馬の居ない世界で   作:暁椿

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プリティーでダービーな世界なので下衆や悪意に満ちた存在はいません。
そもそも原作が優しい世界なのでそれ準拠です

謝罪案件があります。
ミスターシービーがオリキャラとなっております。実装され次第それに近い形に寄せるつもりです。申し訳ございませんがご了承ください


第13話

 

第13話 望んだ場所は

 

 寒さが和らぎ肌寒い位になった昼下がりに鳴るはずのない電話が鳴った。着信名を見ると国際電話で見覚えのある電話番号から掛かってきている。

 

「…夢かな」

 

師匠に何かあったのかそれとも私に用事があるのか。話すか話さないかで迷うが声が聞きたかったので電話に応じる。

 

「もしもし」

 

我ながら素っ気ない対応だ。もう少し可愛らしげに言えたらと何度思った事か。

 

「元気よ。そっちも元気そうね。」

 

違う、本当に話したい事はそんなことではない。

 

「今日はどうしたの?」

 

話の内容に倒れ込んでいたベッドを握る。

 

「それで私とまた…え、ちょっと待って、私以外にコーチをしてる?トレセン学園でトレーナー?そんな事をするなら私の所に帰ってきなよ!」

 

この幼馴染は本当に昔からそうだ。少し余所見をしているだけでフラフラと何処かに行く。

 

「当たり前じゃない!12年も一緒に居て君以外に誰が私のことを支えるの?」

 

 それでも私は知っていた。言い出した事は曲げない、トレーナーをすると言った以上はきっと帰ってはこない。

 

「ふん…いいよ。その代わり必ず正月は一人で師匠の家に行く事。絶対に新しいウマ娘を連れてきたら許さないから」

 

二つ返事で返ってくるが本当にわかっているのか怪しい。

 

「あと…それと、また電話してきなさい。必ずよ。時差とか気にしなくていいから。私から?そっちがするの。いいね、それじゃあおやすみ」

 

通話を切り再度ベッドに倒れ込む。つい三ヶ月前に会ったばかりなのに恋しくなる。そもそも考えただけでおかしいのだ。私よりも私の身体に詳しくてマッサージまで許してたのに男女のソレにならない。不能なのかと思ったが反応を見る限りそうではなさそうだった。

 

「あー…トレセン学園って事はルナが…ルナ?デビューって言ってたから違うわよね…?」

 

思い浮かぶのはあのタラシがルナと並んで歩いている姿。

 

「釘を刺しとこう…いえ、違うわ。これは警告よ、警告。親友を毒牙から守る為のものなんだから」

 

時計の針が14時を目指し動く中で私は親友に電話を掛けた。

 

余談になるが次の日にグラスワンダーとアグネスタキオンがニヤニヤしながらお茶をしていた。あの二人、仲が悪いと思ってたけど違ったのかしら?

 

 

第13話 大事な事

 

「新人の君が三人も有力なウマ娘のトレーナーなんて荷が重いだろう」

 

雑誌に載っているのを見た事のあるトレーナーがそんな切り口で僕に話しかけてきた。

 

「三人をスカウトしたいのなら三人に言ってください。僕が彼女達の担当を望んで外れる事はないです」

 

この二週間の間で何度かしたやりとりに業務的な返事をする。頬を引き攣らせるのは良いが僕に何を求めてるのだ。

 

「し、失礼だな君は。私が誰か分かっていってるのかね」

 

「お言葉をそのままお返しします。お前が無能だから代わりにトレーナーになってやると言われて担当を譲るトレーナーはトレセン学園に居ません」

 

サングラスをしているので表情はわからないが口元は引き攣っている。

 

「あの三人は間違いなく優駿に選ばれる三人だ。私なら彼女達を100%の形で世に送り出せる!新人の君にそれができるとは到底思えない」

 

「もう一度だけ言いますがトレーナーが選ぶのではなくウマ娘達がトレーナーを選ぶのです。私は彼女達が望む限りは彼女達のトレーナーです」

 

グラウンドの隅で話をしているが徐々に野次馬が増えてきている。ああ、これはいけない。

 

「そんな綺麗事で彼女達の未来を潰すつもりか!G1も獲得した事のない新米があまり調子に」

 

