至高の方々、魔導国入り   作:エンピII

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 至高の方々、ドワーフとクアゴアに接触する 其の一

「―何か、楽しい事があったようですね、父上」

 

 エ・ランテルの別宅。その応接室で隣に座るパンドラズ・アクターの言葉に、アインズは思わず確かめる様に自らの頬に触れる。当然そこには骨の感触があるだけで、パンドラズ・アクターが言う様に楽しいと解かる様な変化があったようには思えない。

 先ほど宝物殿にパンドラズ・アクターが戻れるように許可を出したが、その流れで父上呼ばわりされるようになった。だが今は少しだけ慣れてきた気がする。仲間達の前では父上と呼ばせたくは無いが。

 

「……わかるのか、パンドラズ・アクターよ」

 

「勿論でございます。私はあなた様に作られました。その御方の気配を違える筈がございません」

 

「……ふむ」

 

 そう言われ、アインズはパンドラズ・アクターをしげしげと見つめる。パーソナルスペースに平然と侵入してくるパンドラズ・アクターに驚きはしたが、その彼もどことなく嬉しそうに見える。卵頭の彼の表情からも読み取れるのだ。アインズの骨の顔から感情を読み取れても、不思議ではない。

 

「そうだな。楽しい、実に楽しい事があった」

 

 そしてアインズは素直に認めた。

 

「その話、お聞きしても?」

 

 座りながらも、自らの胸に手を置き、オーバーリアクションで訊ねてくるパンドラズ・アクターにアインズは頷く。

 

「仲間達とキャンプをしたのだ。キャンプファイヤー……大きな篝火とでも言えばいいのか?それを取り囲み、皆と踊るんだ。……ふふ。本当に、楽しかった」

 

 昨夜の出来事を思い浮かべる様に、アインズは顔を上げる。

 そう、あれは本当に楽しかった。燃え盛る炎に、煌めく星々。流れるユグドラシルのBGM。仲間達の笑い声。そして若干の悲鳴。

 思い出したのは、アインズ・ウール・ゴウンの前身であった最初の九人と共にユグドラシルの様々な世界を冒険した思い出。

 あのキャンプは、ユグドラシルでの楽しかった頃の思い出と比べても、遜色なかったとアインズは頷く。

 

「知っているか、パンドラズ・アクターよ。フォークダンスというのは曲ごとに踊るパートナーを代えていくんだ。……ふふ、喧嘩ばかりしている茶釜さんとペロロンさんが踊るとな。普段とは違う、姉弟らしく息があった踊りを魅せてくれるんだ」

 

 思い出が次々に蘇っていき、アインズは饒舌に語る。

 

「建御雷さんとやまいこさんの踊りはやはり圧巻だった。それにな、パンドラズ・アクターよ。驚いたのは、コキュートスだ。必死に踊りを覚えていたらしいが、建御雷さんと踊りたかったらしくてな。パートナーの踊りを、ああ、お前でもわかる様に言うと女性の踊りの方だ。そちらを見様見真似で覚えたらしい。ははは!あれは本当に、傑作だった!」

 

 真剣な面持ちでアインズの前にパートナーとして立ったコキュートスを思い出し、手を打ち鳴らし笑う。

 あのキャンプは本当に沢山のものを見せてくれた。

 シャルティアの手を取り踊るアウラ。デミウルゴスとアルベドの優雅な踊り。仲間達だけで無く、NPC達も普段見る事の無い様々な表情をアインズに見せてくれた。

 

「……本当に、とてもお楽しみになられたようですね」

 

 朗らかに言うパンドラズ・アクターに、アインズは笑ったまま頷いた。パンドラズ・アクターはそのアインズに微笑んだようだ。

 そして少しだけ時間を置き、別の話を切り出してくる。

 

「……父上、お頼みしていた件ですが―」

 

「宝物殿に戻る許可か?それは先ほどに許したではないか」

 

「いえ、そちらでは無く、以前お願いしていた件でございます」

 

 先ほどまでと違い、真剣な声音でパンドラズ・アクターが言う。アインズは何の事かと思案するが、すぐに思い至る。仲間の捜索隊、そのアルベドの副官として配置された後に頼まれた件だろう。

 

「仲間達の武具の件か?あれは―」

 

「ええ、その必要はもはや無いかと。申し訳ありませんが、取り下げさせてもらいます」

 

