バトルスピリッツ 欠落   作:えむ〜ん

41 / 42
お待たせしましたねぇ!!34話投稿からなんと、なんとですよ!?2ヶ月も経ってしまった小説投稿者、ここに参上!
さてさて、ここで生存報告を済ませたところでやっと完成した最新話の公開といきましょう!!
コメント等があれば是非是非感想欄の方にお書きください!!


Turn-35 キズナバトル

明夢「はぁ……全く、どうしたものか……」

 

次の授業に参加する為、B組の教室を目指して廊下を歩いている俺は1人静かにため息をついた。

ため息の理由は天童のバトルアーマーに変わり果てていたアイツのことである。俺との勝負や馬神との勝負であのバトルアーマーがかなり特異なものである事から後々研究の対象にしようと考えてはいたが、まさかアイツだったとは思わなかった。

予想外の再開。形は違えど再び会えたことをかつての戦友として意識するなら、とても良かった事だったと思う。だが今の俺にはそう思えない。

何故ならアイツは昔から厄介者で事態をかきみだす問題児であり、俺のストレスの主な原因だったからだ。いつも、いつもタイミングが悪い時にアイツの起こす面倒事が俺を巻き込んでしまう。「偶然起こってしまうこと」「仕方が無いことである」と自分に言い聞かせてはいるが、頻繁にそれが起こってしまう故、あそこまでくると誰かが仕込んだ必然的なことなのか?と非現実的な考え方をしてしまう。

俺は左手で髪を掻いてむしゃくしゃする気分を無理やり抑える。

 

明夢「………………はぁ」

 

左手に引っかかった自分の抜け毛を地面に払い落として2度目のため息をついた俺は次にバトルアーマーが作り出した精神世界での会話を思い返した。

その時に交わしたバトルアーマーとの会話の中にあった、この世界に来ている可能性のある[最も危険な存在]と独断行動の宣言をするバトルアーマー。それらが俺の中の不安を一気に加速させる。

可能性は無いに等しいと思われる奴らの存在だが、アイツにあんな事を言われたら警戒せざるを得ない。奴らはマジに冗談抜きで危険な代物なのだから。

そんな奴らが仮にこの世界に現れたとして、もし俺より先にアイツが、あのバトルアーマーが動いてしまったら……もう二度とソウルドライブを撃てない天童はアイツに操られ確実に命を落とす事になってしまうだろうし、この世界の人々にも犠牲者が出てしまうだろう。

俺達の都合だけでこの世界を巻き込んで、皆の命を危険にさらす訳にはいかない。

何としてでも、俺が奴らから守り通さなければならないのだ……

 

男子生徒O「お、そこに居るのはB組の柊木君じゃあないか。奇遇だな!」

 

そんな事で悩みながら廊下を歩いている中、突如後ろから右肩を触られ話しかけられた。

一度思考を止めた俺は足を止め、掴まれた右肩の方を向いて俺に話しかけてきた人物が誰なのかを確認した。

その男子生徒の顔は薄らと見覚えがあった。俺の記憶では確か、この男は以前のノア・フルール先輩との対戦の時に俺を後ろから応援をしてくれていた人だ。名は確か……Oと言ったか。B組では見ない顔であるこの男はどこのクラスの人間なんだ……?部活動への所属等の関連で天童と来ていたから、天童と同じA組の人間なのか?

 

男子生徒O「そういえば、君。さっき頭抱えていたよな?大丈夫か?もしかして、体の調子が悪いのか?」

 

と、思考中に突然彼からそんな質問が飛んできた。どうやら奴らやアイツのことを考え込んで頭を掻きむしっていたところを後ろから見られていたらしい。その姿を体調が悪いと解釈した彼が俺に話しかけたという流れになる。

彼の勝手な想像で面倒くさいことになっているが、この話が大事になってしまってはさらに面倒くさい事になってしまう。こんな事で周りに迷惑をかけるわけにはいかないので、ここは早く彼の誤解を解かなければいけない。

