あの夏に、私は帰りたい。   作:大石蔵良の嫁
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どうして

私は、祖父母の家へと帰宅した。

泥や雑草で、在らぬ姿となった孫を見た祖父母は、驚きを隠せずに棒立ちしていた。あの表情は、今でも覚えている。

ひとしきり立ち尽くした2人は、私を風呂に入れて、丁寧に洗い流してくれた。

 

「花ぁ、可哀想に...可哀想に...」

 

祖母は、涙を流しながら、湯気の上がる私の体を拭う。

居間でテレビを見ていた祖父は、手がまるで梅干しのように赤くなるまで、力を入れて握っていた。怒ってくれているのだろうか、優しいな...なんて、当時は思ったものだ。

そうこうしていると、玄関の戸が強く叩かれた。

 

「おい!いるんだろう!ここを開けてくれ!」

 

何度も何度も、戸が壊れてしまいそうなくらい、叩いていた主は、祖母が出るのを待てずに戸を引いた。

 

「あらぁ、井山さんじゃあないですかぁ...」

 

祖母は驚きながら言った。祖父が奥から、その人を睨みつけている。

 

「ここによそ者のガキが居るだろう!!そいつを出せ!!」

 

井山さんという人は、ひどく怒り狂ったようすで怒鳴った。

こんな大人を見たことがある。時々、家の近くのコンビニで、店員さんにクレームを言っている人だ...なんて、呑気に考えていた。

 

「この子は、よそ者じゃありません、うちの孫ですよ」

 

祖母がいつになく強く答えるものだから、着替えていた私は少し体をビクつかせる。その様子を見た祖父が、こっちへ来いと手招きし、居間で待つように言いつけた。

 

そこからは、井山さんの大きな怒鳴り声と、祖父の低い威圧のある声が何度も交わされるのを、ただ聞いていたと思う。

だがその中で、1つ気になることを耳にした。

 

「うちの子が帰っていない」

 

あの、田んぼで出会った子供の1人だろう。確か、顔のよく似た子供がいたはず。

私は、祖父の言いつけを守らないで、玄関へ出た。

 

「あの」

「あっテメェ!うちの子供をどこへやったあああっ!!」

 

話をしようとした矢先、大きな平手を食らった。 頬が、ヒリヒリして熱を持っているのが分かる。痛い。痛みや恐怖で、視界が滲んでゆく。怒られる。声を出せば怒られる、だから抑えなきゃ。

そう必死で、声を抑え続けた。

滲む視界の中で、祖父が井山さんを殴ったのが見えた。

とても怖かった。

震える私を見て、祖母が立たせて奥の部屋へ連れていってくれた。体の震えが酷くなるなか、窓を見ると、日が落ちていた。7時半だった。確かに、これで子供が帰らないのは可笑しい。

その後、祖父は井山さんを無理やり落ち着かせて、事情を聞いたらしい。話によると、あの時出会った子供たち皆が、まだ帰っていないという。

その時、私の脳裏に過ぎったのは

 

「むつめ...様...?」

 

その言葉を呟いた時、その場にいた3人が一斉に、こちらを振り向いた。

何かに、怯えたような顔をして。








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