 珍しく、アインズの言葉を遮りパンドラズ・アクターが言う。頼みを取り下げる理由はわからなかったが、アインズは鷹揚に頷く。

 仲間たちは霊廟から帰ってくるのだ。捜索隊も、ぶくぶく茶釜の補佐として形骸的に残してあるに過ぎない。それに仲間達が戻ってくることが分かった今では彼らの許可なく装備品を、たとえナザリックの者であれ、勝手に貸し与える訳にはいかないだろう。

 

「……そうか。それでは私はもうナザリックに戻るとする。……思えば仲間達は自らが創造した者達を連れているが、私はお前を連れて行くことは無かったな。宝物殿に戻る許可以外に、何か望みはあるか?」

 

 何か褒美でもあるかというアインズの問いかけだったが、空気が変わった。

 あ、これ何か失敗したかもしれない。そうアインズは瞬間的に理解する。

 その思いから訂正の為にアインズが口を開こうとするよりも早くに、パンドラズ・アクターが口を開いた。

 

「それでは、父上!」

 

 パンドラズ・アクターが立ち上がり、カツンと踵をあわせて鳴らしてから頭を下げる。本当はこのオーバーリアクションを仲間達に見られたくなくて、エ・ランテルから連れ出す事をしたくなかったのだが。

 今いる仲間達の中には、このパンドラズ・アクターのオーバーリアクションを見れば悶絶して笑い転げる者がいるだろう。特に誰とはいわないが。こうペロロン的な。

 

「私にもダンスのレッスンをしていただけますでしょうか!?」

 

「……踊りたいのか?」

 

「父上がコキュートス殿とまで踊られたと聞いては、私もう辛抱堪らんのです!」

 

「……そうか。……ええー、俺が教えるの?お前に?」

 

「ええ!是非!」

 

「…………あぁ。分かった。だが、教えると言ってもどっちをだ?私はリーダーの経験しかないぞ?」

 

「ならば私が父上のパートナーとなりましょう。もし今の私の姿に抵抗がおありでしたら、女性であられるぶくぶく茶釜様、やまいこ様、餡ころもっちもち様。その御三方のお姿をお借りしますが?」

 

 三人の姿を思い浮かべるが、彼女達の姿で踊るのとパンドラズ・アクターの姿のまま踊るのとでは正直大差は無い。女性とはいえ、三人とも外見からでは女性とは思えない姿をしているためだ。

 

「……いや、そのままでいい。分かった、パンドラズ・アクターよ。私がお前に踊りを教えるとしよう。ここでは少し手狭だな。どこかいい場所はあるか?」

 

「はっ!ご案内します!」

 

 カツカツと踵を踏み鳴らし歩くパンドラズ・アクターの背をアインズは眺めながら、まあ、仲間に付きっ切りであまり構ってやれなかったから今日ぐらいはいいかと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

「―見つけた」

 

 弐式炎雷がそうやまいこ達に呟いたのは、キャンプから二日経った日の朝だった。

 

「ドワーフか?」

 

 騎乗モンスターに乗り込みながら、弐式炎雷に武人建御雷が問いかける。弐式炎雷はその質問に頷き、リザードマンのゼンベルに問い掛けた。

 

「ゼンベルさん。ドワーフの街って、山の裂け目から入る洞窟の中だろう?」

 

 弐式炎雷が空中に裂け目の姿を描く様に指を動かす。ゼンベルが恐らくと前置きを付けてから頷いて答える。

 

「だけど、居住区らしい所は見つけたけど、誰も居ないぞ?聞いてた警備兵も居なかったし」

 

 視覚を先行している分身と繋げているのだろう。弐式炎雷が騎乗モンスターに揺られながら腕を組み、顎に手を置いて考え込んでいた。

 

「おいおい、空振りか?」

 

 建御雷がゼンベルに確かめる様に振り返る。ゼンベルも驚いたような顔をしていた。

 

「―ああ、一人いたよ。別の俺が捕捉した。たぶん、ドワーフだ。採掘してるみたいだな」

 

 そして弐式炎雷は同じく騎乗モンスターに揺られるペロロンチーノを振り返り、親指を立てる。

 

「ドンマイ!」

 

「え?それどういう意味ですか?」

 

 向けられた言葉の意味が分からずにペロロンチーノが聞き返すが、弐式炎雷は質問には答えずになぜか首を傾げた。

 

「……ドワーフじゃない。少し離れた所で変な奴らも見つけたぞ。亜人みたいだけど、ユグドラシルでは見た事無いな」

 

