「トレーナー候補生?」
人参を満足するまで食べ、デザートのアイスを待っている時に彼に何故都会に来たのかを聞いた。
「そう。トレーナーになる為の知識はあるけど実戦の経験やウマ娘との交流ができるかがわからないから実習の為に田舎から出てきたんだ」
少し誇らしげな彼を見て微笑ましく思う。彼もまた私と同じ田舎から夢を追いかけてきた。共通点がある事が嬉しい。
「学園に対して推薦状があるけど…」
「誰から推薦状をもらった?」
「それは…その言えない」
困った顔をする彼に疑問が浮かぶ。何故、言えない?推薦状ならば胸を張ればいい。その人は貴方に期待してるのだ。
「胸を張れ。その推薦状が後ろめたいのかもしれないがそれを書いた人はお前を誇りと思ってそれを書いた。ならそれに応えるのが役目だろ」
「あう…誰にも言うなよ。本当に誰にも言うなよ」
「約束しよう」
彼の手招きに応じて顔を近づける。
「*******」
目が点になる。彼は今なんと言った?
「ほらそうなる。だから言いたくなかったんだ」
不貞腐れた彼を見て慌てて取り繕う。
「違う、違う!あまりにもその想像の上のウマ娘で反応に困った」
それと同時に確信した。私の勘は間違ってはいない。あのウマ娘に認められた男を見定めたのだ。
「僕はあの人が言ってるような」
「自信を持て」
貴方も私が抱えた事を悩んでいる。
「弱音を吐くなとは言わない。ただ期待した者達に真っ向から言えないならそれは口にするべきではない」
「っ…」
「私もそうだ。片田舎の期待を一身に受けてこちらに来た。それに応えられているのか今もわからない。ただ何もない私達が唯一持ってこれたモノがソレだ。ソレを棄ててしまったら私達は孤独になってしまう」
誰にも言ったことのない胸の内を吐露する。私と貴方が被る。一年前の私が今の貴方だ。
「孤独か…そのお腹が出てない状態なら胸に響いたんだけどな」
貴方は誤魔化すように下を向いてアイスを食べる。耳が真っ赤なのは言ってはいけない…マルゼンスキーならきっとそうする。
「ありがとう、オグリ。少しだけ楽になった」
ぶっきらぼうなその言葉に微笑む。本当に今日は運が良い。
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初見の感想は変なウマ娘だった。駅を降りて3秒で焼肉に誘われ、ソレについていく僕も変なトレーナー候補なのかもしれない。
ただ彼女の後ろ姿に懐かしさを感じた。既視感とも言えるソレを僕は何回か経験してる。そしてその既視感は外れた事はない。
特定のウマ娘に好かれる体質。
本当に特定のウマ娘に好かれる。甘えられる。そして甘やかされる。気を抜いたら立ち直れないくらいに甘やかされそうになったから此方に出てきた。
「坊、ウマ娘は一人じゃあ走れないんよ。だから坊が助けておやり」
僕を送り出してくれたトオ叔母さんが過ぎる。
「自信を持て」
僕と目を合わせて彼女はハッキリとそう言ってくれた。その言葉が僕の中に染みて少しだけ心が軽くなる。
トオ叔母さん、都会でも頑張って行ける気がしてきたよ。
帰り道
「ねえ、オグリ」
「うん?」
「もしさ、僕が一人前のトレーナーになったら僕のチームに来てくれる?」
「……」
「じ、じょう「入団する。そして誰よりも勝って貴方の一番を目指そう」
「え、本当?」
「約束する。チームを結成した時に一番最初に駆けつけるのはこの私、オグリキャップだ」
これが後の夢の11Rを担うチームスタリオンの始まりの1ページ