4話と5話にて別々のアンケートをとっています。ご協力お願いします
第5話 引力に引かれて
「歓迎!噂はトウショウボーイから聞いている!ミスターシービーの元トレーナー!」
開口一番、秋川やよい理事長はとんでもないことを口にした。紅茶を出そうとしていた駿川さんも思わず硬直してしまう。
「あの、それは…」
「無用!この事実は私しか知らない!」
現在進行形で駿川さんが知ってしまったんですが。駿川さんと目が合うがお互い苦笑いを浮かべるしかない。
「ふぅ…勘違いしないでください。シービー…ミスターシービーはトウショウボーイの英才教育の元に育った幼馴染です。僕はあくまでサブトレーナーとして手伝いをしていただけです」
「否定!クラシック三冠、春シニア三冠の後に彼女はUSAに飛んだ。其処にはトウショウボーイは居ない。代わりに留学した貴殿がいた!」
「それは…」
「依頼!天馬や鬼脚とはもう話がついている!貴殿にはしがらみなく学園に埋まっている原石を磨いてほしい!」
扇子の文字を毎回変え、学園長は頭を下げる。シービーの事を隠していた訳じゃない。ただ僕はシービーにとってただの装置に過ぎなかった。立っているだけでいい。そこで指示を出して最大値を示すだけの装置。トレーナーではなく人参だっただけ。
「僕はトレーナーになる為にここにきました。ただそれは第二のシービーを求めてではありません。諦めないウマ娘に手を差し伸べる為に此処に来たんです」
「肯定!なら依頼をうけてくれるか?」
「…経歴を隠して僕は僕をトレーナーに選んで共に歩けるウマ娘が現れたら全力を尽くします」
決意と書かれた面で口元を隠した学園長は駿川さんをチラ見した。
「快諾!若きトレーナー、いや世界を取ったウマ娘を知る貴殿に大いに期待する!話は以上だ!」
出された紅茶を飲む前に僕は学園長室を出る事になった。
第5話 校内探索
「本来なら私が案内するのですが学園長の会食の付き添いの為にできません。申し訳ありませんがこの地図を元に学園を見学してください」
駿川さんからそう言われて手渡されたのは保護者用の学園の見取り図だった。正直、駿川さんと歩いていると目立つのでありがたい。
とりあえずトラックと練習場を見て回るか。
そう思いながら階段を降りていくと休み時間なのかウマ娘達とすれ違う。彼女達からしてみれば誰かのトレーナーが学園を歩いているだけで一瞥してすぐ興味が薄れる。
それに安心した。自信過剰なのかオグリ、ゴールドシップ、スーパークリークと都会のウマ娘はどれも濃いわけではなかった。
「それもそうだよな」
そんな事を思いうかべながら下を見ると上がってくるウマ娘と目があった。
皇帝シンボリルドルフ
確か生徒会長を兼任していたはずだ。いつか会うと思っていたが今日出会うとは思っていなかった。シービーとも日本最後のレースでやり合い勝ったウマ娘。あの時よりも鍛錬しているのか凄みが増している。
ぶつからないように少しずれて降りようとして気がついた。
皇帝は立ち止まっていた。目を見開いて此方を見ている。いけない、どうやら彼女は知っているらしい。反転して別の所から行こう。
「待ってほしい。何故、何故貴方が此処にいる」
流石、日本最強と名高いウマ娘。10段はあった差を一瞬で詰められた。
「何故ってそれは……何故だと思う?」
少しだけ意地悪をしたくなった。シービーの最後のレースを掠めとった彼女に少しだけ意地悪をしたくなった。
「質問を質問で返さないでほしい。私は「初対面の人間に質問をするのも良くない。僕は君を知らない。そうだろう?」
「…っ!ご無礼…私はシンボリルドルフ。トレセン学園所属、生徒会長をさせてもらっている」
差し出された手を握る。握った瞬間に悪い癖が出た。
「体調が良くないのか。いや違う、疲労抜きができていない。だから身体が重く感じる」
ああ止まらない。このウマ娘は此処で止めないと走れなくなる。
「一体何を「朝と夜にストレッチ、寝る一時間前にサウナを2セット入って寝るといい。トレーニングの変更よりもレース連戦による疲労だ。安心していい、二週間も続ければマシになって6月には元に戻る」
手を離して理解が追いつかない彼女の背中をバシっと叩いた。
「皇帝の前に君は君の身体を大事にするといい」
階段を二段飛ばしで降りていく。後ろでまだシンボリルドルフの声がするがそれを無視して僕はトラックに向かった。