自分は無事に全アイテム回収と5万ポイント到達しました。
ベースアップで大事ですね。
「長船共学園高等部1年古波蔵エレン」
黒い防具にナイトブルーの服を着た特殊部隊所属の警官からアサルトライフルを向けられるエレン。
「御前試合に出場していたな」
苔石が押収した生徒手帳を見ながら告げると獅童も腕を組んだまま威嚇する様な鋭い目付きのまま問い掛けるが、苔石もエレンが敵である加工性を考慮してか左手の拳を握りしめている。
「おお、お恥ずかしい、不甲斐ない結果でシタ」
「見え透いたお惚けですわね」
此花が一蹴する。
折神紫が政治的な仕事を行う際には助手兼護衛として付いていく事もある此花は相手の言動を見切る能力は此の中では1番高い。
「あのー……そろそろ手ぇ降ろしてもいいデスか? あなた達と戦うつもりはコレッポッチもありませんカラ」
その言葉に信用ならないと言う目を向ける親衛隊の3人。
「携帯と御刀は一時的だが、預からせて貰う。酷く取り扱わない事は約束しよう」
刀使も刀宮も自分の獲物は大切にする。
珠鋼や和鋼の御刀は使用者を鋼側が選び、選ばれるだけでも世間からはある種での英雄的扱いだ。そんな御刀達を使用者達は敬意の様な物を抱く場合が多い。
仮に心鋼や愚鋼の武器だったとしても先祖代々の品だったり、地元の神社などに奉納されていた物だったり、職人の誇りが詰まった物、自分のお金で買った物であったりと愛着や誇りがある為に乱雑に扱われる事を嫌う。
苔石は心鋼造の御刀を使う刀宮として、他人の御刀などに対しては最低限の接し方がある。と考え、それを実践している。
此花や獅童は流石に敵である可能性が高い相手に丁重すぎる対応に思う所が無い訳では無い。だが、互いに生まれが違えば譲れない場所も違う事を明夜の発言から理解しており、呆れと共にこれが苔石礎々石と言う人物なのだと安心感にも似た感情を抱きながら何も言わずに苔石に武器と携帯の回収を任せる。
「ふぁ〜、手が痺れました〜〜」
「で、こんな所で何をしていた」
獅童の言葉にエレンは御前試合での結果から学長に怒られそうなので、叛逆者を捕まえに来たと言うが親衛隊の面々は疑いの眼差しを向ける。
「これは少し、詳しく話を聞かなくてはならないな」
苔石の言葉で一旦はエレンへも事情聴取は御開きとなったが苔石はテントに戻ろうとする獅童と此花の肩を叩いてテント裏に連れて行く。
「こんな場所に連れ出して、どうしたんだ?」
「そうですわね。何かお話がありますの?」
2人からは少し珍しいと言う目線を投げられた苔石が直ぐに口を開いた。
「単刀直入に言う。彼女の尋問は俺が行う」
その言葉に2人が息を呑んだのが苔石の目に移って直ぐに獅童が怒気を投げ付ける様に睨む。
「君も聞いていただろう。今回の作戦の全権指揮は僕にあると」
「聞いている。だが、作戦は生き物。常に臨機応変にだ」
「2人とも落ち着いて下さい。権力で我を押し通すのは真希さんらしくありませんわよ? 礎々石も言葉を選ぶか増やして下さい」
苔石が何を言わんとしているのか悟った此花が2人を手で制する。苔石は獅童の堪忍袋の緒に触れる様な事を言うなと言う意味を込めて、獅童には苔石が言わんとしている事があるのだから落ち着けと言う意味でだ。
「すまん。だが、2人は今回の敗北で……心が乱れていないか?」
後半の言葉に再び獅童と此花が息を呑み、さらに身体をビクつかせる2人。と言うよりも親衛隊の半分を占める4人は特殊な出自故に後半の言葉が秘める意味は他の人間の物に比べると遥かに重い意味を秘めている。
「特に獅童。その目をあの女に見せるつもりか?」
そう言われた獅童が何かに気付いて、目を閉じて深呼吸をする。深呼吸を終えるといつもの獅童に戻る。
「やはり、貴方に任せますわ」
そう言って苔石に対して背を向ける此花。
その目は先程までの獅童と同じ様に赤銅色に輝いていた。
それを知識で知る苔石は不用意に人前に出す訳には行かないと再認識しながらエレンを閉じ込めるテントへと歩を進める。
「(あれが人体実験の影響か?)」
そんな親衛隊を見ていた人物が1人いた。
目立つ色合いをした長船の制服を泥や土、草や木の枝で隠したカルロだった。
場所は親衛隊の本陣からかなり離れた場所を携帯可能な程に小型化された電子双眼鏡でよく見える距離の木の根元。
そして電子双眼鏡越しだが、しっかりと親衛隊2人の目が赤銅色に輝いているのを確認した。
その光景はバッチリ録画済みだが、ぶっちゃけ編集ででっち上げたと言われてもおかしくない映像だった。
「(これだけじゃ証拠は心許ないな……)」
折神家が行う人体実験の証拠を押さえる。これも今回の件で派遣された長船の4人に与えられた任務だった。
エレンは懐に潜り込んで物的証拠を。カルロはそんなエレンの意図を携帯端末に届いたメッセージから察してた脱出の際の援護の為に直ぐに行動に出来る位置に移動して待機していた。
今回は隠密性確保の為に少数で動く為に薫と巧には姫和達を目的地までの案内をさせている。
「あ、4席が聴取で2と3席は別行動か」
離れている為に此処まで来るとは思えないが一応の為に獅童と此花の行き先を確認するカルロだが、自分とは関係ない場所に移動すると判断すると本陣と獅童、本陣から此花へと順番に観察しながら次の手を考える。
