ゴールデンウィーク中 意外な事にセラさんからの追及も特になく平和に過ごせていた。
嵐の前の静けさのようで些か不気味だが、可憐先生はいつもの事に何も教えてくれないので諦めた。
憂鬱な気分は晴れないが報酬は受け取れたのでそのお金で少し奮発し、お菓子や唐揚げ ジャンクフードをコンビニで買い漁って、公園で豪勢に祝杯を上げる。
道中の事である。
道ばたで行き倒れた青年を拾った。
「すまない少年 倒れている所を助けて貰っただけでなく、こんな豪勢な食事も貰って 何と言ったら言いか…」
そう焼き鳥を飲み込んでからドイツ語で頭を下げる男性。
年は恐らく二十代ぐらいだが見た目は中学生位の成長しきっていないように感じるの青年だった。
「いえ 一人で食べるのも退屈だったので気にしないで下さい」
と、オレもドイツ語で話ながら てきとう菓子に手をつける。
セラさんに教わっておいて良かったと胸を撫で下ろす。
とりあえず 元気そうだったので救急車は呼ばずお菓子や唐揚げを別け与えた。
もう少しお粥とかお腹に優しい物を渡した方がいいんだろうが、手持ちがこれしか無いのでこれで我慢して貰う、本人も喜んで食べてるし多分大丈夫だろう。
「行き倒れなのは分かりますけど何であんな所で倒れてたんですか?
道に迷っているなら警察に行ってみても良いんじゃないですか?」
「事情が有ってな、警察には行っても仕方ない 、と言うより行けないんだ」
「...不躾かもしれませんが、何でそんな状況でこの国に来たんですか?」
もういっその事他国からのスパイか何かじゃないだろうか?
目を見ればある程度嘘かどうか分かるしとりあえず語って貰おう。
「…この国には元々母に会いに来たんだ」
と青年は語り始める。
少し前まで海外のとある国で軍人紛いの事をしていた事や
その国が崩壊したこと、
その後色々あって、とある人権団体に引き取られた事。
そして、そこで生き別れの自分の母親が生きている事を知ったらしい。
ならば と団体の人が日本までのチケットやパスポートを用意して共に日本まで母親に合い来てみれば、道中でガイドと団体員が交通事故に合い意識不明の重体で入院。
道も言葉も分からぬまま放り出され途方に暮れていたら行き倒れていたらしい。
そして、その国が色々と厄介な国で色々な国々と完全敵対していたらしく、そこに属していたせいで色々な国の公的機関を利用しづらいらしい。
「...なんと言うか、壮絶ですね...」
その一言に限る、軍人をやっていたのは体つきと指の感じで分かったが、その後が色々意味わからん状態だ、嘘や動揺 誤魔化そうと言うきは一切感じられなかった。
話の節々で幾つか質問もしたが矛盾等もなく信じられない事にそれが真実であるように感じた。
と言うか嘘をつくならもう少しましな嘘をつくだろう。
「その団体の連絡先は分からないんですか?」
「分からない、事故に合った彼らとは別に携帯や手記は溝に落ちて使えなくなってしまった
電話番号は覚えていない 」
要するに、警察も使えず 宿もなく 家の場所も連絡先も分からない……。
何だこのプロの迷子は…、迷子の子猫でももうちょいましだぞ。
「とりあえず、待ち合わせはしてたんですよね? そこへ行ってみましょう、地図は有りますか?」
「ああ、少し待ってくれ」
と唐揚げを口に目一杯詰め込んで鞄を探る。
そんなに慌てなくても良いのに、とも思ったが戦場に居たらしいし、きっと仕方がないのだろう。
と、取り出した地図は新都の方を記していた。
勿論そこに行っても、誰も待っては居なかった。
一応聞き込みでここに数日前まで黒髪を短く刈り込んだ目の厳しい女性が一週間ほど毎日同じ時間同じ時刻に誰かを待っていたらしい。
そして、かなりのちょっかいを掛けてくる相手にそれは見事なCQCで撃退していたりして、少し話題にもなったりしたらしいが、少し前からめっきり見なくなったそうだ。
「一応印象画で描いてみたけどこんな感じなのか?」
首くらいの長さの黒い髪に少し細目の眼、すっと立っている鼻立ちに薄い唇…。
と彼の母親なら多少彼に似ているだろうと彼をベースに女性を描いたが、自信はない。
と言うか相手の顔写真もないのにどうやって探せば良いんだろうか。
しかしこれ以上の手がかりもない…、
うーむ と思わず唸り声を上げていると青年が声をかけてくる。
「…正直な話 母親に会った所で何か在る訳でも無いだろう」
何いきなり今まで事を否定してくるんだこの人。
「君はもう帰って良い…」
…成る程そっちが本音か。
「オレにこれ以上 迷惑をかけたくないみたいですけどそんなに気にしなくて良いですよ?
