ラブライブ!サンシャイン 黒澤家長男の日常   作:アドミラルΔ

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鹿角理亞 新しい一歩

interlude

 

出会ったばかりの頃は敵だと思ってた。ぬるま湯につかって私たちを茶化す。まるで遊びみたいにへらへら笑いながらはねて踊って…

 

そんなAqoursに私は惹かれた

 

 

そして…

 

 

────

 

‹ごめん。やっぱり無理。ごめん›

 

瞳の中を覗き込むように光る携帯の画面に表示されたメッセージを尻目に私は枕に顔を埋めた。目を瞑った暗闇の世界でそのメッセージはずっとリフレインされ続ける。目を背けたくて瞼を閉じているのにその言葉は私をずっと追い回していた

 

 

その無理という言葉はもう勘弁してという言葉を謝罪に置き換えさも否定していないように見せかけた私の考え方に対する否定の言葉…それにほかならない

 

 

姉様が卒業してsaint snowは終わり

 

また新しいスクールアイドルを始めて私は姉様が届かなかったラブライブの頂点を目指す。それが私が壊してしまった姉様の夢…それを償える唯一の方法だから

 

けど私には友人と呼べる人間は数える程にもいない。ゼロ…何も無い場所からのスタートだ

 

そんな私とは違って姉様は人当たりが良くて美人でスタイルも良くて勉強も運動も作詞も作曲も出来て友達も沢山いた。でもその中で私とスクールアイドルをやってくれてた。その姉様とは対照的に何もかもゼロの私が勧誘活動をしてスクールアイドルを始めようとしたのにこの結果(ザマ)

 

あんなに輝いていた2人のsaint snowでは最強で最高だと思ってたのに

 

 

私一人ではこんなにも弱く…脆い

 

 

ドアが開く時には木の軋む音が聞こえる。でもその生活音は部屋が相当静かでなおかつ音に集中できる環境でないとそれは聞こえない。今の私の部屋はその音が聞こえるほどに静かで皮肉にも視覚を閉じていた私は耳に集中出来ている状態だった

 

 

「理亞起きてますか明日銀がこちらに来るそうですよ」

 

半開きのドアをのぞき込む姉様の弾むような声。枕にキスをするのをやめて見た姉様の顔は銀が来るのが嬉しいのかいつもよりにこにことしていた

 

そんな姉様を尻目にちらりと確認した携帯の画面には<ごめん無理>の言葉を塗り替えるように‹明日そっち行く›と表示されていた。

 

 

「理亞あなた…」

 

私の顔を見た姉様が表情を固くしてこちらを見て目を丸くしていた。それは多分私の顔が見ていられない状態だったから

 

「姉様…私は…」

 

いつも頼っていた存在(ねえさま)に寄りかかりそうになる。でもここで頼ってたら姉様に顔が立たない。だってこれは私のミスで姉様の夢を壊したことに対する贖罪なのだから。

 

「理亞もいつかそういうことが分かる日が来ますよ。でももし本当に分からないというのならもう一度だけ私のところに来なさい。そこで私が教えてあげますから」

 

そういうと姉様は部屋を出て行った。分かるって何…?

 

私には何もわからない。何も無い私には

 

 

──────

 

 

明くる日姉様と銀がにこにこと楽しそうに談笑していた。姉様の顔はとても楽しそうで私の心はちくりと痛む。別に疎外感を感じているわけでもないのにチラチラと目で追ってしまう自分にはとても腹が立つ

 

 

 

 

「理亞って人見知りだよな」

こういうことをふと平気で言うノーデリカシー男。姉様の前だからってへらへらした笑顔なのがほんとムカつく

 

「だから何?」

 

そんなのだから思わず私の口調も強くなる。何故そんなことを面と向かって言われないといけないの?

