モブ「パープル色のライダーが逃がしてくれたんです!!」   作:オラオラドララ

70 / 92
アーシア「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。昨年は祝うことが何度かあった私ですが、新しい年になってもそれは変わりません。そう!祝うことこそが、私の新年の信念!はい!アーシアじゃ〜〜ないと!」

木場「今のは、新しい年である『新年』と、信じる自分の考えである『信念』をかけた非常に面白いギャグだ。笑ってやってくれ」

アーシア「あーーっ!ギャグを説明しないでください〜!!」

それではどうぞ。


第六十話 人間は皆イマジンなんだよ

三人称side

 

鳥のグリード。その名はアンク。彼はゼノヴィアと同じ聖剣使いである紫藤イリナの肉体に憑依し、己の手に全てのコアメダルを集めるため、今代のオーズであるゼノヴィアに手を貸していた。

 

誰にも文句を言われず、自由気ままにしたいがため、ゼノヴィアを困らせる目的も兼ねて乗っ取っていた身体を放り出していったが、中々新しい身体を見つけることが出来ず行き詰まっている。

 

しかし、彼は諦めなかった。元より、そんなタマではあるまいし、欲深い彼はどんな手段を使っても生き残り、他のグリードを出し抜こうと目論む。そんな彼は今……。

 

「なんだこれ!?」

 

「動くぞ!」

 

「ツチノコじゃね!?」

 

絶賛、ツチノコ扱いされていた。

 

「痛っ!おい!やめろ!つつくな!!」

 

恐らく、学校帰りであろう小学生たちに集られ、ツチノコと勘違いされた挙句に弄られるアンク。木の棒で突かれたり、持ち上げられて振り回されたりなど散々な扱いであった。

 

「ぐっ……クソ……」

 

やっと解放されても喜ぶわけもなく、腕だけの不便さを改めて感じ、よろよろと浮かびながら再び町を彷徨うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアスとの挨拶が終わったディオドラ・アスタロト。彼は冥界に帰る前にゴンと共に駒王町とは別の町に訪れ、観光を楽しんでいた。

 

が、折角人間界に来たのだから少しは楽しんでも良いだろうと思った所以で来たものの、肝心のディオドラは街ですれ違う女性を見るばかり。

 

(はぁ〜……あそこにいる女性……なんて綺麗な方だ。メイクのついでに、どこかでお茶でも……)

 

当然、それを分かっているゴンは面白くなかった。膨れっ面になりながらディオドラの手をぐいぐいと引っ張る。

 

「ディオドラがまた綺麗なお姉さんをナンパしようとしている」

 

「バッ!な、何を言ってるんだゴン!デタラメを言うんじゃない!!僕は彼女の美しい顔を更に磨いてあげようと思っただけだ!」

 

「ふーん……」

 

隣にいる察しの良いゴンにジト目で見られ、中々ナンパまで踏み出せずにいた。言い訳が苦しくて笑顔を作るのがとても辛そうである。

 

「ディオドラ、トイレ行きたい」

 

「むっ……仕方ないな。……おっ、あの公園に公衆トイレがあるな。用を足すついでに休憩でもするか」

 

「うん!」

 

しかし、なんだかんだでゴンに優しいディオドラ。ゴンがトイレに行っている間、メイク道具の手入れでもしようかと思って背負っているケースを下ろそうとする。だが

 

(なんだか僕も行きたくなってしまった……。まぁ、ここにメイク道具を置いておけば、先にゴンが来ても僕がトイレに行ったことに気づくだろう)

 

ディオドラも用を足すため、男子トイレに足を踏み入れる。まずは手洗い場の前を通り過ぎようとするが……。

 

キィィン……キィィン……!

 

「……なんだ?」

 

手洗い場に設置されている鏡から不安を煽る金属音のようなものが聞こえ、足を止める。映るのは自分の姿のみで、その時は特に何もなかったと思い、音は気のせいだと決めつけたディオドラ。

 

しかし、次の瞬間……。

 

ガシッ!

 

「うぐっ!?」

 

突如、鏡の中から出てきた腕に首を掴まれた。突然のことで困惑するディオドラだが、彼は何とか脱出しようと首を掴んでいる右手を解こうともがく……が、徐々に力が強くなって解くことが出来ない。

 

(なんだこいつ……!?いきなり鏡の中から……!!)

 

「僕は君だ。けど、君は僕じゃない」

 

「な……に……!?」

 

自分と全く同じ声で話しかけてきた鏡の中のディオドラに、ディオドラ本人は困惑する。

 

(確か、リアスの女王は鏡の中の世界と現実の世界を自由に行き来出来ると聞いていたが、そこに偽者が住み着いているなんて聞いてないぞ!!)

