至高の方々、魔導国入り   作:エンピII

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 至高の方々、怒られる

「私はね、ヘロヘロさん。ヘロヘロさんは、うちの弟とモモンガさんが暴走したらさ、私と一緒に抑えに回ってくれる人だと思ってたよ? 」

 

「あ、私は最初からそちら側(ペロロンチーノと同格)なんですね……」

 

「ちょっと、ショックを受けないで下さいよ、モモンガさん。俺まで悲しくなるじゃないですか……」

 

 ナザリック第九階層のヘロヘロの自室。ヘロヘロから<伝言(メッセージ)>を受け、ギルドの指輪で転移してきたぶくぶく茶釜たちは、驚くものを見せられた。

 ベッドに寝かされている女騎士。マジックアイテムで眠らされているらしいが、ヘロヘロが帝国から攫って来たという。ぶくぶく茶釜は思わず触腕で、人間で言う眉間に当たる部分を抑える。頭が痛くなってきたからだ。

 

「可愛かったから、連れ帰って来たって。事前に波風立てないようにって、定例会で決めてたんでしょう? それで何でお持ち帰りしちゃうのよ。ねえ、ヘロヘロさん?」

 

 自室の床で座り込む、どうも正座しているらしい、ヘロヘロは申し訳なさそうに口を開く。口は無いが。

 

「……真に……申し訳ありません。彼女が……ソリュシャンに似ている部分があって……どうしても、欲しくなりまして……」

 

 絞り出すように言うヘロヘロに、ペロロンチーノが頷く。

 

「あー、すこしわかりますよ。この子金髪ですし、ソリュシャンとちょっと属性が被ってる部分がありますね」

 

「そうですか? 私には似ているようには見えませんが……?」

 

「ほら、この子胸も大きいじゃないですか。ソリュシャンもそうでしょう?」

 

「ああ、なるほど」

 

「そう! そこなんですよ! 金髪黒衣の巨乳ですよ! 私が連れ帰らないで、誰が連れ帰るんですか!」

 

「でもヘロヘロさん。この子よく見ると、顔に傷みたいのがありますよ? 前髪で隠してるのかな、これ?」

 

「……膿、ですか?なんでしょうね?」

 

「ええ、その傷も、ああ、ソリュシャンの見立てでは呪いだそうです。それもポイントなんですよ」

 

「深いなー、ヘロヘロさんは。俺はその領域までは行けてないですねー」

 

「シャルティアにネクロフィリア設定つけてる人が何を言っているんですか」

 

 ベッドの上で眠る女騎士を覗き込んでいたペロロンチーノとアインズに、正座していたヘロヘロが思わずといった感じで立ち上がり、二人の会話に紛れている。ぶくぶく茶釜は少し息を吐いてから、三人に向かって感情を乗せて言う。

 

「黙れ愚弟。モモンガさんも弟に乗らないで。それと、ヘロヘロさん?今誰が一番怒られているのか、わかってるー?」

 

『も、申し訳ありませんでした』

 

 地の声よりさらに低い苛ついたような声に、反射的に三人はぶくぶく茶釜に向き直って頭を下げる。その姿にもう一度ぶくぶく茶釜はため息をついた。

 

「……まったくこの三人は……」

 

「ああ……。私もそちら側(ペロロンチーノと一緒)に、とうとう組み込まれてしまいましたね……」

 

「ようこそ、こちら側に!」

 

「歓迎しますよ?」

 

「ありがとうございます!」

 

 そう言って骸骨とバードマン、そして粘体は手を取り合ってベッドを取り囲むようになぜか踊りだす。

 呆れたように、もしくは諦めたように、マイムマイムのようだなとぶくぶく茶釜は彼らを冷めた目で見つめる。恐らく第三者が見たらマイムマイムどころか、邪教の儀式にしか見えないだろうが、ぶくぶく茶釜は三人が楽しそうで、少しだけ混ざりたかった。

 そして、まあ、殺して食べてしまったとか言われなかっただけマシかと思う事にする。

 

