この小さな心で抱きしめよう。 作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?
かあさんが教えてくれた、あのクソに隠す唯一の秘密。それが、〝憑依人格〟という個性の話。
取り憑いた物の望む姿として、本来の体を消し第二人格として生きることが出来る個性。その禁忌でもある個性を、かあさんは昔貰ったらしい。
『この個性を発動させてから10年が終わった日。第一人格の体を乗っ取ってしまうのよ』
試したことは無い。舌を出しながらお茶目にそう教えてくれた。
『時間が無いんだ』
緑谷出久の誕生日は7月の15。そして今は……。
俺が呟いたその言葉は、会場を埋め尽くすざわめきによってかき消される。もちろん、イズの耳にも届かない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
提示されたように、緑谷出久が所有する点数は、他の追随を許さない八桁のポイント。
5ポイントから始まり、10、15、20、50、100、200と順序よく42位から2位まで上がってきた中での異常な数字である1000万ポイント。
『これをケイオスと言わずして何という』
「はわわ……どうしよ……」
【ルールは簡単よ! 先ずは時間を設けるから、2人から4人で1つの騎馬を作りなさい。そして、その騎馬に参加している人の持ち点。その点数全て足し算したポイントを書いた鉢巻きを配るわ】
一人一人から取るわけではなく、あくまでも一チームから取るという構図。ただ、違う部分ももちろん存在する。
【騎馬が崩れても立て直して良いわ。ただし、騎手が地面に体をつけてしまう。や、場外に出てしまうとその時点で失格。ポイントは0になる。いいわね?】
ルール説明はこれで終わり。さて、オロオロとしているイズは、先ほどまでのかっこよさがなくなり、離れていく人たちに対してワタワタと不安な心を駆り立てられている。
『そりゃ、八桁なんざ他の奴からしたら厄ネタも良いところだろ』
「話する以前に、皆目も合わせてくれないよ……」
『まぁな。爆豪なり轟なり。確実に強い奴らに狙われるのは必至だからな』
「作戦とか……。というか、
さて、どうしたものか。まあ、A組の奴と組むにしろ、B組の奴と組むにしろ結果も変わらない気がするが。
『まあ、二人くらい気になる子が居なくも無いが』
「誰? A組?」
『いや、B組だ。あそこに居る二人』
俺の視界の先。まっすぐに見据えるのは、結われた髪が緑の色をし、所々で棘を持つ『
そしてもう一人、クラスメイトである切島と個性が似ている、全身を鋼鉄に出来る個性を持つ『
「でも、B組は僕たちA組を敵視してるから、チームを組むのは難しいんじゃ……」
『そこは交渉次第だろ? ヒントはやった。早く行かねぇとチーム作られるぞ』
意を決したのか、それでも一抹の不安を抱えたイズは、テクテクとB組が固まっている辺りへとむかう。もちろん他クラス。それに、
「あれれ~? 君は1位で、A組で、入試も1位だった緑谷くんだよねぇ? なんでB組に来てるのかなぁ。あ、独りぼっちで味方がいないからかな?」
「あ、いや、そういうわけじゃないけども……」
「ぼっちはここで退場したらどうなンガッ!!」
「物間! 試合前にちょっかいかけられるなんて偉い余裕ね。ごめんね緑谷くん。こいつ、物間って言うんだけど、何て言うか……アレなんだ」
「う、うん。なんとなく分かったよ……」
「私は拳藤。決勝でねー」
伸された物間を大きくした腕で掴み、ズルズルと引っぱっていく拳藤。
「つ、強い……」
『早くしねぇと時間ねぇぞ?』
「あ、あ! うん。鉄哲くん! 塩崎さん!」
「んぁ? A組が俺たちに何のようだ」
「野蛮に言葉ですが、鉄哲の言うとおり」
まあ、こうなるよね。と、ポリポリと頬を掻くイズは、単刀直入にチームになって欲しいと頭を下げる。