 

鏡の中の世界のことは詳しくは知らない。だが、彼はある一つの推測が頭に浮かび上がる。

 

(これが偽者だとしたら、コイツのせいでアーシアさんが……!?)

 

先程、アーシアとリアスからの話を聞いて、もしやこの偽者がアーシアを追放に陥れる原因となった張本人だと考えたのだ。確証に至ってはいないが、可能性としては十分にあり得ると思った。アーシアから話を聞かされていなかったら分からず終いとなっていたかもしれない。

 

そして、この推測が正しいのだとすれば、これを放っておくわけにはいかない。ここで倒すべきだと、そんな風に自分の心に現れた使命感を持って目の前の偽者に目を睨みつけた。

 

ミラーワールドから手を伸ばしてきた偽者のディオドラは、ニヤリとあくどい笑みを浮かべながら、ヌルリと全身を現実世界に出してきた。その直後、ディオドラの首を持ち上げながら外へと出て行き、更にググッと首を掴む力を強める。

 

「時は満ちた。今日から僕が君になる。そう、僕がディオドラ・アスタロトだ」

 

「ふざ……けるな……!!」

 

理解出来ないことを言われ腹が立ったディオドラは、偽者の自分の横腹を蹴り、何とか締められていた首を自力で解いた。そして、一度距離を取り、掌に自身の魔力を蓄積させる。

 

「「ハァッ!」」

 

だが、それは偽者も同じだった。全く同じ出力、質でエネルギー波を放ち、互いのエネルギーがぶつかり合って拮抗状態となった。

 

「僕と全く同じ魔力だと!?コイツ、ただの偽者じゃないのか……!!」

 

突如現れた偽者のディオドラ。果たして、彼は何者なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ゼノヴィアはアンク探しのために、メダルシステム搭載の自販機に寄っていた。まずは追跡の為のタカカンドロイドを一つ。そして、通信機や移動型のライブカメラにも使えるバッタカンドロイドを二つ用意した。

 

タカカンドロイドは、脚にバッタカンドロイドを引っかけ、ゼノヴィアの指示に応じてアンクを探しに行く。もし見つけたら、ゼノヴィアが持っているバッタカンドロイドを合わせ、二つのバッタカンドロイドを通じて通信を自動で行えるという仕組みだ。

 

「本当にどこに行ったんだ……アイツ……!」

 

捜索を始めてから半日経ったものの、アンクは中々見つからず、時間だけが過ぎていって焦るばかり。

 

「オーズ!」

 

「この声は……ガメルか」

 

まるで自分を探していたかのように現れたガメル。しかも、先程自身が生み出したゾウヤミーもおまけ付きで引き連れている。

 

「変身……あっ、そうだ……アンクがいないと変身できないんだ……」

 

当然、メダルが無ければ変身できないゼノヴィアは、こういう時にアンクがいないと困って仕方が無い。またもや焦るが……。

 

「やはりヤミーか……しかもガメルもか。こんな時に……!」

 

「ッ!アンク!!」

 

「なっ…ゼノヴィア……!」

 

どうやら、ガメルとヤミーの気配を辿ってアンクもこの場に誘われたようだ。まさかゼノヴィアに出くわすとは思わなかったのか、彼も驚きの仕草で右腕を動かしている。

 

「アンク!お前一体どこに行ってたんだ!早くイリナの身体に戻ってくれ!」

 

「お前が最近ごちゃごちゃうるせぇからだ!俺に命令するんじゃねぇ!!」

 

「うっ!いや、まぁ……最近は確かに扱いが悪かったと思うけど……」

 

割とゼノヴィアの予想以上に早い再会だったが、簡単にアンクは言うことも聞いてくれず、ゼノヴィアはなんとか説得を続ける。

 

「お前だって身体が無かったら困るだろ!イリナは駒王病院で緊急治療を受けてるから早く行ってくれ!!」

 

「だから命令するなぁっ!!」

 

「ッ〜!!あぁもうわかった!ごめんなさいぃ!だから早く戻って!!いてっ!!」

 

「イテェッ!」

 

ゼノヴィアは、ヤケクソ気味に思いっきり頭を下げて懇願したが、その拍子にアンクと頭が激突してしまう。もはやコントである。

 

「ヌンッ!!」

 

「「ぐぁぁぁぁっ!!」」

 

そんなコントを黙って見てあげるほど、ゾウヤミーは温厚ではない。鈍重な足を踏み込み、そこから衝撃波を広がらせることでゼノヴィア達を吹き飛ばした。

 