 

明夢「いや、別に俺は何も………」

 

女子生徒D「え!?君、具合が悪いの……?先生呼ぼうか?」

 

俺が誤解を解くべくOに説明をしようと口を開いた直後、近くに居た女子生徒が話を割って声をかけてきた。偶然にもOの声が聞こえてしまったんだろう。彼女は俺に対して心配の眼差しを向けている。

非常にまずい……早速事が大きくなってきてしまっている。早急に一刻も早くこの誤解を解いて彼らを安心させなければいけない。

 

明夢「…………いや、2人ともそれは誤解だ。具合も今は悪くない。俺は大丈夫だ。」

 

男子生徒O「そ、そうだったのか!済まない、俺の勘違いだった……」

 

女子生徒D「そっかぁ〜!それは本当に良かったよ!」

 

改めて説明した結果。誤解は完全に溶け、Oは自分の誤解を認め、女子生徒の方は安心した顔で胸を撫で下ろしている。

まさか、こんな事になるとは思っていなかったので内心焦ってはいたが、丸く収まったのでこちらも一安心と言ったところか。

Oはちょっとした顔見知りなのでまだしも、見ず知らずの男に躊躇いなく声をかけるこの女性に俺はとても驚き、感心した。誤解とはいえ俺のことを心配してくれたのだ。Oも含めこの女性も心の優しい人間だと感じた。一応、お詫びとして一言言っておくか。

 

明夢「済まない。無駄な心配をかけさせてしまった」

 

男子生徒O「いや、君が元気ならそれでいいんだ!本当に良かったよ。

そうだ!また近々君に対戦を申し込んでもいいかい?」

 

女子生徒D「あ!私も君と対戦してみたいな!」

 

明夢「対戦…俺と……?」

 

なんなんだ、この急展開は?

2人からの唐突な対戦の申し込みの流れに俺は今、困惑している。

そんな俺の反応を見た彼らはキョトンとして目を丸くしている。何かおかしなことを言ったか?とでも言いたげな表情である。

いや、誘ってくれたのは素直に喜ばしいことなのだが、今はこの2人に対する興味は一欠片も無い。

正直な所、対戦に関して今自分が興味を抱いているのは天童のみ。獄炎の四魔卿ブラム・ザンドを、邪神アルティメットを所持しているからという理由もあるが、何よりも天童が戦いの最後の最後まで自分自身の実力を出していないからだ。

先週の俺との戦いや昨日の馬神との戦い。2試合とも天童の結果としては敗北となってはいるが、この2試合は対戦の途中でアイツが天童を乗っ取ってしまっていた。もし、仮に天童が最後まで乗っ取られる事無く対戦を継続していたら最後の結果は変わっていたのかもしれない。あのバトルアーマーとは違う結論を天童が持っていたら…という話になるが、そう考えると天童本来の力量がどれくらいあるのかが非常に気になってしまう。

上記のような理由があって現状彼らよりも天童を優先したいという個人的な事情が出来てしまっている。それでもデッキ調整時の錆として何時でも機能してもらえると考えるなら今、対戦に誘ってきたこいつらでも利用価値は充分にあるだろう。

 

明夢「…その誘い、快く引き受けたいところだが、最近忙しくなってきてしまってな……」

 

今の所、彼らとの対戦は行いたくは無いが縁は切らないように適当な言葉を選択した。

内心、彼らを利用しようとする非常に悪意の籠ったドス黒い思考をしてしまっている。だが、印象を悪くしない為に少しだけ微笑んで彼らに答える。

 

女子生徒D「そっかぁ……じゃあ、また機会があるときにね!

