狩人と、ゼロの主従   作:蜜柑ブタ

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モノブロス討伐クエスト、第1回目。

まず言っておきます。

失敗します。


第三十七話  モノブロスを狩ろう その1

 数日間、しっかり休んだ。

「村長さん…。」

「なんじゃ?」

「モノブロスって…、どれくらい強いんですか?」

「……。」

 セエがいない時に、野暮なことをサイトとルイズは、村長に聞いてしまった。

「それは、自分の目で、身体で感じることじゃな。」

「村長さんが、若い頃にたった一人で倒したっていうのはセエさんか聞きました。」

「うむ。そうじゃ。それが、どうした?」

「いや~、あの~。」

「なんじゃ? 言いたいことがあるなら言いなさい。」

「えっと……、セエさんも一人でそのモノブロスを倒してるのに、なんで村長さんが倒したことの方が伝説みたいに語られてるんだろうって…。」

「……。」

 黙ってしまった村長の様子に、二人は、あっ、怒らせてしまったと思った。

「ならば、お主らも越えてみるがよい。」

「えっ?」

「疑問に思うのは自由じゃ。別に怒ったりなんぞせん。」

「は、はあ…。」

「じゃがのう。実力が伴わぬ発言は、控えた方がよいぞ。」

「あ…。」

 それはつまり、二人にそれだけの力が無いということだ。

「モノブロスは、生息区域が限られておる希少な飛竜種じゃ。わしは、わしの若い頃のことを思い、ハンターギルドと連携してハンター達に一人前になるための関門としてモノブロスをわしが発足しておるクエストのみ限定したのじゃ。」

「…どうしてですか?」

「……越えるべき対象があるのと無いとでは、まったく違うのじゃよ。わしは、若い頃の自分自身を後々のハンター達の越えるべき目標のひとつとしたのじゃ。お主らにも目標があるじゃろうが、それはあまりにも大きい。」

 ひとつの世界を救わなければならないという重たすぎる目標……。それがサイトとルイズが背負う、いや背負わされた目標だ。

「その目標を達するためには、小さな目標を一つ一つ…、越えなければならんのじゃ。じゃからこそ、焦るでないぞ?」

「っ…。」

 この世界に来る前の直前の時間に転移は可能であるが、急ぎたい気持ちも強いため、内心では焦っていた二人は図星を突かれた。

「急いで…、それが元で死んでは意味がないのじゃからな。よいな?」

「…はい。」

 サイトとルイズは、俯いて弱々しく返事をした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 買い物を終えて家に帰ってきたセエは、ズーンっと暗くなっているサイトとルイズを見つけた。

「あれ? 二人ともどうしたの?」

「…いえ…、なんでも…。」

「いや…なんか、暗くないか?」

「あははは、気のせいですよ!」

「そうそう!」

 二人は、無理矢理笑ってそう言い訳をした。

「…うーん。そうならいいけど。」

 セエは首を傾げつつそう納得したのだった。

「あ、そうだ。二人とも、モノブロスの狩りだけど。いつ行く?」

「あ、はい。いつでも行けます。」

「私も。」

「そっか、じゃあ今日中に準備を整えて、明日行こうか。」

「はい。」

「買い物は…、もう俺がついてなくてもいいね。」

「はい、だいじょうぶですよ。」

「もう…二人ともここまで強くなったんだなぁ。」

「セエさん…。」

「俺なんて、何年かかったか分からない。二人は強いよ。」

 セエは、そう言って自虐的に笑った。

 そんなセエの様子に、二人は何も言えなくなった。

 セエは、ずっと一人でハンターをやってきたのだ。その苦労は凄まじいだろう。

 サイトとルイズは、二人だ。きっととても恵まれているのだ。

 

「にゃ? 三人とも、ボーッとして、どうしたにゃ?」

 

 そこへやってきたトウマの声で、三人はハッとした。

「なんでもないよ。」

「そうかにゃ?」

 トウマは、深く追求することなくそう言うと、キッチンに戻っていった。

 トウマがいてくれてよかった…っと、三人は声に出さず同じ事を思ったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌日。予定通りモノブロス討伐クエストに挑むことになった。

 道具も揃え、アイルーキッチンもしっかり利用した。

「うむ。では、行って参れ。」

「はい!」

「じゃあ、行こう。」

 

