決別の日   作:黒っぽい猫

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決別の日

『デートしよ?』

 

着信音で目を覚ました。寝ぼけ半分で中身を確認して、それを理解すると慌てて体を起こす。

 

相手は──二週前に別れた彼女だった。

 

とりあえず理由が知りたい。そう思って電話をかける。

 

「もしもし?」

 

『あ、起きたんだ。おはよう』

 

「ああ、おはよう……じゃなくて!メールのアレはどういうこと?」

 

『んー?別にどうもこうも、そのままの意味』

 

「本当にデートしようって、今から?」

 

『うん。お昼頃からでもいいけど、私はできれば今からがいいな』

 

「…わかった。じゃあ、10時30分に──駅の改札口で」

 

『うん……待ってる』

 

電話を切ると、服を着替える。その間もずっと考えていた。どうして今なのか?いや、そもそもどうして別れた後に僕を誘ったのか。

 

「聞けたら、直接聞こう」

 

そう決めた僕はそのまま家を出る。施錠をしたことを確認して駅まで自転車を漕ぐ。

 

機嫌がいいのを、自分でも感じていた。

 

(別れた相手と出かけるなんて、普通に考えたらおかしいのかもしれないけど、風変わりで面白いのかもしれない)

 

自分自身にそんな上塗りをして、あの娘の待つ駅まで向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たして彼女は、駅にいた。よく着ている、そしてよく似合っている白いワンピースを着て待っていた。

 

「ごめんね、待った?」

 

「ううん、大丈夫。そもそも、君だって時間よりまだ早いじゃない」

 

「君を待たせるよりは待った方がいいなって思ったから動いたんだけど、先読みされてた?」

 

「そりゃ、まあ。君とは何年も一緒にいますからね!」

 

三週間前に最後にデートした時と同じ、気味の良いやりとり。

 

「じゃあ、行こ?」

 

「そうだね、どこに行く?」

 

そっと手を繋いでくる彼女はいつも通り微笑みながら僕に言う。

 

「何処へでも連れて行ってくださいな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電車に乗ってデパートについた。電車に乗ってる間も手を離してくれなかったので周りに見られてしまったが、嬉しそうなのでなされるままにしていた。

 

「うーん……この服も似合いそうだし…こっちも…」

 

「ここ、男性服売り場だよ?」

 

「うん」

 

「誰の服選んでるの?」

 

「?君の服だよ?」

 

てっきり自分の服を見に行くのかと思いきや、僕の服を見ているらしい。

 

「ほら、私余計な荷物は持っていけないから」

 

「ああ、そうだったっけか。うっかりしてたよ」

 

そうだった──彼女は引越して行くんだった。

 

「だからこれは、最後のデートなのです!最後まで笑って行きましょ?よし!この服とこの服!」

 

会計してくるから待っててね!とこちらの制止を振り切って走って行ってしまう。

 

「あ、ちょっと!レジは反対方向だよ!!」

 

「………知ってたし」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ゲームセンターで、シューティングゲームをやった。

 

「右側の敵お願いね!!」

 

「了解!あ!危ない!!」

 

「えっ……きゃあ!……あっちゃ〜…もう少しでクリアだったのに…ねえもう一回!もう一回やろ!!」

 

「そのセリフさっきも聞いたよ……?」

 

「今度こそこれでクリアするんだから!」

 

「負けず嫌いなんだから……」

 

苦笑しながら、僕もコインを入れる。よし…頑張るぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

アクセサリーショップにもよった。

 

「ねぇ……これ」

 

「ん?……ミサンガ、だね」

 

「二本買おうかな……」

 

「そんなに欲張ってもいい事ないよ?」

 

「わ、わかってるよ!一本は君がつけるの!」

 

「別に、僕は願い事無いんだけどなぁ……」

 

「いいのいいの!!これ二つ下さーい!」

 

あーあ、買ってきちゃった……そんな事を思ってる僕にいきなり彼女は抱き着いてくる。

 