あ!君の名前を聞いてもいいかな?」

 

対戦を断られ少し残念そうな顔をした彼女は次に何かを思い出したかのように1歩俺との距離をつめながら俺自身の名前を聞いてきた。

笑顔で一気に距離を縮めてきた彼女に対して、この距離感に違和感を感じて耐えられていない俺は1歩後ろへ下がり距離を保つ。B組の人間といい、目の前の女子生徒といい、何故こうも暑苦しい奴が多いのか……

 

明夢「な、名前か……柊木明夢だ」

 

女子生徒D「柊木明夢君かぁ〜!いい名前だね!じゃあ明夢君のクラスは何組?私のクラスじゃ見ない顔だから……もしかして1年B組かな?」

 

さらにもう1歩、もう1歩と距離を縮めてきた女子生徒。俺に興味を持ったのか、また1つ質問が飛んできた。今度は俺の所属しているクラスのことである。

未知の相手を積極的に知ろうとするその姿勢は、まさにコミュニケーション能力の塊と評してもいいだろう。

 

明夢「あ…あぁ、その通りだ。俺は1年B組の者だ」

 

そんな彼女のハツラツとした元気さに押されてまた1歩後ろに下がった俺は自分の所属しているクラスを教える。

この幻想郷と呼ばれる世界に来てもまだ、会話…コミュニケーションというものに慣れていないという悲惨な状態であるにも関わらず、俺の許容できる人と人との距離を幾度と無く越えてこの女子生徒は話しかけてくる。こういう相手は本当に苦手だ。故に今、ダラダラと額から冷や汗が吹き出てしまっている。

保健室であんな事を得意げに天童に言ってしまったが、こんな無様な姿を彼が見たら何を思うのだろう?またあの鋭いツッコミが来るのだろうか?

 

女子生徒D「やっぱりそうだったんだ!クラスは違うけど、同学年同士だからまた会えるかもだね〜!じゃあそろそろ授業の時間だから私、行くね。また時間ある時にバトルしようね!」

 

最後に満面の笑顔を俺に向けてそう言った彼女は左腕につけている時計の時間を確認した後、大体育館のある方へ走って行ってしまった。

状況処理が間に合っていない俺は置いてけぼりでこの場を去っていく彼女の後ろ姿をただ見守るしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

……………そういえば、彼女の名前を聞くのを忘れていた。機会は無いに等しいと思うが、もし次に彼女を呼ぶ時が来てしまったら苦労することになってしまう。

しかし、まるでハリケーンの様な女だった。B組にも賑やかな奴はいるが彼女の顔はあのクラスでは見たことが無い。同学年と言っていたので恐らく彼女が所属しているのはA組か?

 

男子生徒O「ハハハッ元気な奴だろ?天野さんといいA組は賑やかな連中ばっかりさ」

 

俺の隣で彼女とのやり取りを見ていたOが笑いながらやれやれといった感じで肩をすくめてそう言った。なるほど、という事は先程の女子生徒は1年A組に所属しているという事になる。

そして、そこに所属している彼も彼女達のあのテンションに振り回されている様だ。この学校生活1年目から貧乏くじを引かされている事に俺は少しだけ同情した。

 

明夢「元気が有り余り過ぎている………満更でもないが、流石にあのテンションにはついていけない」

 

男子生徒O「君は天童君に似ているなぁ……」

 

明夢「何?俺が天童に似ている…?」

 

ポツリとそう呟いた彼の言葉が気になった俺は即座に聞き返す。俺が天童に似ているというのは一体どういう事なのだろうか?

 

男子生徒O「いやぁ、すまない。思いっきり彼女に翻弄されている君の姿を天童君と天野さんのやり取りを重ねてしまってね……

彼らの中で何があったかは知らないが、最近はそういうのが全く無くてさ、1つ物足りなさを感じているよ」

 

切なさの篭った声で俺にそう答えた彼の顔は昨日の天童を見る博麗や霧雨、天野と同じような、なんとも言えないくらいの寂しさ、悲しさに染まっていた。

 

明夢「……そうか、お前も天童と天野の事が気になっていたんだな」

 

男子生徒O「あんなに毎日楽しそうに話していたのに、次見た時はお互い何も話さなくなっていたんだ。気になるに決まっているさ。

しかし、お前も…ってことは君も彼らの事が気になっていたのかい?」

 