「乗り込むのは論外だな」
相手は本陣、しかも罠師とも言うべき満月が控えている場所故に侵入者に対する罠が掛けられている可能性もある。
無論ながら味方が掛かる可能性もあるが予め教えておいて近づかせない、躱し方を教えるなどをすれば問題無い。
罠とは無さそうな場所に仕掛ける物であると同時にあるかもしれないと言う情報だけでも相手に制約を掛けられる存在だ。
それに弓とナイフ装備だけのカルロが乗り込んだとしても罠の有無に関係無く数の暴力で制圧されかねないし、親衛隊5人とぶつかり合うだけの余裕も実力も無い。
「やるなら1人づつ確実にだが……」
3人か4人くらいには不自然さが出てしまうから警戒されて余計にエレンを危険に晒す事になる。
カルロが森の中で考えを纏めようとしているのと同じ時間のテントの中では空になったコンビニ弁当の容器がエレンの前に置かれていた。
「いやー、コンビニ弁当は付け合わせの漬物まで温めるのがネックデスネ」
「それは俺も同意だ。漬物は常温か冷たいのに限る。まぁ、たくあんを熱いご飯と食べるのは許そう」
「ワカリマス! 熱いご飯に漬物の塩っ気がベストマッチデ〜ス!」
何故か漬物談義で盛り上がる2人。同じ価値観の人間と出会えた故か何処か友情の様な物が繋がった様に感じつつも苔石が仕事だと切り出す。
「伊豆山中に放たれたコンテナだが……逃亡中の3人が用意出来る代物では無い」
コンテナ。それもただの箱型コンテナでは無く、S装備搬送用に作成されたジェットエンジン搭載の特別製のコンテナだ。
「? 1人は出来そうデスが?」
エレンが問い掛けると苔石はファインダーを開くと誰の事だと伺う。わかってはいるがそれをこちらからは出さない。
意味もなくファインダーを捲る所作をしているとエレンが口を開いた。
「トリダ? カムイって読むんデスかね?」
「鳥多勝武居。確かに彼は愛知県の三河地方を中心に展開する総合企業、徳川財閥の血縁関係にある家に、末席だが名を連ねている」
徳川財閥。
武宮や刀使を組織として機能するだけの人数と設備、システムを民間で保有する数少ない財閥の1つだ。そして極少数だがS装備の運用に必要な設備を一通り保有するだけの財力と技術力がある組織だ。
苔石は苛立ちを示すかの様にファインダーを音を立てて閉じる。
「だが、それは無い」
言い切る苔石。
親衛隊、と言うよりも友衛は鳥多と言う名字を聞いてから直ぐに素性を調べさせた後に家族と徳川財閥に対して何か連絡はあったかと問い合わせると直ぐに『真実を知りに行ってまいります。関係をお断ち下さい』と短く毛筆で書かれた手紙を寄越して居た事が確認された。
これにより今の彼は今の自分達には関係無いとして振舞っていると返答された。
実際に獅童の前に家主である父親が来た上で手紙と自身の口から言われた言葉と目に獅童は嘘はないと判断した。友衛も獅童の嘘を見抜く能力は評価しており、獅童の言葉を受け入れた。
「用意出来るのはお前……いや、お前の保護者だ」
「確かにパパとママはS装備開発の責任者デス……ですケド……」
「開発者が射出までは出来ない……なら祖父なら?」
その言葉にエレンは目を見開くが、すぐに戻して戯けた様子で祖父は行方が分からずコンタクトも出来ないと言ってのけるが、目を見開いた時点で苔石にとっては嘘であると見るには十分だった。
「まぁ、俺たちは腐っても司法機関だ」
これ以上の取り調べは時間の無駄と判断したのかファイルを小脇に挟んで立ち上がる。
これが実家での裁量ならもう少しやりようがあった苔石だが、流石に今の『親衛隊』の苔石礎々石では出来ない。
「話したくないならそれでいい。ただ、此処に来た他の長船の生徒だが……無事は保証しない」
「待ってください」
テントを出て行こうとする直前にエレンが呼び止める。
「薫と巧、カルロは無事なんですか?」
「さぁな。仕事なんだ、手心は加えられん」
そう言い残して、テントを出た苔石に此花が近付いてくる。
「先程ですが、一般の方から山の中を走る制服姿の女子生徒と男子生徒の姿を何人も見たと言う通報がありましたわ」
「こんな場所を制服姿で……ね。まっ、高確率で奴らだな。夜見と明夜の状態は?」
「夜見はまだ休ませるべきという意見を明夜から貰ってますわ」
「ならば、明夜には夜見の護衛と治療で待機して貰う。どうだ?」
「わたくしもそれがよろしいと思いますわ。彼女はいつも無理しますから……」
「よし! 真希を連れて来よう。今度こそ……そして一網打尽のこの好機を逃す訳には行きませんわね」……台詞を取るのやめてくれ」
そう講義する苔石に此花は懐かしさと可愛らしさが混同した微笑みを浮かべる。
「貴方はいつもそうですわ。熱くなると短絡的になって読み易くなるんです。それで何回も私や真希さん、童子さんに負けてますわよね?」
親衛隊入隊まで御前試合では苔石を含めた親衛隊の第1席から第4席の4人が常連になっており、4人が4人をライバルと認めているが苔石だけが全戦全敗している。
それでも熱くなった苔石が放つ強さを相手に残りの3人はギリギリでの勝利を飾っており、その実力を認めざるを得ないと言うものだった。
「さ、行きますわよ」
苔石に声を掛けて歩き出した此花を苔石は両手を見つめながら握ると後を追いかけた。