 三人は、モノブロス討伐クエストのために出発した。

 

 

 砂漠への馬車の中で揺られながら。

「……結局、モノブロスってどんな飛竜なんですか?」

「一言で言えば、一本角。」

「つの?」

「対してディアブロスは、二本角。」

「その違い?」

「生態系も似てると思うし…。攻撃方法もよく似てるんだ。」

「へえ…。」

「なんか…不安より、ワクワク感が湧いてきたわね。」

「ああ、村長さんが昔倒して、それからは専用クエストが出来るくらいの飛竜だからな。」

 そう話し合って笑い合うサイトとルイズを見て、セエは、微笑ましそうにしていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 モノブロス。

 別名、一角竜。

 その呼び名の通り、一本の深紅の角を持つ飛竜種。

 生息区域が砂漠と限定されており、さらに人里離れた辺境でしかその姿を目撃されていないため、ココット村の村長がハンターギルドと話し合って、ココット村の一人前のハンターになるための関門として指定された。ゆえに、この竜と戦いたければ、ココット村の村長を通さなければならない。

 発達した角と翼爪で、地中を掘り進むという能力を持つ。

 またすべての者の耳をつんざく大きなバインドボイスや、相手を突き刺し殺すその自慢の一本角、さらに巨体に似合わぬ俊敏性、硬い甲殻と高い体力、どれを取っても飛竜種としては、最高クラスであると言われる。

 なお、縄張り意識故に凶暴ではあるが、食性は、草食。

 

 

「さいこうくらす~~~~!?」

 モノブロスの生息区域である砂漠に到着するまでの間に聞いたモノブロスの話を総合してみて、ルイズとサイトは、声を上げた。

「そう…、モノブロス…強いんだ。俺なんて、腹突かれたよ。」

「よく死ななかったですね!?」

「さすがに迎えの死神が手前まで来てたなぁ…。」

「うわーーー!」

「ま、二人とも。死神が来ない程度に無理せずやろう。」

 そう言って笑うセエに、サイトとルイズは、寒気を覚えた。

「どうしよう…。ワクワク感が一気に不安に変わったわ…。」

「俺も…。」

 二人は、ヒソヒソとそう話し合ったのだった。

「さあ、時間もあるし。行こう。」

 殺されかけた相手(飛竜種)のクエストだというのに、脳天気に振る舞っているセエに、熟練ハンターゆえの価値観(?)の崩壊かと…サイトとルイズは、思ったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ああ~、どんな竜なんだと不安がる二人を後ろに、セエが先を進む。

