至高の方々、魔導国入り カルマ+
「ねえ、お姉ちゃん。ユグドラシルⅡの噂、知ってる?」
尋ねられて、家族との食事を終え部屋に戻ろうと浮かしかけていた腰を再び降ろし、座り直す。ユグドラシル、その言葉に小さな棘を感じながらも、小さく首を振った。
「ううん。聞いたことない。それ何処の情報? ニャル測?」
ニャルちゃん測定の名前に、妹が笑う。
「ちがう、ちがう。今ユグドラシル運営のサイトがね。トップページにcoming soonって表示されてるって話だよ」
「……それがユグドラシルⅡなの?」
「それ以外全然情報出てないけど、一緒にユグドラシルやってた人達はみんなそうじゃないかって言ってる。私もさっき確かめたけど、ホントにcoming soonって出てたよ。ユグドラシル自体は、もう綺麗に消えちゃってたけどね」
そう、とだけ小さく呟いた。ユグドラシルが消えてしまったという妹の言葉に、胸の痛みを覚えつつも少しだけ悲しくなる。
「今度はさ、お姉ちゃんも一緒にやろうよ。私の所の元ギルメン、今度はユグドラシルⅡに集合だーって、すっごい乗り気」
「……最終日もインしたんだ?」
「したよ? まあ、もうほとんどチャットだけになってたけどね。それでも最終日は普段姿見せない人もちらほら来てさ。けっこう盛り上がった。だけどあの運営、時間になったら即回線遮断して、余韻も何もないっての」
ケラケラと笑う妹に、再びチクリと胸が痛んだ。自分も、いや自分たちも、あんな事さえなければと思う。きっと妹のギルドと同じように、最終日をみんなで楽しく過ごせていたはずだ。
「でも、お姉ちゃん。ユグドラシルⅡがもし始まったらさ、また異形種にするの?」
「うん?うーん……たぶん」
そう答えると妹は、「えー」とだけ少し不満そうに言った。エルフ、人間種でプレイしていた妹には、ちょっと理解できないのかもしれない。
それにもしユグドラシルⅡが始まっても、自分がそれをプレイするかと聞かれれば、正直わからなかった。少なくとも、飛びつきはしないだろうとは思う。
時間がないというわけではない。当時は自分が担任する子たちが高学年という事で、なかなか時間が取れなかったが、いま担任しているのは中学年のクラスだ。当時と比べれば、多少は時間の融通が利く。こうして家族と夕食を共にできる事がその証拠だ。
楽しくなかったか。そんなことはない。そう、決してない。
本当に楽しかった。今でも最高の仲間たちと、一緒にプレイ出来ていたと思う。
それだけにあの出来事は、自分の心に暗い影を落としている。あの仲間たちと共に歩めないのならば、意味がないとすら思う。
「お姉ちゃんは今でもぶくぶく茶釜さんと、餡ころもっちもちさんとお付き合いあるの?」
「―え? う、うん。二人とは今でもたまにあったりしてるよ。かぜ―茶釜さんとはやっぱり忙しいから、直接は逢えてないけど……」
売れっ子だもんねーと続ける妹の言葉に、意識が現実に戻される。少し暗い考えに囚われてしまっていた。いけない、いけないと曖昧に笑みを浮かべて、妹との話を切り上げる。
部屋に戻り、明日の授業で使う教材の準備を用意し、終わるころには、それなりの時間になっていた。少し早いが、寝てしまってもいい時間だ。
どうするか少し迷ったが、結局は黒いコードを手に取り、先端のプラグを首の後ろに差し込む。そしてヘルメットを着用した。
お目当ては、ユグドラシル運営のページ。何も残されていないと妹に言われていたが、何となく訪れようとしている。ネット墓地が当たり前になる前は、直接お墓を訪れるお墓参りという風習があったらしい。その感覚に近いのかもしれない。
もしかしたら自分は、何も残されていない事を確かめることで、この気持ちに区切りを付けたいのかもしれない。
だが、その思いとは裏腹に見つけてしまう。妹が消えてしまったと言っていた、ユグドラシルと書かれたウィンドウを。
危ないところに近寄ってはいけません。怪しい人には付いていってはいけません。
自分が子供たちに教えている言葉だ。それなのに、触れてしまった。見慣れていた、懐かしいかつての半身とも言うべき
子供たちに教える事が増えたと思う。
不審なページに、不用意に触れてはいけません。
◆
「―ああ、負けた」
