至高の方々、魔導国入り   作:エンピII

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ハーフだけど、ゴーレムの弐式さんも飲食不要、睡眠無効持ちとしています。



第三章 ドワーフ王国編
 至高の方々、打ち上げに興じる


「モモンガさん、俺はね。ユグドラシルの好きなところを一つ挙げろって言われたら、メリットとデメリットが有る所って答えるよ」

 

 弐式炎雷の言葉に、アインズは頷く。自分もそうだと思う。メリットにはデメリット。そうしてバランスが取られ、その組み合わせが無数に有り、仲間と共にそれをうまく組み合わせるビルドを、夢中で話し合った。

 

「だからさ。食事不要のデメリットにも、ちゃんとメリットがあるんだよ。それを受け入れるかわりに、他の部分に耐性を得られるからね。あまのまさんには勿体ないとかよく言われたけどさ、永続性があるってのは強みだと思ったんだ、俺はね」

 

 あまのまひとつ。自分や弐式炎雷と同じく最初の九人の一人。彼を思い浮かべ、アインズの眼窩に宿る光が明るくなる。彼がこの場に居たら、どうなるのだろうか。そんな想像をしてしまった。

 

「……ねえ、モモンガさん」

 

「はい。どうしました、弐式さん?」

 

「どうしよう。皆が滅茶苦茶羨ましいんだけど……」

 

 こちらを振り返る弐式炎雷にアインズは頷く。

 

「……ええ。私もです」

 

 ナザリック第九階層には食事を取ることの出来る施設がいくつかある。一般メイド達や一部のNPCが利用する従業員食堂もあるし、それよりも格式の高い食堂、ダイニングルームもある。ユグドラシル時代にはゲーム上意味のない施設だったが、転移してきた今となっては、友人たちのかつてのこだわりをありがたく思う。食事を取れる体ならばだが。

 

 

 

 現在第九階層のギルドメンバーが使う事を想定したダイニングルームで、立食パーティーが行われている。理由は勿論帝国での舞踏会が無事に終わり、ナザリック転移後初めてのギルドイベントの成功を祝うもの、ようするに打ち上げだ。

 ダイニングルームには様々な料理がビュッフェ形式で並んでおり、飲み物の数も十分すぎるほど用意されていた。料理はいくらでも追加できるように、料理長が控えており、飲み物も副料理長が準備している。

 この打ち上げに参加するのは、舞踏会に赴いたギルドメンバー達と、そのパートナーの守護者やプレアデス。勿論ヘロヘロの作成した一般メイド達も今回はもてなす側では無く、もてなされる側として参加している。直接舞踏会に参加はしていないが、ダンス指導に携わった恐怖公にレイナースの姿もあり、そして舞踏会には関わっていないが、マーレの姿もぶくぶく茶釜の隣にアウラと共にあった。

 

 NPC達は当初、この打ち上げに参加することを厭うとでも言うのか、渋っていた。至高の方と同列に云々と言っていたのをアインズは思いだす。それを仲間達は説得、命令、褒美、様々な言葉を巧みに使い分け、こうしてアルベドを除く今回の舞踏会に携わった全ての者を参加させていた。アインズは彼らの手際の良さに関心する程だった。よく口が回るとでも言うのか。

 NPC達の殆んどは今回の打ち上げを褒美と受け取ったのだろう。アインズ達は別段参加者を舞踏会に携わった者と限定していないのだが、他の者の姿はほぼ無い。料理の準備をする料理長に副料理長、そして男性使用人の幾人程度だ。

 

 アインズはこの打ち上げが始まった当初は、料理に舌鼓を打ち、様々な飲み物に酔いしれる彼らを慈しむような暖かい目で見つめていた。ギルドの仲間は勿論、NPC達の姿にもかつて現実世界で行われたオフ会の思い出が重なったからだ。

 だが次第に、美味しそうに料理を食べ、飲み物を煽る彼らに、少しだけ暗い炎が胸の内に宿っていった。食欲などは無いのだが、それでも少しは食べられない体の者の気持ちも労わってくれよと。

 最初の頃はペロロンチーノなどもグラスを持ってこちらに来てくれた。杯を掲げ、打ち付け合い、乾杯する。そしてこちらが飲みたくても飲めない事に気付くと、ああ、そうか。モモンガさんは飲めないよね。ごめん、俺が無神経だった。じゃあ俺はあっちでシャルティアと過ごすねと、そそくさと居なくなるのだ。

