モンスターハンター「俺が主人公だ!」(処女作、凍結) 作:狩る雄
この作品はここまでのつもりですが、催促されたらどうなることやら。
嵐の中だ。
俺たちは霊峰一歩手前まで来た。準備を始めようとしたが、ベースキャンプはなかった。
雨、風、雷の音しか聞こえなかったのだが、ようやくゴロウの声が聞こえた。
「支給品どころか、アイテムボックスがないのかよ。バリスタも使いものにならねぇな。」
「ああ。それにケガ人が出ても休ませる場所がない。」
バリスタは、古龍と戦う際によく用いられる固定用砲台である。その弾は、槍。巨大な龍に立ち向かうために必須な武器である。
そして、一度きりの狩り。休めるテントもないし、狩場である霊峰からここまで逃げることも一苦労だ。
だが、俺たちはG級ハンター。
過去の狩りでも状況の悪いときなんて、多かった。
───相手のホームグラウンドで、狩りをしてきた。
何人か危ういやつや弱腰になっているやつもいたが、ここ霊峰で、狩るしかない。
さらに、嵐がひどい。
龍は嵐を纏い、空を泳ぐ。
一人のハンターから声が漏れでた。
「でけぇ。」
多くの龍は竜より遥かに巨大で、つよい。ヒトにとってはまさに天災と言える。多くの古文書にも、天災によって村が滅んだとされるほどだ。
多くの者が立ち止まり、嵐を見上げる中、
俺は大剣を2本抜き、駆け出す。
狙うは尻尾。龍の装備をしている俺はいつもより動ける。
古龍の素材は、ハンターに大きな影響を与える。防具そのものの硬さ、身体能力の向上である。そんな強力な装備にはもちろんリスクがある。素材に染み付いた怨念的なものがハンターを蝕む。あと、疲れる。
HR解放されたG級ハンターなら気合いで抑え込むから、ちょっと疲れるくらいなんだが。
尻尾を踏みつけ、さらに跳ぶ、'もう一度'蹴りつけ跳ぶ。重すぎる防具を含む全体重を込めて、2本の大剣で叩き斬った。嵐が、墜ちた。
俺は'あの日'、空に対して無力だった。襲いくる火球に対して、家族を守ることしか、できなかった。だからだろうか、'銀の空'を落とすために鍛え始めた。
受け身をとり着地すると、ゴロウはその白き斧を振り回す。スラッシュアックスは斧でもあり、剣でもある。変形機構を持っており、状況に応じて切り換えるのである。嵐に剣を突き刺すと、震え始める。そして、爆発。込められた薬品、強撃ビンをもとに更なる一撃を与える。
ガンナーたちもようやく撃ちはじめた。
ゴロウは俺のところまで後退してきた。
「ヤバいな。」
そう、巨大すぎる。ハンターの武器はヒトの大きさほどあるとはいえ、龍にとっては小さきもの。与えた傷も浅く、小さい。
嵐は飛び上がる。そして、溜めを始めた。
俺は叫ぶ。
「ブレスが来るぞ!」
その水は、まさに刃。地面が斬られた。
嵐は始まったばかりだ。
俺は、焦っていた。はるか上空で舞う嵐にヒトは無力だった。ガンナーの一撃は風で吹き飛ばされる。水の刃が何度も襲いくる。
いつのまにかハンターの数が減っていた。逃げたやつと、落ちたやつだ。
急に身体が嵐に引き寄せられた。本能が告げる、逃げろと。龍自身が竜巻となり、俺たちは吹き飛んだ。
(古文書にタロウが記した'嵐龍'の必殺技、ダイソンか!)