「モモンガさん、この子の記憶調べられる?」

 

「記憶操作の魔法ですか? 可能ですが、記憶の書き換えは上手くいくか保証できませんよ?それなら一回白紙に戻す方が、簡単でいいですね」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。私にはこの子を連れ帰って来た責任が……」

 

「どんな責任よ、それ。それと記憶を弄るんじゃなくて、この子の素性と、あとこの顔の傷をこの子がどう思ってるか調べるだけでいいの。出来るかな? 」

 

「それくらいなら、そこまで昔の記憶を探る必要はなさそうですね。大丈夫ですよ。この魔法は神官相手に練習したので、結構自信があります。でもこれ、魔力消費が激しいんですよねー」

 

 そう言いながらもアインズはベッドに眠る女騎士に手早く魔法をかけていく。

 ぶくぶく茶釜が考えていることは、とりあえずこの傷、呪いか、それを本人が気にしているようなら治してしまって、ヘロヘロに謝らせようというものだ。あとは多少の金銭を、これもヘロヘロ持ちだ、渡しこっそり国に戻せばいいだろうと。

 そんなぶくぶく茶釜の思いとは裏腹に、少ししてからアインズが「あー」と小さく呻く。

 

「ど、どうしましたモモンガさん?」

 

 そのアインズの声に不安になったのか、ヘロヘロが尋ねる。

 

「……どうも帝国四騎士の一人みたいですね。帝国の最大戦力の一角らしいです」

 

 少しだけ困ったようにアインズが言う。それを聞いたぶくぶく茶釜も項垂れた。流石に最大戦力とまで言われている人間を、こっそり返すわけにもいかないだろう。恐らく今頃帝国では、大騒ぎになっているはずだ。

 

「……ですが、いいことも解かりましたよ。どうもこの呪いを解きたくて、私達に接触する機会を探っていたみたいです」

 

「なんだ。それなら問題解決じゃないですか。呪いを解いてあげて、あとは感激して素敵!抱いて!になったこの子をヘロヘロさんが得意の触手攻めで―」

 

「―おい、馬鹿弟。何度も言ってるよな?下関係の話は気を付けろって。お前しばらく私が図書室に籠ってったからって、少し調子に乗ってるんじゃないか? なあ、おい」

 

「ご、ごめんなさい。少し調子に乗ってました」

 

 まだまだ言い足りなかったが、謝るペロロンチーノに、今は弟に対する説教よりも優先するべきことがあると、ぶくぶく茶釜はそこで終わりにする。

 

「……とにかく、ペストーニャを呼んで呪いを解除してもらって。あとは……モモンガさん、また帝都に行くんでしょう?」

 

「ええ、闘技場での試合を予定しています」

 

「それにヘロヘロさんに出てもらってさ。んでその足でバハルス帝国の皇帝に、この子の引き抜きの話をしちゃおう。こうなったらしょうがないよ、この子は本人が望むならヘロヘロさんに面倒見てもらおう」

 

「あ、ありがとうございます!で、でも私が試合に出るんですか?人前で戦うとか慣れていないんですが……」

 

「いい? ヘロヘロさん? 闘技場の試合はあくまで罰だからね? それとこの子の面倒を見るのは、あくまでもこの子が望んだらだからね?わかったなら私はペストーニャを呼んでくるから、あとはヘロヘロさんに頼んだよ?」

 

 何度も確認するぶくぶく茶釜の声に、これ以上面倒ごとは起こすなよ?という彼女の感情が非常にわかりやすく籠っており、普段のペロロンチーノの怒られ様を知っているヘロヘロを怯えさせるには、十分だった。

 

 

 

 

 

 ぶくぶく茶釜たちが居なくなったあと、この女騎士の、アインズが調べた結果帝国四騎士のレイナースという名らしい、呪いもペストーニャが簡単に解呪してくれた。そのペストーニャも先ほどヘロヘロの部屋から出ていった。レイナースと二人きりになったヘロヘロは彼女の前髪にそっと触れて、呪いのあった場所を確認する。

