虚構のウマ娘たち    作:カイルイ

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はじめに。~以降全話の注意~

1:ウマ娘プリティーダービーの元となった競技である競馬や競走馬に関する知識は、それらを愛する皆様の足元にも及びません。また、作中に登場するウマ娘は架空の物を中心に考えております。既出のキャラクターをある種の雲の上の存在として予定しておりますので、日常的な交流は現状予定しておりません。

 同名の競走馬が存在した場合、理不尽すぎる特性、レース場(競馬場)の特徴の違いなどをご指摘いただけましたら、修正する所存です。

 無知なりに努力いたしますのでお楽しみいただければ幸いです。しかしながら、苦手であると判断されました方は無理をしない様ご了承ください。

2:ウマ娘プリティーダービーの花形である、レース及びライブ描写につきましては勿論ございますが、現状は控えめとなってしまう予定であります。理由としまして、実況、レース場の特徴などなどの知識がないため、調べながらになるためであります。また、傾向として日常生活を主体とする予定であるためです。


1R:それぞれの再起

1R:それぞれの再起

登場人物

・ヤスダキャップ:本作主人公

・マキダ テッペイ:自称元名トレーナー

・(サガーナウィッチ:新入生のウマ娘)

 

ヤスダキャップ 4月某日

 

 食堂の椅子に腰を下ろし、昼食をとる。ボケーっと定食の味噌汁に浮かんだ自分の顔を見て、つい昨年のことを思い返してしまった。

 

地元の期待の星として、この東京トレセン学園まで来たというのに、今やチームにすら在籍していない。そのせいで、両親や地元の友人に連絡すら取っていない。

 

先月までは自称常勝チームに在籍していたのだが、そこでの勝利は許されなかった。私の血統が許さなかったのだ。私はほかのウマ娘と違い、異世界でのモデルがいないこの世界特有の種として生を受けたのだ。故に在籍していたチームのトレーナーは、お気に入りの血統ウマ娘が勝つための材料として私を散々使った。

 

今でも新人戦での「棒立ちしてでも勝ちを譲れ」という指示を覚えている。ゴール手前で棒立ちをかましたのだ。そこで、「アンスポーツマンシップウマ娘」・「舐めプの帝王」と新聞でもネットでもクラスからも罵られたことも鮮明に記憶に残っている。

 

そういえば、親との連絡が途絶えたのもこのころだったっけ。勝利を求めているウマ娘に残酷な「勝ちを譲れ」という指示はつい昨年2月まで続き、つい先月チームをやめた次第だ。そういえばなんでそこまでされてもやめなかったんだっけ。たしか…

 

 「すいませーん。ここいいですか?」はきはきとした声が悲観的な記憶を遮った。声の主は言わずもがなウマ娘なのだが、数人の集団に相席を求められたのだった。

 

 私はせいぜい「アッどうぞ」としか言えず、少しやかましくもある声に飲まれていった。話を聞いているとどうやらこの春の新入生のようで、どのチームに在籍するか話しているようだった。

 

 「チームなんて適当でいいんじゃなーい?実力勝負でしょ?」そんな声がふと耳に入った。ちょうど一年前、私も同じことを友人に言った記憶がある。その結果がこの情けない今の自分かと思うと奮起したくなる。だが、それにはチームが必要なのだ。過去のチーム・自分を見返したい、頑張りたい、そのためにはチームに在籍しなければならない。チームに所属するためには頑張らなければならないという循環できりがなく、悲しくなってくる。

 

 そうこうしているうちに食事を終え席を立った。先ほどの集団といるとかえって過去の自分を思い出すからいけない。

 

 来る必要もないのに練習場を眺めに腰を下ろしてしまう。練習に励む声、トレーナーの指示の声が気持ちよく、快く感じている。

 

 レースに未練はあるかと言われれば、未練たらたらなのが本音だ。学園内最強と名高いチームや昨年急成長した放任主義のチームなど候補はあるが、今となっては人気もすごくちょっとおっくうになる。

 

 私の一つ上には「総大将」や「怪鳥」などといった名ウマ娘が揃っている。なんと華々しいことだろうか。畜生うらやましい。

 

 「嬢ちゃん。ぼっちか」と後ろから声がかけられた。振り返ると、ゴマシオジジイがいた。

 

 マキダ・テッペイ 4月某日

 重要な話があるからと理事長に呼ばれたのだが、大方想像はつく。メンバーのいないチームの解散だろう。

 

 ひときわ緊張しながら、身だしなみを整え入室する。緊張しながら部屋を出る。話の内容は、想像通りだった。予想外だったのが、私に退職を勧めなかったことだ。

 