渓流に嵐が来た。羽衣が泳いできた。
滝の前へと降りてくる。
いくつか刃物による傷がある。カルロさんたちによるものだろう。私とコトネさんは弓を構えた。
だけど、嵐に矢は届くことはなかった。
そして、水の刃が、向かってきた。
私よりちょっと背の高いコトネさんを担いで、嵐の中を逃げる。脇腹の白い防具が赤に染まる。カルロさんや友人さんは遠い霊峰だ。他のハンターは散り散りに逃げていった。
私は、岩影にコトネさんを降ろす。私を、庇ってくれて傷ついた。回復薬グレートを飲ませる。傷の治りは、遅かった。私は嵐を見る。
「イロハちゃん。ダメ。」
弱々しく、手を握りられた。だけど、優しくほどく。
「ごめんなさい。私、行かなきゃ。」
嵐に、駆け出した。
嵐に立ち向かう。求めるは、強力な一撃。風を突き進む矢。私の両腕は'金の鱗'を纏う。矢尻が燃える。
1本の矢に私の全てを込める。
これが私の、'竜'の狩技「一番星」
月から放たれた'金の一撃'によって、嵐は片目を失った。
龍は怒り、嵐を呼ぶ。まさに台風。私は岩にしがみつく。両腕はすでに人のものへと戻っている。
声が自然と漏れた。
「ここが、限界かな。あとは、お願いします。」
彼が来てくれるって、信じてた。私の大切な家族が。
だから、私は嵐に立ち向かえた。
私はコトネさんのもとへ向かい始める。
「任せろ。」
俺は霊峰から飛び降り、川を駆けおりた。'竜'となって嵐を追いかけた。今はハンターに戻っている。
滝の上から、'龍'を、'竜'の腕で殴る。
さらに、爆発を起こす。龍は後退した。
龍を見上げて言う。
「追いかけてきて疲れてるんだ。終わらせるぞ、狩りを。」
俺は、空を掴む。空を蹴って駆け上がる。今なら、できると思った。
空で、「俺が主人公」となるために編み出した。
俺の、'ハンター'の狩技「月歩」
空を駆け、嵐龍を斬り続ける。
ゴロウも滝から降りてきた。
狩技「剣鬼形態」
効果は単純。剣となったスラッシュアックスの強化と、自身の強化。龍属性の剣が尻尾を斬り落とす。
嵐龍は最後に雷を呼んだ。燃える嵐は、やがて静まった。
そして、虹がかかった。
「イロハちゃん!」
私はコトネさんに抱きつかれる。
「ただいまです。コトネさん。」
「無事で、よかった。」
私も、大切な人を守れたみたいです!
燃える龍を見ながら、ゴロウがいまだ真剣な顔で話しかけてくる。
「やったな。」
「ああ。」
俺たちは、そして村は、生きていた。ヒトは天災を生き抜いた。それは勇敢なハンターのおかげである。
犠牲となったハンターの想いを背負って、俺たちは狩りを続けていく。
私とコトネさんは一緒にお風呂に入ってます。
気持ちいい~
「コトネさん、傷は大丈夫ですか?」
「うん、回復薬グレートのおかげかな。」
隣り合う美少女達は会話を続ける。
「助けてくれてありがとうございます。」「助けてくれてありがとう。」
私たち、なんだか、似た者同士みたいです。
笑顔でお互いを見合う。
コトネさんが話しかけてくる。
「ところで、彼は大事な人?」
「はい、家族です!」
「え、あなたたちもう結婚してるの!」
私は首を傾げる。
「結婚って?」
コトネさんは顔を赤くしながら答えてくれる。
「え、と、大切な人とずっといれる、というか。」
「とてもロマンチックなもの、だと私は思う。」
ほうほう。なるほどなるほど。
「あとは、彼と、彼の子どもと暮らせると、もっと幸せ、かな。」
いつも以上に優しい顔をするコトネさんに訊ねてみる。
「もっとその人のこと教えてください!」
また、顔が赤くなった。
「えぇ! うん。彼ね、今は研究者やってるの。ハンターとしても実力があるんだけど、本人はそっちのほうが、合ってるって。私のことを置いておいて、いろんな狩場へ赴いてるのよ。」
コトネさんは、頬を少し膨らます。そして、こちらを見つめる。
「今度は、イロハちゃんの番だよ。」
私にとって、カルロさんは...
「人としても、ハンターとしても、つよいんです。そして、夜空の、一番星、だと思います。」
コトネさんは首を傾げる。私は続けた。
「この広い世界で、一番輝いて見えるんです。世界に比べたら、小さな一人のハンターなんですけど、'本物'の輝きを持っているんです。」
そんな彼のおかげで、人でも竜でもなくて、私が'私'でいられるんです。
のぼせたのかな。なんだか、顔が熱くなってきました。
───広い世界の、姉妹のような乙女たちの恋バナ。