馬の居ない世界で   作:暁椿

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短め

ティアラ候補が訂正前と訂正後でほぼ半々なのでラストのアンケートとります。できればご協力ください


間話4

間話4 不死鳥

 

 グラスワンダーはその背を追いかけ続けた。毎日王冠で出逢ったその背中を一度も捕らえる事なくその背中は消えていった。

 

 サイレンススズカ

 

 生涯忘れぬ名を聞いたのは隠居をして寝ながらタンポポを食べていた日だ。

 

「久しぶりに見たがお前はいつ見ても男前だな」

 

顔だけ上げると懐かしい顔があった。思わず立ち上がり近づいていく。

 

「わかるのか。賢いウマだ」

 

 暖かい手に撫でられる。されるがままになるが長年の疑問に答えてくれるかもしれない。

 

あの背中と共に何処に行っていたのか。

 

 嘶き、その眼をみる。この人間なら分かってくれる気がした。

 

「なんだ?ああ…スズカ、サイレンススズカか?」

 

首を振り、嘶く。私が追った背中は何処に消えたのか。

 

「最期にやりあったのは98年有馬か。懐かしいな。もう10年も前の話だ。グラスワンダー、それでもスズカを覚えていてくれたのか?」

 

覚えている。その背を追い抜く為だけに必死だった。

 

「そうか…そうか。ありがとう」

 

撫でる手が止まる。それは止めなくていい。

 

「おっとすまん。スズカの話だったな。スズカは…あの有馬の後に騎手交代があってな、僕が降りて直ぐに骨折をして…そのままな」

 

悔しそうな顔を見てブルンと鳴く。きっとその表情は誰も望んではいない。

 

「慰めてくれるのかい。お前は優しいな」

 

慰めるかわりにもっと撫でるが良い。寝転がりタンポポも良いがやはり人とのこれが一番良い。

 

グラスワンダーの好きな事が増えた日の話。

 

間話04 渡米するまで幾星霜

 

「あと一年ですか」

 

グラスワンダーは写真立てを見ながらそうボヤいた。彼とシービーさんが道を違えたのが一年前…それから今まで連絡は手紙のみ。確かにメールは嫌だと断ったが電話の一本でもあると思っていたが甘かった。シービーさんを見て気がつくべきだったのだ。

 

あの人は奥手だ。しかも相手の好意を全てLIKEとして捉えている。シービーさんとの仲違い理由も擦り寄せをしてこなかっただけの仲違いだ。事実、シービーさんが実家に帰って撮った写真の中に彼が映っていた。

 

だからこそ今すぐにでも日本に行きたい。

 

 トレーナーとしても一人の男性としてもお慕いしている。二年間もありとあらゆる面で支えられてきたのにある日突然、日本に帰った。置いて行かれた事よりも別れを惜しまれているとすら思われていなかった。

 

それが転機。

 

恩すら感じていたのに相手は此方に何も期待もしていなかった。ウマ娘としても女としてもこれ程までに屈辱的な事はない。

 

胃袋を掴む為に母に料理を習い始めた。

 

再会した時の為に化粧を覚えた。

 

見てもらう為にトレーニングも続けている。

 

あの手でもう一度撫でてもらいたい。

 

グラスワンダーは無くした日々を取り戻す為に日本に行く事を決めたのだ。

 


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