「どんな奴らだ?」

 

「動物っぽいんだけど、モグラって知ってる?あんな感じかな?とりあえずこのままだとドワーフとかち合うから―」

 

 その言葉を聞き、色めき立つ者が居た。ペロロンチーノだ。騎乗モンスターから飛び上がり、羽をバタつかせている。

 

「ロリドワーフがピンチと聞いて!助けに行ってきます!」

 

 そして一気に飛翔して、止める間も無くやまいこ達の視界から消え去っていった。慌てたのはシャルティアだ。

 

「ペロロンチーノ様!?」

 

 シャルティアが騎乗モンスターに鞭を入れる様に手で叩き、ペロロンチーノの後を追い一団から離れていく。その光景をやまいこ達は呆れたように顔を見合わせてからため息をついた。

 

「それで、ドワーフはどっちだったんだ?」

 

「髭面のチビマッチョの方。まあ、ユグドラシルでもプレイヤーはともかくNPCはこっちのタイプだったしね」

 

「ペロロンさんは無駄足決定か。まったく、助けに行くってあの人正確な場所解かってないだろう」

 

 建御雷の言葉に頷きながら、弐式炎雷が騎乗モンスターから飛び降りて、軽くほぐす様に体を捻じっていた。追いかけるつもりなのだろう。確かに今いるメンバーで全力飛翔するペロロンチーノに追いつけるのは、スキルを駆使した弐式炎雷だけだ。スキルを使用するならば、騎乗モンスターはむしろ邪魔になる。

 

「弟君をお願いね、弐式さん。<魔法持続時間延長化・加速(エクステンドマジック・ヘイスト)>」

 

 やまいこが魔法強化を施した<加速>を弐式炎雷に向け唱える。

 

「サンキュー、やまいこさん。んじゃ、行ってくる。ああ、ナーベラルはみんなと一緒に行動しろよ?ここからの道はゼンベルさんも解かるだろうけど、すぐに俺の分身を一体戻して案内させるから、みんなはゆっくり追いかけて来てよ」

 

 そう言ってから弐式炎雷がすっと、音も無く影だけを残し走り去っていく。ペロロンチーノと同じく一瞬で視界から消えていく弐式炎雷に驚いたのか、ゼンベルが口を開いた。

 

「……すげえ。音も立てずに一瞬で走り抜けていきやがった。おいおい、足跡すら残ってないのは何の冗談ですか?」

 

「リザードマン。あの御方こそが弐式炎雷様。その威光を目に焼き付け、他の者にも伝えなさい。偉大なる御方の名を」

 

 驚くゼンベルにナーベラルが何処か誇らしげに胸を張っている。そのナーベラルが微笑ましくやまいこ達は少しだけ笑った。

 

 

 

 

 

 時折影を渡りながら、弐式炎雷は岩だらけの山場を疾走する。前方に騎乗モンスターに乗るシャルティアを見つけ、追い越しざまに右手で彼女の腰を掴み脇に抱えあげる。

 

「っ!?」

 

 不意打ちに驚いたのだろう。一瞬体を硬直させるが、すぐにその正体が弐式炎雷と知りシャルティアは抵抗を止めた。

 

「悪いね、シャルティア。ペロロンさんはまだ先だろう?しばらくはこの格好で我慢してて」

 

「は、はっ!畏まりました、弐式炎雷様!」

 

 脇に抱えられたシャルティアが慌てて頷く。弐式炎雷はさらに移動速度を上げペロロンチーノを追いかけていく。取り残された騎乗モンスターが置き去りになっているが、放っておいても勝手に建御雷達の元に戻るだろう。

 

「つーかこの速度で追いかけてて影も見えないって。一体どんなスピードしてるんだよ、ペロロンさん。こっちは強化魔法貰ってるんだぞ?……あの人飛ばしたら追いつけないな、こりゃ」

 

「弐式炎雷様ですら追いつけないなんて!流石はペロロンチーノ様でありんす!」

 

「お、シャルティア。それは俺に対する挑戦だな!?いいぜ、本気の俺を見せてやるから、舌を噛むなよ!」

 

 そして弐式炎雷はさらに加速し、景色を置き去りにしていく。追いつけないまでも、捕捉すら出来ないとなれば忍者の名折れだ。舌を噛むなとは言ったが、まあ、心配いらないだろう。

 だがスピードを上げていく弐式炎雷に抱えられたシャルティアは、別なところに問題が起き始めている事に気付いて叫ぶ。

 

