世界一のガンマン   作:つまようじさんだー

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感想をくれた方、お気に入りしてくれた方、評価をつけてくれた方ありがとうございます。
今回時間の描写に自信がなく、非常にわかりづらくなっているかもしれませんがよろしくお願いします。


3話 エピローグ

 目を覚ますとそこは部屋の中だった。窓に目を向けると外は日が落ちており、町の住民たちの騒ぐ声が聞こえる。隣にある机の上の水差し、清潔感のある白いシーツに包まれたベッド、手当された自分の体を見るとどうやら病室のようだった。ビリーは部屋の真ん中から釣り下がる電球を見つめながらドーガーとの戦いを思い出す。決闘とはよく言ったものの、体のいいハンディマッチだった。銃の特性を活かし、相手の攻撃の届かない距離を保ちながら打ち続けばよかったのだ。相手は海賊。もとより最後まで決闘が成立するとは考えていなかった。だが乗っかったのは自分だ。幼いころから心の指針であったビリー・ザ・キッドの名を出されては挑むしかなかった。ビリーの名に懸けて、というやつだ。初手の早撃ちが勝負所、一発で奴の脳天に風穴を空けてやればことは済んだ。だが、鞭に阻まれ何合か撃ち合う羽目になった。そうなるともう懐の秘密道具の一発。これにかけるしかない。案の定大振りになったところで鞭を弾き飛ばし勝負はついた筈だったんだが…。結局のところ奴の方が一枚上手だったそれだけだ。それだけ。それだけなのに…。それからの事は余り思い出せなかった。嘲笑う奴の声、動かなくなっていく体、そして、すぐ傍で大砲でも撃ったかのような爆音。

 コンコンコン、とリズム良くノックする音が聞こえ、意識が切り替わる。ドアを開けて入ってきたのは少し白髪の混ざった頭の白衣を着た男。

 

「もう目覚めたのか!さすがは鍛えているだけあって回復が早い。」

 

 男はこの町で医者をやっている男だった。俺はあれからドーガーがどうなったのかを尋ねるが、水でも飲んだらどうかと勧められ、水差しを手に取る。コップに水を注ぎ、一気に飲み干して一息つくと医者の男は話し始めた。どうやら医者の男は広場に残っていたらしく、俺が負けてからの事を詳細に聞かせてくれた。なんでも噂のビリー・ザ・キッドがあの男だったらしくドーガーを正々堂々と背後から討ち取ったという。それから部下の海賊たちはあっさりと引き下がり、町に平和が戻ったらしい。

 

「そうそう、君宛に手紙を預かっているよ」

 

 手紙を受け取る。内容は短かった。『正義のビリー・ザ・キッドへ 蛇に警戒しなよ 噂のビリー・ザ・キッドより』

 それを読み終えた瞬間、ベットから跳ね起き、部屋から出る。傷はまだふさがっていないようで大分痛むが我慢できない程ではない。医者の男の静止の声も聞かずに廊下を走る。今更探したところで会えるとは思えないし、会ってどうしたいのかも分からない。ただ会わないといけないと思ったのだ。入り口のドアを開け放ち外へと飛び出す。

 すると、もう傷は大丈夫なのかい?と病院の前で煙草を咥えながら右手を挙げるクリスを見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドーガーを撃ち抜いた直後、辺りは静寂に包まれた。住民たちは馬鹿でかい銃声に驚き、海賊たちはそれ以上に船長の胸に空いた大きな穴に驚いていた。だが、次第に船長をやられたことの怒りと騙し討ちされたことへの怒りが爆発しそうになる。そこでクリスが大きく息を吐きながら落ち着いた声で言った。

 

「まだ、やるかい?」

 

 すると、怒りの形相を浮かべていた海賊団だったが、副船長だろうか?渋々と船のある町の反対側へと去っていった。船に戻っていくのを確認したクリスは、懐に手を入れようとし煙草は宿屋にあることを三度思い出したようだった。先ほどとは違い、大きく息を吸い込みため息をつくと一言。

 

「フーッ。煙草が吸いたい。」

 

 この言葉をきっかけに喜びの歓声で溢れた。

 

 

 一旦煙草を取りに宿屋に戻った後、一枚の紙を持ったクリスはビリーが目覚めたら渡してくれと医者に手紙を託し、港の方へと足を向ける。それを見たナギはクリスの元へと走り、袖をつかむ。

 

「おじさん!どこに行くの?」

 

