至高の方々、魔導国入り   作:エンピII

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 至高の方々、NPCと出会うカルマ+

 ナーベラルは、第九階層のプレアデスの自室に置かれたソファーに座り込み休息を取っていた。視線は一か所に向けられ、動いていない。かれこれ一時間はこうしているが、休憩中の為に咎めるものは居ない。自室には姉が二人居るが、気を使ってかナーベラルに向け話しかけたりはして来ないので、特に注意を払っていなかった。

 今日一日予定は無い。至高の主人に供する機会は、同じく至高の主人達がお帰りになられてから、めっきりと減っていた。

 至高の主人の供をするのは非常に難しい仕事だが、同時にそれ以上のやりがいと誉がある。

 だがそれでもという思いがある。思いに応える様に、ポニーテールが力なく垂れ下がる。ナザリックのモノの殆んどが思っているだろう。至高の御方がナザリック御帰還された喜び、そしてその中に自らの創造主が含まれていなかった悲しみ。誰もが相反する気持ちを抱えているはずだ。

 

「……ふぅ」

 

 小さなため息が漏れてしまった。駄目だと思った。自分は戦闘メイドプレアデスの一人なのだから。そうナーベラルを創造し、さらには姉妹も持たしてくれた御方を想う。ため息をついた姿など、例え今はナザリックに居られないとしても、見られたくは無い。

 そう決意し、居住まいを正す。そして―

 

「うっわ。本当にナーベラルも動いてるわ」

 

 声が聞こえた。

 その声に、ピンッとナーベラルのポニーテールが跳ね上がる。

 ナーベラルは声の主の姿を探すため、慌てて立ち上がり辺りを見渡す。だがその姿は何処にも見当たらない。

 

「どうしたっすか、ナーちゃん?」

 

 姉の一人ルプスレギナに問われ、思わず問い返す。

 

「……声が聞こえなかった?」

 

「声?何か聞こえたっすか、ユリ姉?」

 

「いいえ?何も聞こえなかったわ。貴方の咀嚼音以外ね」

 

 そういえば、ルプスレギナは先ほどから何か口にしているようだ。もしかすれば何かの音を、声と聞き間違えてしまったのだろうかとナーベラルは思う。勘違いだと解かると途端に落胆してしまい、再びソファーに沈み込む様に座り込む。同時にポニーテールが力無く垂れ下がった。

 

「おお、ポニーテールが垂れ下がったぞ。どうした、ナーベラル?」

 

 再び声がした。ナーベラルは跳ねる様に立ち上がる。辺りを見渡すが、やはり二人には聞こえていないらしい。驚いたような顔をしていた。

 

「ど、どうしたっすか、本当に何かあったっすか?」

 

 訝し気にこちらを見るルプスレギナに問われるが、ナーベラルの視線は、同じく訝し気な視線を向ける長女に向けられる。

 

「……ユリ姉様。この部屋を調べて貰ってもよろしいですか?」

 

 ナーベラルの問にユリは真面目な顔になり、普段の伊達眼鏡から不可視化を看破する事の出来る眼鏡に切り替えた。ゆっくりと、見落としなど無い様に、丹念に視線を部屋の隅々まで向けてユリが探ってくれた。ナーベラルも緊張感からか激しい動悸を覚えながら、そのユリの視線を同じくなぞっていく。

 そして十分な時間がたってから、ユリが首を振った。

 

「……何も無いわ」

 

 再び落胆の気持ちが胸に沸く。やはり自分の勘違いなのだろうか。そう思いユリに礼を言おうとした。

 

伝説級(レジェンド)アイテムを誤魔化す手段なら、いくらでもある。そうだろう?」

 

 三度、声がした。ナーベラルは確信する。そうだ、不可視化を見破るアイテムを誤魔化す手段などいくらでもある。それが例え伝説級(レジェンド)アイテムであっても。ナーベラル達には無理でも、あの御方ならば造作もない。自らを創造して下さった至高の御方ならば。

 いる。間違いなくいらっしゃる。ナーベラルは胸に感じた事の無い熱が宿っていることを自覚する。丁寧に、少しの綻びも見落とさないように、ナーベラルは再び部屋中を視線で探る。

 

「本当にどうしたっすか、ナーちゃ―」

 