負けたというが、その声には悲壮感はない。まるでそうなるのが当然。解かっていたかのような諦め、ほとんど予定調和だ。
「上位ランカー相手だと、やっぱり覆せないか」
今プレイしているゲームはアーベラージのⅣ。パワードスーツものの最新作だが、正直ハマりはしていない。
外装パターン、武器のパターン。グラフィック、サウンド、演出、臨場感、操作性、すべてが進化している。ユーザーが不満に感じる部分を修正し続け、完成形ともいえる出来かもしれない。
だがこのアーベラージはユーザーの不満を解消し続けた結果、奥行き、やりこみの深さを失ってしまったと思う。
パターン化する戦闘。上手くなるには上位ランカーの動きのトレース。行きつけばどんな機体でも横並びの性能。トップクラス同士の戦闘ともなれば、相性が最後に物を言う。
それでも何か穴が無いかと探し求めるが、ようやく見つけたそれが不具合としてすぐさま修正される。
自分のようにあえて相性差を覆すために日夜研究しているプレイヤーも少なからずいるが、そういうプレイヤーからはおおむね今作は不評だ。
なら違うゲームをやればいい。そう思われるだろうが、今のゲームは大概そういう調整をされている。時間かお金を掛ければ、横並びになる様な仕様だ。
それは不平等感の無いユーザーの大多数が望んだ結果なのだろうが、自分のようなドリームビルドを目指すプレイヤーには、やはりどこか物足りない。
アーベラージⅣを落として、何か自分を満足させるゲームは無いかと、情報系の掲示板やサイトを巡回する。これもある意味日課だ。
そして一つ、気になる記事を見つけオンライン中のフレンドの中から、刀のアイコンに触れる。
「建やん、今ヒマ?」
VCでの問いかけだが、返事はすぐに来た。恐らく向こうもハマるゲームが無くて、自分のように色々なサイトを巡回中だったのだろう。
『おう、どうした?』
「ちょっと面白い記事見つけた。送るから見てみて」
自分が見ているサイトを手でフリックして、刀のアイコンに触れさせる。これで向こうにも自分が見ている記事が届くはずだ。
『……ユグドラシルⅡ? テストプレイヤーの募集開始まであと僅か? こんな話あったのか?』
記事のタイトルを読み上げる、リアルでも長い付き合いになる友人に笑って続ける。
「そ。なんかテストプレイヤーの応募が始まるとアクセス過多でサイトが落ちるかもしれないから、応募期間は極わずかの時間で、その時にたまたまユグドラシル運営のページ開いてた奴だけが応募できる仕組み。って話」
『なんだそりゃ? ほとんど都市伝説の類じゃねえか』
友人の言葉に頷く。それはそうだ。そんな公募の仕方は恐らくしないだろう。絶対に無いと言い切れないのが、あの運営だが。
それでもユグドラシルⅡの情報だって、どこのサイトにも噂レベル以上のものは出ていない。調べた限りだが、有料サイトでも情報は出ていないらしい。
もし本当にそういったものの開発が進められていたとしても、まだテストプレイヤーを集めるような段階ではない筈だ。
それは友人も解かっているだろう。それでも―
「建やん。今ユグドラシル運営のページ、開こうとしているだろう?」
『……おう』
返事に笑う。自分も彼と同じく、ユグドラシル運営のページを開こうとしているからだ。自分も彼も、ユグドラシルに飽きて辞めたわけでも、嫌になって辞めたわけでもないのだから。
自分も彼も。またあのメンバーで馬鹿が出来たらと思う気持ちは、変わらないのだから。
『……なあ?』
「……どうした、建やん?」
『……俺の電脳がおかしいのか? それともあの糞運営の悪戯か?』
「……建やんの電脳は無事だと思うよ? それなら俺の電脳もおかしいことになるし」
『なら悪戯か? ……なあ、ユグドラシルが残ってるぞ』
「……ああ、残ってるな」
ユグドラシルのゲームを起動させながら、様々なサイトで情報を検索するが、ユグドラシルがサービス終了日に何の余韻もなく消されてしまったという記述はあっても、ユグドラシルそのものが残っているなんて記述は何処にも無い。
『……おいおい、普通に入れちまったぞ』
友人の言葉に、答えられない。動悸が激しい。ユグドラシルのゲームが残っていることは、運営のお遊び、悪戯で説明できるかもしれない。
だが、消したはずの自分のアバターが残っていることは、どう説明する?