 

「それじゃあ勧誘活動が出来ないだろ?手を貸そうか?」

 

…銀はこれを心配して言ってくれてるんだろうけどその言葉が今ゼロから頑張っている私の1番言われたくないことでついカチンときてしまう

 

「銀に言われなくたってそれくらい出来る!私は銀に手を貸してなんて言ってない!」

 

私はその場に居られなくなり部屋を飛びだす。だって誰も私の気持ちなんて分かってくれないもん

 

「理亞待て!」「理亞待ちなさい!」

 

銀と姉様の声が遠くに響く。その声からずっと遠くへ逃げるように私は駆け出した。

 

 

 

「聖良悪い。今日泊まっていいか?」

 

「ええどうぞ。きっとあの子には貴方の言葉が必要ですから」

 

(はっ!今の会話は夫婦みたいでしたね!ふふふ)

 

 

……

 

とぼとぼと住宅街を一人で歩いていた。街ゆく人は当然外出するときの格好をしていたりデートなのかとてもオシャレなワンピースを着ていたり中にはスーツを着ている人もいる。そんな色とりどりな世界に部屋着で出てきた私は少し浮いていた。

 

 

でもさっきの人見知りの話は本当に当たってる。銀のこと最初は敵として認識してたから遠慮なく心に土足で踏み込んでいけたけど店員さんや保護者の人とか初対面の人相手に私は全然喋れてない…みんなでご飯に行っても“私これ”とか言っていつも頼むの銀か姉様だし…その程度の会話も私は出来ない

 

 

そんな気持ちからまた逃げるように街中の景色を追い抜いているとふと私が張り出したスクールアイドル募集のポスターが目に入った。もう何が何だかわからない感情が自分の中を渦巻きその紙を引きちぎりたくなる。まるでそれは力が足りない自分を写す鏡のようだから

 

 

少し前まであそこはライブ告知のポスターだったのに…

 

 

「やっぱりいつものルートを走ってたか」

 

後ろからかかる聞きなれた声

 

少しだけ息を乱した銀の呼吸音でそれなりのペースで追いかけて来てくれたことが分かる。

 

 

「銀…」

 

この優しさに胸がキュッと苦しくなる。私は不器用でこの温かさにいつも反抗したり噛み付いたりしていた。それなのに銀は…

 

「明日の朝またここ走るんだろ?トレーニング俺も付き合うよ。そこで話したいことがある」

 

いつもこんな態度

 

 

「別にいいけど話すことなんて何も無い」

 

あれだけの啖呵を切ったのにいまさら相談なんて出来ない。だって恥ずかしいし

 

 

「そんなに怒った顔するなって悪かったから1人でしたい年頃なんだろ?」

 

理解したようで理解していないこの銀の言動。私のこと本気でイヤイヤ期の子供だと思ってるの?

 

「その言い方だと私が駄々こねてる子供みたいでしょ!全然違うから!」

 

 

「おっと怒って逃げようとしても無駄だぜ?俺はまた理亞を追いかけるからな」

 

逃がさないようにと思ったのか銀はすぐ私の横につける。さりげなく車道側を歩いているあたりがもう何とも言い難い

 

「そしたら警察にストーカーされてるって言うから」

 

 

「ごめんそれは勘弁して」

 

自信満々に笑っていた顔が困り顔になる変わりようが面白くて私はまた笑ってしまう

 

 

こういうぬるま湯には偶に入りに来るくらいが丁度いい

 

 

ずっとその場に居続けることは出来ない

 

この肯定や優しさというぬるま湯に浸かり続けたらきっと私の身体は最後冷めきってしまう

 

 

だから…

 

───────

 

早朝

 

日もあがらない時間に目覚めさっと着替えを済ませて私は家を出る。でも今日は私だけじゃない…隣に銀がいる

 

いつものコースを走りながら朝霧の中の沈黙を破るように銀が話しかけてきた

 

 

「人の想いっていうのはさ。なんというか心の奥底にしまったり見ないようにしたりあるいは封じ込めたりまあ色々と忘れる方法っていうのはある。でもその想いは絶対に消えないし無くなるなんてことは無いんだよ。だから聖良と理亞2人で紡いだsaint snowが終わったとしてもその想いは絶対に消えない。理亞に何も無いなんてことは無い。これを伝えたかった」

 

走りながら喋ってるからどこか途切れ途切れの言葉。私の頭の中ではこういうふうに文字化されてるけどその中に何回も何回も息継ぎの音(ブレス)が入ってた

 

「何のために理亞はスクールアイドルをやってるんだ?」

 

「何のため…」

 