「だから、クリスだって…」

 

「クリスおじさん!」

 

 どうあってもおじさんは変わらないのか。おじさんなのは自覚しているクリスだが、どことなく残念そうな顔をしていた。

 

「僕は目立つのが好きじゃなくてね。もうこの島から出ようと思ってね。」

 

 その言葉に住民たちは再びクリスに注目し、居心地の悪そうなクリス。礼をさせてくれ!いくらでも泊まっていってくれ!と住民たちは口々にクリスを引き留めるが、「礼はいい」と一言だけ告げると歩みを進めようとする。そこでナギが大声で言う。

 

「まだ旅の話してもらってない!」

 

 その言葉にクリスは立ち止まる。

 

「色々お話はしたけどおじさんの旅の話は聞いてないよ!約束したもん!絶対に聞かせてもらうって!」

 

 立ち止まったクリスへ住民たちも続けてお礼を渡そうとする。そして、クリスはハットを深く被り直し、上を向き、両手を挙げる。

 

「分かった、降参だ。礼は受け取ろう。旅の話もしよう。」

 

 海賊を追い払った時よりも大きな歓声が町全体に響き渡る。やれやれとため息をつくクリス。その目はやはり諦めたような目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ…。でも良かった。出航前にもう一度会いたかったんだ。」

 

 手紙を読んでもう出航したものだと思っていたビリーは笑みを浮かべながら口にする。当の本人はバツが悪そうにしている。その様子からやはり手紙だけ渡してさっさと出ていくつもりだったようだ。

 

「まだ傷は痛むみたいだけど、血清が効いたみたいだね。たまたま持っててよかったよ。」

 

 そんな偶然があるのだろうか。だが、理由はなんであれクリスに助けられたビリーは礼を言う。クリスは気にするな、と煙を吐き出す。

 

「ここは騒がしい、ちょっと海岸まであるかないか?」

 

 ビリーが誘うと二人は並んで歩き始めた。

 

 無言の二人が町を抜け、外れのちょっとした森を抜けると港へでる。港と言ってもいくつかの桟橋と小さな舟がいくつか止められただけの簡素なものだ。いつもは気まぐれな偉大なる航路の海だが、今日はゆったりとした波を立て舟を揺らしていた。

 

「本物…だったんだな…」

 

 ビリーは海を眺めながら絞り出すように呟く。自分こそが本物だと周りに豪語していたビリーだが、それも今日まで。話を聞いたところドーガーを倒したのも騙し討ちだし、この男の実力はまったく分からない。それでも何となく確信があったのだ。

 クリスは何も答えない。

 

「思えば初めて見た時から気づくべきだったんだ。今までアンタと同じ格好で、似たような銃を持つ連中は何人か見たことがある。」

 

 その連中も自分こそが本物だと宣伝していたが、その実態は実力の伴わないものだった。そもそもの話、噂通りの馬鹿でかい銃なんて早撃ちには全く向いていないのだから。

 

「そういう連中は俺が初めてアンタに会った時みたいに忠告してやると怒り出す。お前こそ偽物だろう、ってな。それで決闘騒ぎまで発展するんだが、結局まともに銃を抜けなかったり懐から別の銃を出したりで、それはもうお粗末なもんだったよ。」

「けど、アンタは違った。怒る訳でもなく、俺を貶める訳でもない。ただ、ビリー・ザ・キッドの名は重くないと言っただけだ。」

 

 そこまで言うとビリーはクリスの方へ振り向き続ける。

 

「クリスさん。ならなんでアンタは自らビリー・ザ・キッドを名乗らないんだ?」

 

 "ビリー・ザ・キッド"

その名を軽いという者はいないだろう。世界各地におとぎ話や伝説というものは残っている。世界的に有名なものやその地域固有のものもある。ビリー・ザ・キッドの伝説はその前者に当たるものだ。その名を名乗るのだ。それ相応の覚悟は必要となってくる。

 それを重くないと言うのだ。クリスはその伝説を歯牙にもかけない強さを持っているという自負があるのか。そんなビリーの思考を読んだかのようにクリスは答える。

 

「ただ、いい歳したおじさんが"子ども(キッド)"を名乗るのは恥ずかしいじゃないか。それに、確かに重くないとは言ったけども…」

 

 そんなしょうもない理由を語るクリスだが、途中で言いづらそうに止める。意を決したのか煙を吐き出し、その勢いに任せるように続ける。

 

