Gévaudan   作:シャズ
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日々是鍛錬

 今日も今日とてレミリアはボロボロだ。以前の優雅な生活とは一転し、泥臭い毎日を送っている。だが、打ちのめされた心は良い方向で修復された。

 

 彼女は人間を弱者と侮っていた。だが、人間の中にもまた怪物は存在する。弱者の中には弱者しか存在しない訳ではないのだ。少なくとも、普通の人間相手であればそもそもレミリアは負けはしない。しかし、細部まで対策し、背水の覚悟を持って魂を燃やす人間の強さもまた、侮ってはいけないのだ。だからこそ、彼女の父と母は敗れたのである。最期の力を振り絞り、何とか紅魔館を転移させたのだろう。

 

 

 

 ――俺からすれば今のレミリアも弱者の一人でしかない。

 

 

 驕っていた彼女に対し、テュランが告げたひと言は余りにも痛烈で、そして自分の未熟さを思い知らされた。同じ大妖怪として一族を統べ、長い年月を生きたテュランにそれを言われる事はただただショックである。とは言えそれもまた事実。証拠として、テュランと古い付き合いのある二人の狼族、スコルとハティを目の当たりにした時は余りのプレッシャーに足が震える程だ。一族としての格を見せつけられた。

 

 スコルとハティはテュランの式神、もしくは使い魔と言っていい程に繋がりが深く、そして最古の友。普段は星の影に潜んでいるが、求められれば即座に馳せ参じる。彼らの役割は探索と偵察。スコルは一度でも太陽に映し出された『表』の世界であれば、ハティは月の如く『裏』に隠された世界、それぞれ求める人や場所を探知する事が可能。これこそテュランが恐れられる要素の一つ、目を付けられれば逃げ場など何処にもない。

 

 

 テュランを始めとして、スコルとハティも遥か太古より戦い抜いたからこそ当然だが、妖力の底もそうだが戦闘経験は表しきれない。一度、三人のバトルロワイヤル形式の戦いを見た時など、レミリアは、もはやプライドなどかなぐり捨ててテーブルの下で丸まって隠れる程の衝撃。もし三人が結界を張り直していなければ余波で国が数か所滅びるほどである。

 

 そんな訳で、大妖怪としての格と自らの立場を思い知らされた所で、ボロボロになったレミリアの前に立ちふさがるのは太陽の如き黄金の髪を持つスコル。一方で、人間であるが故にどうしても霊力や妖力の関係で何も出来ない咲夜に対して、月の如き銀色の髪を持つハティが対応した。

 

 それぞれ専属の家庭教師の如く、今日も今日とて二人を叩きのめすのであった。

 

 

 

 では一方でテュランはと言えば、紅魔館の地下にて、強すぎる力を持て余すフランドールの下に通っていた。

 

「あ、叔父様!!」

 

「よぅフラン、力加減はどうだ」

 

「んっとね、まだダメ。どうしても壊れちゃう」

 

 フランドールの目の前には破裂したであろう血痕。攫った罪人を使っての鍛錬だ。彼女はレミリアと違い、既にパワー自体は十分にある、まさにギフテッドという奴だ。所がどっこい全て都合よく進む訳が無く、デメリットとして、制御しきれず力に飲まれ、最終的には自壊してしまう点である。特性として狂気の属性が付与されているのがネックだろう。

 

 普段はこうして話も出来るが、力の制御が徐々にあやふやになり、加減のメーターを振り切ると、抑えきれない破壊衝動が一気に押し寄せてしまうのだ。不意打ち気味だったとはいえ、テュランの指先を弾き飛ばしたとなれば将来も有望だが、その将来を自分で消滅させるのは笑い話にすらならない。

 

「こればっかりは時間掛けるしかねぇからな。それじゃあ、遊ぶか」

 

「うん!!」

 

 子供の様に純粋に、しかし行われるのは荒れ狂う破壊の嵐。外に中に、紅魔館は以前にもまして賑やかである。

 

 

 それを片付ける役目の咲夜は、僅かに振動する館を見て静かに涙を流すのであった。

 

「むっ、どうかしましたか、咲夜」

 

「いえ、この後の片付けを考えてつい」

 

 ハティから受ける苦笑いと同情を今はありがたく受け止めつつも、今はナイフに込める退魔の術式を勉強し続ける。

 

 

 

 

 

 

「最近賑やかになりましたねー」

 

 食堂にて、そんな呑気な事を呟いたのは美鈴だった。一斉に五名の視線を受けた事でたじろぐも、へこたれずに続けるメンタルをテュランは評価する。

 

「前までは三人ですし、妹様も時折ですが交えての食事も出来るようになっていますし」

 

「俺は主人に頼まれてこうしているだけ、その内消える」

 

 美鈴の言葉を遮る様に、金色の髪を揺らしながらスコルは冷たく言い放つ。彼は慣れ合いをする為に訪れている訳ではない、テュランに頼まれてレミリアを叩きあげているだけの事。

 

「スコルの言い方はともかく、それに関しては私もそうです。賑やかさを堪能するには貴女方はまだまだ弱い。少なくとも、人間のハンターに敵は居ないと我々に思わせてからでないと、この平穏も唐突に崩れ落ちる事もおかしくはありませんからね」

 

 そしてそれはハティも同じだ。彼女は月を象徴する狼だからこそ、太陽の様な激しさを持つスコルに比べて物腰は落ち着いている。だが、その狂気性はフランドールを遥かに凌ぐほどであり、一周して落ち着いている様に見えるだけ。そしてスコルとハティに共通しえいるのは、紅魔館に住まう者に愛着など一切湧いていないという事。あくまでもテュランが懇意にしているからこそ、丁寧に接しているだけだ。