「しっ。静かになさい、ルプスレギナ。邪魔しちゃ駄目よ」

 

 これほどの緊張感は、至高の主人の警護として供をした時ですら無かった。

 胸の熱は高まるばかりだ。そして視線が一つの影に止まる。何の変哲もない部屋に置かれたテーブルから伸びた影。

 だが、ナーベラルは確信した。ここであると。

 ナーベラルは素早くその影に向け片膝を突き、拝謁の姿勢を取る。そしてゆっくりと口を開く。

 

「……お帰りなさいませ。弐式炎雷様」

 

 ナーベラルの言葉に、弾かれたように姉二人もナーベラルに倣い片膝を突いたのが気配で知れた。

 そして顔を伏せたままでもナーベラルに伝わってくる大きな気配が、部屋に溢れていく。その気配から感じる確かな繋がりに、胸の熱が際限なく高まっていく。

 

「正解!よくわかったな、ナーベラル。俺わりとマジに隠れてたんだけど。ああ、顔を上げて上げて。でも本当、どうやって俺を見つけた?」

 

 言葉に、伏せていた顔を上げた。

 かつて幾度となく見てきた懐かしいお姿。忍者装束だと、この御方は良く他の御方に笑っていらした。懐かしさに、言い表せない感情がナーベラルの胸に芽生えていく。

 何かが頬を伝っていた。それが涙だと、頬を伝った雫が床に落ちて初めて気づく。そして先ほどの答えをお伝えするために、ナーベラルは口を開いた。

 

「……自身を生み出して下さった御方の気配を、違える筈もありません」

 

 そうナーベラルは僅かに震える声で答え、微かに微笑むのだった。

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ!弐式炎雷様!」

 

 影から姿を御見せになられた至高の御方に、ユリはルプスレギナと共に片膝を突いて拝謁の姿勢を取る。再び、至高の御方がナザリックにご帰還された。喜ばしい事だ。特に妹の、ナーベラルの喜びが確かに伝わって来ている。

 

「ああ、ユリとルプスレギナも久しぶり!悪いね、勝手に部屋に入って。ほら二人も顔を上げて上げて」

 

 弐式炎雷が笑って言う。勿論ユリたちにその事を咎める気持ちは無い。自身たちを含めナザリックの全ては、この至高の御方々が生み出した物なのだから不満などある筈も無い。

 

「俺が驚かせたいって言って付き合って貰ったからさ。待っててくれたんだけど、今連絡したからすぐ来るよ。俺と違ってちゃんとマナーを守ってね」

 

 声は、なぜかナーベラルでは無く、ユリに向けられていた。言葉の真意が掴めずに、ユリは疑問の表情を浮かべるが、すぐに理解した様に振り返る。

 振り返った先は部屋の扉だ。その扉の向こう側に、懐かしい気配がする。

 そして丁寧なノックが扉から聞こえた。

 ユリに強い感情が生まれる。アンデッドの自分から生まれたとは思えないほどの強い感情が。至高の御方の前だというのに、許可なく腰を浮かすという不敬をユリがしてしまうほどの。

 今すぐにでも扉に駆け寄りたい。出迎えたい。そう強い気持ちがあるのに、足は自分の意志に反するように震えてしまい、これ以上動かなかった。

 

「ルプスレギナ、迎えてあげて」

 

「は、はっ!畏まりました!」

 

 弐式炎雷の言葉にルプスレギナが弾かれたように扉に向け走っていき、すぐさま扉を開く。

 ユリが開かれた扉から見たのは光。溢れ出る神々しいまでの圧倒的な光。

 その光の中から、帽子を被った御方が姿を見せた。

 

「開けてくれてありがとう、ルプスレギナ。……弐式さん、本当に勝手に女の子の部屋に入ったんだ?あんまり驚かせちゃ駄目だよ」

 

 弐式炎雷を窘める様な声。美しい声だ。その声はユリに澄んだ水をイメージさせる。そしてその声と同じくらいに美しいお姿。

 

「ごめん、ごめん。どうしても驚かせたくてさ」

 

 ユリは弐式炎雷に背中を向けるという不敬を犯しているが、それを理解しながらも正すことが出来ない。視線は先ほどから動かせないでいた。

 

