JKな私と触手なアナタは異世界で親友   作:黒猫鈎尻尾

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六話、触手の姿と触手の速度は比例しない。

 ローちゃんを前にうんうんと唸りを上げる。

 別に力を込めて花を摘んでいるわけではない。

 

 開き直ったと言ってもそこまで人の尊厳は忘れちゃいない。

 

 まぁ、また帰ってきたら何故かローちゃんが花を触手で握っていて、可愛すぎるから思わず抱きしめたが、どうでもいいのだ。

 次からはトイレと言おう……。

 

 問題は今は全てローちゃん任せしていることだ。

 私になんの力もない以上は、ローちゃんに何かと頼ることになる。

 

 その為には、ローちゃんが何を出来て、何が出来ないかを知っておくことが必須なのだ。

 とりあえずは形状を探る。

 今までローちゃんを見ていて、一つわかった事がある。

 

 基本円筒状で側面と頭の端から触手が生えていて、前もウシロも無い様に見えるが、なんと、ローちゃんにはきちんと前と後ろがあるのだ。

 

 とはいえ、ほんの些細な差で、触手が多く生えているのが後ろで、前は少しだけ触手の本数が少ない。

 私が呼ぶと必ず向きを変えるから、おかしいなっと思っていたのだが、きちんとあったのだ。

 

 一番すごい発見は、なんとなんと! ローちゃんは地面を歩いたり、這いずったりしている訳ではなかった。 

 花が折れたり音がしないなあっと不思議に思っていたのだが、地面付近の肉を持ち上げると、ヒダのスカートみたいになっており、反対側のヒダの内側が見えた。

 つまり、浮いて移動している!

 なんとファンタジーなのかと思ったが、魔法を使っているのだから今更であった。 

 

 それと体のどこを探しても目や鼻や口といった穴は見当たらない。

 もしかしたらイソギンチャクの様に上にあるのかもしれない。

 

「ローちゃんローちゃん。ちょっと私を上に持ち上げてくれない?」

 

 ローちゃんの上を見ようとすると、持ち上げて貰わない事には見ることはできない。

 私は女の中でも高い方で百七十センチ近くあるのだが、ローちゃんはそれよりも遥かに高くニメートル以上もあるのだ。

 

 ローちゃんは私に言われるままに、脇の下から触手を巻き付けて、ぐいっと持ち上げた。

 

「お、おおおおっ。たかぁーい!」

 

 触手の長さも含めると三メートル以上まで宙に浮かぶが、不安感はまったくなかった。

 私は喜びの声を上げて、景色を楽しむのもそこそこにローちゃんの頭頂部を覗き込むと、そこは中央がカルデラの様に窪んでいるが、つやつやぷにぷに気持ちよさそうなピンク色の体が見えた。 

 

 そこにもやはり、口は疎か目や耳といった感覚器官は見受けられない。

 

「ローちゃんの頭はキレイだね。ピカピカしててすごく綺麗だよ」

 

 私はローちゃんの前と思われる辺りに対して、褒め言葉を言うと、触手が動いて綺麗な頭頂部へとそっと降ろしてくれた。

 

 ええぇ、いいのかな? 失礼じゃないのかな。いいよね。乗せてくれたのローちゃんだもんね?

 

 自分にそう言い聞かせて、不思議な感触を足裏に伝えてくる本体へと這いつくばり触ってみる。

 

 なんといえばいいのか。低反発マットとビーズクッションを足したような?

 ふにふにして柔らかく軽く力を入れるだけで、深く沈み込むのに、押し返してくるしっかりとした弾力があり、とても気持ちがいい。

 

 これは……。私はいそいそと運動靴と靴下を脱いで素足になった。

 うつ伏せに這いつくばった状態から仰向けにお尻を、ローちゃんの頭に乗せて三角座りをすると、足の裏に何とも言えない快感をもたらす。

 手触りは子猫の肉球の様にすべすべふにふになのに、適度に沈み込む弾力性と優しい暖かさが体を蕩かせる天国だ。

 

 そのままに横になると足を抱えて、赤ん坊の様に丸まり、ローちゃんの感触を全身で味わう。

 

「ふ……ふぉおぉぉぉ……」

 

 変な声が口から漏れ出した。

 やばっ! これはやばい!

 これは駄目だ。駄目なヤツだ。言うなれば堕落と快楽のクッションだ。

 

 こんなものが現実にあったとしたら、恐らく人は学校も仕事も辞めて引き籠もる。つか、既にこのまま引き篭もりたいと強く思うもん。

 

「ご……ごめん。ローちゃん。下に降ろしてくれない? 私駄目になる……」

 

 私は理性を最大限に働かせて、ローちゃんにお願いというか懇願する。

 ローちゃんは私の言葉に触手を伸ばしてきて、さっきと同じように、体に巻きつけて持ち上げ……あれ? 