「ぐっ……このままだとお前のメダルも奪われるぞ!」

 

「……チッ、仕方ない。上手く使ってきっちり倒せよ!」

 

やっとアンクはイリナの身体に戻るつもりでゼノヴィアに三枚メダルを渡した。奪われて負けた際に、アンクからの怒号は避けたいと願うゼノヴィアは、倒れた身体を起き上がらせ、変身を開始する。

 

「変身ッ!」

 

『ライオン!ウナギ!サソリ!』

 

亜種形態であるラウソに変身したゼノヴィア。すると、ガメルがその姿を見て憤慨する。

 

「メズールのメダル、返せ!」

 

どうやら、メズールのことが大好きな彼は、ウナギメダルを見て取り返すことにやる気を燃やしているようだ。目の敵のようにゼノヴィアを睨みつけ、ヤミーそっちのけで突進する。

 

「まずはガメルの方から退いてもらおうか!」

 

が、流石にこれを直接受けるほどゼノヴィアは優しくない。ひらりと躱し、ウナギウィップを操って突進で通り過ぎていったガメルに巻きつけた。

 

「あ、あれ?」

 

巻き付けたのはいいものの、引っ張っても引っ張っても1ミリも動かない。これはどうしたことか。

 

「うぅ〜……邪魔だ!」

 

鬱陶しいと思ったガメルは、なんと、力で無理矢理ウナギウィップを千切って拘束から脱出してしまった。

 

「うっそぉっ!?」

 

(ガメルのやつ……前にあった時よりもパワーが桁違いに上がっている……!)

 

あまりの怪力にゼノヴィアも驚くしかない。

 

だが、コアメダルを一枚こちらが奪っているというのに以前と比べて段違いにパワーアップしたのは何故か。考えられるのは新たにコアメダルを手に入れたか、セルメダルを大量に取り込んだということ。可能性としては後者の方が大きいだろうとゼノヴィアは踏んだ。

 

「どうすれば……ハッ、そうだ!確か……」

 

スピードは遅いガメルは、攻撃力と防御力に特化したグリード。チマチマと小さい攻撃を与え続けてもダメージはないだろう。

 

しかし、ゼノヴィアはそこで気づいた。ライオンメダルによる強い光のことを。前にガメルとメズールにデュランダルによる光が通じたのなら、同じように光を放つライオンメダルも通じると考えたのだ。

 

(アンクは、それを分かっていてライオンメダルを……)

 

やはり、グリードについて一番よく知っているアンクは的確に相性が良いメダルをゼノヴィアに渡していたようだ。こういう時の頼もしさがあるから、無駄に邪険に出来ないので複雑な気持ちになるゼノヴィアだった。

 

「よしっ!」

 

発光に怯んだ所で、硬い防御を突破できる凄まじい一撃を与えるのが一番効果的だと思い、ゼノヴィアは頭部のライオンメダルの力を解放しようとした。だが

 

「させないよ」

 

ブォォォッ!!

 

「な、なに!?うぐ……!!ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

突如、黄色の突風が螺旋状に襲い掛かる。横からの攻撃に反応が遅れ、風による衝撃で飛ばされると同時にベルトに異常が起き、ライオンメダルがベルトから放り出されるように飛び出してしまった。

 

パシッ!

 

「フフッ……頂いたよ」

 

「お前は……カ、カザリ……!!」

 

吹っ飛んだライオンメダルが奪われ、変身が解かれたゼノヴィアは現れたカザリを睨みつける。どうやら、今まで隠れていた彼にいっぱい食わされたようだ。

 

「確かに、ガメルやガメルのヤミーには光が効くけど、僕には通用しない。残念だったね」

 

そう、最初から近くで隠れていたカザリは、自分のメダルを取り返すために敢えてガメルをオーズに差し向けたのだ。そうすれば、ガメルの弱点を突くためにアンクがゼノヴィアにライオンメダルを与えると確信したから。

 

「やれー!」

 

「ウオオオオオオッ!!」

 

ゾウヤミーがガメルの指示に呼応するように、雄叫びを上げる。すると、その雄叫びがエネルギーの波紋となるように町に広がっていく。

 

「な、なんだ…これは………力が………抜け………い、し…き…が……」

 

ゼノヴィアはそのエネルギーに当てられ、立ち上がることすらできずに、グルグルと回る視界に混乱しながら目を閉じていく。すると、やがて身体が『砂』と化して黄色に光る人玉となって空へと上昇していった。

 

「ふーん、こんな能力なんだ。やっぱりガメルの本能に従って能力が生まれたんだね」

 

