モブ「パープル色のライダーが逃がしてくれたんです!!」   作:オラオラドララ

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アーシア「この本によれば、普通ではない高校生、兵藤一誠。彼には将来ゲームマスターになる未来が待っていた。自分のセンスがダサいと言われ落ち込む彼は正直役に立たないので蚊帳の外へ。

イマジンとなってしまったギャスパー、朱乃、ゼノヴィアの三人。その元凶であるヤミーの対処に追われるリアス・グレモリーは、ネガデンライナーを出て行った私とネガタロスを追いかける。

ここで問題。このイマジン化現象、見事解決に導いた救世主は一体だれでしょう?次回の話で判明しますので、よくお考え下さい」


第六十一話 アーシアの強さ

三人称side

 

アーシア達がネガデンライナーを出て行った後、朱乃達は暫く会話もせず、心の整理をする為、大人しく座席に座っていた。

 

しかし、その中でもギャスパーだけは、一人食堂車両から出て、その近くの壁に背中をもたらせながらポツンと座り込んでいた。

 

「ヴァレリー……元気かな」

 

目尻に涙を溜める彼は、ボソッと誰かの名前らしきものを呟き、懐からまだグレモリー眷属の誰にも見せたことのない写真を取り出す。そこに写っていたのは、一人の女の子とギャスパーのツーショット。懐かしむかのように、彼はその写真をジッと見つめていた。

 

「!」

 

写真を見ていると、コツン、コツンと、彼が出てきたドアの向こうから足音が聞こえてくることで、誰かが近くにやってくると気づいたギャスパーは、急いで漏れていた涙を腕で拭い、持っていた写真を懐に隠した。

 

「副部長……」

 

やってきたのは、さっきまで互いの主張をぶちまけて喧嘩にも近い争いをしていた朱乃だった。彼女は、ギャスパーに用があるのか、そのまま彼に近づく。当然、その行動に対して戸惑ってしまうギャスパーは座りながらも若干身構えた。

 

「な、なんですか……?」

 

「頭を冷やしてきましたわ。さっきのことは私にも非がある。きっと、何か事情を抱えているであろう貴方のことを軽視しすぎた発言は謝ります」

 

「えっ……」

 

朱乃の言葉を聞いた瞬間、ポカーンと開いた口を塞がないまま彼女を見つめるギャスパー。だが、すぐに我に帰り、突然の謝罪にパニック気味に言い返した。

 

「き、急に優しくならないでくださいよ!気持ち悪い!」

 

「いや、気持ち悪いってなによ!?くっ!このロリコンは落ち込んでも口が減りませんわね……!!本っ当、後輩なのに全然可愛くない……!!」

 

割と誠意を持って謝ったのに、毒を吐かれて若干いつものお嬢様口調が抜けてしまう朱乃。謝ったのが逆に恥ずかしくなったようである。

 

「ったく……」

 

しかし、喧嘩する気にもなれず、何故かギャスパーの隣に座る朱乃。ギャスパーもそれを拒まず、それを受け入れる。取り敢えず、何でもいいので互いに落ち着きたいと思ったのだろう。

 

会話は始まらず、暫く沈黙が続き、次第にギャスパーは、朱乃に自分が何故、急にスタークの正体について拘るのかを語った。

 

「僕は、スタークとは直接出会ったことはないんだ。でも………スタークが少なくとも僕のライダーシステムに関わりがあることだけは分かっている。でも、ここのところスタークは頻繁に動き出して、最近では小猫ちゃんの持つボトルを狙ってきた。だから……」

 

「…だから、貴方は焦っていた」

 

朱乃の返しに、コクリと頷く。

 

ギャスパーは、自分も備えとして情報が欲しかったのだ。情報は武器だ。持っていて損はないし、より多くの情報を持つことで戦局を大きく左右することだってあり得る。彼は、自分だけ知らずに置いてけぼりにされるのが怖かった。彼だって、知らないことが沢山あるのだから。

 

「貴方も他のみんなと同じように何かを抱えてるのは分かりましたわ。……ごめんなさいね。私も、好きで隠しているわけではないの。私にとっても、受け入れ難いことだから……」

 

「だから、急に優しくなるなよ……。まぁ、下手に混乱させたくないってのら分かりましたよ」

 