 

 もしテュランが彼女等に愛想を尽かして見限ったのであれば、無駄な時間を奪った代償として跡形もなく消し飛ばすだろう。面倒を見ているテュランに恥をかかせないように精進しろ、という意味合いがハティの発言に込められていた。

 

「レミリアも妖力の底も少しづつ伸びている。本来であれば、もうちょっと妖力の質も量も多い筈だ。そうでないのは、お前が現状に胡坐を掻いて怠けていたからこそだ。その分の遅れを取り戻す為に毎日痛い目に合っている、そのことを忘れないように」

 

「えぇ、テュラン殿」

 

 レミリアの未熟な点は、今テュランが述べた様に経験不足と、言ってしまえば運動不足という点だろう。長い年月を過ぎた妖怪が強力なのは、昔から生存権を獲得する為に数多の妖怪と戦い続けたからである。そもそも、妖怪になる条件というのは大まかに分けて三つ。

 

 一つ、生まれながらにして妖怪であること、そして親から種族を与えられる事。

 

 二つ、長い年月を過ぎた動物が変化に必要な妖力を貯め、妖怪へと進化する事。

 

 三つ、外的な要因によって妖怪に変化、もしくは変化させられる事。

 

 

 一つ目は単純だ。星に命を祝福され、人ではなく妖怪として自然発生する事である。これは紅魔館の主だった面子の内、テュランが当てはまる。それ以外のレミリア、フランドール、美鈴、スコル、ハティは親を持つ生み出された存在だ。

 

 人狼という妖怪として生まれたテュランは、狼を率いる血を偶然とはいえフェンリルから与えられた存在。故に良血統に潜む、将来を約束された膨大な力を狙う存在は多く、生まれた時から戦い続けた。

 

 時には死の淵まで追いやられたり、妖力や魔力の使いすぎて倒れた事もある。限界まで使い続ける事で、体はエネルギーを失い倒れる。そして、次回からはそうならない様にと肉体が器を作り替え、更に妖力や魔力を増やしていく。これを積み重ねる事で、莫大な力を手にする事が出来るのだ。

 

 しかし、自然界でそれをすんなりと行える事は難しい。当然、強くなる条件というのは自然に住まう妖怪たち全てが理解している。そして、強いモノ程隙が少ない。だからこそ、体を作り替えている瞬間が一番危険なのだ。考えなしに、鍛錬でただ限界まで魔力や妖力を使い、失い倒れ、完全回復し器と容積を増やして次へ、とはいかない。そこを狙い、奪い取り、楽に強くなる方法を選ぶモノもまた多かった。

 

 当然、テュランは自力で強くなったが、時にはそう言った手法を取る事も数多くあった。そうして厳しい生存競争を生き抜いた結果が今の彼だ。現存する大妖怪の母数が少ない点が、簡単ではない事を証明している。選ばれて数が少なくなったわけではない、お互いに喰らい合う事で数を減らし、生き残ったからこそ強者なのである。

 

 

 さて、二つ目だがこれに関してはイヌ科やネコ科の動物が非常に分かりやすい。例えば山犬や山猫が、それなりの年数を経てある時を境に尻尾が二又になる。猫又や、送り犬または送り狼などが顕著だ。動物から妖怪に変化した瞬間は力が弱い。他の動物はともかく、妖怪からすれば地力が違う為に恰好の餌。

 

 だからこそ、猫又は人間の里、あるいは魔女の使い魔になる事で魔力と知識を貯える、近くで魔力の残滓を吸い取り、自力で生き抜くだけの力を手に入れるのだ。

 

 送り犬や送り狼は逸話にある通り、人間等から施しを受けたり、或いは喰らう事で少しづつ力を蓄えるのだ。

 

 三つ目に関しては様々な原因があるが、一番多いケースとしては魔女が行う実験の余波だろう。複雑に絡み合った術式が、使い手の魔力、マナ、オドに影響を与えた結果、思わぬ副産物を生み出す事もある。既に確立された術式ならともかく、深淵の叡智を求める欲深い魔女は当然、オリジナルの術式を生み出す。その中では、そもそも魔女という、人間の延長線上の種族であるが故の限界に気付き、異なる生物へと変化する事で対応するという考えもある。

 

 

 例えば炎の魔術適正を求める為に、イフリートの力の種子を自らに埋め込み、半妖精と魔女のハーフになる者、悪魔と契約し自らを異形のモノへと変化させる。それ以外では、強い感情が自然界の魔力を刺激し、変化するパターン等々だ。三つ目の要因は全体的に、自分から選んで変化する魔女タイプが多いため、上記二つとはやや目的が異なる。変化したとしても、妖怪ではなく人間に近い側でしかないのだ。

 

 だが、上記三つに共通しているのは、厳しい状況に追い詰められるという点だろう。

 

 そのために、スコルには徹底的にレミリアを敗北させ、死の淵に立つ限界まで力を使わせて、これまでの遅れを取り返させる役割を。

 

 咲夜には基本的に魔術や魔法といった神秘に大しての把握と退魔の勉強である。だが咲夜に関しては将来的に、永久に従者であることを望んだため、魔女になるという選択肢は無かった様だ。何方かと言えば、魔術等は最低限の基礎で終わり、妖怪専属のハンター、狩人の知識を収める事で、攻められた際の対策や綻びを学んでいる。

 

 今はまだ下積みの時期。この土台から大きな花が咲く日はまだまだ先の事だ。








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