この小さな心で抱きしめよう。 作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?
だからこそ。僕少年に私は言いたい。君は、ヒーローになれる。
ーーヒーローになれる。
よかったな。イズ。誰にだって馬鹿にされた夢を、誰でも無い、憧れの
出久に合わせた。学校での口調も、行動も、性質も。個性は、バレないよう細心の注意を払いながらでしか使わなかった。だからこそ、緑谷出久という少年は、蔑まれてきた。
教師には現実を見ろとそう言われ、クラスメイトには夢を馬鹿にされ、兄貴分には馬鹿にされる。何より、母親には、何度も何度も心配をかけた。
『ヒーローなんかじゃ無くても、人は助けられるわ。私は、出久が怪我するのなんて見たくないの』
そう言って、何度も何度も俺のことを気遣ってくれた。【構築】と言う名前だけで、戦闘が出来るような個性には思えなかったのだろう。それに、家で個性を使うときは、決まって何かを直すときしか使ってこなかった。
これ以上の衝撃は、これ以上の言葉は、緑谷出久にとって他にない。たとえ聞いているのが俺であろうとも、その思いは変わらない。
「僕少年。正しくは出久は、いま、あんたの言葉を聞いて泣いてるよ。どうしてだろな、自分のことじゃねぇのに嬉しいよ」
「いいや、君もだよ俺少年。君は、あの時、動き出した出久少年を止めるのでは無く、無闇矢鱈に個性を使った出久少年を手助けした。ヒーローの本質はお節介。私は、そういう持論なのでね」
だからこその提案だ。少年達
口から血反吐を吐きながら、苦しいはずの体に鞭を打って、私の【力】を、君が受け取ってはくれないか。とただの一般人である俺たちに。
「なんでイズなんですか? それこそ雄英とか、士傑とか傑物とか。俺たちよりも良い人材はいるでしょう」
「ああ、二重人格の少年じゃ無くても、この個性は使えるだろう。そもそも私は、前より後継を探していた。だがな少年。そんなこと、どうでも良いと思えるほど、君という存在が衝撃的だったんだ」
無個性な只のヒーローオタクが、なりふり構わず、自分のことを嫌っている人物に対してまで手を差し伸べた。
「多くの者が、君の勇気を蛮勇だと嘲笑おうが、私が知っている。そしてなにより君は、二心同体。協力も、制止も、私たちには無いかけ算の力を持っている。だからこそ、
「良いよな、イズ……」
『ごめんね、マロに全部任しちゃって』
「気にすんな」
ーーその話、引き受けさせてください。
ここまで、表で無く裏に隠れるイズを見て、イズの中身を見てくれて、自分の秘密も弱点も曝け出して、そんな人からの頼みなんて、イズじゃ無くても断れない。
「即答。そう来てくれると思ったぜ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
個性の引き継ぎは、数日を経て行われた。それもそのはず、オールマイトの忙しさも、強さに比例してナンバーワンだから。
だが、個性の引き継ぎに関しては直ぐに行うことが出来た。俺は毎日ランニングや腹筋背筋、握力など、成長速度に合わせたギリギリの所に合わせて鍛えていたから。体力だって、見た目のオタク感からは想像できないほどにある。
だからこそ……、
「食え」
プチッと、自慢のブロンドヘアーから一本だけ、髪の毛を引き抜いたオールマイトにそう言われたとき、思わず個性のフル使用の上でぶん殴ってやろうかと思ってしまった。
「まあ、別にDNAが取り込めればなんでも良いんだ。とりあえず、ほら、一思いにゴクッと……」
「どこの飲み会のコールだ! 馬鹿じゃねぇの!」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは! 私もこうしてきたんだよ。マロワ少年、ほら! ほら!」
半ば強制的に口に突っ込まれ、無理矢理水とともに飲み込まされた。
「なんか酸っぱいんだけど……」
「HAHAHA!! まあ味なんてものは、別に気にすることじゃない。2~3時間もあれば、胃腸が髪の毛を消化してくれる。その間に、私はイズク少年に伝えないと行けないことがある。因みに今は?」
「ここ最近じゃ珍しく、ガッツリ眠ってますよ」
最近暴れまくってたくせに。だなんて、苦笑いをしながら頬を指で掻いていると、それならばと、オールマイトに言伝を貰う。
「君たちが二心同体であり、お互い、どちらが表の人格で出ていても個性を使えることは知っている。だがマロワ少年。出来ることなら、ワン・フォー・オールを表だって使うのは、イズク少年だけに限定できないだろうか?」
「それはどういう?」
「ある程度を過ぎれば良いと思っているのだが、イズク少年はこれまで無個性だったわけだ。つまり、個性を扱うという面に関しては4歳児以下だ。だからーー」
「イズが扱いきれるまで。ということか」
そういうことだ。と、オールマイトがうんうんと頷く。だが、こちらとしても聞いておきたいことがある。
「実は、裏にいる方が、強制的に個性を発動させることが出来る。現に、この前のヘドロのあの時で実証済みだから。だから、もしイズから個性を使わせてきた場合は、許して欲しい」
「それはもちろんだ。それに、さすがに私も、毎日のようにイズク少年の指導を出来るわけじゃ無い。だから、基本的な指示は出すが、君が監督として補佐するように、色々と教えてあげてはくれないか?」
ただし、表だって使うのはと言う条件であって、ワン・フォー・オールの練習をしては行けないというわけでは無いとのこと。そういった諸注意を受けた俺は、とりあえずと言うことで、オールマイトが考案したトレーニングプランの資料を手渡される。
曰く、イズク少年のポテンシャルがどういった物か分からないから、状況に応じて変更してくれとのこと。身体面の特訓はオールマイトが見てくれるらしい。
「私がオフの日にはしっかりと見てあげよう。それまでの間、しっかりと頑張ってくれ」
ガリガリのトゥルーフォームから突然のニセ筋状態に変わったオールマイトは、夕日に向かって帰って行った。
「やっぱり……馬鹿だな。あいつ」
生憎、イズほどアンタに憧れてはねぇんだよな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そこからという物、イズが目指すヒーロー科。つまり、雄英高校に行くための特訓が始まった。もちろん最初は体の使い方。
素人から抜け出せないひよっこのイズのために、オールマイトがトゥルーフォーム状態で組み手をしたりとか色々なことを。
そして、その合間合間に行うのが、個性について。
『イズ、取りあえず今日から、個性の制御についての特訓を始める。最初に言ったように、個性に関しては俺が見てやるから、安心しろ』
「うん。マロに見てもらえるんだったら百人力だよ」
そんなことを口にして、ギュッと拳を握りしめるイズに、俺はやれやれといったような表情を浮かべてしまう。
『オールマイトも言ってたけど、イズは今まで無個性だったわけだ。それはつまり、個性の制御に関しては、4歳児にも劣ってるって訳だ』
「うぐ!!」
『だから、問題だ』
ーー4歳児がやってきて、イズにないものは?
『入試まで、死ぬ気で頑張れよ?』