 そんなやり取りを何回か繰り返すうちに、嫉妬の炎が宿っていくのをアインズは実感していた。

 

(そりゃ食べられない種族に設定したのは自分の所為だけどさ。そんな痛いものに触れるみたいな対応しなくてもいいじゃないか。……特にペロロンチーノ)

 

 そう親友に視線を向ける。親友はこちらの気持ちなどお構い無しに、親から食事を貰う雛鳥の様に、シャルティアから次々に食事を与えられていた。

 あの野郎。

 思わずそんな思いが浮かぶと同時に肩を叩かれる。肩を叩いた彼はサムズアップをしながら、頭巾の上からでも解かる悲しい笑みを浮かべていた。

 それがアインズと同じく食事が取れないもう一人のギルドメンバー。

 ハーフゴーレムの弐式炎雷だった。

 

 

 

 

 

「まあでも、食べられないからって言っても、こういう場を持てたのは良いですよね。私だけでは出来なかったと思いますし。だから私達は私達で、邪魔をしないように場の雰囲気をたのし―弐式さん?」

 

 諦め、場の雰囲気を楽しもうとアインズは弐式炎雷に提案するが、その彼はアイテムボックスから何か取り出そうとしていた。何をするのだろうと黙って見ていると、弐式炎雷は頭巾の上から何かを顔に装着する。そしてアインズはそれに見覚えがあった。

 

「―嫉妬マスクっ!」

 

 弐式炎雷が装着したのは、クリスマスイブの十九時から二十二時までの間に二時間以上ユグドラシルに居ることで手に入る呪いの一品。ちなみにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの大多数はこのマスクを所持している。いない者もいるのだが。

 

「弐式さん……?一体何を……?」

 

 形容しがたい表情で弐式炎雷が振り返る。アインズには彼が泣いているように見えた。当然マスクのデザインなのだが。

 

「だって、悔しいよモモンガさん。見てよ、あの建やんを」

 

 弐式炎雷が指さす方向に視線を向ける。指さす先では武人建御雷がルプスレギナと共に飲むわ食うわを見事に体現していた。

 

「食う飲む食う飲む食う食う飲む食うだよ?こっちをこれっぽっちも気にしてない。しかも建やんこの嫉妬マスク持っていなんだよ?……あんだけ飲む食うしてるくせに、許せるはずがないじゃないか!」

 

「弐式さんの気持ちはわかりますけど……」

 

 思い返せば、確かにクリスマスイブに武人建御雷を見かけた記憶が無かった気がする。ログインしていても極僅かな時間のはずだ。他の日に誰がログインしていなかったなど覚えてはいないが、流石にクリスマスイブは印象が強い。

 

「それにモモンガさん、邪魔をするわけじゃ無い。ただ思い知らすだけだよ。俺達みたいのも居るってね」

 

「……しょうがないですね。付き合いますよ」

 

 諦めたようにアインズは言う。もはやこうなってしまっては譲らないだろう。ならば自分が付いて行って、度を越さないように見張るしかないと肩を落とす。

 

「じゃあ、モモンガさんもマスクを着けて行こう」

 

「えええ……」

 

「だってNPC達も参加しているんだから、正体隠さないと。……そうだな、俺が嫉妬ワン。モモンガさんは嫉妬ツーだ!」

 

「この場に居る時点で正体も何も無いと思いますけど……。わかりました、これでいいですか?」

 

 もはや諦めて、アインズも自前のマスクを装着する。

 

「よし、最初は茶釜さんの所に行こう」

 

「ああ、最初にどこまでが怒られないか、ボーダーラインを図るんですね……」

 

 暴走はしていても、ペロロンチーノやヘロヘロと違い怒られないレベルを図ろうとする弐式炎雷に頷いた。その慎重さがあるなら嫉妬マスクなんてつけるなよとは思ったが。

 そして三人はぶくぶく茶釜の居るあたりに向かって歩き出す。そして―

 

(―三人?)