たまたまこのタイミングで自分のアバターを復活させたのか?それとも全プレイヤーのアバターを復活させた?あり得るわけがない。そもそもそんなことをするメリットもない。
「……これ、絶対おかしいって建やん」
そう不審がってはみても、かつての仲間からザ・ニンジャ!と呼ばれたアバターに触れてみようとする好奇心だけは、抑えることが出来なかった。
◆
(……悪かったな。お前を完成させてやることが出来なくて)
握られた大太刀に向けて、武人建御雷は詫びる。
この太刀に銘は無い。もし名付けるならば今は、『無銘』。
(お前を、建御雷九式。いや建御雷零式って名付けてやりたかったんだけどな)
建御雷極式でも良いなと思いつつ、肩に大太刀を担ぎ、窪みから抜け出す。
窪みを抜け出して、感触を確かめるように、鞘から太刀は抜かずに一度振ってみる。軽く振っただけだが、自身の見た目通りの筋力で振られた太刀は、鋭い風切り音を出す。そのリアルな感触に満足しつつ、ゴーレムが立ち並ぶ通路をゆっくりと歩き出した。
(何処だここ? ……あー、霊廟か。モモンガさんが名付けてたな。ならこの先は宝物殿か)
霊廟のゴーレムにいくつか空席があるが、特に気にしない。気にする必要がない。なぜならこれは夢なのだから。
武人建御雷がユグドラシルの夢を見るのは、今日が初めてではない。何度も見てきた。そして夢を見るたびに彼に勝負を挑み、そして負けてきた。
(今回は勝てそうな気がするな。感触がいつも以上にリアルだ。……さて)
霊廟の扉に手を触れる。触った感触まである。これならばいけるかもしれない。恐らく彼は、この先の待合室の様な空間に居るだろう。思わず舌なめずりする。
(今日こそは俺が勝つぜ。……覚悟しろよ、たっちさん)
そして扉を押し開き、勢いよく大太刀を引き抜いた。
「うらぁ! かかって、きやがれぇ!!」
足を踏み鳴らし、大太刀を構える。
が、構える先には自分が想像していた白銀の騎士の姿はなく、代わりに二つの人影。
その二つの人影は刀を構えて現れた自分に少しだけ驚いていたようだ。だがすぐに呆れたような視線を向けられる。
「……どうした建やん? 何か、あったか……?」
二人の人影のうち、忍者装束に身を包んだ方が、気は確かかという様な声音で尋ねてくる。
「い、いや、これはだな……」
「……とりあえず刀しまえよ。やまいこさんもいるんだぞ?」
「お、おう。久しぶりだな、やまいこさん。その……元気だったか?」
なんと言えばいいかわからずに、照れ隠しの挨拶で誤魔化す。
「……うん、ありがとう。久しぶりだね、建御雷さん。そっちも元気だった?」
おう、と武人建御雷は頷きながらも、内心では、ちくしょう黒歴史が増えちまったと悔やむ。とりあえず弐式炎雷から指摘された刀を鞘に納め、今度は肩に担ぐような真似はせずに、腰に佩く。
「訳の分からない状況に警戒するのはわかるけど、いきなり武器を構えて入ってくるなよ、びっくりするだろう?」
「でも弐式さんの予想通りだったね。建御雷さんもすぐ来るはずだっていう」
「俺ら二人して運営のサイト見てたからね。……やっぱログインしてるんだよな、これ?」
「うん。でも前とは感じが違う気がする。……ユグドラシルに表情なんて無かったもの。弐式さんは表情わからないけど、建御雷さんを見て確信した」
「だよなー。俺もやまいこさんに表情があってマジビビったわ。やっぱこれ普通じゃねーよ。スキルの使い方もユグドラシルとは違うし。一応俺探知スキル使っておく。……って、どうした建やん?」