明夢「いや、あの2人の関係に興味は無い。ただ、彼らを心配する奴らが他にも居たからそう言っただけだ」

 

男子生徒O「……そうか。さて、俺も授業があるから大体育館の方に行くよ。忙しい時期に誘って悪かった。またゆっくりできる時に対戦しよう。では!」

 

明夢「あぁ、その時はよろしく頼む」

 

正直な気持ちを言ってしまうと、この忙しくなるタイミングに俺を対戦に誘わないで欲しかった。だが、誘ってきた彼らに悪気は無い。たまたまタイミングが悪かっただけなのだ。

そして彼らも守らなければいけないものの1つである。

本当に何も考えていない能天気でおめでたい奴らだと今日の男子生徒O、女子生徒の姿を見てそう思ってしまった。俺だって何も起こらなければ何時でも、いくらでも対戦をしていた。だが、奴らがいる可能性があるのなら俺はお前達のようにのんびりと毎日を過ごしては居られない。

 

明夢「何だ……?何なのだ。ただ、彼らと話していただけなのに、このふつふつと湧き上がる不愉快さは」

 

俺はその場から立ち去る彼の後ろ姿を見送りながらそんな風に彼らを見ている自分自身に困惑していた。平和ボケして来るであろう対戦を楽しみにしている彼らに羨ましさ、妬ましさを感じてしまっている自分がいるのだ。

それは多分、争いとは無縁の世界に来て、もう二度と命を賭けて戦うことも無くゆっくりと休んでいられると俺自身、心の何処かでそう思っていたからだ。

……まさか、この俺が他人に対して嫉妬や羨ましさを感じる時が来るとは思ってもみなかった。こんな感情は……初めてだ。

そう感じながら俺は教室に向かって歩を進める。すれ違う生徒達の笑顔が目に移り、賑やかな会話が耳に入ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな素晴らしいこの世界が死と炎と絶望で染まってしまうと考えると震えが止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達の都合でこの世界の平和を壊してしまうかもしれないという不安が。奴らのせいでまた戦わなければいけなくなってしまうのかもしれないという恐怖が。この幻想郷で生きる者達の命を守らなければいけなくなってしまうのかもしれない。それも今の自分1人で行わなければいけないという守護者としての使命が。大きな、とてつもなく大きな重圧となって俺にのしかかってくる。今にも胃に穴が空きそうな気分になる。

「そんなことはありえない」「まだ可能性の段階だ」と考えてしまえば、そこで何も考えずに終わりなのだが先程も言った通り、あのバトルアーマーの言っていた説得力があるあの説………命を落とした筈の俺やあのバトルアーマーが幻想郷にいるということが逆に奴らもこの世界に存在していることの証明になっているのかもしれないのだ。だから、もし最悪の事態が起きてしまってはいけないように警戒しておく必要がある。

そして現れた奴らをもう一度、1機残らず葬り去る。奴らとの戦いが今まで担ってきた俺の使命。大きな責任も皆の感じてきた痛みも全て背負ってきた。いつも通りやってきた事を奴らが現れた時に実行すればいいだけの事…………

深呼吸をして気持ちを整理した俺は次の授業に遅れないよう、早歩きでB組の教室に向けて足を進めた。

 

 

 

 

 

 

……………そうだ、天童が目覚めた事を彼女らに伝えなければ。

あんなに心配していたのだ、この事を知ればきっと彼女らも大いに喜ぶだろう。特に天童の事を1番心配していた天野はな。

昼休憩、A組の教室を訪ねてみるとするか。きっとこの事は彼女達の希望になるだろう。

 

 

 

side change

 

 

 

現在、2時間目と3時間目の間の休憩時間。

俺は美弥、霊夢、魔理沙、早苗、レイと大体育館へ向かって廊下を歩いている。次の授業、3時間目の科目はバトルスピリッツとなっている。

今日は前々から決まっていた実践の日ということで大体育館を使って自分のデッキを試そうという時間である。勿論、勝利の数も成績に大きく響いてくるものとなっている。……かなり厳しい授業だけど、その分クラスの皆と対戦が出来るし、コミュニケーションも取れるから俺はこの種目をこの世界での楽しみの1つとして過ごしている。