 

 気付く。アインズと弐式炎雷の後を追うナーベラルに。弐式炎雷も当然気付いていたようで、困ったように頭を掻くフリをした。

 

「あー、ナーベラル?ナーベラルは食事取れるんだから、みんなと楽しんできていいぞ?」

 

 そう弐式炎雷に言われるが、ナーベラルは頭を下げ否定する。

 

「お供を」

 

 困ったように弐式炎雷はこちらに視線を向けるが、アインズは首を振る。弐式炎雷の前で、ナーベラルにあれこれと指示をするのに抵抗があるからだ。

まあ、流石に巻き込みはしないだろうとアインズが思ってると、彼は新しい別年度のバージョン違い嫉妬マスクをナーベラルに手渡していた。

 

「ちょっと、弐式さん!?」

 

 ナーベラルの前で、アインズは思わず素の声で呼びかけてしまった。幸運にも、弐式炎雷からアイテムを授けられたナーベラルは気にしていないようだが。いや、僅かに震えてすらいる。アイテムを授けられたことに感激しているようだ。恐らく弐式炎雷以外の姿は目に映っていないのだろう。

 

「……ナーベラル。俺達と同じく嫉妬の炎にその身を委ねると言うのならば、そのマスクを身に着けるがいい。だがこの先は修羅の道。後戻りは出来ないぞ。それでも俺達と共に来ると言うのなら、覚悟を示せ」

 

 そんな覚悟、私にはありませんよと伝えたいのだが、今の二人に口を挟めない。ナーベラルは感激した様に片膝をついて嫉妬マスクを受け取っている。そんな大仰に受け取るアイテムじゃないだろうと思う。そしてマスクを受け取ったナーベラルは迷いなく、覚悟を示すようにそれを装着した。

 

「よし。ならば今宵に限りお前はナーベラルではなく、嫉妬スリーだ。……ついてこいナーベラル、いや嫉妬スリーよ」

 

「はっ!弐式炎雷様!」

 

 いや、そこは嫉妬ワンじゃないのかとアインズは思ったが、もはや諦めぶくぶく茶釜の居る方に歩き始めた二人の後を追う。弐式さんこんな人だったっけと首を傾げながら。

 

 

 

 

 

「……何をされてるんですか、アインズ様に弐式炎雷様?それにナーベラルも」

 

「い、いや。これはだな」

 

 アウラに問われ、アインズは狼狽える。何て答えればいいのだろうと思っていると、先に弐式炎雷が答える。

 

「違うよ、アウラ。今の俺は嫉妬ワン。飲み食い出来ない悲しみから生まれた、悲しき嫉妬の権化だ」

 

「す、すごいです!エンシェント・ワン様とも何か関係あるんですか?」

 

 こんな格好でもキラキラとした目でこちらを見上げるマーレに、わずかに胸が痛む。そんな目で見られるほど、今の自分達は立派な姿はしていない。

 

「はは。あの人とは関係ないよ。つーわけで茶釜さん、ちょっとこんな感じで皆にちょっかい掛けてくるね」

 

 そう言って弐式炎雷はぶくぶく茶釜に許可を取る。ぶくぶく茶釜は頷くが、アインズとしては、ぶくぶく茶釜の取り込んだ食物や液体が、僅かに透けて見える方が衝撃的だった。

 

「了解、やり過ぎないように気を付けてね?」

 

「了。んじゃ行ってきます」

 

 予め何か打ち合わしていたかのような二人に疑問を抱くが、続くぶくぶく茶釜の「見張っといてね、モモンガさん」の言葉に頷き、問いただすことはせずに弐式炎雷の後を追うことにした。

 

 

 

 

 

「次はフロスト・エンシェント・ドラゴンの霜降りステーキでありんす。お口に合いますでしょうか、ペロロンチーノ様?」

 

「うん、美味しい」

 

「では次はこちらを」

 

 甲斐甲斐しくシャルティアに料理を食べさせてもらっているペロロンチーノは、本当に雛鳥のようだ。アインズはその姿に、楽しんでるなペロロンチーノと僅かに怨嗟の思いを抱く。

 

「あれ?どうしました、モモンガさんに弐式さん。……もぐもぐ。あー、美味しい、フォアグラなんて初めて食べた。シャルティア?次は飲み物が欲しいな」

 

「はい、畏まりました。ペロロンチーノ様。……どうぞ」

 

「ありがと…っぶ!シャルティア、これアルコール!」

 

「も、申し訳ありません!お、お口直しにこちらを!」

 