「に、弐式炎雷様!?む、胸が!胸が飛んで行ってしまいます!」

 

「ドンマーイ!シャルティア!俺の本気は、まだまだこんなものじゃないぞー!」

 

 二日前に創造主であるペロロンチーノの叫び声が鳴り響いたアゼルリシア山脈に、今度はその彼に創造されし者、涙目のシャルティアの悲痛な叫び声が木霊していた。

 

 

 

 

 

 結局あれからすぐにペロロンチーノとは合流する事が出来た。なんだかんだで行先が解からないと理解できたらしい。坑道に繋がる岩の裂け目付近で旋回するペロロンチーノを見つけ、声を掛けた。

 ズレた胸をペロロンチーノに見られないように、弐式炎雷の影に隠れて直すシャルティアに流石に申し訳ないことをしたと反省しつつ、三人はドワーフの街らしき場所に向けて歩いていた。

 

「……ここですか?ロリドワーフの街は?」

 

「あー、うん。ロリはともかくたぶん……」

 

 つまらなそうなペロロンチーノの言葉に、弐式炎雷も自信なさげに答える。

 みすぼらしいのだ。

 水晶らしき鉱石から発せられる仄かな灯りに照らし出された街並みは並んだ箱のようで、道中で魅せられた山脈の光景に比べ面白みに欠けている。

 

「プレイヤーは居ないかもしれませんね」

 

「だな。居ればもうちっと手を加えてるだろう。まあ油断はしないようにしようぜ。こうやって油断を誘っているのかもしれないし」

 

 念のために注意を促し、先に進む。

 

「この先に別の俺がモグラ獣人を捕縛している。建やん達がこっちに来るまでまだ時間が掛かるだろうし、先にそっちを見てくれるか?」

 

 弐式炎雷がペロロンチーノとシャルティアを、一体の分身の元に案内する。そこには多数のモグラ獣人がロープらしきもので拘束されている。正確にはロープでは無くスキルを使った捕縛術だ。分身の為アイテムが使用できず、この数のロープも用意する事が出来ないために、スキルで代用したのだ。

 

「お疲れー、分身の俺。どう、こいつら?強かった?」

 

「お疲れー、本体の俺。スキル使ったよー。いや、弱かったよ。せいぜい十レベルって所じゃない?真ん中のこいつはもうちょっと強いかな?」

 

 そう言って分身が毛並みに微かな青色が入ったモグラ獣人を指さす。スキルで捕縛しているために目が虚ろで一言も言葉を発さない。軽くでも衝撃を与えればすぐに捕縛が解除されるが、それまではこの状態だろう。

 

「やっぱ、ユグドラシルでは見た事無いよな?ペロロンさんはどう?見覚えある?まあ、俺達の引退後に追加された種族かもしれないけど」

 

 問いかけるが、ペロロンチーノから返答は無い。それどころか僅かに口を開き、仮面越しだが驚いたような顔をしている。そこまで驚くような相手かなと思ったが、どうやらペロロンチーノの驚きは別の理由だったらしい。

 

「……え?弐式さんの分身喋るんですか?」

 

「そら喋るよ。分身だし」

 

 答えたのは分身だ。本体の弐式炎雷も頷く事で答える。

 

「……シャルティアのエインヘリヤルも喋るの?」

 

「いいえ、話したりはしんせんす。……流石は弐式炎雷様の分身体でありんすね」

 

 ペロロンチーノの質問に答えるシャルティアに、弐式炎雷は分身と共に胸を張る。そして分身と一緒両手の中指と人差指を十字に交差させ印を結んで見せた。しかしそれは伝わらなかったらしく、ペロロンチーノとシャルティアは疑問符を浮かべていた。

 

「エロゲー原作以外のアニメは見てないのは相変わらずかペロロンさん。リメイクされてたんだけどなー。まあ、いいか。とにかく俺の分身は特別性だからね」

 

 せっかくのポーズが伝わらなかった事に、これがぶくぶく茶釜ならば通じたんだろうなと頭を掻く。

 

「数は出せるけど、シャルティアのエインヘリヤル程強くは無いし。俺の分身じゃ薙ぎ払われるよ」

 

 その分スキルの使用など、本体とリキャストを共有するなどの制限もつくが、エインヘリヤルよりも汎用性に富む。

 

「そうそう。(分身)なんて紙装甲が更に紙だからね」

 