今日はどんなデッキとどんなプレイヤーと会えるのか…それを考えただけで心が滾り、自然と笑みがこぼれてしまう。

 

霊夢「…美弥、あんた大丈夫?」

 

美弥「…え?」

 

そう思って次の授業を楽しみにしていた俺の横で唐突に霊夢が俺達の前を歩く美弥に声をかけた。朝から落ち込んでいた美弥が心配になって声をかけたんだろう。

しかし、それに対する美弥はまさに上の空状態でワンテンポ遅れてから霊夢の言葉に反応してしまっている。

そんな彼女を俺の隣で歩く霊夢は真っ直ぐな眼差しを向けて見つめている。

 

美弥「あ…………だ、大丈夫だよ!霊夢ちゃん。それよりも!は、早く体育館に行かないと授業に遅れちゃうよ」

 

しばらくの間が空いて気まずく感じてしまったのか、美弥は笑顔を無理矢理作って俺達より先に廊下を早足で歩いて行ってしまった。

自分の今の気持ちを笑顔で取り繕って周りに心配をさせないとする彼女。俺達を置いて去って行くその後ろ姿がとても小さく、悲しいと感じてしまった。

 

霊夢「あれは大丈夫じゃないわね……自分の事で皆に心配をかけないように振舞ってはいたけど、全然隠しきれてないわ。駆の事で相当ショックを受けている様ね……」

 

ダン「あぁ…俺もそう思う。心配だったから授業中も彼女の様子を少しだけ見ていたんだ。今日の彼女は授業どころじゃないって感じだった」

 

右手を顎に当てて先に行く美弥の後ろ姿を見つめる霊夢。

実際にあんなに元気だった彼女があそこまで落ち込むとは思わなかった。多分、昨日レイが美弥をフォローした時に言っていた[仲直り]という単語。駆と美弥が俺達の知らない所で喧嘩をしてしまったんだろう。

仲直りがしたくても、話したくても話せないという現状がさらにプラスして彼女の心を苦しめているんだと思う。

 

魔理沙「ん〜〜しかしなぁ……。駆が死んだって決まっているわけじゃないし、実際の所いつまでもあんな風に落ち込まれるとそれを見ているこっちも滅入って来ちゃうんだぜ…」

 

少し不機嫌な顔をしている魔理沙が腕を組んでそう言った。彼女の気持ちも分からなくも無い。実際に今の雰囲気は賑やかや楽しいとは程遠くかけ離れてしまっているからだ。

しかし、その発言はあまりにも無神経では無いか?と思った俺は魔理沙に物申そうと口を開けようとした。

 

レイ「ちょっと待ってよ魔理沙ちゃん!美弥ちゃんが1番、駆君の傍にいたから……だからこそ1番仲良くしていた駆君の事が心配なんだよ!?その言い方は無いよ!」

 

俺が魔理沙に突っ込もうと口を開ける前に後ろにいるレイが魔理沙を注意し始めた。前を見て歩いているので彼女の表情は分からないがその声の圧に背筋が凍りかける程、俺はゾッとした。

だが、レイが言ってることは正しいと俺は思う。俺が言いたかったことを全て言ってくれた。

 

魔理沙「分かってるさ…美弥が1番、駆の事を想っていることくらい………でも!!