 

(ちょっと勿体なかったな。属性が一つ減ってしまった。……まあ、いいか。これで隠れて世話する心配はなくなったし)

 

 すやすやと眠るレイナースが目覚めるまで、まだ少しかかる。取り込む際に使用した睡眠付与のマジックアイテムは、十分に効果を発揮している。ペストーニャから睡眠の効果も解くかと問われたが、なんとなくヘロヘロはそのままでいいですと答えていた。

 

(わりとすんなりいけたのは、ソリュシャンのおかげだな。感謝しなきゃ。彼女が進言してくれたから、大事にならずに済んだ訳だし)

 

 レイナースをソリュシャンが見つけると、すぐさま彼女はアインズ達に報告するべきだと進言してきてくれた。そしてヘロヘロは躊躇いながらも、それに従った。

 

(彼女どうしようかな?セバスの子みたいにメイドにしちゃうのは勿体ないよな。せっかくの騎士属性持ちなんだし。装備は……アダマンタイト? 随分柔らかい金属を使っているなー、これならすぐ溶かせちゃうぞ?)

 

 いろいろと妄想するヘロヘロに、静かながらもしっかりとしたノックが届く。もしかしてと思いながら入室の許可を出すと、やはりそれはソリュシャンだった。

 一礼してからベッドの上を確認するソリュシャンに、ヘロヘロは訳も無くドキドキする。恐らく、呪いの有無を確認したのだろう。

 

「……呪いの解呪をされたのですね」

 

「え? う、うん。ああ、それとソリュシャン。君が進言してくれたおかげでみんなにも彼女の事を理解してもらえたよ。……ありがとう、助かりました」

 

 そうヘロヘロが言えば、彼女は小さく微笑み再び一礼する。そしてそれ以上の会話が続かない。これがデクリメントやインクリメント、その他の一般メイドの娘たちならば色々と話せるのだが、ソリュシャン相手だと少し委縮してしまい、上手く話せない。自分の理想を前にしてもよく口の回るペロロンチーノが、こんな時は羨ましくなる。

 

「……ヘロヘロ様はこの人間を、どうされるおつもりなのでしょうか?呪いを解いたという事は、ただ遊ぶためでもないと思いますが。このナザリックに住まわせるのでしょうか?」

 

 ソリュシャンにしては珍しく、ヘロヘロが何か言う前に尋ねてくる。そのことに少し驚きながらも、ヘロヘロは答える。

 

「え、ええ。メイドにするわけではないので、居住は第九階層以外になると思いますが。いや、エ・ランテルの街に住ませようかと思います。ナザリックに出入りはさせますが……」

 

 たまに愛でるために。

 

「……それは、この者をヘロヘロ様のペットになさるという事でしょうか?」

 

「え、ええー? ペット? うーん、まあ、そうですね。ペットみたいなものかもしれません」

 

 別に用途が決まっている訳ではない。元社畜の感性から、何かしら働いてもらいはするだろうが、エ・ランテルの外に出すのならばそれなりの装備は与えるつもりだ。死なれては苦労して連れ出した意味がない。偶に呼び寄せて可愛がると言った意味では、ペットという表現が近いのかもしれない。

 

「なぜ、でしょうか?」

 

「えっ?」

 

 ヘロヘロが答えたにもかかわらず、ソリュシャンは食い下がってくる。こんな事はこちらの世界に転移してから初めてだった。笑顔が徐々に消えていき、ヘロヘロに初めて見せる顔をした。悲しみの顔を。

 

「なぜ! なぜなのですか!? 他の至高の御方に生み出された―いえ! ヘロヘロ様に生み出された他のモノたちならば納得もできます! ですがヘロヘロ様はこのような薄汚い人間をペットにすると言い、私達を! なぜ私をペットとしてくれないのでしょうか!?」

 

(い!? ちょっと待って下さい! な、何を言ってるんだ、ソリュシャンは……)

 