「うん、アップルジュース美味しい。……それで、どうしたんですか?……ごくごく。あ、シャルティア、次あれ食べたい」

 

「せめて飲むか喋るかどっちかにしろよ!」

 

 思わず叫びだす。

 

「あ、アインズ様!?」

 

「……ああ、すまない、シャルティアよ。なんでもないのだ。気にするな。それと今の私はアインズではない。嫉妬の心から生まれ這い出でる者。嫉妬ツーだ」

 

「し、嫉妬ツー様でありんすか?」

 

「そうだ。だからここで見聞きしたことは全て嫉妬ツーの仕業と思え」

 

 眼窩に暗い炎が宿る。その炎がマスク越しにペロロンチーノを見据えた。

 

「……ペロロンさん?」

 

「ど、どうしました?少し怖いですよ、モモンガさん」

 

「貴方は良い友人でした。……さよなら、ペロロンチーノ」

 

「ちょ!待って、モモンガさん!ごめん!配慮足りなかった事は謝るから!マジごめん!ちょっと、拗ねないで下さいよ!」

 

「知りませんし、拗ねてなんていませんから」

 

 追いすがるペロロンチーノを振り払うようにアインズは歩き出す。その二人に慌てたように狼狽えるシャルティアの肩を弐式炎雷は優しく叩く。

 

「平気だってシャルティア。あの二人あれですぐ仲直りするから」

 

「そうなんでありんすか?」

 

「そ。だから心配するなって。よし、次のターゲットはやまいこさんだ。あの二人は放っておいて俺達だけ行くぞ、嫉妬スリー」

 

「はっ!畏まりました、弐式炎雷様!」

 

「あ、その前に恐怖公に挨拶に行こうか。世話になったしな」

 

 

 

 

 

 

「よっ!恐怖公、楽しんでる?」

 

 マスクをしたままの弐式炎雷が呼びかけると、恐怖公は騎乗したシルバーゴーレムの上で、丁寧に腰を折り曲げ、頭を下げた。

 

「恐怖公のレッスンの御蔭でさ、本番も上手くいったよ。ありがとうな」

 

 弐式炎雷が礼を言うと、恐怖公はうんうんと満足そうに何度も頷く。ダイニングルームにでっかいゴキブリが、銀色のゴキブリに直立して何度も頷いてるってすごい絵面だなと弐式炎雷は内心で思った。

 

「礼など、滅相もありませんぞ。弐式炎雷様とナーベラル殿の成長は、御二方自身の力によるもの。吾輩はほんの少しのお手伝いをさせて頂いたまでです」

 

「そんな事ないって。恐怖公のレッスンが良かったんだよ。……お礼をしたいけど、何か欲しいものはあるか?」

 

 弐式炎雷の提案に、恐怖公は首を振る。どうキャラメイクすればゴキブリの体でここまでの動きが出来るのだろうかと、恐怖公の創造主を思い、感心した。

 

「いえいえ、それには及びません。この立食パーティーで残った料理は全て眷属達に賜れると、そうアインズ様より仰せつかっておりますゆえ」

 

「あ、そうなんだ?流石モモンガさんだなー、気配りのレベルが違う。まあ、それならいいや。んじゃ、恐怖公、楽しんでくれよ。恐怖公たちの取り分が増える様に、俺も頑張るからさ!」

 

 はてと首を傾げる恐怖公にヒラヒラと手を振りながら、弐式炎雷はやまいこの元に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「……うわー」

 

 食事の味に、思わずやまいこは口を押える。現実世界でも比較的裕福な家に育ち、正直恵まれている家庭環境であったが、それでも感嘆を押さえられない。それほどにナザリックで作られた食事は美味であった。

 

「お口に合いますか、やまいこ様?」

 

「うん、美味しい。……ああ、ごめんね、ユリ。ボクばかり食べちゃって」

 

 アンデットのため食事のとれないユリにやまいこは謝る。しかしユリはそんなやまいこに微笑んだ。その微笑みは主の喜ぶ顔こそが至上と雄弁に語っている。

 

「そんな事ありません。さあ、やまいこ様。料理はまだまだあります。次は何をお取りしますか?」

 

「ふふ、ありがとう、ユリ。……それじゃあ、あれが食べたいな」

 