まだアイツが死んだって決まった訳じゃないし、ヒョイっと起き上がって、いつも通りの姿を見せてくれるかもしれないじゃないか……!」

 

俯いてそう訴える魔理沙の声は…震えていた。

さらに続けて彼女は言う。

 

魔理沙「……私が言いたいのは、まだ希望はあるって事なんだよ。

だから美弥には希望を持って、いつも通りの明るい笑顔でいて欲しい。それで、いつか目を覚ました駆と話し合って、仲直りして欲しいんだよ。まぁ、これは私の独り善がりな願望の押し付けに過ぎないんだけどさ……」

 

話し終えた魔理沙の表情は悲しさに満ち溢れていた。さっきの発言から無神経だと思ってしまったが、彼女もちゃんと美弥や駆の事を思っていたのだ。

まだ絶望する時ではないと、美弥には希望を持って元気でいて欲しかったという彼女の願いが愚痴という形で声に出てしまったんだと思う。

 

レイ「ううん、その気持ち、とてもいい事だと思う。ごめんなさい…魔理沙ちゃんが美弥ちゃんの事考えてないって思って怒鳴っちゃって…」

 

魔理沙「いや、レイが謝る必要は無いさ。それにさっきの言い方は完全に私が間違っていた。誤解させてごめんな……」

 

お互いに謝ることで場は治まったが何とも言えない気まずさによって作られた静寂が今の俺たちを支配した。

 

 

 

 

 

霊夢「………今の美弥に希望を持たせる…か。美弥をあの状態から立ち上がらせるには骨が折れそうね。何かいい案があればいいんだけど…」

 

その静寂を切り裂く様に霊夢がぽつりと呟いた。

いい案か………とは言ってもそう簡単にポンポンと出てくるものじゃない。美弥にとって希望になる事、彼女の心を立ち上がらせる方法は駆がポイントになってくるからだ。だからと言って「駆は生きている」「いつか目を覚ます」と伝えるだけでは彼女の中の不安は取り除かれないのではないか?彼女は駆と話し合いたいと思っているのなら、今重要なのは「駆が目を覚ましたのか」ということ。それさえ分かれば彼女の不安は一気に取り除かれることになるんじゃないかと思う。

しかし、それを確かめることが出来ない今、その他の方法を必死に考えなければならないのだが効果的ないい案が出てこない。

どうすればいいのだろう……?

 

早苗「う〜ん………あまり深く考えずに気分転換という目的にすれば案が出やすいのかなと思います。1つ例をあげるならバトルスピリッツでの対戦ですかね。私的に非常に効果的なのかなと思いますが……どうでしょう?それに丁度、次の授業がバトルスピリッツですし」

 

レイ「あ!それいい案だと思うよ早苗ちゃん!!私は賛成!」

 

ふとした早苗の案に指をパチンと鳴らして元気に賛成するレイ。

静まり返っていた雰囲気の中、後ろからいきなり大きな声が耳に刺さり、思わずビクッと両肩が上がってしまった。

 

霊夢「私もそう思うわ」

 

魔理沙「私もその意見に賛成だぜ!」

 

隣の霊夢も魔理沙も驚いた表情をしていたが直ぐに納得した表情になった2人が早苗の意見に賛成を示していた。

 

ダン「俺もその案、とてもいいと思うよ。実の所、全く案が出なかったんだ」

 

これで満場一致で早苗の意見が賛成となった。バトルスピリッツで気分転換は思いつかなかった。早苗の閃きに俺は感心し、感謝した。

さて……次の問題は誰が美弥の対戦相手を努めるかだ。

 

ダン「じゃあ、次だ。美弥の対戦相手は誰がやるんだ?」

 

早くしなければ授業が始まってしまうということを視野に入れている俺は歩きながら彼女の対戦相手をどうするか、皆に問いかけた。

そして次に「誰もやらないなら俺が対戦相手になる」と言おうとしたのだが早速立候補者が現れた。

 

魔理沙「私にやらせてくれないか?」

 

真剣な瞳で美弥の相手を立候補をしたのは魔理沙だった。

 

魔理沙「少しでもいい、美弥の気持ちを楽にさせてあげたいんだ」

 

熱意の篭った声で俺たちに訴えかける彼女。俺はその姿勢に心打たれた。

 

ダン「俺は賛成だ。皆は?」

 

天童と美弥の事を1番想っているのは彼女なのかもしれない。

そう思った俺は魔理沙を美弥の対戦相手にすることに賛成し振り向く。後ろにいるレイも早苗も笑顔で頷いていた。

 

霊夢「あんたに任せるわ。頑張ってきなさい、魔理沙」

 

魔理沙の肩を掴んでそう言う霊夢。

霊夢も魔理沙が対戦相手となる事に賛成の意志を表している。

 

魔理沙「あぁ、まかせろ…!!霊夢。皆もありがとうな!」

 

そんな霊夢にサムズアップする魔理沙。

彼女達はどんな関係なのだろう?小さい頃からの幼なじみだったりするのかな?