「ははー! 何でA組の君と僕たちB組がチームにならないといけナアッ!!」
「物間ッ! あんたはこっちでしょうがッ!!」
ズルズルと引っぱられていく物間。こりねぇな。なんて思った俺は悪くないはず。
「傲慢。それは七つの大罪に通ずる深い罪……」
「なんか、物間が悪ぃな。んでも、悪ぃ奴じゃねえんだ!!」
「うん。大丈夫だよ。あれだけ周りにフォローされるって、あんな性格でもしっかりと周りのことを見て信頼や人望があるってことだから。あ、それで本題なんだけど……」
鉄哲と塩崎の近くには他のB組の生徒かチラホラ居るが、気にしない。
「僕は1000万ポイントなって物を持ってるから想像に易いけど色んな人に狙われる。特に2位だった轟くんに3位のかっちゃん。爆豪くんとかね」
「おう。そりゃあ分かるが、だからなんっってんだよ」
「かっちゃんは爆破。これにはタフさがある人が必要。そして、轟くんは全体に広がる氷結。これを防げる物が必要なんだ鉄哲くんも塩崎さんも、さっきの障害物競走で個性をちょっと見られたしね」
A組に勝ちたいなら、A組に対応できる個性及び頭脳がいる。もちろん逆もしかり、B組に勝ちたいなら、B組に対応できる個性及び頭脳がいる。
A組には二人の個性で対応できる。B組にはワン・フォー・オールと想像を駆使できればほぼほぼ問題ないだろう。それに……。
「おーい! デクくん!! B組の人たちと組むの? 私も入れて貰って良いかな?」
麗日の
「僕と組む以上防衛戦になるのは確実なんだ。だから、僕たちのポイントを守り切れるメンバーの選出。そして、ラストスパートのかかる最後の1分か2分で攻めに転じるための能力を持っている人が良いんだ」
「つまり、逃げ続ける戦いをするんだな?」
「
「おお、なんかスゴイ」
鉄哲の言葉の訂正。そして、誠心誠意のお願い。飯田ほどではないが、きっちりと腰を曲げて態度で示す。
「僕の構築は地面ないし何かしらに触れないと行けない。だから騎手は出来ない。同じく、麗日さんは五指で触れた物に個性を発動させる。だから、騎手に塩崎さん。前に鉄鉄くん。そして、右に麗日さんで左に僕」
個性の弱点までも交換条件として出す。どれだけ本気なのか。冗談では無いことを伝えるため。
「どうか僕と騎馬を組んでください。お願いします」
「わ、私からも、お願いします!!」
なぜか麗日まで頭を下げたことには驚いたが、それでも、勢いでも何でも理由はともかく二人は首を縦に振ってくれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【さてさてー? 騎馬を組むための交渉。そして、作戦立案の時間が終わったなぁ】
【この競技で上位に食い込みそうなのは、やはり第1種目のトップスリーだな】
【緑谷、轟、爆豪のことだな。まあ、他にも生きの良い奴らがたくさんだ。B組からも目が離せねぇ】
さて、始まりだ。
轟焦凍、飯田天哉、上鳴電気、八百万百。
爆豪勝己、切島鋭児郎、瀬呂範太、芦戸三奈。
心操人使、尾白猿夫、青山優雅、発目明。
峰田実、障子目藏、常闇踏陰、蛙吹梅雨。
拳藤一佳、柳レイ子、取蔭切奈、小森希乃子。
鱗飛竜、宍田獣郎太、骨抜柔造、泡瀬洋雪。
物間寧人、円場硬成、回原旋、黒色支配。
葉隠透、耳郎響香、砂藤力道、口田甲司。
角取ポニー、鎌切尖、庄田二連撃。
小大唯、凡戸固次郎、吹出漫我。
そして、俺たち。
塩崎茨、鉄哲徹鐵、緑谷出久、麗日お茶子。
全員で42名。本戦へと出られるのは四チーム分16名。足りない場合は5位から選出。
「僕たちは僕たちが出来ることをやろう」
「うん! 頑張るもん!」
「やってやろうじゃねぇか」
「罪なる悪意からの防衛戦……」
【さあ、騎馬戦のスタートだぁ!!】
茨ちゃんをうまく書く方法を教えて………。