普段、慰められる事などないから、特に朱乃からなど今まで一回も無かったことなので余計に恥ずかしく、顔を晒してしまった。

 

「あっ、いたいた」

 

「ん?なんだ、ゼノヴィア先輩か。なんか用ですか?」

 

今度は誰かと思いきや、二人と同じくイマジンにされたゼノヴィアだった。いざこざを抱えていた二人とは違い、彼女の方針は元より決まっていたので、彼女から出る言葉は何となく予想できる。

 

「二人共。やっぱり、ここはアーシアに協力しないか?」

 

やっぱり、と二人は心の中で呟く。人を責めず、自分に降りかかってきた厄すら大して気にしていないゼノヴィアらしいとも思った。

 

「急なアクシデントでこんな身体になってしまったけど、何もやらないより、動いた方が良いと思うんだ」

 

「ゼノヴィアちゃん……私はそれでも良いですわ。このままジッとしているのも性に合わないし。でも……」

 

「いや……僕も行く」

 

ギャスパーは、立ち上がった。彼は自身を意外そうに見る朱乃の横を通り過ぎ、ゼノヴィアの顔を真っ直ぐみつめた。

 

「僕もジッとしてはいられない。立ち止まってはいられないんだ。けど、ゼノヴィア先輩に一つだけ聞きたいことがあります」

 

「わ、私か?」

 

「ゼノヴィア先輩は、僕の方が間違ってると思いますか?自分が正しいと思うことを押し切ろうとすることは、ダメなことなんですか?」

 

一つの意見として、ゼノヴィアに問う。何故、彼女に問うのか。それは、ゼノヴィアが贔屓して答えを出さない者だという一つの信頼があったから。

 

「間違ってる……か。う〜〜ん…………」

 

それに対して、ゼノヴィアは腕を組んで考え始め、暫くすると、微笑しながら自分なりの答えを出した。

 

「正直、分からないかな……どっちも正しいと思うし、もしかしたら間違ってるかもしれない」

 

曖昧な答えでゼノヴィアは自身の頭を掻きながら答える。が、頭を掻いたのは『面倒臭いから』などそういう感情によるものではなく、彼女自身も考えた末の自分らしい結論に正解を見いだせていない自信のなさの表れだ。

 

「なんでそう思うんですか?」

 

「うーん、そうだなぁ……確かに正しいと思って行動する人はいるけど、だからといってそれが正解とは限らないよ。誰が間違ってるとか、正しいとか、そんなのを決めるのって凄く難しいことだと思う。自分が正しいと思うと周りが見えなくなって、非情になったり、正義のためなら何をしても良いって思ったり、きっと戦争もそうやって起こっていくんだろう……」

 

「ゼノヴィア先輩……?」

 

少し悲しげな顔になるゼノヴィアに、ギャスパーと朱乃は首を傾げる。それを見てゼノヴィアは思わずハッとなって我に帰るように続けた。

 

「と、兎に角!私はそう思うし、決めてることがあるんだ。何が正しいというよりも、目の前のことを一生懸命やるしかないんじゃないかって。先だけを見て、そのせいで自分の持っているもの……小さな幸せを取りこぼさないように」

 

何故か、彼女の言葉には妙に説得力があった。まるで、彼女はそれを実体験しているかのように聞こえる風に言うものだから。

 

「アーシアも同じだよ。彼女も、今自分のやれる事をやろうと必死に頑張ってる。私達は、仲間としてその背中を押してあげるべきなんじゃないかな」

 

「目の前のこと……か……。スタークの正体を掴みたい気持ちは変わらないけど、不確定要素があるのなら、過度な期待を持つのは危険かもしれないね。だったら、まずはあの『頭のおかしい爆裂娘』を助けてやるとしますか」

 

「あぁ!頭のおかしい爆裂娘を助けよう!」

 

「頭のおかしい爆裂娘ちゃんは、私達の仲間ですからね」

 

気持ちを持ち直したギャスパーは、アーシアに取り憑いたイマジンとして活動することを決め、ゼノヴィアと朱乃もそれに賛同。三人の気持ちは、ここにきて一致した。

 

「ちょっと待ってくれ。何かおかしくないか?」

 

「「別に?」」

 