「……サイト。見えてるだろ?」

「…えっ? あ、は、はい!」

「あそこ…。」

「えっ?」

 自動マーキングスキルで見えてるだろと言われ、そしてセエが指さした先は崖の上。

 そこに、尻尾が見えた。

 そして、その尻尾が動く。

 グルンッと崖の上で身体を回転させたその飛竜には、額に長くて大きい立派な深紅の角があった。

 鳴き声を上げながら飛び降りてきたその飛竜には、唇は無く、くちばしのように歯がむき出しになっている。

 飛竜種にしては、発達したごつい翼爪があり、翼というより腕だ。

 頭はまるで恐竜のトリケラトプス系のそれのようになっており、平たい部分がおそらくは耳の役割をしているのであろう。

 そして、全身を覆う甲殻は、いかにも硬そうだ。

「これが…!」

「モノブロス!?」

「二人とも、来るぞ!」

 セエが言った直後、モノブロスが角を前に突き出して突進してきた。

 三人はそれぞれ左右に散開し避けた。

 セエは、いつものように傍観者として徹するため、エリアの端に逃げ、サイトとルイズは、武器を抜いた。

「速い!」

 その巨体からは想像も出来ないスピードであったが、なんとか避けれた。

 サイトが切り掛かろうと接近したとき、モノブロスは、急に地面をその発達したごつい翼爪で掘り出し、あっという間に地中に潜っていった。

「はあ!?」

「サイト! 下から来るぞ!」

「えっ?」

 セエからの言葉に戸惑ったサイトは、周りを急いで見回した。

 そして数秒後、凄まじい勢いでサイトの真下からモノブロスが飛び出し、サイトは、跳ね上げられ、角で脇腹を抉られた。

「ーーーー!?」

 地面に叩き付けられて倒れたサイトは、すぐに立ち上がれなかった。

 立ち上がれないサイトに畳みかけるようにモノブロスが尻尾を振り、サイトはなぎ払われて岩壁に叩き付けられた。

「ぁ…が……は…。」

 サイトは、ズルズルと岩壁に血を付けながら滑り落ちた。

「サイトーーー!」

 ルイズが攻撃をするのを忘れ悲鳴を上げた。

 その悲鳴に反応してか、モノブロスがルイズの方を向き、角を突き出して突進してきた。

 サイトの大怪我を見て、恐慌状態に陥ってしまったルイズは、棒立ちだった。

 そこへセエが、走ってきて、大剣を盾にしてルイズの前に来た。

 しかし突進の勢いを殺しきれず、後ろに弾かれ、ルイズを巻き込んで倒れることになった。

「クエストリタイアだ!」

 セエは、そう叫ぶと、どこからともなく迎えのアイルー達が荷車を引いてきて、モノブロスを牽制しつつ、血だらけで倒れているサイトを荷車に乗せ、セエは、ルイズを抱えて荷車に乗って退却した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 村に戻るまでに治療を受けたサイトは、腹を包帯でグルグル巻きにされてセエの家に運び込まれた。

 ルイズは、馬車の中でも、家に戻ってきてもサイトの傍で泣いていた。

 セエは、村長のところへ行き、報告した。

「そうか…。失敗したか。」

「とてもじゃないですが、戦える状態ではありませんでした。」

「あの二人は焦っておる。自分の元いた世界を救うという目標のために。」

「……二人は、果たしてその目標を達成することが出来るでしょうか?」

「否…じゃろうな。今のままでは。」

 ふ~っと村長はため息を吐いた。

「俺は、二人の師として…、何も出来ないんでしょうか?」

「お主はしっかりとやっておるよ。」

「そうでしょうか…。」

「二人のためについてておやり。頼る者もなく、異世界へやってきたあの二人には、お主しかおらんのじゃ。」

「……俺が傍にいるだけで、違うのでしょうか?」

「ああ、そうじゃよ。」

「モノブロスは強い…。なら、俺はどう二人を導けば…。」

「よく、考えなさい。」

「そうだ…。集会所クエストだ…。防具が脆弱すぎるんだ。」

 そのため、サイトは、脇腹をモノブロスの角で抉られてしまった。

「けど…、自動マーキングスキルを保ったまま装備を調えるとなると…。集会所に挑むしか…。」

「やるかどうか決めるのは、あの二人じゃ。」

「…分かりました。話してみます。」

 セエはそう言うと、村長に頭を下げてから家に戻った。

 

 家に戻ると、マットの上で荒い呼吸を繰り返しているサイトの手を握っているとルイズがいた。目を真っ赤にして、泣いていた。

「ルイズ…。」

「…セエ…さん…。サイトが…サイトが…。」

「だいじょうぶだ。明日には治る。」

「本当に?」

「ああ。」

「………私達…やっぱり、無理なのかも…。」

「えっ?」

「だって、最高ランクの飛竜種にすら、こんな様で!」

「誰も…初めから強いわけじゃないよ?」

「でも…。」

「焦りすぎだよ。」

「っ…。」

「焦っても結果は逃げていくだけだ。それを忘れちゃいけないよ。いいね?」

「……うん。」

「それでなんだけど…。サイトの装備を新調しないといけないかもしれないな。」

「新調ったって…。」

「自動マーキングスキルを保ちつつ、防具のグレートをあげる…。俺だってそうしたんだ。同じ事ができないはずがない。」

「セエさん。」

「サイトが目を覚ましたら、どうするか決めよう。」

「…はい。」

 ルイズは、頷いた。




筆者は、モノブロスには、ディアブロスと並んで、メッチャやられましたとも。
つえーもん…、ほんと…。岩に角刺さらないとまともに攻撃できなかったなぁ…。
下からぶっ飛ばされ、横から尻尾でなぎ払われ…、もうねぇ。

次回は、サイトの装備をパワーアップさせる予定。今のままじゃ、アイルーキッチンや硬化薬グレートを使っても厳しいかも。

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