暇だから付き合ってるだけですし。
もし、本当に迷惑なら止めますけど、違いますよね 、」
「もしそんなに気にするなら、恩とか縁だと思ってください。
人の繋がりって言うのは馬鹿に出来ません、もしこれからオレが困った時に助けてくれればそれでチャラです」
「いや、しかし……、いや、そうか、すまない 恩に着る」
彼なりに少し考えたのだろう、
「…そういえば、いちおう母の知り合いがこの街に要るらしいのだが、誰に聞いても分からないそうなんだ」
「どんな名前の人なんですか?」
「エイヤと言う人物らしい…」
「…それ人名ですか?」
「ああ、皆同じ事を言っていた」
エイヤ…エイヤ……あ、いや待てよ?そんな名前の人が居たな。
心当たりを思い出す。
もう3ヶ月程前だがそんな名前の洋菓子店の店長と仲良くなったのを思い出した。
そう 名前は喫茶エイヤー亭……。
「あらやだシキちゃんじゃないの~! ちょっとまた新しいケーキのアイディアがあるんだけど試食してみない?」
色白な肌が綺麗な丸々と肥たの巨漢の金髪男性がオレたちを迎える。
「この人はエイヤ アンダーソンさん この西洋菓子店の店長さんなんだ」
店長をスルーしての紹介をする。
元はドイツの方で、幼いから平和で緑の豊かな日本でお店をやりたいと夢を抱いていたらしいのだが、日本に来た当初は日本語がまだ下手で。
店の内装などの細かい指示を業者の人に出せず、困っていた所にたまたま興味本位で見学に来た、オレがエイヤさんの変わりに指示を出して、エイヤさんの理想の店作り の手伝いをして仲良くなった。
ちなみにちょっとオネェ気味なのだがそれが良いアクセントになって最近は中々繁盛しているらしい。
彼の事情を伝えて心当たりが有るか尋ねるてみる。
「う~ん、ごめんなさいね心当たり無いわ」
そう言ってエイヤさんは申し訳なさそうに首を横に振る。
「やはりダメか…」
ただ受け入れる様に呟く。
オレも予想はしていたが、こうなるといよいよ詰んでしまった様に感じる。
「流石にうちは無理ですけどオレが山に作った秘密基地で暮らします?」
「…問題が無いのならそれもありだな…」
とりあえずオレが去年作った円蔵山の山小屋を紹介する。
あそこならある程度人が住める設備が揃えているし問題は無いだろう、山は一成さんの家の物だがきっと許してくれるだろう。
と一成さんへの説得方法を考え始めていると、エイヤさんが青年に声をかける。
「ねえ、君 宿に困っているならうちで働いてみない?
ちょうど人手が欲しかった所なのよ~」
「…良いのか? 自分で言うのも何だがこんな正体不明の不審人物を置いておこうとするのはどうかと思うぞ?」
表情や声のトーンは殆ど動いていなかったがとても驚いた様子で青年は純粋な疑問をぶつける。
「ええ、良いわ シキちゃんの紹介だし 貴方可愛いもの 」
「…ずいぶんと信頼されているだな君は…」
「人が良いだけなんじゃないですかね? それにエイヤさんも忙しい時とかはドイツ語が出てしまいますしね そういう時に直ぐに対応出来る人が欲しいんじゃないですかね 」
「あらやだ シキちゃん 全部言わないでよねぇ~!」
プンプンと言う効果音が鳴りそうな感じでエイヤさんがブー垂れる。
とりあえず話は纏まりそうなので細かい話は本人達でして貰いオレは退散しよう。
「じゃあオレの家の電話番号を渡して置くので何かあったら電話下さい」
そうメモを置き書きし店から出ようとする、が呼び止められた。
「待ってくれ、そういえば君の名前を聞いていなかった、何て言うんだ?」
「そう言えばきちんと名乗ってませんでしたね、衛宮 士貴です シグマさん」
「今日は本当に助かった、ありがとう シキ」
こちらとしては楽しかったので別に良いのだが話が長くなりそうなのでさっさと店から出て帰宅する。
元傭兵であり、言っては無かったが魔術師でもある青年との変な出会いはとりあえずここで終わった。
喫茶エイヤー亭 ここには良く来るのでこれからもシグマさんが彼の母親と出会か入院しているガイドが退院するまでそこにいるのだろう。
…全く関係ない話だがエイヤさんに日本語を深く教えたのはオレだ
とりあえず言えることはシグマさんはFate/strange Fakeに出てくるΣさんと大体 同一人物です、要するにこの世界のΣさんだと思ってください。
ついでに言うとエイヤと言うのは分かっていると思いますがエミヤの間違った言い方で、シキ君がそれに気づかないの? ってなったりしてもやもやするかと思いますがご容赦下さい。
遅れた理由はそのもやもやとか純粋な遅筆です本当にすいません。