お互いを信頼し合うかの様な霊夢と魔理沙の掛け合いを見ていた俺はふとそう思った。

実際、まだ幻想郷に来てそんなに経っていないので、それぞれの人間関係だったり、どこに何があるかなんて全く分からない状態なのだ。

百瀬果実に導かれて迷い込んだあの日のグラン・ロロの出来事を思い出す。

 

早苗「もうこんな時間!?早く大体育館に行きましょう!遅刻してしまいます〜!!」

 

ノスタルジーに浸りかけた所に突如、焦りに焦った早苗の声が耳に入ってきた。

ふと、俺も左腕につけた腕時計を見て確認を行う。

早苗の言う通り、時計の針は授業開始直前まで進んでいた。話し合っている間にこんなにも時間が経っていたとは思わなかった。

 

レイ「ヤバい、ヤバい!急がなきゃ!!」

 

早苗に言われてハッと気づいたレイが俺たちを追い越し、1人早く走っていってしまった。

 

早苗「ちょ、ちょっと待ってくださ〜い!!」

 

そんなレイを追いかけるように早苗が俺達を追い越し走り去る。

2人とも誰かにぶつかって怪我でもしなければいいんだけどな……。

 

魔理沙「ははは!!元気な奴らだな〜!」

 

霊夢「全く、こういう時程、落ち着いて対処するものなのに……」

 

焦るレイや早苗とは対照的に冷静さを保っている霊夢と魔理沙。流石と言いたいところだが、魔理沙の場合は冷静ではなく、呑気あるいはマイペースと言った方がいいのだろうか?

 

ダン「……俺達も行こう。入学早々、授業に遅刻は嫌だろ?」

 

霊夢「それもそうね」

 

魔理沙「だな!」

 

取り残された俺達は早苗達に続き、全速力で大体育館に向かった。

間に合えばいいんだけどな……

 

 

 

〜少年、少女移動中〜

 

 

 

ダン「はぁ…はぁ…はぁ………何とか、間に合ったな」

 

魔理沙「あぁ……でも流石にあそこから全力疾走でここに来るのはキツイな……」

 

現在地は大体育館の第2バトルステージ。左腕の時計で時間を見ると、その針は授業開始1分前を指していた。廊下を全速力で走った結果、授業開始ギリギリでここにたどり着くことが出来たが、その途中で他の生徒とぶつかりそうになったり先生に注意されたりもした。

反省、次からはちゃんと時間に気を配りつつ行動しないとな。

 

霊夢「2人とも大丈夫?」

 

肩で息をする俺と魔理沙を見た霊夢が少しだけ首を傾げながらそう言う。

細身である彼女。しかし、外見によらず体力があることに俺は驚いた。あの距離を全速力で走ったのにも関わらず平然とした顔でその場に立っている。毎日、トレーニングでも行っているのだろうか?