「……ただいま、でいいのかな?ユリ、久しぶりだね」

 

 御方がユリを見て微笑んでくれた。ユリはその笑みに、アンデッドの自分も涙を流せることを初めて知った。腰を僅かに浮かした中途半端な姿勢の、とても情けない姿をユリは見せている。それなのに創造して下さった御方は優しく微笑み、その大きな手でユリの腕を取り身体を起こしてくれる。そして言葉を掛けてくれた。

 

「ふふ、その姿勢じゃ危ないよ、ユリ。元気だった?」

 

 その優しい声に、ユリは堪えきれずに至高の御方、やまいこの胸に顔を埋めてしまう。

 

「……やまいこ様!ぼ、僕は……僕はっ!」

 

「ほらほら、泣かないの。お姉ちゃんでしょう?……モモンガさんから聞いてるよ。ユリは長女としてよく頑張ってくれているって。良く出来ました。ボクも嬉しいよ」

 

 笑って褒めてくれるやまいこに、ユリは自分もシャルティアの様に強い感情を出せる事を、そして涙すら流せることを創造主から教えて貰った。

 

 

 

 

 

 

 コキュートスはアウラに呼び出され、ナザリック第六階層円形闘技場(コロッセウム)の薄暗い通路を歩いていた。巨大な格子戸を抜け、闘技場の中央に歩を進める。

 そして中央まで進み貴賓室を見上げる。そこにはコキュートスを呼び出したアウラに、弟のマーレ、そしてその二人を創造した至高の御方、ぶくぶく茶釜の姿もあった。

 コキュートスは貴賓室のぶくぶく茶釜に対し、臣下の礼を取る。

 

「オ待タセシ、申シ訳アリマセン、ぶくぶく茶釜様」

 

 コキュートスの言葉に、ぶくぶく茶釜は貴賓室から跳躍し、着地と共にその身を震わせた。ぶくぶく茶釜に続く様に、アウラも飛び降り、すこし遅れてマーレもまた闘技場の大地に着地する。

 

「大丈夫、待ってないよ、コキュートス。私こそごめんね?急にリザードマンの村から呼び出しちゃってさ」

 

「御方ニ呼バレレバ何処デアロウトモ参ルノガシモベトシテ当然ノ務メ。……シカシ私ヲ呼ビ出シタノハアウラノハズ。御方カラノ命トアレバ即座ニ参リマシタモノヲ」

 

 コキュートスの問に、なぜかアウラが満面の笑みを浮かべ、こちらを見ていた。

 

(何カアッタノダロウカ?……ム!)

 

 斬り付ける様な鋭い気配に、コキュートスは闘技場の入り口に振り返る。凄まじい剣気だ。至高の御方を除けば、久しく感じていなかった圧倒的な強者の感触に、コキュートスは弾かれたように身構える。

 

「急に審判役を頼まれてさ。私が審判することになった。ルールは……いつも通りって言えばわかるって言われたけど、大丈夫?」

 

 コキュートスはぶくぶく茶釜の問いかけに答える様に、ガチガチと下顎を打ち鳴らす。白い息がコキュートスの口から漏れ出し、大気が凍り付くパキパキという音を立てる。

 強者の感覚。最初は警戒から身構えた。だが直ぐにコキュートスは、その自身に最大限の警戒態勢を取らせる相手の正体に思い至る。

 抜身の白刃を眼前に突き付けられたと錯覚する程の剣気。だがそれが何処か懐かしい。第五階層守護者のコキュートスにそのようなイメージを持たせる相手は、いや、御方は一人しか居られない。

 

「ふふ、大丈夫みたいね。それじゃあ私たちは下がってるから、思う存分戦って。ああ、それと。二人が設定した割合まで体力が削られたら、私が割って入るから、その時はちゃんと従ってよ?」

 

 ぶくぶく茶釜からの言葉に、四つの腕にそれぞれ武器を構えることでコキュートスは答える。

 

「それじゃあ、頑張ってね、コキュートス!」

 

「あの、が、頑張ってください!コキュートスさん!」

 

 コキュートスは二本の腕で白銀のハルバードを持ち、残る二本にそれぞれ歪んだ形のブロードソード、そして斬神刀皇を持つ。全ての手に武器を持った、コキュートスが全力戦闘をする為の構えだ。