 その言葉が嘘ではない事くらいは、擬態で出来た目とは言え、その目を見ればわかる。アインズの精神抑制の効果が羨ましくなった。粘体の自分も精神耐性くらいはある筈だが、効果を感じたことは無い。ソリュシャンが何故こうも絶望したような顔をしているのか、ヘロヘロにはわからない。

 ソリュシャンが嫉妬をしているのかもとは思うが、ペットに憧れるような理由はわからない。こんな時にどんな言葉を掛ければいいのか、ヘロヘロには解からない。だから思ったことを口にする。所詮社畜だった自分にはそれしかできないのだ。

 

「ソリュシャン、君をペットなどにできません。当然デクリメント、インクリメント、他の娘たちもそうです」

 

 ヘロヘロの言葉に、さらに絶望した表情を見せる。

 

「君たちは、私の理想です。そんな君たちを、ペットなどに出来るはずがない」

 

 続くヘロヘロの言葉に、少しだけソリュシャンの表情に明るさが戻る。

 

「君たちは一人一人、忙しくあまり時間の取れない私が、許される限りの時間を使って創造しました。特にソリュシャン、君にはたくさんの時間を掛けたんだよ?」

 

 この名の示す通り、仕事の納期にヘロヘロになりながらも、夢中になって行動AIを組み、メイドの外装デザインを担当した友人と、ああでもない、こうでもないと口論しながら創造したのだ。

 

「私に、ヘロヘロ様の大切なお時間をですか……?」

 

 当時を思い出し、ヘロヘロは思わず笑う。

 

「ああ、そんな悲しそうな顔をしないで、ソリュシャン。私たちは楽しんでいましたから。ふふ、ソリュシャン? 最初君のヘッドドレスは黒色のそれではなく、ティアラだったんだよ?」

 

 ソリュシャンに近寄る様に手招きをし、自分の前で跪く彼女の髪にそっと触れる。ソリュシャンの外装は、自分の要望を伝えホワイトブリムに依頼した。最初に上がってきた設定画ではヘッドセットでは無く、その代わりにティアラがあったのだ。

 

「……私が反対しました。これほど綺麗な髪をしているのだから、必要ないとね。ソリュシャン、君の髪にはやはりこの黒色のヘッドドレスが一番似合う」

 

 本当はホワイトブリムと一番熱く争ったのは、ソリュシャンの最初の設定画ではレザーのニーハイソックスだったのを、勝手に網タイツに変えたことだったのだが、それは言わなくていいだろう。

 

「そんな君がペットになりたいだなんて。そんな悲しいことは言わないでソリュシャン。君たちは、君は、私の理想なのだから」

 

 そこまで言うとソリュシャンは長く頭を下げ、そしてゆっくりと立ち上がる。立ち上がる頃には、いつもの笑みが浮かんでいた。

 

「そう、それでいいんだよ。さあ、ソリュシャン。そろそろ彼女が目覚めると思う。彼女にナザリックに関わるものとして、最低限の知識を与える役目を、君に頼んでいいですか?」

 

「―頼みなど。お命じ下さい、ヘロヘロ様」

 

「では命じます、ソリュシャン・イプシロン。私が帝国に行っている間に、あくまでもペットだから、そこまで高いレベルは要求しませんので、ほどほどに教育を施すように。……念のため他のナザリックのモノが誤って殺してしまわぬように、気を付けてあげてね? 」

 

 ヘロヘロがそう言うと、ソリュシャンは恭しくお辞儀をする。その姿にヘロヘロは心の中でため息をつく。

 

(何とかなったかな? はー、びっくりした。でもこれで後は皇帝さんに説明するだけですね。失敗しないようにしなきゃ。闘技場はどうにかなるだろうし。ああでも、ここまでやってレイナースさんからナザリックに仕えたくないって言われたら困るな。大丈夫かなー。うん、大丈夫だよな。もし駄目なら説得頑張りましょう!)




小分けして更新することを覚えました。
そのほうが一杯サブタイトル付けられますしね!

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