第17話 新学期
夏休みが終わりを告げて徐々に学園の空気が引き締まっていくのを感じていた。
「秋のG1戦線か…」
ジュニアは2歳王者、クラシックは残された1冠、シニアはそれぞれの頂を目指して練習に励んでいる。
だがそれは同時に諦めの季節でもあった。
努力すれば勝てるほどレースは甘くない。努力をしなければ勝てないが努力が必ず報われるはずもない。
だからこそこの季節は退学者やコース変更をするウマ娘が出やすい。その際に二人三脚でやってきたトレーナーは何を思うのだろうか。
己の無能さを嘆くのだろうか。はたまた諦めたウマ娘に失望するのだろうか。
己はどうなのだろう?
そんな答えも出ない問答を考えながら先程、駿川さんから渡された資料に目を落とす。
そこには来年の入学予定者のリストと海外からの留学生達の名前が書いてあった。
グラスワンダー
アグネスタキオン
見慣れた2人の名前を見つけて僕はまた外を見て現実から目を背ける。
「何で今更日本なんだ」
そんな疑問と来年度からの安寧は無いのだと苦笑いした。
第17話 残暑
実戦でしか得られない経験もあるがそれは同じステージ以上の相手が居る時に成立する。弱者に必ず勝つ為の方法など教える暇はない。
だからこそ、それを押しつけられると気分が悪くなる。
何よりも、僕のウマ娘達が温い練習で夢を語るウマ娘に負ける理由などない。極限まで身体を絞るあの娘達の努力も理解せずに主観だけで話をされても困る。
「お断りします。繰り返しますが次のレースはG1予定です」
青筋まで立てて口をパクパクさせる相手に背を向けて歩き始める。
「私はお前に言ってるんじゃない!オグリキャップの…いや、未来あるウマ娘がお前程度のトレーナーに潰される事が気に入らない!」
歩みを止めない。
「そもそも夏合宿にも参加をしないトレーナーがトレーナーを名乗る事が「自己満足のご高説を喋る前に貴方は自分のウマ娘を気にした方が良い。フォーム改善を夏にして適正距離は延びたがその代わりに右足首に過度な負担を掛けるフォームになってるのには勿論お気づきですよね?菊花賞に出る為に無理をした結果でマイラーとしての才能を失わせた貴方の方が僕からしたらトレーナーとは思えない」
夏に仮想敵になり得るウマ娘は全て調べた。触れていないがある程度の事はわかる。
「な、何を」
「やっぱり分かってたんですか。分かっててお前は1人のウマ娘の才能に蓋をしたんだな」
その過程で見たくもないモノを多く見た。その内の1人がこいつだ。
「G1トレーナーが聞いて呆れますね。今年のクラシックは優秀なステイヤーが居ないからもしかしたら届くかもしれないと囁いたのか?何故秋華賞にしなかった?寧ろ、マイルCを目標にしてそのステップレースでそれこそシニア勢と競わせるべきだった」
「ぶ、侮辱するつもりか!」
事実だ。事実だからこそこの役目を果たさないといけない。
「後ろ見たほうがいいですよ?」
「はっ?」
そう言って振り返ると1人のウマ娘と目が合った。その表情はいつか見たモノと重なる。
「なぜ、いや違う違うぞ!私は君にとっての最善を…」
紡がれる言葉が築いてきた関係を解いていく。ウマ娘の方は見たこともないトレーナーの姿が何が真実なのかを嫌でも理解した。
「信じてたのに…」
響いた言葉は歪な足音に掻き消された。
「き、貴様のせいだぞ!」
激昂した男は僕の胸ぐらを掴み持ち上げる。フィジカルだけは一流らしい。動揺を隠せず、底の見えた相手を冷ややかや目で見る。
「俺が、俺が正しい!あいつらが望んだことだぞ!G1で勝ちたいって!だから俺が…「そこで何をしている!」
生徒会長の声がする。だが一層強く締まる首が僕の意識を朦朧もさせる。
「下郎が!」
聞いたことのない怒声と身体が浮いたような感覚の中で僕は眠る事になった。
この二次創作はシリアス路線ではありません。
トレーナーを巡って恋愛強者のウマ娘達のハートフルラブコメ予定です。
なのでウマ娘が出ない所は重いのかもしれません。
札幌記念3連単を4000円分買ったと思ってたらそもそも馬券を買えてなくて泣いた作者でした。