馬の居ない世界で   作:暁椿

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大変お待たせしました。

お知らせ。
IF間話は別作品として投稿します。それに伴いナリタタイシンの話は削除しました。
理由として本篇との温度差で読みにくいとご指摘がありその通りだと思ったからです。



第10話

第10話 顔合わせ

 

「えー、それでは自己紹介でもしてもらおうかな」

 

トレセン学園の割り振られたチーム部屋に僕とウマ娘3人が居る。外は春の暖か陽射しと桜が暖かさを教えてくれている。

 

なのに部屋の温度は氷点下並みに寒い気がしてならない。

 

 隣に座るエアグルーヴは僕の裾を掴み、対面に座るスーパークリークとオグリキャップを冷たい目で見ている。

 

 対面に座っているスーパークリークは笑顔なのに怖い。エアグルーヴとの間に火花が散っていると言われても僕は納得する。

 

 斜め右に座るオグリキャップはお茶菓子に買ってきたお菓子を止まることなく食べている。

 

「オグリキャップ、とりあえず自己紹介が終わるまでは食べるのをやめて。エアグルーヴもスーパークリークも無言のままだと終わらないよ?とりあえずスーパークリークから自己紹介をお願いしていいかな?名前と得意な走り方、距離、夢で」

 

「はい、任せてください。名前はスーパークリークって言います。先行、得意距離は2000以上です。夢は…」

 

スーパークリークがチラッと此方を見る。

 

「トレーナーさんに最低でも3つ。もしくは特別な1つを贈るのが目標です」

 

 3つか特別な1つ?恐らく前者は三冠ウマ娘、後者は…何になるのだろうか。頭に思い浮かんだのは凱旋門だがきっと違うだろう。

 

「次は私だ」

 

手を離しエアグルーヴが立ち上がる。僕の方は見ずに前の二人を見ている。

 

「私はエアグルーヴ。先行1600〜2400が得意だ。夢はプリンセスティアラを手に入れる。その先はトレーナーに全て任せるつもりだ」

 

エアグルーヴは聞いていた通りにプリンセスティアラの道に向かう。スーパークリークがクラシック三冠、エアグルーヴがプリンセスティアラ……

 

「私の番だな」

 

 最後の一枚の煎餅を置いてオグリキャップは立ち上がった。二人には目もくれず僕の方を直視する。

 

「私の名前はオグリキャップ。差しが得意だ。得意距離は…短距離以外は全て走れる」

 

そこで一息置いてオグリは眼を閉じて見開いた。

 

「夢は中央で貴方と勝つ事。貴方が望むレースに勝つ。称号や栄誉に興味はない。ただ貴方と勝ちたい。それだけが私の夢だ」

 

 薄々と感じていたが僕はとんでもない状況にいるのかもしれない。

 

 

 

第10話 先人の知恵

 

時間は少し前に巻き戻る。僕がトレーナー寮を出るとオグリキャップが大きな飴を舐めながら立っていた。

 

「良かった、今日は会えた」

 

嬉しそうに近づいてくるが視線は渦巻きのペロペロキャンディに向く。

 

「うん?ああ、これか。クリークがこれからはお腹いっぱいに食べるとトレーナーの恥になるからとくれたんだ」

 

「飽きたりしないの?」

 

「飽きはするが空腹は紛れる」

 

確かに一昨日に焼肉屋でボテ腹になるまで食べていた…いや待て、なんで昨日の今日で痩せてる?

 

「それより今日は何処かに行くのか?」

 

「トレセン学園にトレーナー室の申請に…あ、オグリ。君に言わないといけないことがある」

 

首を傾けて耳がピコピコと動かすオグリキャップに笑みが溢れる。このウマ娘とはこの距離のこの感覚で付き合っていくのかもしれない。

 

「チームを作る事になる。だから君をスカウトさせて欲しい」

 

手を差し出す。オグリキャップは僕の顔と手を見比べて舐めていた飴の持ち手を変える。

 

「勿論、此方こそよろしく頼む。私は貴方に一つでも多くの勝利を齎そう。だから貴方は…いや、トレーナーは私を信じてくれ」

 

「目の前に居るウマ娘は必ず勝ってくる」

 

そう言って握り締められた手は暖かくオグリキャップの可能性を僕に教えてくれる。

 

「…それはダメだよ。オグリ、勝負の世界に絶対はない。僕が知るワールドクラスのウマ娘達も誰もが敗北をしている。だから必勝を掲げたらダメだ。僕が君に何もしてあげられなくなる。だから君に約束する事は一つだ。全て半分こにしよう。勝利の喜びも敗北の苦しみも全て分かち合う。それでは駄目かな?」

 

 少し目を見開いたオグリキャップはクスッと笑って手を引いて僕を抱き寄せた。

 

「え?」

 

「聞こえるかトレーナー。貴方の言葉に胸の高鳴りが止まらない。ああ、約束しよう。全てを分かち合う。それも悪くない。いやそれが良い」

 

「貴方は今日から私の半身だ」

 





湿度が高いの意味を昨日知りました。
この作品のウマ娘の8割は高いかもしれません

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