 やまいこが選んだのは様々な特殊な素材で、料理長が腕を振るった逸品が並ぶ中、唯一普通の素材が使われて作られたと思われるパスタだった。

 

「あ、あれは」

 

 一瞬躊躇うユリにやまいこは自らそのパスタを手に取った。そして恥ずかしそうにするユリの前で、躊躇わず口に運んでいく。

 

「……うん、凄い美味しい。茸のクリームパスタ。ボクの好物なんだ」

 

 やまいこの言葉にユリが嬉しそうに目が輝かせる。やまいこはそのユリに微笑んだ。

 

「ありがとう、ユリ。このクリームパスタ、ユリが作ってくれたんでしょう?ふふ、六階層でボクたちが集まっていた頃の話覚えてくれてたんだね。本当に、美味しいよ、ユリ」

 

「……!ありがとうございます、やまいこ様!」

 

「もう、お礼を言うのはボクなのに―っと、ユリごめんね。弐式さんが来たみたい」

 

 頷いて控えるユリから離れて、やまいこは歩み寄ってくる弐式炎雷に向き直る。なぜかマスクをした彼に疑問符が浮かぶ。

 

「……どうしたの、弐式さん。それ、もしかして嫉妬マスク?」

 

「お、知ってるんだ?そ、クリスマスイベントのあれだよー。それと邪魔してごめんね」

 

「ううん。それでそれを着けてどうしたの?」

 

 そこまで聞いて、弐式炎雷は少し離れた所で控えるナーベラルを振り返る。声が届くか気にしたのかもしれないが、ナーベラルにまで仮面をつけさせて本当に何をしているんだろうこの人とやまいこは思ってしまう。

 

「NPCと友達になろうってのを建やんと企んでてね。その一環で今NPC達に俺達も馬鹿やるんだぞーって見せつけてる最中。……あんま効果ないみたいだけど。まあ、少しでもハードル下げておこうかなって、これから色々やるつもりだし」

 

「……それってモモンガさんのため?」

 

「俺たちのためでもあるけどね。……あの人の周りガチガチに忠誠心で固まってるから、少しでも素のモモンガさんNPCに見せてやりたんだよね」

 

 なるほどとやまいこは頷く。それにしてもいきなり嫉妬マスクは飛ばし過ぎな気もする。少しだけ視線をずらせば、当のモモンガはペロロンチーノと何やらジャレついているようだ。そのモモンガの顔にも、しっかりとマスクがある。

 

「……何か手伝える?」

 

「うーん?ま、俺達もまだ手探りだし。必要になったらお願いするよ」

 

「ん、了解。ボクはこのままで平気?」

 

「ユリは問題無さそうだしね。ヘロヘロさんとペロロンさんは勝手にハードルガンガン下げてるんだけど、どうもNPCの忠誠心って俺らが想像している以上だよな。見てよ、ナーベラルなんてめちゃくちゃ真面目に嫉妬マスク被ってるし」

 

「可愛いからって、あんまり遊んじゃ可哀そうだよ?」

 

「うん、程々にするよ。……モモンガさん達もそろそろ仲直りしそうだし、建やんの所行ってくるわ」

 

「行ってらっしゃい、頑張ってね」

 

「任せて!……行くぞ、嫉妬スリーよ。狙いは悪鬼、建御雷。今宵の本命だ」

 

「はっ!……ですが弐式炎雷様。武人建御雷様の種族は半魔巨人では無いのでしょうか?」

 

「真面目か、ナーベラル」

 

 喋りながら離れていく二人を見送る。みんな色々考えてるんだなと思いながら。そして、自分もそろそろ話をしないとと覚悟を決める。そう決意し、ユリに振り返った。

 

「……ユリ?ボクこれが終わったら少し茶釜さんとお話しするから、帝国から保護してきたあの子達の事、お願いね?」

 

 

 

 

 

「……美味いな」

 

 副料理長から差し出されたカクテルを飲み干し、武人建御雷が感嘆した様に呻く。至高の存在から褒められた副料理長は思わず身体を震わせた。そしてゆっくりと頭を下げる。

 

「ありがとうございます、武人建御雷様。……申し訳ありません、至高の御方の許可を得ずにですが、このカクテルをナザリックと名付けました。お許しください」

 