「言わばミシン目のついたトイレットペーパー装甲!」

 

 分身に答えたのはさらに別の分身。建御雷達を案内させていた分身だ。彼がここまで来たのならば、すぐに全員到着するだろう。

 

「うわ、弐式さんが三人も居る……」

 

「ナーベラルが見たら喜びそうでありんすが」

 

「お、マジ?俺ハーレム作っちゃう?ほら、ペロロンさんにシャルティア。あっちを見てみて」

 

 そういって遥か先の建築物の屋上を指さす。そこではさらに別の分身がこちらに向けて手を振っていた。二人の眼差しに驚きがある。それが面白くて、さらに別の場所を指さした

 

「ほら、あっちにも」

 

 この場に集結しつつある分身をさらに指さして姿を晒させた。物陰から、隙間から、建物から、次々に現れる分身にペロロンチーノが悲鳴を上げる。

 

「ひぃ!弐式さんが一杯いる!なに、この絵面!全員黒いし!」

 

「忍者が黒いのは当たり前だろ。人をゴキブリみたいに言うなって。お、建やん達来たな。おーい!」

 

 遠くから姿を見せる建御雷に手を振って見せる。

 分身体全員と共に。

 大量の弐式炎雷が手を振る光景に仲間達が気味悪がり、少し分身の数を減らすのはもう少し先の話。

 

 

 

 

 

 

 仲間達と合流した弐式炎雷は拘束したモグラ獣人を全員に見せるが、やはり誰も見覚えは無いらしい。もしかすればユグドラシルにはない種族かもしれないが、引退していた今のメンバーでは判断がつかない。

 

「そう言えば、こいつら殺さなかったんですね、弐式さん?」

 

「……殺すってペロロンさん。まだ敵対もしてないのに、そんな事する訳ないだろう?」

 

 ペロロンチーノに問われ、驚きながら弐式炎雷が答える。

 

「背後からのカットスロートが大好きじゃないですか、弐式さん。てっきり死体の山を見せられると思ってました」

 

 笑って言うペロロンチーノに、思わず空恐ろしくなる。ただの無邪気さからの冗談ならばいいが、判断がつかずに仲間達を見やる。仲間達、特にやまいこが複雑な顔をしているがその事には何も触れずにいるので、弐式炎雷もそれに倣う事にした。

 

「中々鋭利な爪をしていますね。土を掘ることに特化した種族でしょうか?」

 

 ウルベルトが話を変える様に、このモグラ獣人達の特徴を述べた。弐式炎雷も慌ててそれに乗る。

 

「かもしれないね。こんな山の中に住んでるくらいだし。鉱石堀とか、鉱脈探しに役立つのかも」

 

「……ねえ、皆。この子達魔導国の仲間に出来ないかな?」

 

 弐式炎雷の言葉に、やまいこが何かを思い付いたように提案をする。だがそれ以上に言葉を続けずに、やまいこはNPC達に微かに視線を向けた。それを察したペロロンチーノが、シャルティアの肩に手で触れる。

 

「よし、軽くこの街を探検しよう、シャルティア。ああ、ナーベラルとコキュートスも付いてきてね」

 

 ペロロンチーノに引き連れられ、NPC達が離れていく。やまいこがNPC達の前では言いづらいことを話そうとしていると察したのだろう。普段の姿はあれだが、ペロロンチーノはそういった機微には聡い。こういう所は流石だなと、弐式炎雷は感心する。

 NPC達と距離が離れて、この場に残るのが弐式炎雷、建御雷、ウルベルト、やまいこだけになった。そうしてからやまいこが口を開く。

 

「ちゃんと伝えてなかったね。ボクとかぜっちは現実世界に戻る。今はその手段を探している段階なんだ。その為に、世界級アイテムが欲しい」

 

 現実世界に帰還する手段をぶくぶく茶釜が探している事は、この場に居る全員が知っている。やまいこがどうするかは伝えられていなかったが、この場に驚きは無い。むしろ残ると言われた方が衝撃的だっただろう。

 

「戻る手段なんだけど、かぜっちは世界級アイテムを併用した<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>を使うつもりなんだ。その世界級アイテムなんだけど、魔法かアイテムの性能を最大限に引き出すもの、もしくは運営お願いが出来るタイプって条件が付くらしくて」

 

「……その二つがあれば、現実世界に帰還できると?」

 

