この小さな心で抱きしめよう。   作:義藤菊輝@惰眠を貪るの回?

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 投稿した日だけど題名変えました。

 プロレスネタ、説明一個忘れてました。すみません。


第三十六話 もっと、もっともっともっと、もっとぉ!!

 イズのスピードは、ある程度個性の制御が出来るようになってから格段に上がっていた。軽く想像していたよりも少しだけ上回るレベルで。

 

「うぉっと!!」

 

 ブォン!! とバットが空を切るような音と共に繰りだされた右手を、俺は間一髪で避けた。

 

「ワン・フォー・オール……反則じゃね?」

 

 直ぐさま個性を発動し、筋肉を構築する。身体の変化が起きない許容限界ギリギリの2.25倍なんかじゃ無い。

 

「ガードぎりぎり過ぎんだろっ……と!!」

 

 左手一本だけでイズの右フックを防ぐ。

 

「鉄を叩いた感触は無いのに、ダメージが通らない?」

 

 個性のレベルが上がってるのはなにもイズだけじゃない。もちろん俺の〝構築〟もその力を上げている。努力と知識によって。

 皮膚に近いところから弾力性の強い素材に構築していき、骨に近くなればなるほど固い物質に変える。今回の場合、皮下脂肪を低弾性ゴムへ。表層筋を鉄。そして深層筋にはタングステン。

 

「なあイズ、赤筋と白筋ってのは知ってるか?」

 

 通称赤筋と白筋。細かく言うのであれば、遅筋繊維と速筋繊維。持久性に優れた筋肉と瞬発生に優れた筋肉と言うこと。

 

「シッ!!」

 

 軽い気合いと共に蹴り出した右脚は、瞬発性の高い白筋の割合が大きくなるように構築済み。さらに、その量は通常の4倍。

 

 ガラ空き状態になっていたイズの左横腹にもろに入る。殴るのではなく蹴ることにしたのも、足の方が筋力があるから。

 

「な、なんでこんなパワーが……。見た目は変わってないのに」

 

 もう一度言おう。イズがワン・フォー・オールを扱えてきているように、俺も俺で〝構築〟の力を上げている。

 地道な反復練習は、身体的変化を起こしていた筋繊維の増加。その限界量の上昇に成功した。

 

「なんで教えないといけない?」

 

「くっそ!!」

 

 ヤケクソ気味に撃とうとしているワン・ツーパンチを、間を詰めることで撃ちにくくさせる。

 

 この組手は難しい。何も相手がイズだからと言うわけではなく、イズの拳一辺倒ゴリ押し思考の自己犠牲を軽減することが目的だ。

 オールマイトへの憧れをそのままにしているような戦い方。それが悪いこととは言わない。ただ、超パワーとも言える個性において引き出しがないのは難しい。

 

 インファイトに慣れていないのか、拳1個分ほどしかない俺達の間では、イズの拳が一気に数を減らす。

 

「はっ、殴ってこねぇのか?」

 

 そう嘲笑ってみては、イズが拳を振ろうとする前にひざ蹴りを叩き込み、くの字に変えてみせる。

 

「なんで……。ワン・フォー・オールを体全部で使ってるのに……」

 

「攻撃が入らないってか? 簡単なことさ」

 

 腹を押さえて前屈みになっているイズのズボンを掴み、反転。背中を俺の方に向かせ、ソファーに向かって押す。

 

「う、うわぁ!! ったあ!!」

 

 腰掛け部分に足が引っかかり、その勢いのまま背もたれに顔から突っ込む。そして、ソファーごとひっくり返ったタイミングで、俺は人差し指を頭に当てる。

 

「ここが違ぇんだよここが!」

 

 トントンとこめかみを叩くことで少しだけ挑発。こんな初歩的な罠に引っかかってるようじゃ先が思いやられる。

 

 床に両手をつけ、イズがいる場所一帯をソファーごと気にせずモルタル状に変える。足が取られ、コスチュームもドロドロ。搦め手だが、機動力は削れている。

 

「こんなのっ!」

 

 体の前側が灰色で染まってしまったイズは、ソファーを踏み台にして飛び上がり、グラントリノの三次元的動きを真似するかのように、天井へ足を付ける。

 

 逆さになったイズの両腕が俺の首を捕まえた。

 

「痺れろ!!」

 

 首から上が固定され、イズの落下スピードに合わせて体が持って行かれる。目の前にあるのは床。ヤバいとそう思ったときには技を喰らっていた。

 

 全身を駆け巡る電気のような痺れる痛み。機関銃という名を持つ猛る男の必殺技。

 

  っぐぁ!!」

 

 その名もガンスタン。本来であればジャンプをし飛びつくことでその高さを利用し、相手の首や顔をマットへと叩きつける技。

 それを垂直に落下するスピードとワン・フォー・オールの破壊力が加わる。

 

 ドゴンッ!! と床が割れ、破片が宙を舞う。

 

「負けてられないんだ。僕は、九代目ワン・フォー・オール継承者だから!! オールマイトに認めて貰ったから」

 

 バチバチと音が鳴り響き、視界の端がチラチラと緑に輝く。恐らくここで一発強いのを撃ってくる。それは分かっている。だが、ガンスタンのせいで体に力が入らない。

 スピードが速すぎて、床に細工をする以前の問題だった。鼻血も出るわ鼻骨も折れるわ良いことがない。

 

「ワン・フォー・オール〝フルカウル〟全身15パーセント!!」

 