「うぅ〜、メズールのメダル、取り返せなかった〜」

 

「次に機会があるさ。さっ、一旦帰ろうか」

 

メズールのメダルをゼノヴィアから奪えず、悲しがるガメルにカザリはそう言うと、彼等は共にアジトへと帰還していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……アレは……!?」

 

アンクを探していた木場は、突如起きた現象を目にして走っていたバイクを止めた。なんと、空に数えるのもバカらしくなるほどの人玉が散らばるように浮いていたのだ。

 

すると、木場はその直後であることに気付いた。

 

(周りがやけに静か過ぎる。人の声ひとつ聞こえない上、車の音すらも……)

 

周りに全く人の気配がないのだ。まるで、この町が人のいないゴーストタウンにでもなったことに状況が飲み込めず、まずはリアスに連絡を取った。

 

「部長。そっちで何か変わった様子はないか?」

 

通信を繋げる木場。すると、通信を返すリアスもどうやら、今起きている現象について既に気付いていた。

 

『えぇ。たった今、ソー・ナンスから連絡があったわ。どうやら、ソー・ナンスを除いたシトリー眷属全てが行方不明となっているらしいの。それだけでなく、親御さんも』

 

「空に黄色の人玉のようなものが浮いているのが見えるか?」

 

『それも分かっているわ。恐らく、アレが町の人間達よ。いきなり消えたことと関連性があるのは間違いない。それで祐斗、よく聞きなさい。ネガタロスが今いるグレモリー眷属全てをネガデンライナーに集めろってアーシアに伝えたらしいわ。私が部員を集めるから、今から指定する場所に来て頂戴。時間厳守よ』

 

「了解だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回はリアスだけだったが、今回は小猫と木場もネガデンライナーに招かれる。座席に座っているのはアーシア、リアス、小猫、木場。端にはネガタロスが黙々とコーヒーを飲んでいた。

 

また、ここに居ないグレモリー眷属は、ギャスパー、朱乃、そしてゼノヴィア。彼等は連絡が取れず、仕方なく今いるだけの人員を集めた。

 

「はーい、コーヒーどうぞ〜♪」

 

ネガデンライナーに着くと、全員にナオミ特製のコーヒーが無料提供される。が、当然初めて渡される者達の反応は良くない。特にニオイに敏感な小猫にとっては嗅いだこともないコーヒーの匂いなので、彼女は警戒していた。

 

(部長、これって……)

 

(えぇ、飲むには相当の勇気が必要よ)

 

如何にも不味そうなコーヒーだと察した小猫は顔を引きつらせながらリアスにアイコンタクトと念話で伝え合う。予想出来ない味に挑戦するのを躊躇う小猫だったが、そこに猛者が現れる。

 

「このコーヒー……全く美味しくないぞ」

 

(祐斗先輩!?)

 

「えぇ〜!?自信作なのに〜!!どうして殆どのお客さんの口には合わないんでしょう……?」

 

まさかの木場が速攻で飲んで味を確かめ、更には率直な感想を述べてナオミはショックを受ける。

 

「そもそも味の全てがダメだ」

 

「えっ?」

 

「まずはこのコーヒー。一見普通に見えるが、何故か酸味が苦味を越えてしまっている。豆を何種類か混ぜたものだな。しかし、それがかえって味をこんがらがる結果となってしまったんだ。この壁から出ている蛇口からコーヒーが流れてきているが、そもそも衛生的に大丈夫なのか?心配だ。それと次に、食紅や食青で色付けされているかもしれないこの色取り取りのホイップクリームだが、これが全てを台無しにしている。口では表現しづらい味だ。これをなんとかしなければ提供するのすら失礼なものだ。それにクリームだけがトッピングだと見た目に華が無い。客を引き付けるためのインパクトを強めることをお勧めする」

 

「なんか、祐斗先輩がおかしくなってる……」

 

「しかもめっちゃ早口よ。よっぽど口に合わなかったから何がなんでも味を矯正したいのかしら……」

 

「既にあらゆるコーヒーの味はラーニング済みだ。早速取り掛かろう」

 

「ち、ちょっとぉ!勝手に厨房に入らないでくださいぃぃ〜!」

 

ナオミの静止も効かず、木場は厨房へとまっしぐら。珍しく積極的な彼であった。そして一度、場が静まったのを見計らってオーナーが口を開いた。

 

「さて、あなた方もアーシアくんから話を聞いているでしょうが一応自己紹介を。私はこのネガデンライナーのオーナーです。宜しくお願いします」

 

「どうも」

 