「それでも僕には()()()()。」

 

 クリスからすれば他人が自分をどう呼ぼうが一々訂正するようなことではない。(流石に一度名乗ったのに妙な呼ばれ方するのは気にするようだが)

 だが、自分の意志で名乗るとなると話は別。目立つのが好きではないクリスからすればわざわざ注目を浴びるような真似はしたくない。何より他人の伝説なんぞ背負うような覚悟は持ち合わせていないのだ。

 

「ならなんでそのハット被ってんだよ!」

 

 ビリーからすればそんな覚悟もないような者が勘違いされそうな恰好をしているのは自分を馬鹿にされているように感じたのだ。これには答える気がないのか、クリスは首を横に振る。

 それを見たビリーはコインを取り出すと、クリスへと突きつける。

 

「……。決闘だ…!。オーソドックスに落ちた瞬間、勝負を始める。俺はアンタを殺す気で行くぞ!」

 

 一方的に決闘を持ちかけるとクリスの返答も待たずに距離を取り、向かい合わせになる。クリスはビリーの目を見るが本気のようだ。ドーガーと決闘していた時のような、死ぬ覚悟を終えた者の目。

 

「一応、理由を聞いてもいいかい?」

 

「ビリーの…。ビリー・ザ・キッドの名を賭けるってやつだ。」

 

 それを聞いてようやくクリスも勝負する気になったようで咥えていた煙草を地面に吐き出すと靴で揉み消し、足を少し広げスタンスをとる。ビリーも同じように銃を撃つための体勢をとると考える。

 ドーガーの時とは違う。おそらく一発で勝負が決まる。こちらが狙うは頭ではなく胴体の心臓付近。少しでも打つスピードを上げるためにできるだけ下を狙う。今自分が出せる最高速度をもって銃弾を叩き込む。もしクリスが負けるようなことがあれば噂なんてそんなだ。その時はこれからも自分がビリー・ザ・キッドを名乗り続ける。

 雲が月明かりを遮り辺りが暗くなる。再び月が二人を照らし出すとビリーがコインを指に乗せ腕を突き出す。

 

「行くぞ」

 

 甲高い音をたててコインが弾かれ放物線を描く。そして地面へと落ちた瞬間、

 

"ドゴァーーン!"

 

 鳴った銃声は一発のみ。ビリーの耳に聞き覚えのある爆音が鳴り響く。ビリーの右手には何もなく、ただ人差し指が空を切る。

 対してクリスの手には銃が握られており、銃口からは硝煙が立ち上っている。懐から出した新しい煙草をくわえると同時に、ビリーの後方からホルスターごと吹っ飛ばされた銃の落ちる音がする。

 

「やっぱりクリスさん。アンタが本物のビリー・ザ・キッドだよ。」

 

 ハットを手に取り胸の前へ持ってくる敗者は勝者を称える。

 

「アンタに俺の夢、託させてくれないか?」

 

 煙草に火をつけ煙を吐き出す。そして、ハットの上から頭を掻き、深く被りなおす。今日も煙草が旨い。だが、いつもより重たい味がした。

 

 

 

--数年後--

 

 あれから数年経った。クリスはあの後、銃声を聞きつけた町の住民たちに見送られこの島を去った。たった一日にも満たない出来事だったが、確かにこの町の歴史の刻まれた出来事。

 町の中心の時計塔はちょうど12時を知らせる鐘を鳴らす。すっかりと習慣へと馴染んだ音を聞くと、昼食をとろうかと住人たちの喧騒が心地よく広がり始める。今日も雲一つない快晴だ。

 

「いらっしゃいませー!今日はいつものセットにオマケのデザートにスープもついてきますよー!」

 

 そんな喧騒の中、一際目立っているのは町の入り口の食堂だ。少し大人びたナギの声が店の外まで響き渡っている。相も変わらず大盛況だ。そこへ赤ん坊の泣き声が聞こえる。

 

「お母さーん!()()()が泣いてるよー!」

 

 一つ変わったのはナギに家族が一人増えたことだ。まだまだ赤ん坊だが弟ができたことでナギも多少はお姉さんらしく落ち着き、両親は喜んでいる。名前はもちろんビリー・ザ・キッドのビリーからきている。だが皆考える事は一緒でこの町に新しく生まれた赤ん坊の内、4人がビリーと名付けられている。

 

「いらっしゃいませー!あっ!()()()さん!今日はデザートとスープがつきますよ!」

 