 格子が跳ね上がり、闘技場の入り口から姿を見せるのは大鎧に身を包んだサムライ。大太刀を肩に担ぎ、コキュートスの前まで無遠慮に歩を進める。

 そしてコキュートスまできっかり十メートルの距離で、歩みを止めた。

 

「―よお。久しぶりだな、コキュートス」

 

 懐かしい声に、コキュートスは武器を構えたまま、吠える様に答えた。

 

「ハッ!武人建御雷様ッ!」

 

 武器を構えたままのコキュートスに、建御雷は野太い笑みを浮かべる。

 

「俺達の再会に剣戟の音も無いんじゃ味気無いだろう。ルールは覚えてるな?」

 

 創造主からの問い掛けにコキュートスは応える。かつて幾度も繰り返し行っていた模擬戦闘の設定(ルール)を。

 

「ハッ!距離十メートル!スキル使用可!アイテム使用不可!」

 

「体力の割合はどうする?四割、いや、三割にしておくか?」

 

 決着を付けるラインを問われた。設定した割合までHPが削られた方が負けという実にシンプルなルールだ。四割ならば問題無いだろう。三割ならばやや危険といえる。その事を踏まえながらも、コキュートスは吠える。

 

「一割デ、オ願イシマス!」

 

 この割合ならば、もはや命のやり取りと変わらない。シモベが創造主に願うものでは無い。コキュートスの願いは、他のシモベからは反意を疑われるかもしれないものだろう。

 だが自らの創造主は違う。

 コキュートスの答えに獰猛な笑みを浮かべ、大太刀を構えた。

 

「いいぞ。実に俺好みの答えだ、コキュートス!いいぜ、やろう!茶釜さん!聞いた通りだ。勝敗は一割で頼む!それまでは手出し無用!」

 

「……マジ?」

 

「大マジだ。合図を頼むぜ、茶釜さん」

 

「……はぁ、りょーかい。そのラインまで行ったら直ぐ止めるからね?……じゃあ、行くよ」

 

 緊張感が高まっていく。突き刺すような感覚が懐かしい。興奮を隠せぬように、下顎がガチガチと打ち鳴る。

 

「―始めっ!」

 

 合図の言葉にコキュートスは即座にスキルを発動した。

 

「<マカブル・スマイト・フロストバーン>」

 

 ザイトルクワエの触手を断ち切った斬撃を、建御雷は大太刀を鞘に納めたまま受ける。衝撃に身体を揺らすが、それだけだ。

 

「<氷柱(アイス・ピラー)>」

 

 コキュートスの魔法の発動に併せ、建御雷目掛け四本の氷柱が突き出る。

 建御雷はそこで初めて大太刀を抜き放つ。

 四本の氷柱が一刀の斬撃によって、断ち斬られた。

 断ち斬られた氷の破片が、闘技場の灯りを受けキラキラと反射している。美しさすら感じさせる光景だ。だがコキュートスはその光景では無く、自身の魔法により生じた氷柱を、一刀で断ち斬った創造主の大太刀に視線を奪われていた。

 建御雷八式では無い。

 無骨な鈍色の鞘から抜き放たれたのは、肉厚な、それでいて全てを断ち斬る鋭さを併せ持つ美しい刀。刀身に流れる濤乱刃の刃文に思わず見惚れてしまう。

 

(アレガ、たっち・みー様ヲ倒スベク打タレタ武人建御雷様最後ノ一振リ)

 

 視線を奪われた隙を、当然建御雷は見逃さない。距離を詰められ大上段からの一撃がコキュートスに迫る。コキュートスはその一撃を神話級(ゴッズ)アイテムである斬神刀皇で受ける。神話級(ゴッズ)アイテムで無ければ、受けきれぬと判断したからだ。

 神話級(ゴッズ)同士の刃がぶつかり合う衝撃に、闘技場全体が揺れる。

 

(―重イ!ナントイウ重イ一撃ダ!)

