砂嵐吹き荒れる荒野、岩と砂しかない場所に停まっている1台のクルマ。
その運転席に俺は収まっていた。
「砂嵐、ひどくなりそうだな・・・」
ボディに容赦なく叩きつけられる砂粒の音に紛れてガチャガチャという金属音が聞こえてきた。
それを聞いて俺はシートを起こしエンジンを掛ける。同時にドアが開き砂が車内に吹き込んでくる。
砂漠迷彩に身を包んだ男が2人、女が1人乗り込んできた手には某宇宙戦争映画に出てきそうなSFチックなライフルを手にしている。今回の依頼人だ。
「街まで頼む!途中でPKプレイヤーの集団に見つかっちまった!」
バックミラーを見ると砂嵐で視界は悪いが微かにシルエットが見えた。おそらく荒地を走ることに特化した4輪のバギーだろう。
端末を操作し地図がホログラムとして空中に投影される。セーフゾーンの街までは24キロと表示されていた。
「早くしてくれ!追手がすぐそこまで来てるんだ!」
助手席にいるリーダーと思しき男が叫ぶ、しかし車は動かなかった。
「あいつらを排除したら報酬を上乗せしてくれるか?」
俺はリーダーにそう言った。3人は啞然とした。
「バカ言え!相手はバギー3台で6人乗ってるんだぞ!それに俺たちは光学銃しか持ってないんだ!」
後部座席の男が言った。彼らはモンスターハンターが専門、実弾の武器は護身用のハンドガン位しか持っていない。
「この車はラリー用のベース車だがこの路面では相手の方が速い、すぐに追いつかれてハチの巣にされるぞ」
リーダーの方を見た。渋い表情で考えていたがやがて・・・
「分かった。アイツらを頼む」
「りょーかい!」
1速に入れてアクセルを煽る。クラッチを繋いだと同時にハンドルを切ってアクセルターン、バギーと向かい合う形になった。
「相手の装備は?」
「多分7.62ミリのアサルトライフルよ、それにバギーには50口径の重機関銃が載ってたわ。あの人たち、私たちがレアドロップした装備を拾ったのをどこかで見ていたのね・・・」
女が答えた。漁夫の利狙いのPK集団はこのGGOだと珍しいことではない。
バギーとの距離が縮まってくると載っている人の姿が見えた。モヒカンにグラサン、変な肩パット、まるで世紀末漫画の男達のようだ。
「コスプレ集団か、大したこと無いな・・・」
相手も此方に向かってくる車に気が付いた様だ。運転手はハンドルを片手に旧ソ連のアサルトライフルAKを、後席に立っている男はアメリカの重機関銃、ブローニングM2を向けた。
バギーから赤い線が伸びる。弾丸の軌道を示すバレットラインだ。
俺はハンドルを右に切った。曳光弾の光が車の左側を通過する。
濃密な弾幕は尚も俺たちを追ってくる。50口径の弾丸が当たってしまえば俺たちは1発で終わりだ。
相手に近づくにつれて弾幕が薄くなった。相手は横に大きく広がっているために仲間を撃ってしまうのを避ける為だ。
「下に転がっているヤツを取ってくれ」
「これのこと?」
「どうも」
俺は短銃身の散弾銃、サーブ スーパーショーティを受け取った。そしてなるべく相手の射線が被るようにしつつ相手に接近する。
極端に銃身の短いこのショットガンは車の中でも取り回しがし易い、まさに俺にピッタリの武器だ。
しかし銃身が短い故に散弾の分散が大きい、その為接近して撃たないと相手に致命傷を与えられないというデメリットもある。
あらかじめ開いたままで固定してあるフォアグリップを窓枠に引っ掛けて初弾を薬室に装てんする。そして・・・
「まずは1台・・・」
ドンッ!
銃声と同時に一番近くにいたバギーが一宙を舞った。この手の車両はタイヤの付け根のシャフトがむき出しになっている。そこを折ってやると簡単に車体から根元ごとタイヤが外れるのである。
「はい次・・・」
今度は運転手のハンドルを持っている腕に当てた、コントロールを失ったバギーは砂地にタイヤを取られ横転した。
2台が無力化されると再び銃撃が開始される、相手も射線を気にする必要が無くなった為だ。
このままでは近づけない・・・が手が無くなった訳ではない。
すると突如銃撃が止まる。急な出来事で慌てるガンナー。何やら運転手と言い合っている。
チャンスとばかりに回り込んでバギーと並走すると俺はセンターコンソールの小物入れから手の平より少し大きいくらいの球体を取り出す。
慌ててM2から持っていたアサルトライフルに持ち替えようとするガンナーと目が合う。
俺は・・・
「あげる」
そう言って俺はその球体、「デカネード」をバギーに向かって放り投げた。
デカネードをキャッチしたガンナーはギョッとする。
俺はバギーからできる限り距離を取った。
直後、デカネードが青いプラズマを帯びた爆炎を上げた。
「汚ねぇ花火だ・・・」
俺はミラーでその爆発を確認しつつ呟いた。
あっ、これ違うネタか・・・