 

 上半身が持ち上げられはした。今の体制はさっきの三角座りの様な形になると、足を置いてある部分が凹み、それはまるでソファーの様な形と座り方になる。

 

「すごいっ! んだけども、違うよ? ローちゃん。私は降ろして欲しいんだよ?」

 

 たが、触手は巻き付けられたままで持ち上がる気配は無く。むしろ、その場に固定をするようにがっちりと優しくホールドする。

 

 そして、ローちゃんはその状態で動き出した。

 

「わわっ! ローちゃん!?」

 

 足裏とお尻の下から伝わる程よい振動と、頬を撫でる風が気持ちいい。

 速度は私が歩くより少しだけ速いぐらいだろうか。

 

 湖の畔を走る頭に女の子を乗せる触手なローちゃんは、もしも、人が見たらどう見えるのだろうか。

 ふとそんなことを思って、内心で可笑しく感じる。

 

「気にしないって決めてたもんね。よっし、ローちゃん、行っけぇー!」

 

 周りからどう見えるとか、駄目になっちゃいけないとかいうつまらない気持ちが風と一緒に飛ばされていく。

 

 ローちゃんは私の言葉に、グンと加速し始めた。

 

「あははははっ! あはははっ。あはは……は……は……えっ? ちょ、速くない?」

 

 私の笑い声に触発されたというか調子に乗ったのか。速度がどんどん速くなってゆく。

 走る速度位から私が辿り着けないレベルの速度へ。更にその先に……

 

「ストップ。スタァァァプ! ローちゃん速い速いぃぃ!」

 

 

 触手が支えてくれているのと、いつの間にか足を包み込むように、ピンク色の肉が袋はぎまで包んでくれていた。

 だから、落ちることはないとはいえ、落ちないということと、怖いって感覚は別だ。

 言うなればジェットコースターは安全と解ってても怖いのと同じである。

 

「きゃぁあぁぁ……止めてっ! 止めてぇぇぇー!」

 

 それから数時間にも感じた数分は終わりを告げて、ローちゃんの前で腰に手を当てて、叱る羽目になったのは私悪くない! よね? 

 

 

 

 

 今、眼の前には、私の腰程度までに小さくなったローちゃんがいる。触手は全て元気なく花の絨毯の上に投げ出されている。

 

 いや、驚きましたよ。だって、怒ってる事を表現するために『正座ぁ』っていったら、小さくなったんだもん。

 これでもう一つはっきりした。ローちゃんが大きさを変えられる事ではない。

 

 ローちゃんは私の言葉を理解している訳じゃない。

 正確には私の思考をイメージしたものを、テレパシーのようなもので受け取っているっぽい。

 

 そうじゃないと“正座”なんて、日本固有のものを、人間ではないローちゃんが知っているとは思えないからだ。

 それなのに私が叱られたときに正座させられる=小さくなるをここまで正確に受け取れる訳がない。

 

 言葉の代わりに心を受け取る。理想の伝達方法ではあるのだが、悪意も即座に受け取るという事でもあると考えると、迂闊な事は出来ないなと思う。

 角犬の事に思い至った時に過剰に攻撃したのももしかしたら……いや、間違いなく私の怒りに感化されたと見るべきだ。

 逆をいえば自分でも何を考えているかわからないパニックの時は意思が伝わらないという事だ。今回の暴走爆走事件がこれになるんだろうな。

 

「まぁ、私がしっかりしてればいいだけの話なんだけどなぁ。落ち着きないってよく言われるし」

 

 ローちゃんがのそりと動く。多分、私が怒っていないという気持ちを受け取ったのだろう。

 

「ローちゃんは本当にすごいねえ。でも、辛くなければその大きさでいてね。可愛いからね」

 

 そう言って、ローちゃんの手頃サイズになった体を抱きしてる。

 前は一抱え以上あったせいで、抱き着いても抱きつくというより、張り付くイメージの方が強かったから、このサイズ感が丁度いい。

 

 毛のない生き物の暖かさいうか。さっき上に乗って感じていた気持ちよさが、腕の中にある幸福感というか。

 

「おっと、また脇道脱線しそうだったよ。次は魔法の事を教えてくださいなっと」

 

 検証の続きをする為に、ローちゃんから離れると地面に座り込んだ。

 

 さぁ、次はお待ちかねの魔法の実験だ。

 これが解明できれば、私も魔法が使えるようになるかもしれない。

 そうすれば、ローちゃんにおんぶにだっこ生活から脱出できるのだ!

 

 


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