初めて会う小猫はオーナーに対してお辞儀。彼は、現状を分かりやすくする為に自分の分かっていることを淡々と説明し始める。

 

「早速本題に移りましょう。まず、あの空に浮かんでいる人玉達……アレは、イマジンが『形になる前』のものです」

 

「形になる前?」

 

「イマジンとは、過去に来てしまうと実体を失い、あのような光の玉となって現れます。次に契約者となる者をみつけ、願いを問い、それを聞き入れることでその契約者のイメージによって実体を創り出すのです。因みに、ネガタロスくんもアーシアくんのイメージによってその姿を保っているのですよ」

 

「つまるところ、現在、駒王町にいる者達の殆どはイマジンとなってしまい、この現象はイマジンの能力によるものだと?」

 

「これが誰の仕業なのかは分かりません。……こればかりは攻撃を受けた人達に聞くのがいいでしょう。リアス君、君はグレモリー眷属を全員集めようとしたらしいですが、どうやらまだ足りないようですねぇ」

 

「ッ!まさか、ここにいない者は全員……」

 

その言葉で察する。ここにいないゼノヴィア達は、イマジンとなってしまったが故、先程は連絡が取れなくなったのだと。

 

「彼らは、今意識がはっきりとはしておらず、空を彷徨っています。ここで彼らをしっかりとイメージすれば、その想像に引き寄せられてこの場に辿り着く可能性はあるでしょう。では、アーシアくん」

 

「は、はい!」

 

「君の仲間である者を、頭の中で形と人格をイメージしてみてください」

 

「わ、分かりました!」

 

(えっと……仲間……ソウルメイト……)

 

アーシアは、ゼノヴィア達をここに呼び寄せる為に彼等の人格と姿をイメージする。その時、偶然にもメンバーが自分の夢の中に出てきた三人と同じだったからか、その夢に出てきた()()を思い出してしまった。

 

すると、どこからともなく四つの人玉がネガデンライナーに来着し、アーシアの身体の中に入る。やがて彼女から大量の砂が落ちてくると、みるみるうちに砂が四人の人物の姿を形成されていった。

 

「ぐっ……なんか……頭が痛いですわ……」

 

「確か、僕は副部長と戦っていて……」

 

「うっ……あれ?ガメルは……というかここはどこだ!?」

 

砂から徐々に人としての形を作り、朱乃、ギャスパー、ゼノヴィアがそのまま出来上がった。

 

しかし、来るのはここに居なかったグレモリー眷属の三人かと思われたが、アーシアが自分の夢に出てきた四人をイメージしてしまったからか、それに加えて『彼』も来てしまった。

 

「あぅ……うーん……」

 

「イッセー先輩!?」

 

「イッセーもあのヤミーの能力によってイマジンにされたのね……というか、かなりげっそりしてない……?」

 

「あっ、その……これはあまり深く聞かないで欲しいというか……そっとしておいてあげてください……」

 

何故かグロッキーになっているイッセーは、座席に横になって何やら唸っている。このような状態になった原因は小猫だけが知っているようだが、この場では深く語られなかった。

 

「ここ、どこですの……?」

 

「四人とも、簡潔に説明するから良く聞いて。ここはネガデンライナー。アーシアが時間を移動する為に使用する列車で、緊急事態だからここに集められた。そして、貴方達は何者かによってネガタロスと同じような存在、つまりイマジンにされてしまったのよ」

 

「イマジンになった?……まさか、さっきのヤミーのせいか?」

 

「あら、どうやらゼノヴィアは何か知っているようね」

 

「あ、あぁ……私は先程、ガメルと奴が引き連れていたヤミーと戦っていたんだ。そこにカザリが乱入して数位的不利に陥ったが、その直後にヤミーが何やら仕掛けてきて……そこからの記憶がないんだ。目が覚めて気付いたらここにいて……」

 

「ふむ……ゼノヴィアの話によると、これはイマジンじゃなくてヤミーの仕業と……でも、ヤミーがどうして人をイマジンにする能力なんか持ってたのかしら?」

 

「それは……考えられるのは、『欲望のリンク』かもしれない」

 

「欲望のリンク?」

 

「前にカザリがイマジンを親にしてヤミーを生み出した時、その際のメダルの生成量は通常の倍加速となって上昇していたんだ。アンクが言うには、契約者と繋がっているイマジンを親にしたことで、それを叶えようとするイマジンとその契約者の『二重の欲望』がそうさせたんじゃないかって……」

 

「……だとしたら、今回の事態はヤミーだけじゃなくてイマジンも絡んでるということになりますね。けど、どうしてこの四人?私達には何も影響が無いのには何か理由があるのでしょうか?」