なんだか会話の中で誰かさんに対しての悪口が飛び交っていた気がしたゼノヴィアだが、この二人にセオリーなツッコミを入れるのは無駄だとすぐに気づき、追及はやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、リアスはアーシアを追って走っている。何処に行こうとしていたのかは分かっていなかったが、魔力を追ってきたので案外早く見つけることが出来た。

 

「いた。……何をやっているのかしら?」

 

河川敷に辿り着き、アーシアとネガタロスを見つけたのはいい。しかし、彼らはリアスにとっても予想外のことを行なっていた。

 

「オラッ!もっと腰入れろ!」

 

「はぃぃ〜……!」

 

リアスが遠目で見たのは、アーシアが野球のバットを素振りし、ネガタロスがそれを指南している姿だった。

 

(あのバットに何か取り付けてる。重りかしら?)

 

何かのトレーニングかと思い、リアスは暫くその様子を眺める。

 

「はい次ぃっ!ランニングだ!!」

 

「はぃぃ〜……」

 

素振りが終わると、今度はロープでタイヤを縛り付け、アーシアの腰に巻きつけることでタイヤを引きずって河川敷を走る。その様子は、まるで体育会系のトレーニング。または徹底的な肉体強化である。

 

アーシアが少し遠くに行くのを見計らい、リアスはネガタロスの所に足を運ぶ。

 

「こんなこと、いつもやってるの?」

 

「隠れてな。アイツ、中々度胸があるんだぜ」

 

来るのが分かっていたかのようにネガタロスは返事をする。その目は、まるで監督が選手の能力に対して大きな期待を抱いているかのようなものだ。

 

「ねぇ、聞きたいことがあるのだけれど」

 

「なんだ?」

 

「どうして、アーシアは教会にいた頃、手負いの悪魔の傷を治したの?そんなことすれば、裏切り者扱いされるのは分かっていた筈。リスクが大きいと分かっていながら、どうしてそのような選択をしたの?」

 

シスターであった彼女は、本来敵対するはずである悪魔を治した。だが、彼女はその時のことを後悔していない様子で、振り切っている。その理由が知りたく、リアスはネガタロスに問う。

 

「それが、アイツにとって正しいことだからだ」

 

「他人には間違いだと思われているのに?」

 

「あぁ。『助けて』って言われたから助けたかった……だとよ。アイツは自分が裏切り者として扱われることを分かっていながら、目の前で命乞いする悪魔を優先して助けやがった。アイツは信仰心は無かったから元々、『悪魔は全てが敵』なんて思想は持ってねぇしな。治そうとした時、俺はそれを『やめとけ』って止めようとしたが、アイツが立ち止まることはなかった。まぁ要するに、アイツにはアイツなりのルールや正義ってもんがあんだろ。俺様はアイツと一緒にいて、それを思い知った」

 

アーシアのことを良く知るネガタロスは、少々声に勢いを失いながら、リアスに彼女達グレモリー眷属と出会う前の過去話を聞かせる。リアスは、アーシアのことをもっと知りたいという好奇心からか、話を食い気味に聞く姿勢を取る。

 

「イマジンはお前達と会う前から戦っていた。たまに俺様が身体乗っ取って教会を抜け出してな。そんで、ある夜中で困ってる奴がいたから、用心棒として手助けしようとした」

 

「ふむ……それはいいことね」

 

ネガタロスの過去話にリアスは感心するが、その内容が酷かったようだ。なんと手助けしようとした男はお金が欲しかったらしく、ヤクザのアジトから金を奪い取ろうとしたのをネガタロスが助けたらしい。

 

腕っぷしが魅力のネガタロスはアーシアに断りも入れずに勝手に身体を乗っ取り、金を奪おうとした。

 

しかし、それは失敗した。バレないかと思っていたが、偶々アーシアが起きてしまったことで彼女に悪事がバレる。それが彼女の逆鱗に触れたのか、暫く口すら聞いてもらえず、ネガタロスの手を借りないで一人でイマジンと戦おうとした。

 

『おい!そのままだと死んじまうぞ!俺様を呼べよ!!』

 

当時、悪いことをしたとは思わず反省しなかったネガタロスの手を借りたくなかったアーシアは、頑なにネガタロスを呼ぼうとしなかった。神器による回復があっても、アーシアだけでイマジンに敵うはずもない。それでも、彼が反省しない限り、共に戦うことは無いと心に決めていた。