二人の会話に首を傾げていた武人建御雷を、弐式炎雷が指摘する。
「……いや、二人ともよく喋る夢だと思ってな」
「建やん、夢だと思ってたのかよ。……まあ、夢だったらいいんだけどな。でも夢じゃ無さそうだぜ。ほら、見てみろよ」
そういって弐式炎雷は体をずらし、影に隠れていたもう一人の人影を、武人建御雷に見せる。小さな体にアイパッチ、マフラーを首に巻き銃器を下げたメイド服の少女を。
「……おかえりなさいませ。武人建御雷様」
恭しく一礼する少女に、疑問符が浮かぶ。見覚えはある。見覚えはあるが―
「なあ、この子誰だっけ?」
小声で、弐式炎雷に問いかける。聞こえてないのか、気にしてないないのか、少女の表情に変化は無い。
「……覚えてないのかよ、建やん。シズだよ、シズ。シーゼットニイチニハチ・デルタ。ヴァルキュリアの失墜で追加されたプレアデスの一人だろう?」
「弐式さん凄い。ボ―私もシズの愛称は覚えてたけど、正式名称までは出てこなかった」
「いや、ほら、俺ってアーベラージやってるから。あれの型番とかパーツの名前覚えるよりかは余裕だって。って違うから、二人とも! 俺が言いたいのはシズがさっきから勝手に話してるって事だよ!」
弐式炎雷がオーバーリアクションで商品を紹介する販売員のように、両手でシズをアピールする。その弐式炎雷の仕草に、シズは僅かにだが俯く。
「うわ、驚いた。この子少し照れてるよ」
「やまいこさんよく分かるな。俺にはさっきと違いが全然わからん」
「ボ―私は小さい子の相手をしているからかな? 偶にいるよ、感情をあんまり出さない子って」
「なるほどな。そういや、やまいこさんは小学校の先生だったな。―ああ、それと。さっきから一人称直そうとしてるみたいだけど、無理に直す必要はないと思うぞ? ゲームだよ、ゲーム。気にするなって。第一これ俺の夢だしな」
「……まだ夢設定引きずってるんだ。うん、でもありがとう。これからはボクでいくね」
「ああ、それでいい。その方が、俺らの知っているやまいこさんらしいしな」
「そう? ふふふ、それなら嬉しいな」
軽く笑いあう二人に、会話に紛れられなかった弐式炎雷が無理やりに割り込む。
「……いや、だからさ。今はシズの話題だよね? なんで俺ちょっと置いてかれてるの?」
「ああ、そうだったな」
弐式炎雷の言葉に、半魔巨人の二人は思いだしたように、シズに注視した。
「でも、もしかしたらこの子にはそういうプログラムが設定されてるのかも。ヘロヘロさんとかそういうの好きだったでしょう?」
「ありえるな。あの人の隠しコマンドの線は十分ありえるぞ。メイド系全部に何かしら仕込んでても俺は驚かない」
「いやー、いくらあの人でもここまでのAI組めるか? なあ、シズ。もう一回俺の名前を呼んでみてよ?」
「……弐式炎雷様」
シズは一度コクリと頷いてから、答える。少しだけ嬉しそうだ。何が嬉しいのかはわからないが、この頃には武人建御雷もこの少女、シズの感情の変化が分かってきた。無表情ながらも、それがなかなか魅力的だと思う。直接名前を呼ばれた友人の忍者は、建御雷以上に効果は抜群らしい。少女の可愛らしさに少しだけ悶えていた。
「くうぅ! 可愛いな、おい! ペロロンさんの気持ちが少しわかるぞ!」
「お前こそ趣旨から外れてるじゃねえか。まあ確かに、いくらあの人でもここまでのプログラムは組めないか? なあ、シズ。お前にそう答える様にプログラムを組んだのはヘロヘロさんか? 」
武人建御雷の質問に、シズは首を振る。