自然と足が止まった。別に疲れたわけでもないのにどこか力が抜けたように私の足は動かなくなった。はっと立ち返ると何も無いと思ってた私の胸の中から姉様と過ごした時が溢れ出てくる。ずっと残ってた…私は1人じゃなかった

 

 

「少し思うところがあったんだな。まあそれはいいとして休憩がてらちょっとこれを見てくれ」

 

銀はポケットからスカイブルーの羽根を取り出して私に種も仕掛けもないとばかりに見せつける

 

 

「これを振ってぱんっと手を叩くと…ほら綺麗なピュアホワイトの羽根になった」

 

銀の手によって綺麗だったスカイブルーの羽根は何も染まっていないピュアホワイトの羽根に変わった…悔しいけどちょっと上手いからびっくりしたし目が丸くなった

 

「なんでここで手品なんか…」

 

スカイブルーは姉様の色でピュアホワイトは私のイメージカラーここで手品をやることと私の朝練に付き合うことはなんの関係もないからなにかひとつでも企んでないとそれこそおかしくなる

 

「元々はお前のシスコンをどうにかこうにか矯正してやろうと試行錯誤してた結果なんだけどな。無駄だと思ってたずっとやってたけど意義はここにあった。これも最初の頃はミスりまくって全然出来なくてさ。でも何回も何回もやってようやく出来るようになった。何が言いたいかって言うと人間は努力なしに何かを成し遂げることなんて到底無理なんだよ。だから理亞も無理にジャンプしたり飛び上がろうとしなくてもいいからさ一歩一歩確実に歩みを進めていけばいい。俺は理亞の頑張りをずっと見てるから」

 

 

「な、何を…ぐすっ言っ……てるのか」

 

その微笑みと言葉に目頭が急に熱くなった。なんで…?こらえようとすればするほど目が涙を貯めていく

 

 

 

助けられることをぬるま湯と馬鹿にしてたけど本当は私が無理して熱湯風呂に入ってただけ。そうして無理して入り続けてのぼせしまって私は弱いと子供みたいに怒ってた。何でこんなこと気づかなかったんだろう…私はバカだ…大バカだ

 

 

 

「涙を隠したかったら俺の背中で拭けばいい。女の子の綺麗な涙は想い人以外には見せちゃダメって母さんから聞かされてるからここで見えないように思う存分に感情を出せばいい」

 

駆け寄って抱きつくように銀の背中に頭をくっつけた。目から溢れる涙が全然止まらなくて数分間くらいはずっと抱きついてたような気がする。こんなこと絶対に本人には言わないけど銀が大丈夫かと何回も声をかけてくれたから私は安心できた。

 

 

「グスッ」チーン!

 

「あ、バカ鼻はかむな!」

 

 

 

 

……

 

「銀…ちょっとこっち向いて」

 

飛び上がって抱きつくように頬にチュッっと感謝の気持ち

 

「これは…そのお礼だから勘違いしないでよね!」

 

銀は目を見開いてるけど多分私の顔は今真っ赤だと思う。こんなこと生まれて初めてやったからあまり上手くできない

 

「銀がいっつも姉様のこと美人美人って言うから。その…私だって姉様の妹だし将来美人になるかもしれないでしょ。だから実質的には姉様のだと思っていいから」

 

もう顔も頭もとても熱くて考えがまとまらない。自分で何を言っているのかも分からなくなる

 

「そうやって聖良と比べて卑下するのは理亞の悪い癖だぞ。将来とか関係なく理亞は今だって美人で綺麗だ。それに嘘はない」

 

そう言って銀は私の零れようとしていた涙を拭ってくれた

 

 

…私の心はもう幾度となく誰かに盗まれているはずなのに何故何度も心の鐘を打ち鳴らすのだろう。何故あなたの言葉や笑顔で私の心は踊ってしまうのだろう。はぁ…こんな男に愛されている友達(ルビィ)が羨ましくて仕方ない

 

どうして私は貴方のことを好きになってしまったのだろう

 

 

「ああもう……スキ……バカ」

 

 

 

親愛なる姉様ほんとうにごめんなさい

 

 

姉様より大好きな人が私には出来てしまいました

 

 

 

 

 

 

 


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