を触る。痛みも苦しさも今は全く感じない。
あの世界は一体何を意味していたのか?あのバトルアーマーの行動の理由はなんだったのだろうか?何故いきなり俺を殺そうとしたのだろうか?
あの時の情景がひたすら頭の中を巡る。答えを見つける為に、何か一つでも分かることがあるのならと進んだ暗闇の中。なのに見つけ出したのは新たな謎だった。あの額縁の絵も炎の世界も遠回しに何かを意味しているのかもしれないが今の俺ではその意味を理解することが出来なかった。
何か一つでも分かることが出来れば…もう一度あの世界を見れるなら…と探究心のある自分が心の中にいるが正直な話、もう二度とあの世界には行きたくない。またバトルアーマーに首を締め付けられて殺されそうになるのはもうごめんだ。
駆「はぁ…気分転換に外の景色でも眺めるか」
考えるのをやめた俺は1つため息をついて保健室の窓の外に広がるグランドを見る。
複数人の生徒が先生から楽しく、真剣にスポーツを教わっている様子が見える。
駆「…ほう、部活動中か。元気な人達だな」
その様子に俺は微笑みながら、ごく一般的な感想を述べた。
前の世界に通っていた学校でも頻繁に放課後の教室の窓から夕焼けを背に部活動に励む元気な生徒達の様子を見ていたな。
忌々しい過去の記憶の筈なのに、そこに何故か懐かしさを感じている自分がいる。これも1つ、俺にとってはいい思い出とでも言うのか…?
駆「それにしても、今日の午後はやけに空が青いな…」
複雑な感情を抱きながら外の光景を見ていた俺はその青い空に違和感を覚えた。俺は見逃していた保健室の壁に設置されている時計を見て時間を確認する。現在、時計の針は10時15分を刺していた。
駆「……そうか、俺はそんなに寝ていたのか」
起きたばかりではあるが、俺は今自分の置かれている状況を理解出来た。
俺が意識を失ったのは放課後、弾と戦った後だ。時間は見ていないが恐らく16時前だと考えられる。
そして、俺が目を覚ましたのは10時15分…つまり約18時間と15分間、俺はソウルドライブの反動で寝ていたという事になる。
駆「はぁ…参ったなこれは」
その事実を知った時、最初に脳裏をよぎったのは学校の授業の事だ。
入学して間もないこの段階でソウルドライブの反動ごときで倒れ、授業をすっぽかしてしまうとは…情けない。他の人達に遅れをとってしまった。
俺は情けなさと同時に他の人間よりも遅れてしまったという危機感を覚え頭を抱えてしまった。
そして、俺はため息を付きながら窓の外のグラウンドで体育を受けている生徒達を見つめる。
真剣にそして楽しくスポーツをしている生徒達がとても羨ましいと感じた。出来ることなら今すぐA組の教室に戻って授業を受けたい所だが恐らく保健室の先生がそれを許さないだろう。
きっと「まだ安静にしていなさい!」とかそういう感じのことを言って俺をこのベッドに寝かしつけるのだろうな…
駆「はぁ…」
またもため息がこぼれてしまった。[ため息をすると幸せが逃げていく]という言葉を俺が小さい時に聞いたことはあるが、こんなに憂鬱な気持ちになってしまったら、ため息をつくのも仕方は無いと思う。
ふいに空いた窓の隙間から風が吹き込み俺の髪を優しく、まるで撫でるかのように通過していった。
駆「暖かい、優しい風だ。でも…」
俺は窓をそっと閉め、その風を拒んだ。
駆「今はその風に当たる気分じゃあ無いんだ」
一言、静かに俺はそう呟いて引き続き、体育の授業を受ける生徒達を羨ましいと思いながら見つめる事にした。
side change
…酷い有様だ。倒壊し燃える建造物と植物、見上げれば美しいはずの青い空は黒煙と火の粉で塗りつぶされている。
そんな世界で俺は天童の黒いバトルアーマーと対面している。
BA「…久しぶりの再開だな。姿は違えど性格は変わらんな〇〇〇」
先に声を上げたのはバトルアーマーの方だった。軽めの口調でそう言ったバトルアーマーはまるで同窓会でそれなりに仲の良かった友達に久しぶりに再開した時にかける様なセリフである。
明夢「…その名で俺を呼ぶな。今の俺は柊木明夢だ」
軽い口調で話しかけてきたバトルアーマーを睨みつけて俺は冷たく突き放すようにそう言った。
…そして俺はバトルアーマーの発する声を聞いて初めて天童と戦った時のことを頭に思い浮かべた。様子がおかしくなった彼が最後に言い放った言葉がずっと気になっていて仕方なかった。
何故なら俺を知っている者はこの幻想郷にはいないからだ。
こいつがここに来ている事にも驚きではあるのだが、まさか人間では無く、バトルアーマーになっていたとはな…
BA「ふははははは!!柊木明夢か!変わっていないと言ったが前言撤回だ!会話も少ない無愛想なお前がしばらく見ないうちに感情的に喋るようになった。そう、まるで今のお前の姿、[人間]のようにな」
俺の名前を聞いた時、目の前のバトルアーマーは大声で笑いだした。本来の肉体も今は無いというのに賑やかな奴だ…