「そうか、じゃあシズはどうしてここに居る? プレアデスは第九階層の配置だよな?」
そうシズを覗き込みながら武人建御雷が問いかけると、弐式炎雷がそのことに初めて気づいたように声を上げた。
「そう! それだ、建やん! ここが宝物殿ならなんでここにシズが居るんだ!? ここに居るのはパンドラだろ? なんでパンドラじゃなくてシズなんだ!?」
「ここが本当にナザリックなのかわからないけどね」
「いや、ここがナザリックなのは確定じゃない? 問題は何で俺たちがサービス終わっているのにログインしているかであって―」
「まあ、待てよ。今はシズの話を聞こうぜ? 悪かったな、シズ。もう一回質問だ。お前をここに配置したのは誰だ? 俺たちに教えてくれないか?」
武人建御雷の問いかけに、シズは小さく頷き答える。
「……アインズ様」
その答えに、武人建御雷、弐式炎雷、やまいこに揃って疑問符が浮かぶ。アインズ。アインズ・ウール・ゴウンの事だとは思うが、シズはそれがまるで人名のように様付けをして呼んだ。
「アインズ? アインズ・ウール・ゴウンの事だよな? 俺たちの命令ってこと?」
「それは……どうかな? シズの言い方だと誰かを指してると思う。それが誰なのかはわからないけど。ねえ、シズ? その人は今ここ、ナザリックにいるの?」
やまいこの質問に、シズは頷く。
「なるほど、俺たち以外にも誰か居るってことだな? ……くっくくく、夢らしく楽しくなってきたじゃねえか」
笑みを浮かべる武人建御雷を、弐式炎雷が少しだけ呆れたように横目で見る。
「出たよ、戦闘狂。敵って決まったわけじゃないのに―おっと、二人とも!」
弐式炎雷からの警告を含んだ声音に、武人建御雷とやまいこがすばやく反応する。
「センサーに感あり、転移してくるぞ! 数は―四!」
『了解!』
探索役からの警告に、武人建御雷は太刀を引き抜きながら一歩前に進み、やまいこはシズを庇うように立ちながら、ガントレットの感触を確かめるように一度拳を打ち合わせる。
二人とも突如発せられた警告に疑問は抱かない。そんな事を疑問に思う様な関係ではないのだ。探索役の弐式炎雷が来ると言った。ならば必ず何かが来る。ここが本当にナザリックなのか、なぜ自分たちがログインしているのか。そんな疑問は一時思考から追い出し、戦闘態勢を取った。
同時に何者かがこの部屋に転移をしてくる。そして知る。
「―建御雷さん!? それに弐式さんに、やまいこさんも!」
現れた彼らが、仲間であると。
「うお、マジか。モモンガさんか!」
思わず懐かしい骸骨頭に駆け寄る。
「はっはは、マジだ。マジ、モモンガさんだ。おいおい! 茶釜さんにヘロヘロさん、ペロロンさんもいるじゃないか! 今日の俺の夢は大盤振る舞いだな!」
「まだ夢設定抜けてないのかよ、建やん。いや、でも、本当にモモンガさんたちなの!? 確かに敵感知に反応無し。うっわ! マジだ! マジでモモンガさんたちか! ヘロヘロさん相変わらずドロドロしてるな!」
「本当、久しぶりだね! かぜっちのその姿見るのすっごい久々! はは、弟君のその金色の鎧! 相変わらずすっごい派手! あははは、そのエフェクト、課金したんだよね? あははは、凄い懐かしい!」
武人建御雷が親しそうにモモンガの肩を叩く。弐式炎雷の前にヘロヘロが歩み寄る。やまいこにピンクの肉棒、ぶくぶく茶釜が駆け寄り、嬉しそうに周りをぐるぐると回る。その怪しい光景にペロロンチーノが茶々を入れ、かつてよく見ていたように手痛い反撃を貰っている。