 

 鍔迫り合う建御雷に押し込まれていく。距離を詰め過ぎられたために、ハルバードとブロードソードが振るえない。僅かに力を抜き、引き技を打とうとするが踏みとどまる。力を抜けばその瞬間に頭頂部から両断されてしまうだろうと、コキュートスを確信させる程の気迫が建御雷にはある。

 

「クッ!<フロスト・オーラ>」

 

 コキュートスはオーラを解放させた。

 極寒の冷気だが、建御雷に与えられるダメージ量は僅かだろう。狙いは動きを低下される特殊効果だ。微妙に動きを低下させるだけのものだが、拮抗した実力者同士の戦いならば、その僅かな低下が致命的となる。

 建御雷がそれを嫌がり、コキュートスのライトブルーの外骨格を蹴り付け、距離を取る。蹴り付けられたコキュートスは衝撃に身体を揺らしながらも、魔法を発動する。

 

「<穿つ氷弾(ピアーシング・アイシクル)>」

 

 人間の腕程の鋭い氷柱が何十本と建御雷に向かい打ち出された。建御雷はそこで初めてスキルを発動する。太刀を腰に収め、居合の構えから太刀を振るう。

 

「<羅刹><四方八方>」

 

 連続で放たれた斬撃に、コキュートスの打ち出された氷柱は全て斬り落とされた。

 

「<レイザーエッジ><羅刹>」

 

 さらにはお返しとばかりに、建御雷から剃刀の様な斬撃が乱れ飛ぶ。その刃にコキュートスもまた斬神刀皇を振るう。

 

「<レイザーエッジ><羅刹>」

 

 コキュートスから放たれた同じスキルが、生み出された刃を空中で相殺し合う。だが、相殺しきれなかった刃が、コキュートスの体を斬り裂いた。

 コキュートスの外皮鎧に無数の小さな傷が走る。だが建御雷の大鎧に傷は無い。同じスキルを使い、押し負けた。これは即ち力量の差を示している。

 歓喜のあまり身震いがする。守護者の中で武器戦闘最強と評されるコキュートスが、武器を持った戦闘で押し負けている。言いようのない感動が、歓喜が、コキュートスの体を震わせるのだ。

 

(素晴ラシイ―――)

 

 小手先の技など自らの創造主には通用しない。自身の持てる力の全てを、出し切らねばならない。

 

「<不動明王撃(アチャラナータ)>」

 

 コキュートスの背後に不動明王が出現した。

 建御雷もまたコキュートスに応える。

 

「<不動明王撃(アチャラナータ)>」

 

 お互いの背後に不動明王を従え、創造主とシモベは、笑みを浮かべながらぶつかり合っていくのだった。

 

 

 

 

 

 <生命の精髄(ライフエッセンス)>の効果を持つアイテムを使いながら、ぶくぶく茶釜はため息にその身を震わせた。物理攻撃力に特化した二人の攻防は激しさを増していき、闘技場全体を震わせていた。

 戦いに呼応するように、建御雷とコキュートスのHPは面白い位にガシガシと削られていく。決着はそう遠くないだろう。

 ユグドラシルとは違い、建御雷はこの戦いに痛みを感じているはずだが、口元に浮かんだ笑みは自身が傷つくほどに強くなっていた。

 

(……二人とも楽しそうだけど、闘技場の修繕費の方が気になっちゃうのは私が女だから?まあ、いいか。……おっと)

 

 飛んできた石壁の破片をぶくぶく茶釜は手に持った盾で無造作に打ち払う。弾かれた破片が観客席に飛んでいき、観客用のゴーレムに直撃していた。

 その光景を見たアウラとマーレが意気込んでぶくぶく茶釜を守る様に前に出る。

 

「マーレ!ぶくぶく茶釜様をお守りするよ!」

 

「うん!」

 

「あー、二人とも私は大丈夫だから」

 

 逆にぶくぶく茶釜は意気込む二人を庇うように再び前に出る。

 

「悪いけど、二人でやまちゃん……はユリが可哀想だから、ペストーニャを呼んできて貰える?もうそろそろ決着つくだろうから」

 

 ぶくぶく茶釜の言葉に渋る二人をなんとか説得し、送り出した。マーレの指輪で転移していく双子を見送り、改めて戦い続ける二人に両手に盾を構えて向き直る。

 

「私、あれに割って入るのかー……」

 

 嬉しそうに斬り合う二人と対照的に、そう言ってぶくぶく茶釜は項垂れた。


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