 ナギが数年前のあの時までビリーを名乗っていた男に声をかける。

 

「そりゃいいね。じゃ、いつもので頼むよ。」

 

 元気よくかしこまりましたと注文を通すナギ。クリスが去った後もジョンはこの町に残り続け、時々来る海賊たちを狩る用心棒をしていた。おかげでこの島は今まで以上に平和だった。

 

「あれから丁度五年か…。」

 

 ジョンは一人、思い出しながらつぶやく。自分がビリー・ザ・キッドの名を捨てた日だ。あれからクリスとは会っていないが、時々噂は流れてくる。今やビリー・ザ・キッドと言えばクリスということが広まり、昔のような偽物は見かけなくなったらしい。ジョンがあの日のことを懐かしんでいると時計塔から警報が鳴り響く。すると店の客は一斉にジョンへと視線を送る。

 

「まったく昼時だってのに…。一応非難の準備はしておいてくれよ。」

 

 時計塔の警報は海賊の襲来の合図である。久々の仕事だ。さっさと終わらせてランチにしよう、と銃の中の玉を確認しながら店を出る。

 

 

「久しぶりだな、キッド君よ!船長の恨み、晴らさせてもらうぜ!」

 

 その海賊とは五年前にクリスが追い払った千蛇海賊団だった。船長のドーガーは死んだがまだ解散せずに保っていたようだ。それを聞いたジョンは余裕の笑みを浮かべながらも少し顔を顰め返答する。

 

「俺はもうその名前は捨てたんだよ。それにしても遅かったじゃないか、クリスさんの警告があったからいつかは来ると思ってたが。」

 

「クリス…。忌々しい名前だぜ!あの時から有名になったもんだ。今や世界一のガンマンの名声を手にしたんだからな!だが、奴はこの島にはいない!この五年間、俺たちは強くなった!あの時船長の亡骸から回収した鞭も今や自由自在だ!この島でお前を倒し、新・千蛇海賊団の誕生の日にするのさ!」

 

 あの時の副船長らしい男が効かれてもいない事をペラペラと喋る。どうやらこの日を狙って襲いに来たようだ。それを聞いてなお余裕の表情を崩そうとしないジョンに苛立ったのか、鞭を持った男は声を張り上げる。

 

「再戦だ!あの時と同じようにお互いの攻撃の届く範囲で決闘をするんだ!もちろん構わないよな?」

 

 ある事に気づき驚きの表情を浮かべるジョンだったが、すぐにその顔に笑みを戻す。あの時の再現がしたいのならこちらも同じ手で行こう、自分は気絶していたから言伝に聞いただけだが大丈夫だろう。

 

「その前にアンタの言葉に一つ訂正があるぜ。本物のビリー・ザ・キッドはこの島にいる!」

 

「おいおい、それにはまだ早いしお前のセリフでもないだろうが!」

 

 気にせずジョンは続ける。

 

「アンタが勝手に喋ってくれるから時間稼ぎをするまでもない。ほら、本物はアンタたちの後ろさ!」

 

 千蛇海賊団は誰も振り向こうとしなかった。五年前と同じ手口だ。誰も騙されはしない。激昂する千蛇海賊団。だが、ジョンは銃を手に取ろうともせずに続ける。

 

「俺は嘘はついてないさ。ほら、アンタたちが()()()()()()()()せいで後ろは後ろのまんまだろ?」

 

 "ドゴァーーン!!"

 その言葉と同時に、五年前と同じく銃声とは思えないほどの爆音が鳴り響き、鞭を持った男の胸に大きな風穴を空ける。

 ナギの嬉しそうに名前を呼ぶ声を皮切りに、町の住民から歓声が上がる。

 

「やれやれ、ちょっと寄るだけのつもりだったんだけどね。」

 

 ウエスタンブーツに色あせたジーンズ、少し汚れたシャツの上からベストを羽織りカウボーイハットを被る男は今日も煙草を咥え、銃を撃つ。

 

 

 これは、"ビリー・ザ・キッド"と称された世界一のガンマンの話である。

 




主人公の見た目についてなんですがアイシールド21のキッドみたいな感じをイメージしております。煙草の描写に関しましてはジョジョ第三部のホルホースのイメージです。
とりあえず、原作前はこれで終わりで次回かその次の回辺りで麦わらの一味と遭遇したいと思います。
おそらく時間が空きますがよろしくお願いします。

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