「皆さん、本当に……。シズから<伝言>を受け取った時は耳を疑いましたが、本当に、おかえりなさい!」
感極まったようなモモンガからの歓迎に、武人建御雷がバシバシと背中を、乱暴にならない程度にだが繰り返し叩く。
「やまいこさんと再会したときはそれどころじゃなかったが、まさかまたこうして会えるなんてな。夢でも嬉しいぜ」
「そうそう、聞いてくれよモモンガさん。建やん、さっきからずっとこれが夢だって言い張ってるんだよ。この部屋に来た時も何を思ったのか刀抜いて踏み込んでくるし」
「そう、おかげで久々って余韻もなにも無くて。おもわず普通に挨拶しちゃった」
「うお。二人ともあっさりバラしやがった」
全員の笑い声が、部屋に響いた。穏やかで、非常に居心地がいい。武人建御雷は笑いの原因が自分にあるとしても、不快感はまるでなかった。
そして武人建御雷は邪魔をしないようにか、ギルドの輪から少し離れていた少女に歩み寄り、ポンポンと軽く頭を叩く。
「お前がモモンガさんを呼んでくれたんだな。ありがとうな」
「そうそう、ありがとうな! ほらほら、シズも離れてないで混ざれ混ざれ」
弐式炎雷もシズに駆け寄って、背中を押して無理やり輪に混ぜさせる。シズは少しだけ恥ずかしそうにしているが、嫌がってるようには見えなかった。されるがままになっている。
「でもシズ、ここまで動いてるともうプログラムとかAIじゃ説明つかないよね? モモンガさんたちは何か知っている?」
やまいこの質問にモモンガが何か失敗したかのような表情をする。もちろん骸骨の顔に変化は無いのだが、それがわからない武人建御雷達ではない。
「……あー、シズよ。ここであったことは口外するな。いいな?」
「……畏まりました、アインズ様」
一礼をするシズに、武人建御雷だけでなく弐式炎雷、やまいこも驚く。シズだけでなくモモンガの変わり様に。先ほどまで自分たちと話してた感じとはだいぶ違う。
「……一体どうしたんだ、モモンガさん。それに今アインズって呼ばれてたよな? もしかしてモモンガさんが、アインズを名乗っているのか?」
武人建御雷の問に、モモンガことアインズは答えずらそうに表情を伏せたが、すぐに顔を上げた。
「……そうですね。建御雷さん達には全てをお話ししなければなりませんね。……でもその前に、私からも皆さんにお尋ねしたいことがあります。いま私たちは窮地に陥っています。これほどの窮地はギルドの結成、いえ、クラン時代から思いだしても、そうはないと思います……」
アインズの言葉に同意するように、ヘロヘロ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜も顔を伏せて、悲壮感を漂わせた。
ギルド一の特殊役、ギルド一の盾役、さらにはギルド内でも特異なビルドを施した攻撃役が二人も揃っていて窮地と言う。ならば相手はかなり強力なレイドボス、もしくはワールドエネミーの類か。いや、もしかすればかつての様なギルド連合が相手かもしれない。我知らず武人建御雷は獰猛な笑みを浮かべていた。
この夢にたっち・みーは出てこなかったが、それなりの相手は用意していてくれたようだ。『無銘』の柄を強く握りながら、続くアインズの言葉を待つ。
「……建御雷さんたちは、ダンスの知識や経験はありますか?」
悲壮感たっぷりのその言葉に、仲間からはザ・サムライ!と呼ばれた男は、何も答えることが出来ずに軽く呻くだけだった。
この三人はカルマ+とさせてもらっています。
サムライニンジャ 中立~善
女教師 極善