 ウルベルトの金色の瞳が、やまいこの指に嵌められた流星の指輪に向けられていた。やまいこはその視線に頷き、指輪をかざして見せる。ユグドラシルで使用したのか、星が一つ欠けていた。

 

「試してみないとだけどね。そのためにこの子達の力が借りたい」

 

「なるほど、七色鉱か。あれをこいつらに探させるんだな?……ナザリックに支えし神(アトラス)が残ってれば話は早かったんだが」

 

 建御雷がかつて奪われた世界級アイテムの名前を口にした。しかしやまいこは否定するように首を振る。

 

「ううん。残っていても使わないよ。これはボクたちの我儘だから。ナザリックの世界級アイテムは使わないって、かぜっちと決めてる」

 

 今ナザリックに残された世界級アイテムの使用に関しては、弐式炎雷自身は抵抗は無い。だが二人が使わないと決めているならば、その意思を尊重するべきだろう。

 

「んじゃ、目的一個追加だね。こいつらを魔導国に引き入れる。……それで皆、どこまでやる?」

 

 弐式炎雷の問いかけに、やまいこ達が思案する。仲間にするにしても、出来るだけ人死には避けたい。どれだけ数が居るのかも不明だが、そういう目的ならば数を減らしたくはないし、なにより力で押さえつけて支配する手段は、完全な敵対でもしない限りは取りたくなかった。

 

「……力を見せて俺達で支配をしましょう」

 

 だが、ウルベルトは力による支配を提案する。

 

「おいおい、ウルベルトさん」

 

 建御雷の言葉に、ウルベルトは違うと笑って首を振った。

 

「無理やり支配するんじゃありませんよ。俺も……弱者を力で押さえつけて支配する手段には抵抗があります」

 

 ウルベルトの言葉に驚く。彼のカルマは-に振り切っているからだし、ユグドラシルの頃には世界の一つも支配しようと提案した男だからだ。

 全員の驚きに気付いたからか、ウルベルトは苦笑いをする。

 

「ユグドラシルの頃ならば、積極的にそういう手段を提案しましたけど。こちらでは少し思う所もありますから」

 

 もしかすれば現実世界での自分と、この世界での弱者を重ねているのかもしれない。何時だったか、お互いのリアルでの話をした事を思い出す。ウルベルトはあまり詳しい話はこちらにしなかったが、推測することは出来た。

 

「でもだからこそ、俺達が支配する必要があると思います。犠牲を抑えるためにもね。そう、ヘロヘロさんのペットの彼女や、やまいこさんが保護するエルフのように」

 

 意味が分からないと向けられる視線に、ウルベルトはやはり笑った。

 

「世界征服をするんですよ。俺達の手で。そうすることで、この世界を庇護下に置ける。……ナザリックからの」

 

 レイナースやエルフ達がナザリックの者達に受け入れられているのは、至高の方の所有物や庇護下という肩書があるからだ。ナザリックの者達はギルドのメンバーには従順だ。

 

「……無茶言うわー、ウルベルトさん」

 

「だがアリだ。俺達が力を見せるなら、NPC達の暴走も防げる」

 

「勿論、ナザリックと敵対するという相手には容赦しませんが」

 

「ナザリックを守りつつ、ナザリックからこの世界を守るのか。ははは、面白いじゃないか」

 

「いや、けどさ。あまり派手にやるのも不味くない?敵対するプレイヤーとかさ」

 

「警戒するのはプレイヤーでは無く、プレイヤーの集団だ。だがそれを言ったら、俺達がそれだろう?プレイヤーの集団ってのは」

 

「ボク達だけで方針の決定をしちゃ駄目だよ。皆と、これから戻ってくる人達も含めて相談しないと」

 

 やまいこの言葉に全員が頷く。それでもこの場の仮方針は決まった。建御雷がモグラ獣人を見ながら言う。

 

「とりあえずこいつらは力を見せつつ、メリットも提示してご協力を願うか。……ドワーフの方も同じ方針でいいか?どうせだし、このモグラたちと一緒にルーン技術者も連れ帰ろうぜ。勿論人死には避けてな」

 

「おーけー、ひとまずそれで行こう。とりあえずドワーフともそろそろ接触するか。ペロロンさん達呼んでくるわ」




纏めようと思いましたが、長いので分割。


普通モグラみたいな獣人が鋭利な爪持っていたら、鉱石とはならずに、ミミズでも掘るんでない?ってなりそうですが、この作品の弐式さんはご飯食べられないので、そういう感覚が消えてしまっています。

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