 

確かに、それは質問した小猫だけでなく全員が疑問に思ったことだ。グレモリー眷属はゼノヴィア、朱乃、ギャスパー。加えてイッセー。シトリー眷属はソーナ以外。そして、町の人々。この共通点は一体なんなのか。

 

「なるほど……『人間』ね」

 

いち早く気づいたのは、リアスだった。普段バカに見えるだろうが、彼女は頭が悪いのではない。むしろ良い方だ。日本の常識に疎いだけで、彼女もイッセーには負けるが学業の成績は優秀である。

 

「部長、どういうことですか?」

 

「今回、ヤミーの能力によってイマジン化された者の共通点は、元の種族に『人間の遺伝子を持つ者』だった。朱乃は堕天使と人間、ギャスパーは吸血鬼と人間。この二人は混血の種族だけど、イッセーとゼノヴィアは生粋の人間」

 

「神です……」

 

ボソッと弱々しく呟くイッセーの声が聞こえたような気がするが、皆スルー。

 

「なるほど、だからロイミュードの裕斗先輩と妖怪の私と純血悪魔の部長にはヤミーの能力による影響が無かった……」

 

それならば、ソーナ以外のシトリー眷属もイマジンとなって空を彷徨っているのにも説明はつく。なぜなら、ソーナ以外の眷属は皆、元人間なのだから。

 

「あれ、でもアーシアは?」

 

「彼女は特異点なので、時間に関する影響を受けません。恐らく、アーシア君は過去から来た存在であるイマジンに関する異能に対して耐性があるのでしょうねぇ。今回もヤミーの能力()()ならともかく、イマジンが関わってしまったのなら、彼女に影響が及ばないのは納得が行きます。いわば彼女は時空において特別な存在……過去を変えようとするイマジンにとっては『天敵』といっても過言ではありませんからね」

 

取り敢えず、今起きている現象の原因は判明した。後からここに来た朱乃達も自分達が置かれた状況を理解したようだ。

 

「状況は分かりましたよ。それよりも部長、大事なことがあるんです。イッセー先輩と副部長は、スタークの正体について何か分かっているらしいんです。それを隠そうとして……」

 

「チッ、余計なことを……リアス、聞く必要はありませんわ」

 

なにやら告げ口をするように進言するギャスパーに対して舌打ちをする朱乃は、その話をすぐに切り捨てようとする。

 

「ブラッドスターク……確かに、私達にとってその正体は謎に包まれている。知りたくないと言えば嘘になる。それを隠そうとする朱乃達にも、理由を聞きたいけど、今はそんな問答をしている場合ではないわ。今やるべきことの優先事項を履き違えるのはダメよ」

 

「部長はスタークについて何も知らないから、そんな呑気なこと言えるんですよ!部長や、もしかしたら他の人だって無関係じゃないかもしれない!奴の正体に一歩近づけるチャンスを、この女とそこで寝ている男は無駄にしようとしてるんですよ!?」

 

「ギャーくん……」

 

(ここまで焦って声を荒げるギャーくんは滅多に見ない……本当に、スタークの正体が一歩近づくの?でも、それを止めようとする副部長や……イッセー先輩も……なのかな?どうして?言えない理由があるのかな……その理由ってなんだろう……深く問い詰めてもいいのかな……)

 

「おい!教えろ!なんか知ってるんだろ!?寝てないで答えろや!!」

 

「あぅ〜……」

 

ギャスパーは、分かってくれないリアス達に苛立ち、今度はイッセーに掴みかかる。だが、イッセーは答える気力もないのか揺らされて気持ち悪そうに顔を歪めるだけだ。

 

「いい加減にしなさい!ダメなものはダメなのよ!!」

 

「お、落ち着け二人とも!!」

 

朱乃はそれを止めようとギャスパー取っ組み合いになり、またそれを止めようとゼノヴィアが割って入るが、更にこんがらがって止まりもしない。

 

「悠長にしてられないんだよ!奴に散々苦しめられた人も大勢いるんだ!絶対に奴のしっぽを掴んで見せる!これはチャンスなんだ!!」

 

「だから!少しは待てって言ってんでしょ!!人の気持ちを考えなさい!!」

 

限りなくヒートアップしていく彼等の口喧嘩に、リアスは見ていられなかった。

 

「やめなさい!!今ここで貴方達が争っても意味ないでしょ!!今は、この事態を起こしたヤミーをなんとかするのが最優先よ!!」

 

「うるさいわね!そもそもは貴女……ッ……」

 

急に何かを思い出したかのように黙る朱乃。何故、急に自分に矛先が向いたのか分からずにリアスも困惑する。

 