 

『あぁ分かった!もう泥棒の味方はしねぇし、金も要求したりしねぇ!!だから俺様を呼べ!!アーシアァァッ!!』

 

あまりにもアーシアの無様なやられ姿に黙ってもいられず、必死に呼び掛けるネガタロス。すると

 

『……ごめんなさい、は……?』

 

『……へ?』

 

『ごめんなさいは!?』

 

『うっ!うぅ〜………!!ごぉめんなさぁぁぁぁぁぁぁいいッ!!』

 

この時、自分のしたことを反省したネガタロスは、初めて他人に謝罪をしたことで、なんとかアーシアと和解。二度と泥棒など悪いことはしないと誓った。

 

「貴方……泥棒したの?」

 

「泥棒じゃねぇ!用心棒だ!……つったら、アイツにキレられた」

 

若干、引き気味のリアスにショボンとしながらネガタロスは返す。怖い顔をしているネガタロスは、自分勝手に戦って暴れようと考えていたが、そんな彼もアーシアの頑固さに打ち砕かれたのだった。今は、アーシアの身体を気遣うことも多々あり、良き相棒として戦っているこの状態に至るわけだ。

 

「あの頑固さは折れねーぜ。それがアイツの強さだと思ってんだ」

 

「成る程。やっぱりアーシアは、心が強いのね」

 

「アイツに自覚はねぇがな」

 

その気になれば、力づくでイマジンが人間を従えることも出来るだろうに、イマジンに振り回されずに自分の在り方を貫き、味方として引き入れてしまうアーシアの不思議な度量や力に、リアスは魅力を感じた。

 

「お、終わりました〜!」

 

「お疲れ様、アーシア」

 

「あっ、部長さん……情けない姿を見せてしまってごめんなさい……こんな大変な時にだというのに……」

 

「少し勝手な行動だと思うけど、多めに見るわ。まずは水分補給をして体力を回復させなさい」

 

走り終わったアーシアに、スポーツドリンクを渡すリアス。それを受け取るアーシアを見て、いつもの厨二病の彼女とは打って変わって、今はどこにでもいる普通の女の子に思えた。

 

それほど、彼女の心境に変化があったのだと察する。恐らく、さっきは厨二病を拗らせているように見えて、やはり『弱い』と言われてショックを受けてこんな真似をしているのだろう。

 

「アーシアはどうして強くなりたいのかしら?」

 

「そ、それは……私がもっと強くなれば、ネガタロスも戦いやすくなりますし。みんなも……認めてくれるかな……って。だから、私も変わろうと思いまして!」

 

フンス!と鼻を鳴らしながら腕に力を入れて力こぶを出そうとするアーシア。いつもは微笑ましいと思えるのだが、どこか痩せ我慢をしているように見えた。自分の弱さに悩んでいる彼女に対し、リアスはぼかすように助言をする。

 

「そうかしら。変わる必要は無いと、私は思うのだけれど」

 

「えっ……?」

 

「その内、自分でも分かってくると思うわ」

 

答えは言わなかった。こればかりは、人から言われて従うよりも自分で気づく方がいいと、リアスは敢えてぼかすように言った。

 

「さっ、それはそうと、そろそろ問題を解決しに行き………ッ!」

 

(殺気……!)

 

「伏せなさい!」

 

ブォォォッ!!

 

「きゃっ!」

 

不意を突くように、ゼノヴィアが受けたのと同じ『黄色い旋風』が襲いかかり、いち早く反応したリアスは、アーシアと自分を守る防御魔法陣を展開してその攻撃を防いだ。

 

「アレは……」

 

リアスは魔法陣を解き、旋風が来た方向へと目を向ける。すると、そこには……。

 

「人数が少なくなったところを一網打尽。この作戦、随分と君らしい考えだよ。ウヴァ」

 

「フン!戦略としては間違ってないだろう!これで簡単に奴らを八つ裂きに出来るんだからな」

 

「メズール!俺、頑張る!」

 

「えぇガメル。頑張りましょうね」

 

今まで、目立った行動はしてこなかったグリードの4人。そして、おまけにこの町の人間をイマジンにした張本人であるゾウヤミーも一緒に目の前まで現れた。

 