「相応しい名だと思うぞ?俺が今まで飲んできたものの中で間違いなく最高だ。悪いが、もう一杯貰えるか?」

 

「畏まりました」

 

「そんなに美味しいんすか?ピッキー、私にも同じものを」

 

「ええ。武人建御雷様にお出しした後に、すぐにお持ちしますよ」

 

 そう言って下がる副料理長を見送ってから、建御雷は背後から迫る三人組に振り返る。釣られてルプスレギナも振り返り、そして信じられないものを見たように驚いていた。ナザリック大墳墓の主を含む三人組が、得体の知れないマスクを被って歩いて来ていれば当然だろう。

 

「で、それは何の余興だ?……お前、モモンガさんだけじゃなくてナーベラルまで巻き込んでるのかよ……」

 

 呆れたように言う建御雷に弐式炎雷は笑いながら答えた。

 

「飲み食い出来ない苦しみを知らぬ者よ。悔い改め、ごめんなさいをする時間が来たのだ。我らの悲しみを思い知れ。我が名は、嫉妬ワン!」

 

「し、嫉妬スリーです……」

 

 弐式炎雷とナーベラルが、片方は溌溂に、片方は羞恥に僅かに震えた声で名乗りを上げる。その姿に、いきなりやり過ぎだろうと建御雷は右手で顔を覆う。確かナーベラルからの期待のプレッシャーが半端ないとか言っていなかったかと小さく呻く。

 

「ええーと、ナーちゃんも乗ってるみたいだし、これは私もこのノリに乗った方がいいんすか?」

 

 恐らくアインズのこの様な姿を見た事無いのだろう。狼狽えるルプスレギナに、建御雷はもうどうにでもなれと頷く。その頷きにルプスレギナは、頷き返し、三人に頭を下げる。

 

「申し訳ありません。もう一度最初からお願いできますでしょうか?」

 

「お、リテイク?おーけーおーけー。んじゃ俺から行くよ。……我らの悲しみを思い知れ。我が名は、嫉妬ワン!」

 

 大仰にポーズを取る弐式炎雷に、ルプスレギナも右手を横に振り、ポーズを取りながら問いただす。

 

「嫉妬ワン!一体何者すか!?このナザリック第九階層にまで侵入してくるとは……。まさかエンシェント・ワン様縁の者か!?素顔を、素顔を晒すっす!」

 

「はーはははっはっは!エンシェント・ワンさんは関係ない!関係ないからあの人が戻ってきてもこの事は秘密だぞー!そして我の素顔は無形!晒す素顔なぞ無い!」

 

「……素直に素顔はのっぺりしてるから晒せないって言えよ」

 

「うるせーよ、建やん。……はーはっはっはっは!しかし我はお前の正体を知っているぞ、ルプスレギナよ!お前の正体は人狼だろう!?」

 

「なぜそれを!?くー!そっちも正体を晒すっす、嫉妬ワン!」

 

 わいわいと騒ぐ二人に呆れながら、アインズが見たこともない姿を見せるルプスレギナに素直に驚く。そして確認するように、隣のナーベラルに問いかける。

 

「ナーベラル。ルプスレギナは普段はこういう感じなのか?いつもの彼女らしからぬ口調だが」

 

「はっ。その通りです、アインズ様」

 

 頷くナーベラルに、アインズはそうなのかと驚く。そしてそのアインズの前では決して見せなかったルプスレギナの素の姿をあっさりと引き出して見せる友人達にも驚く。これはまさしく、アインズでは出来なかった事だ。

 

「そういやモモンガさん、アルベドはどうしたんだ?」

 

 いつの間にか近寄ってきていた建御雷にアインズは、アルベドが今は帝国属国の草案作りをしていることを告げる。

 

「この打ち上げが終わり次第、様子を見に行くつもりです。本当、アルベドにはいつも苦労を掛けてしまってますから……」

 

「……よし、じゃあアルベドにも褒美を授けに行こうぜ」

 

 そう言われ疑問符を浮かべるアインズに、建御雷は野太い笑みを見せるのであった。

 




ここのpixivとの違いは、恐怖公だけ。
ヘロヘロさんパートも増やすつもりだったけど、結構膨らみそうだったから、別の機会にいれます。

pixivを読んで下さってる方は分かるかもしれませんが、次回は久々ドロドロとしたところを、加筆いれてがっつりやりたい。


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