「貴女……が、なんなのかしら?」

 

「……何でもないわ。……えぇ、その通りですわ。まずはそのヤミーを片付けましょう」

 

(……急に副部長が冷静になった?部長が話に加わろうとした途端に……)

 

なんだかいつもの朱乃とは違うと感じた小猫は驚く。それはリアスも同じで、この時からスタークの正体に食い付いてしまい、しばらく気になって頭から離れることがなかった。

 

「何やら、別の問題で揉めているようですが、今後君達がまともに生活を送れるようになる方法をお教えします」

 

話が止み、静かになったところでオーナーが、外で実体化できなくなった朱乃達に助言するかのように口を開いた。

 

「そ、それは……?」

 

「アーシア君と契約を交わすことです。ネガタロス君と同じようにアーシア君と契約を交わすことによって、外でも実体を保てる事ができます」

 

「契約……でも、契約を交わさないでヤミーを倒せば元に戻るのでは?」

 

「倒せば全て元に戻る……なんて保証は何処にもありませんよ。可能性があるだけで」

 

それもそうだと、若干落ち込むアーシア。そもそも、イマジンを介してのヤミー生成などオーナーにとっても異例の事態なのだ。何が起きるかなど全て分かっておらず、彼は余計な希望をアーシア達には与えなかった。

 

「既に君達はイマジンとしてアーシアくんに取り憑いている。イマジンとして活動するならば、それなりのリスクが伴うことをお忘れなく」

 

「リスク……?」

 

「そのリスクとは………アーシア君が死ぬと、取り憑いたイマジンも次第に消滅することです」

 

「し、消滅!?どうしてそうなるんですか!?」

 

まさか、そこまで行くとは思わずリアスはここに来て狼狽えてしまう。

 

「イマジンが過去で存在するためには契約者のイメージが必要不可欠。イメージする契約者がいなくなれば、その存在をイメージしてくれる者がいなくなると同義。よって、イマジンは実体が保てなくなります。イマジンも時間と同じように、かなりデリケートですからねぇ。扱いには……気を付けなくては」

 

「……つまり、文字通りの……運命共同体……ってことね……」

 

悔しいが、なってしまったものは仕方ないと一応割り切ったリアス。小猫も、今の事態をどうにかするべく模索しようと協力を惜しまないつもりでいた。だが、そのことに納得しないものが……。

 

「僕は嫌だね。そんなこと」

 

「ギャスパーくん……」

 

「確かに……自分の命が他人に握られるってのも……どうも安心出来ませんわ」

 

「副部長さん……」

 

二人は、アーシアと契約するつもりはないようだ。取り憑いている時点でもう遅いが、少なくとも進んで協力する気にはなれなかった。

 

「わ、私は……アーシアなら信用出来るよ。自分の命が握られてるって感じはしないかな……」

 

この状況を割と素直に受け入れてしまっているゼノヴィアは、今の状態でも構わないと言う。彼女らしいとも言えるが、朱乃はそれを聞いて首を横に振る。

 

「……ゼノヴィアちゃん、そういうことではありませんわ」

 

「えっ?」

 

朱乃やギャスパーが言いたいのは、人間性としてアーシアが信用出来るという点ではなかった。そこを問題視していないのだ。

 

「だってアーシア先輩は……弱いじゃないですか……」

 

「ッ!」

 

そう、彼らが言いたいのは、アーシア自身の実力の問題だった。確かに、いつもネガタロスに憑依されて戦ってはいるものの、アーシア自身の戦闘力はきっとこの中で最弱だ。その者に自分の命を預けることに、躊躇いを感じた。

 

言いづらいのもあったからか、ギャスパーは若干目を逸らしている。しかし、アーシアはそれを聞いて落ち込むかと思いきや……。

 

「……フッ」

 

何故か、アーシアは不敵に笑っていた。

 

「お二人共、まだ私の邪王心眼を分かっていないようですねぇ。この私の本当の実力を」

 

「「は?」」

 

「私のことを、ただエクスプロージョンだけしか放てない小娘かと思っているかもしれませんが、本当はまだまだ真の力を隠しているんです!それを証明してみせます!」

 

アーシアは高らかにそう言うと、急ぐようにネガデンライナーを出て行く。彼女の言動と行動が理解出来ず、朱乃とギャスパーだけでなく小猫もポカーンとしていた。

 

「アーシア……」

 

てっきり、リアスは彼女がショックを受けるかと思っていた。この前、冥界で二人きりで話していた時は、彼女は珍しく自身の強さに対して謙遜していた。だから、今ここでギャスパーにはっきり『弱い』と言われてショックを受けて顔を曇らせるかと思ったので、彼女が見せた反応が予想外だったことに驚いたのだ。