彼らの口ぶりからするに、どうやら騒動が起きている今がチャンスだと思い、数的不利に陥ったリアス達を襲ってきたようだ。

 

「ここに来てグリードが動き出してきたわね」

 

「あぁ」

 

ネガタロスもすぐさまアーシアに憑依し、電王ベルトを装着する。

 

だが、リアスは敵が目の前に現れたというのにサソードヤイバーを取り出そうともせず、ゼクターも側にやってこないことにネガタロスは心配になり声をかける。

 

「リアス、サソードゼクターはどうした?」

 

「……ごめん……この前、異世界に行った時にクロックアップシステムが壊されたから、今冥界の技術担当まで修理に出しているの。今あるのは……これだけね」

 

訳ありで変身できないリアスは、魔法陣からコカビエルの時に使用したディスカリバーを取り出し、それを武器として装備する。

 

「チッ、ならしゃーねぇ。変身」

 

『NEGA FORM』

 

変身が完了すると、グリード達がリアスとネガタロスに襲いかかる。リアスは、まだ指示が出されていないからか、戦闘が始まっても動かないゾウヤミーをチラッと見る。

 

(問題はあのヤミーよね。オーナーが言ってたように、アレを倒してみんなが元に戻るかどうかは分からない。倒してしまった時点で二度と戻らなくなる可能性だってある。どうすれば……)

 

最悪、倒してしまったら人間が消える場合だって考えなければならない。リアスは、カザリとメズールからの攻撃をディスカリバーで受け止めながら、思考を巡らせるのだった。

 

「消えろ!虫けらが!!」

 

「ぐはぁっ!!」

 

ウヴァは右腕に鋭い鉤爪を備えており、それを振り上げるように攻撃することでネガタロスを空中に勝ちあげる。虫だからといって侮ってはならない。メダルを大量に取り込んだ故に、その一撃は重い。

 

しかし、虫のグリードが他者を虫けら扱いとはこれいかに。

 

「こんの虫野郎がぁ!言ってくれんじゃねぇか!!」

 

ネガタロスは虫に虫けらと言われて腹が立ち、デンガッシャーソードモードをウヴァに向けて振るう。が、呆気なく避けられた挙句、背後から首を掴まれる。まるで、逃げる猫が捕まえられたかのようで滑稽だとウヴァは嘲笑う。

 

「まずは一人ずつ。貴様からだ。フン!」

 

「おおぅっ!?ぬぁぁぁぁぁっ!?」

 

「ネガタロス!アーシア!」

 

ウヴァはネガタロスを持ち上げながら、バッタのように高く飛び跳ねながらその場を去る。昆虫を司るグリードである彼の脚力は強靭故、ビルとビルの間を軽々と飛び移っていき、すぐさま背中が見えなくなるほど遠くへと行ってしまった。

 

「なら、私もあっちに行こうかしら」

 

ウヴァ一人では頼りないとでも思ったのか、加勢しにいこうとメズールは近くの川に飛び込み、泳いでウヴァの後を追いかけた。

 

「あっ、メズール〜!俺も〜!」

 

「待ちなよガメル。君がここで僕と一緒にあの女を始末すれば、きっとメズールは喜んでくれるさ。なにせ、魔王の妹なんだ。潰せば、悪魔的には十分なダメージだよ」

 

「そうなのか!?なら俺、もっと頑張る!」

 

メズールの後をついていこうとするガメルを、カザリは上手く言いくるめて留めることに成功。つくづくガメルのことを扱いやすいグリードだと笑い、余裕の態度を崩さない彼だが……。

 

「どこ見てるのかしら?」

 

「えっ?グボァゥアッ!?」

 

「カザ…うわぁぁぁぁぁぁ〜!!」

 

ガメルの方を見ていたカザリは、その反対方向から襲い掛かってきた鋭い拳によってぶっ飛ばされ、ガメルもそれに巻き込まれてしまった。

 

殴った本人であるリアスは、左手にディスカリバーを構え、殴った右手の人差し指をチョイチョイと動かしカザリを挑発する。

 

「貴方、前に私を利用してセルメダルぶんどっていったグリードでしょ?あの時のメダルを支払ってもらおうかしら」

 

「お前ェ……!!」

 

舐められた態度に怒りを覚えるカザリ。たとえ、ここは自分が引き受けるつもりで三人を相手するリアスは、連れ去られていったアーシアのことも心配だったが、それと同時に信じていることがあった。