「おわっ!」

 

「えへへ〜。今のうちに巻き付けちゃえ!」

 

ミサンガを少しきつく僕の左手首に付ける。

 

「なんてお願いして僕に巻き付けるのさ……」

 

「それは秘密だよ!また今度教えてあげるね!」

 

既に巻きついている彼女の左手首にあるのも、僕がつけられたのと同じライトグリーンのミサンガだ。

 

「さー!次行こう次!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が回るほど色々なところに行ったが、楽しい時間というのは、あっという間に過ぎるもので、気が付いたら太陽が傾いていた。

 

「ね……楽しい時間ってどうしてこんなに早いんだろうね?」

 

「きっと、神様が意地悪したんじゃないかな?」

 

少し誤魔化しつつ僕は笑いかける。彼女も微笑みを返してくれる。

 

「そうだね……もしそうなら、神様の事嫌いになっちゃうかも」

 

堪えていた僕の目から、一筋涙がこぼれた。

 

「もう……行くのかい?」

 

「うん………出来ることなら…ずっと君の隣に居たいんだ。でも、もう私に時間はないから」

 

悲しげに笑う彼女は、夕日に照らされてとても美しかった。

 

そう、僕も知っていた。彼女は──今目の前にいる少女は、もう亡くなっているんだ。

 

「二週間前…だよね。私は事故に巻き込まれて死んじゃった。本当なら、すぐにでも天国に行かなきゃいけない私を、心優しい死神さんが今日一日だけならお別れをする為に君の前にいていいよって言ってくれたの」

 

信じてもらえないよね、死神なんて。そう言っている彼女は笑っているのに、涙が溢れていた。

 

死んでしまったことは覚えている。だから、僕は知りたいと思ったのだ。死んでしまった君が僕の目の前にいる理由を。

 

「信じるさ。他ならぬ君の言葉なら、僕は信じられる」

 

「そっか──ありがとう……ん」

 

背伸びをして、彼女は僕の唇にそっと唇を重ねてきた。

 

「あのミサンガにね──私お願いしたの」

 

足元が透けている──もう時間が無いのだろうか。

 

「君が、目一杯幸せになれますようにって。もしミサンガが切れなくても、大丈夫。さっきのキスにおまじないをかけたから」

 

彼女は、堪えきれない嗚咽にむせる僕の頬に優しく手を当ててくれる。

 

「ダメだよ〜、最後まで笑顔で…って言ったじゃんか〜。君はいつまでたっても泣き虫なんだね」

 

「耐えられるわけがない……無理に決まってるじゃないか…僕は──僕は君のことが好きなんだから。どうしようもなく、好きなんだから」

 

「その言葉は、別の人に取っておいてあげて?きっと君には私より素敵な人がいるから」

 

「──じっと、待ってなきゃダメだからね」

 

「──え?」

 

せめて、せめてこれだけは伝えようと笑顔を無理矢理作って必死に言葉を紡ぐ。

 

「君は…一人でいつも…突っ走ってしまうんだからさ。だから、僕が君の傍に行くまで待ってなきゃダメだよ。お土産話もたくさん持って行くから君はじっとしてて……」

 

「もう……ダメだよ。そんな事言ったら──」

 

離れるのが辛くなっちゃうじゃないの──そう彼女は涙を零して──

 

「ありがとう。君のこと、大好きだよ」

 

笑いながら、僕の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、一週間たった。あの時のことは夢なんじゃないかな、そう思う事もあるけど、夢じゃなかったんだという確信がある。

 

だって、確かに僕の左手首には、二本のミサンガが付いているのだから。どうやらキスをする時にどさくさに紛れて巻き付けられたらしい。

 

『ほーら、くよくよするな!前を向いて生きなさい!』

 

このミサンガを見る度にそう言われているような気がして苦笑いをしてしまう。

 

さ……今日は、果たしてどんな日になるのかな。







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