 

「全く意味が分からない。それに、こんなとこでジッとしていられないのに……クソッ……どうすれば……」

 

「だったら、勝手に外出ていって実体失ってきたらどうですか。煩い奴がいなくなって清々しますわ」

 

「おい、お前あんまり図に乗んなよ……!!」

 

朱乃の言葉でまた火が付いたギャスパーが彼女に掴みかかろうとする。また乱闘になると思ったので、リアスが力づくで止めようと動き出した。だが、その瞬間……。

 

ドンッ!!

 

何かが激突したような音が車内に響く。音がした方向を見ると、ネガタロスが踵でテーブルを叩いたのが分かる。彼は表情こそ変わらないが、声音だけで怒りをギャスパー達に向けているのは確かだった。

 

「いい加減にしやがれ。ナオミのコーヒーが不味くなるだろうが。これ以上、車内ではしゃぐんじゃねぇ、ガキども」

 

いつもはアーシアの保護者のような感じの彼だが、今はヤクザの兄貴のような強面な雰囲気を出し、皆が押し黙ってしまった。彼はアーシアを追いかけようと座席から立ち上がると、ズカズカと歩きながら車両内を出ようとする。

 

「おい、ロリコンと蛇女(ヘビおんな)

 

ドアを開け、ギャスパーと朱乃に声をかける。ぶっきらぼうになりながらも、彼らはネガタロスに視線を向ける。

 

「……何ですか」

 

「確かにアイツ(アーシア)は弱ぇよ。いつも変な呪文や厨二クセェ言葉をペラペラと喋って、自分が特別な存在だと思い込んでいるかのように背伸びをして強がるやつだ」

 

アーシアも本当は心の何処かで自分が一番弱いことを知って、それでも尚みんなと一緒に戦おうとしていたのだ。彼女のことを一番分かっているネガタロスだからこそ言えることを二人に伝えた。

 

「だかな、アイツは他人からバカにされるほど軟弱じゃねぇ。今は分かんねーかもしれねぇがな」

 

そう言い、ネガデンライナーを出ていった。彼が出ていくのを見て、リアスもリアスで自分のやるべきことをする為、座席から立ち上がった。

 

「私達もゆっくりしていられないわね。小猫。貴女はイリナさんの容体を見に行ってくれるかしら」

 

「分かりました。何か急変があれば連絡します」

 

「あっ、アンクは多分イリナの身体に戻っていったと思う……もしかしたら病院には居ないかも……」

 

「分かったわ。それじゃ、他のみんなは……」

 

リアスはそれ以外の朱乃やギャスパーなどにも指示を出そうとする。契約はしてないので実体化できない彼らはここで待機するしかないのだが、いまいち場の雰囲気が重く、その上、チームとしての纏まりが欠けているようにも感じた。このままでは士気が低下するばかりで、数日後に行われるゲームにも影響する可能性がある故、リアスは心配になる。

 

「みんな、コーヒーを入れたぞ。飲んでみろ。それと、チョコレートも用意した。一緒に食べると良い」

 

だが、こんな時でも冷静なのか呑気なのか、それとも天然か。先程ナオミのコーヒーにケチをつけていた木場が厨房からコーヒーを持ってきて皆に提供した。

 

「ありがとう祐斗。折角だから頂きましょう。ほら、朱乃もギャスパーも。二人とも、まずは心を落ち着かせなさい」

 

「……そうね」

 

「……はい」

 

中には声を荒げて疲れた喉を潤したい者もいたので、頂いたコーヒーを皆で同時に口に含んだ。その味は……。

 

「「「「「めちゃくちゃ美味しい………」」」」」

 

「怒りはストレスを溜めるだけだ。チョコレートの甘味とコーヒーの苦味で、心と身体をリフレッシュするのがいいだろう」

 

(((((何この子良い子過ぎッ!!)))))

 

木場だけがいつも通りの平常運転だからか、彼の行動で少しだけ心が癒されたような気がした。だが、その代わりナオミは自分の淹れたコーヒーよりも好評だったことで、更にショックを受けたようだ。

 




カウント・ザ・メダル。現在、オーズの使えるメダルは?

タカ、プテラ 2枚ずつ
ゴリラ、ウナギ、トリケラ、ティラノ、エビ、カニ、サソリ 1枚ずつ

ライオン 1枚奪われる


次回『アーシアの強さ』

「お前、僕に釣られてみる?」

次回もお楽しみに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。