 

彼女と共にいるネガタロスを。そして、今も自分と共に戦ってくれる眷属達のことを。

 

「ぐへぇ!」

 

ウヴァに軽々と持ち上げられ、港まで連れ去られていったネガタロスは着地前に地面に叩き落とされる。

 

随分とリアスとの距離を離され、彼女と分断されたネガタロスの目の前には、ウヴァとメズールという二人のグリードが立ち塞がる。

 

「クソッ……!」

 

二人相手だが、ネガタロスにとってはその点、然程問題があるわけじゃない。

 

問題は、さっきアーシアが特訓していたからか、その疲労も重なって思うように身体が動かせないことだ。あの最中にグリード達が来襲してきたのが痛かった。

 

アーシアの神器は、傷の回復はできても体力の回復は出来ない。彼女の弱点を補填する力も無いネガタロスは、どうにかこのピンチを乗り切る方法を考えるが……。

 

「フンッ!!」

 

「なっ!?どわぁぁぁぁぁっ!!」

 

「「!?」」

 

何者かが戦闘に乱入し、ネガタロスを突進でふっ飛ばす。

 

「ぐはっ……テメェ、イマジンか!」

 

そう、あのガメルと契約していたサイイマジンだ。彼の登場に、ウヴァとメズールも驚き、ふっとばされた後に起き上がるネガタロスはイマジンに怒りの矛先を向けた。

 

「電王……今日で貴様の命が終わる!この際だから俺の鬱憤も晴らさせてもらおうか!!」

 

「あぁん!?何訳分かんねぇこと言ってんだ!!」

 

メズール達の後をつけてきたのか、サイイマジンは、ガメルがいつまで経っても満足しないことに腹を立ててネガタロスに八つ当たりするつもりのようだ。当然、ネガタロスは意味も分からず憤慨する。

 

「何なの、アレ」

 

「イマジンだな。ちょうど良い。加勢して電王を叩き潰してやろうか」

 

取り敢えずどんな手でも使って良いと考えているウヴァにとっては、この際イマジンが共に戦おうが関係無く、メズールも仕方なくその考えに従うのだった。

 

「くっ……」

 

多勢に無勢とはこの事。数で不利となったネガタロスは、デンガッシャーをソードモードからロッドモードに切り替える。リーチが長ければ、たとえ大人数でもある程度は対処出来ると考えていた。

 

「無駄よ」

 

「なっ!?」

 

だが、メズールはモードをチェンジした瞬間に合わせ、距離を詰めてネガタロスの懐に潜り込んだ。

 

「それの弱点は、射程距離内に近づかれると反撃しづらいのでしょう?バレバレよ!はぁっ!」

 

「うぐぁっ!」

 

デンガッシャー ロッドモードはその長い武器故、懐に近づかれると不利になる。それを見抜いた彼女の足蹴りによって身体がノックバックされた。

 

「くらえっ!」

 

「ごぁっ!」

 

続いてウヴァも右手の鋭い鉤爪で追撃。デンガッシャーのモードを変える暇すら与えてくれず、ネガタロスは一方的にダメージを受けるばかりだ。

 

「フン!」

 

「どわぁぁっ!!」

 

そして、サイイマジンはトドメと言わんばかりに肩を使ったショルダータックルでネガタロスをぶっ飛ばす。流石はガメルが契約者としてイメージした姿と言うべきか、その強靭な肉体から繰り出される攻撃は驚異的なものだった。

 

そして、ネガタロスが飛んだ先は海の上で、水面に身体を打ちつけると底に向かって沈んでいく。

 

「まだよ!フッ!」

 

「ッ!?ゴボッ……!」

 

メズールはネガタロスを追いかけるように水面に飛び込むと、スイスイと水中を泳ぎながらネガタロスに突進する。

 

「ハァッ!!」

 

「ガバァッ……!?」

 

陸とは違ってまともに動けない所を、メズールは容赦無く連続の突進でネガタロスを追い詰める。回復する暇もないままやられていき、メズールは一旦陸に上がる。

 

「フン、これで電王は終わりだな」

 

「えぇ、そうね」

 

ウヴァもその様子を見て、勝利を確信した。ネガタロスは、隙ができて何故かそのまま下へと沈んでしまっている。

 

「ゴボッ…ゴボボッ………!」

 

『ネガタロス!早く陸に上がらないと溺れて死んじゃいます!』

 

アーシアがネガタロスに必死に呼びかけるものの、彼はジタバタするだけで身体が上がらず、むしろ沈むのが速くなったかに見える。そんな中、ネガタロスは心の中でアーシアに切羽詰まった声調で語りかけてきた。

 

(ア、アーシア……俺……お前に一つだけ言ってないことがあった……!)