明夢「お前もどうやら色々と変わった様だな。力任せの筋肉バカと思っていたが…この[精神世界]をお前が作り出していたとはな。いつからこんな器用な事ができるようになっていた?」
と、こちらもバトルアーマーに煽られた分、きっちり煽り返す。
BA「お前…それは心外だな。俺は力だけでなんでも解決しようとする脳筋じゃないぞ…
それにしてもよくここが精神世界だと分かったな」
明夢「俺はさっきまで保健室にいたが、いきなり意識を失いこの世界に来た。自らの身体ごと瞬間移動をすることは不可能だ。だとすれば、自らの精神だけがここに辿り着いたとしか考えられない」
BA「なるほど、正解だ。柊木明夢」
俺の答えに対しバトルアーマーは笑いながら俺に拍手を送った。鋼鉄の手が接触する音が辺りに響く。
BA「しかし、まさかお前が今まで自らの正体を晒さずに暮らしていたとはな!全てを受け入れると言われるこの幻想郷で!」
明夢「…俺達の力は強すぎる。浅はかな考えでその正体を公に晒す訳にはいかない。あの時もそうだっただろ?」
BA「…どこに居ても俺たちは恐れられる存在とでも言いたいのか」
俺のその言葉を聞いたバトルアーマーはさっきとは変わって冷たく突き刺さるような声で俺に言った。
明夢「強すぎる力は他者に恐怖と絶望を植え付け、それはやがて俺達を排除しようとする思想に変わる。
…俺達は生まれるべきではない存在だったのだ」
BA「都合が良すぎるな…皆を守る為の力として俺達は作られた。
にも関わらずその力を恐れて俺達を排除するのか?冗談では無い!俺達は1つの命として生まれ落ちたのだ。それではまるで道具ではないか…!」
明夢「そうだ、俺達は奴らと戦う為だけに作られた命ある道具だ」
BA「…認めたくないものだな。皆の希望となることを願い作られた力が世界に否定されるのは」
バトルアーマーは力の無い声でそう呟き、右手を握りしめた。
余程、世界に受け入れて貰えなかったことが悔しかったのだろう。
だが、所詮俺達は皆が綺麗な空を見る為に作った道具に過ぎない。戦うことしか出来ない俺達はあの空の綺麗さを見る事は出来ない。
明夢「…仕方は無い。これは事実なのだから受け入れるしかない。
だが俺はこの世界で自由を手に入れた。もう戦うことを強要され互いが互いを憎み、殺し合うことも無い。
俺はあの街に住む皆の様に平和という暖かさの中で生きることが出来るようになった。だからこの世界に来たお前も俺と同じ様に自由に生きる為にこの精神世界を作り出し、ここで天童の心を消すことによって抜け殻の身体に自らの魂を宿らせる事で受肉を果たそうとしたのでは無いのか?」
BA「なるほど…流石、最高の指揮官だ。良い推測だが1つ足らない」
と目の前のバトルアーマーは人差し指を煽るかのように左右に振る。
明夢「…何が足らないんだ?」
目の前のバトルアーマーを鋭く睨みつけ質問をした。
BA「…そう怖い顔をするな。足らないのは俺の受肉目的だ。たしかに俺もお前のように自由に生きる為に受肉を必要としている。だが、それだけでは無い。
俺は来るであろう戦いに備えているのだ」
明夢「備える…だと?ここは平和な世界だ。争いが生まれる要素なんて無い。そんな事をする必要があるのか?」
まるで何かが襲撃してくるような物言いが気になった俺はもう一度、バトルアーマーに質問をする。
BA「あぁ、大いにある。俺はこの世界に[奴ら]が潜伏していると考えている」
…呆れた。俺がその言葉を聞いて思ったことである。その肝心の奴らはすでにあの世界で葬った筈だ。
もう居ない者達の為に戦いの準備を行う必要は無いというのに一体何を考えているんだ。
明夢「お前…何をふざけたことを考えている。奴らはもういないんだぞ?そんなことを考える必要は無い」
俺はため息をついて既に奴らが葬り去られていることを伝える。
BA「そんな事は分かっている。しかし、あの天童という少年はこの幻想郷という世界を[忘れられた者が集まる場所]と言っていた」
明夢「何、[忘れられた者が集まる場所]?」
[忘れられた者が集まる場所]…バトルアーマーの口から出たのは俺が初めて聞く単語だった。
そんな世界があるのだと驚いたがさらにバトルアーマーはこの情報の元は天童であると言った。
どういう経緯でバトルアーマーがそれを知ったのかは知らないが天童はこの世界についてそれなりの知識を持っていると考えることができる。
BA「そうだ。俺とお前が以前とは異なる命の形となってここにいるのは俺達があの世界から忘れられていると考えられる。
だとすれば、俺達とほぼ同時期に葬られた奴らも存在を忘れ去られ俺達と同じ様に形を変えてここに存在しているのではないか?」
バトルアーマーは続けて自分の推測を織り交ぜて説明を行う。
あくまで推測ではあるが天童の言っていた事が事実なのであれば十分納得は出来るものだ。
明夢「…なるほど、死して忘れ去られた魂がこの世界に引き込まれ別の命として転生したと…いや、確かに俺たちの世界でも死者を蘇らせる術はあるが別の世界でもこんなことがあるのか…?