「ほお? 全身に個性を張り巡らすことか……」

 

 フルカウル。意味は確かバイクのエンジンやらを包み込む防御力も上げる空力的な外装のこと。イズの感覚的には、ワン・フォー・オールという外装を身に纏ったと言うこと。

 

「起きないの? 立たないの?」

 

「ははっ……。誰がお手上げ侍だってぇ? このあまあまちゃんちゃん子め」

 

 顔に手を触れ、個性を発動。何時の日か似たようなことをした記憶もあるが、まあ良い。今は過去の記憶を追うことよりも、目の前の奴と戦うことがモスト。

 

「全然痛くも痒くもねぇな。こんなガンスタン」

 

「構築で治しただけだよね? 強がりも行きすぎるとただの虚勢だよ?」

 

「事実しか言わねぇよ。俺は」

 

 白筋の割合を多くした筋繊維を構築する。今度は体のことも気にせずに許容量を超えて、だいたい7.25倍ほどだろうか。見た目はもう筋肉ダルマでしかない。

 

「血狂いのマスキュラーじゃないか。(ヴィラン)にでもなるの?」

 

「そんなもんに興味はねぇが、取り敢えずここで立ちはだかるのが俺の仕事だよ」

 

 俺がここに立っているのは母親のおかげ。母親が預けてくれた〝憑依〟という個性を解除しているから。

 乗り移ることで第二人格となる個性。デメリットは、乗り移った日から数えて丸々10年。3650日を過ぎた日に主人格を乗っ取り、その人の持つもの全てを物にしてしまう。

 

 目的が終わればどうなるのかは分からない。だからこそ、目的のために進むしかない。そしてそれには、緑谷出久という存在が、イズという存在がキーになる。

 

 乗り移る相手に負の感情がなければ、〝憑依〟は発動しない。体育祭の時、俺に対してある劣等感はイズの中にくすぶっている。

 病院に行って個性を診断されたあの日から、高校に入る手前までの緑谷出久は俺が操っていた。元々個性を持っている転和。ワン・フォー・オールも自分よりも扱える。

 自分よりもオールマイトの後継者として適してるのではないか? そんか心の声が聞こえてくる。

 

「お前の一撃をくれよ。逆水平でも、ラリアットでも良いからよ」

 

 真正面からぶち壊す。概念を。思いを。正しき道へ。そして、酷く歪んだままで。

 

「良いんだね? マロ」

 

「何度も言わせんな」

 

 一層唸りを上げるワン・フォー・オール。響く音はけたたましく、光は目を焼くが如く目映い。

 

   TEXAS SMASH!!

 

 気合いのこもった声と共に右腕が迫り、左頬に突き刺さる。だが、

 

「まだできんだろ!!」

 

  ッツ!!」

 

 もちろん素の身体能力で受ければ怪我どころですまないの故に、体の中には構築で色々なことを仕込んでいくが、唯一構築しないところを作った。

 

「あっ、あぁああ!!」

 

 次は左のストレートが右頬に。

 足は既に床と一体化させ、腰から下には、固い金属でもお馴染みの、世界で一番重い物質ことタングステンを使って体の芯がぶれないようにする。

 

「もっと!!」

 

「はっ!」

 

「もっと!!」

 

「やっ!」

 

「もっと、もっと、もっとぉ!!!!」

 

 右、左、右、左と、左右交互にパンチを食らい、胸から上がぐわんぐわんとぶれる中、一発を貰うごとに声を出していく。

 次第にイズの速さは増していき、USJでオールマイトが見せたラッシュのように、腕が何本もあるように錯覚してしまう。

 

「SMASHッ!!!!」

 

 ガツンと腹の底に響くような、城門を突き破る破城槌のような重く鋭い一撃が鳩尾に入る。

 ハァハァと息を切らしたイズの右手は、紫色に鬱血し見るからに重傷だと分かるなりをしていた。

 

「そのパンチが入らない相手がいることを、知っておくんだな」

 

 一体化させていた足を解き、ゆっくりイズの体を捕まえる。

 右脇でイズの頭を抱えて天井へと向け、背中まで確りと支える。そのまま捻りを加えることで勢いを付け、イズの顔を床にたたきつけた。

 

「お前の憧憬は、切り裂けたか?」

 

 イズその後、立ち上がらなかった。




 久しぶりのプロレスネタ

「ここが違ぇんだよここが!」
 金夜叉次代のパートナーとまたコンビを組んだ大泥棒が試合中によく言う台詞。この後にY・T・Rと会場の皆と合唱浸ます。あー会場行きてぇ笑。

「ガンスタン」
 新日本外人タッグと言えばのザ・マシンガン。今は良いのか悪いのか分からないトンガ王国のタマちゃんに受け継がれてます。
 カウンター式や顔から、首からとパターンも多いので見ててあきません。

「もっと、もっと、もっともっともっとぉ!!!!」
 この前謎にラインスタンプを作っちゃった時限爆弾さんの欲求不満アピール。狂気的な言葉ですが、変態的な存在の彼にはぴったりなのかも知れません。
 あと、猫の(ぬいぐるみである)ダリルが何より可愛いです。

「最後の最後でマロが使った技」
 正式名称をブレードランナー。恐らく今、新日のリングで一番嫌われてるであろう男の必殺技。声優と結婚した男の技をあの手この手でひっくり返してこの技をしてきます。
 見た目的に派手さはないけど、やられてみるとスピードあって怖い。勝手なイメージだけど、この技は返されなさすぎて面白くないです。

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