 激昂するトレーナーを背後から凄い勢いで誰かが走ってきている。あー…僕は知らないぞ。

 

「聞いているのか!」

 

「あらあら、トレーナーさんどうかしましたかぁ?」

 

悪鬼が立っていた。笑顔とはそもそも暴力的な象徴なのだとよくわかる。

 

「だめだよ、クリーク。この人にもこの人を慕うウマ娘が居るんだ。それ以上は駄目だ」

 

クリークを諌める。トレーナーのいざこざが春先までしか起きないのはこれが根底にある。

 

ウマ娘同士の争いになった場合、それは人が止める事ができない。1vs1の為の体術はトレーナーの義務として会得しているがクリーク達ウマ娘が本気になった場合、トレーナーは無力だ。

 

「わ、私は君達の将来を」

 

「何度もお話をしたはずですが私のトレーナーさんはトレーナーさんだけなんです。それを変えるつもりはありません。それに今のは越権行為ですよね?みなさーん、そうですよね?」

 

野次馬をしていたトレーナーやウマ娘は頷く事しかできない。クリークの右足だけが2センチ程地面に食い込んでいる。

 

 

つまりクリークは怒っている。

 

「他の皆さんもこう言ってますので今日の所は…あ、違いましたー。二度と関わろうとしないでください」

 

クリークのその言葉でベテラントレーナーは反対方向に去っていく。

 

「皆さんもありがとうございました。私のトレーナーさんに協力していただいて。感謝してます」

 

そう言って頭を下げるクリークに周りの人達は同意の意を口にする。

 

「ありがとうクリーク。トレーナー室に行こうか」

 

「はい!今日もトレーニングよろしくお願いします!」

 

 僕はクリークの手を引いてその場を去った。

 

 

「やりすぎ」

 

廊下を歩き始めて僕はクリークを諌める事にした。あれは思考の誘導だ。肯定したトレーナー達が僕にちょっかいをかけない為にクリークはわざと頭を下げた。

 

「そんな事ないです。私たちのせいでトレーナーさんに迷惑をかけているのに…」

 

垂れる耳と尻尾。目線を下げるクリーク。

 

「彼等も真剣なんだ。優秀なウマ娘を導きたい。それが自分の栄誉の為かウマ娘の為かは人によるけど根底は善人だよ。僕が悪目立ちしてるのがいけないんだ」

 

僕が逆の立場なら不安視はする。若き才能が潰れる可能性があるのは避けたい。声を掛けずとも常に把握はしているかもしれない。

 

「それにあと一年、君達がデビューしたらそんな評判は消える。ずっと言ってるけど君達は常に昨日の自分を超えている。これは凄い事なんだ」

 

クリークの足が止まる。言いたいことがあるのか目線を彷徨わせ、ぎゅっと目を瞑った後に僕を見た。

 

「その事なんですがみんなと話し合って今週末にデビューしようと思ってるんです」

 

「え?」

 

思わず聞き返したその問題はつい先程、理事長室でも頼まれたものだ。時間の猶予はある。一年あればクリーク達は同期最強クラスにまでなれる。

 

だから僕は二時間もの議論の末に理事長に土下座までして待ってもらった。何よりも彼女達に約束したのだ。一年後にデビューして君達の夢を叶えると。

 

なのに今、クリークは何と言った?

 

「僕の事は考えなくて良い。そんなバ鹿みたいな「バ鹿じゃありません!真剣です」

 

鋭い目つきでクリークは僕を見る。

 

「私達のせいでトレーナーさんが嫌がらせを受けているのは把握しています。私達は誰一人それに対して納得していません。何よりも約束したはずです」

 

「私達は全てを半分こにすると」

 

涙を溜めるクリークを見て察した。ああ、僕が彼女達に気を使わせてしまったのだ。

 

「ごめんね、クリーク」

 

 僕はそう言ってクリークの手を引いてトレーナー室に向かうために歩き始めた。その間に僕達に会話はなかった。




誤字脱字のご指摘いつも感謝しています。

コメントにもいつも描く意欲をもらっています。本当にありがとうございます。

コメ返信は近いうちにまとめする予定です

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