しかし、そうであったとしても天童は無関係だ。我々の問題に一般人を巻き込む訳にはいかない…!」
俺はバトルアーマーに鋭い視線を向けそう言った。確かに、忘れ去られた者たちがここに集まるのなら奴らもここにいる可能性はある。
だが、それは天童を巻き込む理由にはならない。
BA「生憎、今の俺はバトルアーマーだ。俺1人では自由に動く事は出来ない。だからこそ彼を消しその身体を貰う必要があるのだ。これは世界を守る為の仕方の無い犠牲だ」
バトルアーマーは天童を命を切り捨てるかのように言った。
一切の迷い無く、多くの人の平和の為にその中の誰かから平和を奪うその考え方に俺は煮えたぎるような怒りを覚えた。
明夢「貴様、ふざけているのか!?天童も皆と同じ守るべき者の1人だ!平和の中であの美しい空を見るべき者だ!犠牲にしていいはずがない!!」
俺はバトルアーマーの襟を掴み大声で怒鳴った。
BA「分からないやつだな!戦える者が1人より2人の方が犠牲者を抑えられることはお前だって分かるだろ!?それに奴らが現れてからでは遅いのだ!
奴らをもう一度葬り、1人でも多くの者が穏やかな生活をおくり続ける為には必要な事なのだ!
俺が動けなかったとして、お前は1人で奴らに対抗出来るのか?あの2人はこの世界に居ないんだぞ!?」
対するバトルアーマーも自分の意見を怒鳴りながら俺に訴える。
世界の平和、命を思う心は俺もあのバトルアーマーも一致しているのにその意識の違いからか俺とバトルアーマーは対立してしまっている。
そして先程バトルアーマーの言ったあの二人のこと…
俺と目の前のこいつは先に死んでしまったのであの世界でどうなっているのかは分からないのでこの世界に来ているのかも分からない。
だが無いものをねだっても仕方は無い。守るものは何時だってどんなところにいたって変わらない。もし奴らが来るのなら俺1人でも食い止める。
明夢「…仮に奴らがこの世界を襲撃してきた時は俺が1人で奴ら全員を葬る。お前の出る幕は無いとここで断言しよう」
BA「…ほう、お前にしては珍しい発言だな」
俺の宣言に興味を持った声色で腕を組みながら話すバトルアーマー。俺を試すかのようにその赤い目は俺を見ている。
明夢「…侮るな。今の時点での敗北は無い。無論これからも敗北するつもりは無いぞ」
BA「フン、当たり前の事だな。この世界の戦士達に負けるようではお前1人に奴らを任せる訳にはいかん。まぁ、精々その自信が命取りにならなければ良いがな。
お前が1人で奴らを抑えられると胸を張って言うのなら暫く様子を見させてもらうことにしようではないか。
だが忘れるな、少しでも危険だと判断した時、俺はあの少年を犠牲にしてでも動く」
明夢「……天童は消させはしないぞ」
BA「…それがお前の望みならあの少年が消えないように頑張ることだな」
最後にそう言ったバトルアーマーは炎の街へと歩いてこの場を去って行く。
…全く好き勝手やってくれる男だ。平和を掴むためには手段を選ば無いその姿勢は相変わらずだ。そのせいで多くの犠牲が出ていた事を分かっているのだろうか?
確かに平和な未来を望むのは大切な事だ。だが、あいつは平和に犠牲は付き物だと考えている。
平和な未来を目指すにおいて今を犠牲にしてはいけない事を、犠牲を当たり前にしてはいけない事をあいつには理解して欲しい。
そう思った次の瞬間、俺の目の前に広がる世界は真っ白な光に包まれた。
To be continued……
次回予告
「気をつけろ」その一言がこんなにも不安を煽ったのは初めてなのかもしれない。
強大な力に代償は付き物。その想像を絶する重さに俺の頭は真っ白になってしまった。
次回、バトルスピリッツ 欠落
Turn-34 命の限界
俺は…どうなってしまうんだ?