 

『な、なんですか!?』

 

(実は俺………泳げねぇんだ……)

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?』

 

こんな土壇場でのカミングアウトにアーシアは驚きの声を上げてしまうしかなかった。しかし、だとすれば不可解な点が一つだけある。

 

『で、でも確かプール掃除の時、私に取り憑いてましたよね!?なんで泳げないのに私に取り憑いたんですか!?』(第二十九話 波乱のプール掃除)

 

(あ、あれは……お前に取り憑いて練習しようと思ったんだよ。けど、到着したものの、偶々ソーナが暴れててボコボコにされたからカミングアウトする暇もなく、そのままズルズルと……)

 

『そ、そんなアホな……』

 

あまりにも下らなすぎた理由で絶体絶命のピンチに陥ってしまったアーシア。そうこうしている内に息も続かず、身体の感覚や意識が薄らいで行く。

 

『ご、ごめんなさい……やっぱり、私は何も……出来なかった……』

 

彼女は薄れ行く意識の中、グレモリー眷属やイッセーの顔を思い出し、彼らに対して『弱い自分でごめんなさい』と、懺悔することしかできなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――全く、あんだけ言っておいて泳げないとか、情けないにも程がありますよ』

 

『ッ!ギャ、ギャスパー君……?』

 

(ロリコン……!?)

 

しかし突如、別の声が頭の中に響いてきたことで薄らいできた意識が少しだけ引き戻される。その声の正体はギャスパーとすぐ分かり、ネガデンライナーからアーシアに語りかけてきたのだ。

 

『ギャスパー君、どうして……?』

 

『そういうのいいから。こっちだって死なれたら困るんだ。ほら、ボタンを押しなよ。えーっと、青と黄でいいんじゃない?多分ね』

 

意識がまた消えかけそうなので、ただ、言われるがままにネガタロスは青色と黄色のボタンを同時に押し、ベルトからネガフォームとは別の待機音が流れると、残りの気力を引き絞ってパスをベルトに翳した。

 

『NEGA ROD FORM』

 

パスを通すと、それまで纏っていたネガフォームの鎧が外れ、そのアーマーのパーツが裏返したり変形してから再び装着される。頭部の仮面もウミガメをモチーフとした仮面に変わり、オレンジ色の複眼を光らせることで変身が完了し、陸の方へ向かって浮上していった。

 

ザッバァァァァンッ!!

 

「なっ!?」

 

勢い良く水面から飛び出してきた新たなネガ電王。そのまま陸に着地をする姿を見て、先ほど溺れかけているのを確認したメズールさえ驚いた。

 

「電王だと!?だが、姿が違うぞ!」

 

サイイマジンが言うように見た目は変わっているが、雰囲気も大きく違っていた。

 

何故なら、今アーシアの中に入っているのは、ネガタロスではなくギャスパーだからだ。故に、彼が纏うことでアーマーも当然変わる。

 

基本カラーは紫のままで、アーマーにはネガフォームと同じように禍々しい紋様が浮き出ている。このフォームに名をつけるとすれば……。

 

「お前、僕に釣られてみる?」

 

―――『仮面ライダーネガ電王 ネガ・ロッドフォーム』。それが、この新たなフォームの名前だ。




次回予告

リアスは、カザリ達相手に一人で挑む。だが、問題なのはヤミーの方。倒しても能力の影響が戻るかどうか不明な故、迂闊にとどめを刺せずにジリ貧を強いられる。そんな彼女の前に救世主が!?

そして、新たなネガ電王の姿は一つだけではない!

「私の強さにお前が泣いた!涙はこれで拭いておけ!」

「貴方、倒しますけど良いですわよね?答えは聞きませんけど」

次回『祝え!新たなネガ電王の姿を!』

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