馬の居ない世界で   作:暁椿

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間話

間話 あったかもしれない話

 

「明日で僕と君も引退らしい」

 

そう言って俺を撫でるそいつは穏やかな笑みを浮かべている。星すら見えない夜に珍しい客人だ。いつも見ていたその背とは裏腹に安心感がある。

 

「騎手を終えたら何をしようかと考えるが何も思いつかない。それよりも明日で終わる事が何より恐いよ」

 

恐いか。俺からすれば走っている時にお前が居ることが何より怖かった。どいつもこいつも普段はのほほんとしているのにお前のせいでどれだけ怒気に当てられたか。

 

「君に不満があるわけじゃない。寧ろ最期が君で良かったとすら思える。あいつには悪い事をしたが最後くらいはがむしゃらに勝ちを取りに行きたいのさ」

 

 その眼と手から伝わる熱。ああこれがあいつらが背負った物なのか。

 

「流星の最後の輝きは黄金の旅路と共に終わる……君にお願いしたい事がある。最期の直線だ。僕がそこまで君を連れて行こう」

 

真っ直ぐと俺を見つめる瞳からは熱さがだけが伝わってくる。

 

「そこから先は君が決めてくれ」

 

いつもなら無視する雑音がその時だけ何より響いた。

 

景色が変わる。

 

 目の前には一本の道がある。俺の為に用意された直線。

 

何時も視えていた黄金の道

 

どれだけの奴がこの道を見ているのかは知らない。だがこの時、この瞬間だけは俺達しか視えていない。

 

駆けた。背中から感じる熱量に押されて初めて駆ける。

 

馳けた。その道を塞ごうとする邪魔者を抜かして馳けた。

 

駆けた、馳けた、翔けた。最初で最後の本気。

 

それをただ1人の人間と共有した。

 

この黄金の旅路が手向け。最速でも覇道でも王道でもないこの旅路。

 

「終わったんだな」

 

背中に乗せた旅人の終わりを告げる路。

 

これから会う奴らに全てに言ってやろう。

 

「それでも最後に乗せたのは俺だ」

 

間話 あったかもしれないしなかったかもしれない

 

「私と焼肉に行かないか?」

 

オグリキャップが星に手を伸ばした。

 

「貴方のお名前を教えてくれませんか?」

 

スーパークリークはまた袖を掴んだ。

 

「待ってほしい」

 

エアグルーヴはかつての宿敵を選ぶ。

 

「うちのトレーナーはあんたや」

 

タマモクロスは夢をやりなおす。

 

「あのね、僕がその夢を叶えてあげる」

 

トウカイテイオーは伝説の一歩を共に歩む。

 

「君は本当に頭が硬いなぁ」

 

アグネスタキオンは神話から現実へ

 

「それでも私が勝ちます」

 

グラスワンダーは未だ見ぬ背を追い

 

「でも最後に全員抜けば勝ちだよ?」

 

ミスターシービーは敗北を求めた

 

 

 

 

「僕はね、君達ウマ娘がどうしようもなく羨ましくてどうしようもなく嫌いなんだ」

 

ターフに立てない男は胸に秘めた熱を誰かに語った。

 

これはそんな夢を翔けるウマ娘と夢を叶えられない男のどうしようもなくただ甘い恋愛のお話。

 

「第一回修羅場ヤバヤバレース(目指せ愛バ!)温泉旅行争奪戦!開催のファンファーレです!」

 

目を離せば流血沙汰になるかもしれないバイオレンスなお話でもある




生きてます。コロナ3回なってなおどうにか生きています。

決して皐月以降の話が書きたくて仕方がないのに夏休み明けの話が書けなくてわちゃわちゃしてた訳ではありません。

あとガチガチのシリアスに寄ると書けなくなるかもしれないのでここではっきり恋愛物にして改めてご都合主義な事をお知らせします。

GU到達して玉座に貯めた石を注ぎ込んで良かったと思ったらゴルシ引けなくて泣きました。


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