 

ダン「俺は大丈夫だ。問題は無いよ」

 

魔理沙「体力が……落ちたのかな?駆よりはあると思っているんだけど、これはヤバいかもなぁ……」

 

霊夢「魔理沙ったら……運動時間を削ってデッキ研究に力を入れ過ぎたせいね。最近、まともにトレーニングしてないでしょ?」

 

魔理沙「ぐっ……その言葉は私に効くぜぇ…霊夢」

 

霊夢の的確な指摘が心に刺さったのか、ガックシと項垂れる魔理沙。どうやら2人は運動を日々の習慣にしている様だ。そして魔理沙の事情を霊夢が知っているのは、あの2人は同じ寮部屋で過ごしていると考えられる。

 

霊夢「デッキの研究も大切だけど、日々の運動も大切よ。両立くらい出来るでしよ?」

 

魔理沙「……出来ないことは無い。やってみるさ」

 

少し間を置いて渋々承諾する魔理沙。デッキ調整に専念したい気持ちと運動もしなければいけないという気持ちに挟まれて非常に難しそうな顔をしている。

 

レイ「おーい!皆〜!!」

 

そんな霊夢と魔理沙の微笑ましいやり取りを横で見ていた所に少し遠目から俺たちを呼ぶレイの声が聞こえた。その方向に目を向けると先に走っていったレイと早苗、そして美弥がこちらに来ていた。

 

美弥「もう!皆、遅いよ……いつもは5分前には移動は済んでたのに今日はやけに遅かったから、何かあったのかなと思って心配したんだよ?」

 

そう言って心配の眼差しを俺を含めた3人に向ける美弥。普段の彼女らしからぬ、少し神経質な面に驚いたが俺たちのことを心配してくれていた事には感謝だ。

 

霊夢「ごめんね、美弥。ゆっくり皆と話しながら移動していたら遅ちゃったの」

 

美弥「そ、そうだったんだね……」

 

魔理沙「心配してくれてありがとうな!やっぱり美弥は優しいな!」

 

美弥「そうかな…?えへへ」

 

不安な表情から少し安心したように笑みを見せる美弥。でもそこにいつも通りの活気は無く、どこか寂しさを感じさせる。

駆の事が本当に心配であるのが、彼女の顔を見るだけでヒシヒシと伝わってくる。

 

魔理沙「……あ、そうだ。なぁ美弥、今日のバトルスピリッツの授業、一発目の対戦は私としないか?」

 

美弥「…………え?」

 

まるで思い出したかのように、そしてさりげなく美弥に対戦の申し込みを行う魔理沙。いきなりの対戦の申し込みに目をパチパチさせて驚き、困惑する美弥。

どのタイミングで美弥をバトルに誘うのか、それが気になっていたのだが、まさかこのタイミングで誘うとは思わなかった。彼女は話の切り出し方が上手い。

 

魔理沙「ん?どうした、もう先客がいるのか?」

 

美弥「ううん、実は今まで他の人からこういう風に誘われた事ってあんまり無かったから…ちょっとビックリしてね」

 

魔理沙「そうだったのか……だったらこれからもっとお前を誘うよ!学校生活は始まったばかりだ。皆と一緒にいっぱい思い出作っていこうぜ、美弥」

 

美弥「魔理沙ちゃん……ありがとう…!」

 

思いやりのある魔理沙の言葉に少し泣きそうになりながらも笑顔を見せる美弥。あんなに元気で皆とコミュニケーションを取る彼女が他人から誘われた事が無かったとは……

詮索をするつもりは無いけど、たぶん過去に何かしらの辛いことがあったと考えられる。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

不意に大体育館に鈴が鳴り響いた。これは授業開始の鈴だ。

 

マギサ「はーい!!皆こっちに集まって!授業を始めるわよ〜」

 

なっ!いつの間に来ていたんだ…?バトルスピリッツの担当教師であるマギサ先生の声がステージの真ん中から響く。その声に反応した生徒は次々とそちらの方に向かっていく。

 

早苗「マギサ先生、いつの間に!?私達も集合しましょう!!」

 

魔理沙「あぁ!じゃあ美弥、また後でよろしくな!」

 

美弥「うん、魔理沙ちゃん対戦よろしくね…!」

 

 

 

 

To be continued……




次回予告
想いは人を動かす力となる。
想いは他人を大切にする心。
想いは分かり合う為の対話の始まり。

次回、バトルスピリッツ 欠落

Turn-36 あなたを想うように

その想いをその気持ちを君に(貴方に)伝えられたら……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。