 「チャンスが与えられたということダナ」この年特有の独り言を発しながら廊下を歩く。4月中に5人、そして年末ウィンタードリームトロフィーにだれか一名以上の出場が条件となりチーム存続が許された。だが、最速一ヵ月でチームは消える。

 

 とはいえ、自分自身の「ウマ娘の夢をかなえる」という夢を叶えられていない以上、解散に甘んじるわけにいかなかった。しかし、メンバーがいない。メンバーを集めるにはメンバーが必要なのだ。

 

 レースに出場や勝利できないチームには誰も入りたがらないのは明白であって、その点完璧なチームだった。ジジイのトレーナー、メンバー0人、無駄に華やかな過去の栄光等々。

 

 

 日が落ち始めたころ、練習場近くにポツンと一人のウマ娘を見つけた。

 

 声をかけると新入生の子で、最大手のチームの様子や憧れのウマ娘の姿を見に来ているのだそうだ。

 

 「目標は三冠ウマ娘です!」彼女は元気に私に伝え、当面の目標や親が応援してくれている旨を話してくれた。「うちのチームも嫌になるほどのやじウマ娘がいたっけ・・・」一瞬過去の記憶がよみがえった。新入生の子の華やかなオーラの前には、とてもじゃないが勧誘の話はできなかった。

 

 それこそ彼女の夢を壊してしまいそうだったからだ・・・その子はその後追っかけとして去って行った。

 

その奥にももう一人ウマ娘がいた。あまりにもポツンとしており悲観オーラが悶々と出ていた。

 「嬢ちゃん。ぼっちか」と年寄り特有の馴れ馴れしい話しかけ方をしてしまう。

 その無礼は、「はっ?」というそっけなさこの上なく嫌という感情が現れた返事という形で返ってきた。「あっ。すまん」あまりの嫌悪感が私に反射的に謝罪させた。

 

 すると「トレーナーかあんた。」と問いかけがあった。「そうだ。マキタだ、よろしく。嬢ちゃん野良か?」これに対し彼女は、「そうだ。なんていうチームなんだ。」という問いで返してきたので、「ダヴァだ。」と伝えると、彼女は自身の耳を疑ったのか「駄バ?」と聞いてくる。

 

 これは、かつてこのチームの鉄板ネタだった。「ダメなウマ娘しかいないのか?」という素朴な問いかけがあったが、それに対しては「ダメなウマ娘すらいないよ。いるのは虚無だ。」と個人的には面白い返しをした。(つもりだった。)笑っていると思い彼女の顔を見ると至ってまじめな表情でこちらを見ていた。

 

 「じいさん。そのチーム、入れるか?」次の瞬間にはなたれたセリフは、まるで自分が漫画の主人公にでもなったような気持ちだった。血圧高めの心臓にさらなる負担がかかるくらい興奮し、ふらっとしたがそれらを抑え、どうにか「もちろんだ」と伝えることができた。

 

 すると、「私はヤスダキャップていうんだ。よろしくね。ヤスダキャップは長いし、ヤスダはなんか嫌だからヤスキャとでも呼んで。」そう自己紹介を受けるのだった。それから、私は彼女の学年・野良の理由などの話をしていた。

 

 

 突然、「じいさんは、虚構の血統についてどう思う?」と聞かれたのだった。今までの話からして、ある程度トレーナーに不信感がるのだろうか、当然の疑問と言える。

 

 「血統かぁ。実力で判断していたから特に気にしてなかったなア。」私はそう答えた。正直なところ嘘も含まれている。良血統はたいてい結果に出るし、継承しているなら結果が出ると想像しやすいから担保となるのだ。だから、気にはなる。

 

 とはいえ、そうでなくても速いものは速いから結果を見てというのが本音だった。だが、私の答えに安心してくれたようで、初めて見るにこやかな笑顔を見せてくれた。

 

 彼女は、「そろそろ、門限だ。また明日ねじいさん。教えてくれた場所に行くから。」そう言って立ち上がった。つられて私も「明日の練習楽しみだよ。よろしく頼むよ。」と返すと頷いて走り去っていった。

 

 まったくもって楽しみだ。話を聞く限り遅いウマ娘でもなさそうだった。やる気も十分。一人集まれば、勧誘もより効果的にできる。そう考えながら私も帰路についた。

 

 

ヤスダキャップ 4月某日

 あのトレーナーは少なくとも、「勝ちを譲れ」という指示を出すようには見えなかった。それに、チームが栄えなければ困るのはあのじいさんだ。ある意味ウィンウィンの関係なのかもしれない。

 

 まともなトレーニングなんて初めてだから緊張する。ただ、ちょうど一年前に抱いた高揚感がよみがえってきているのも事実だった。

 

 学園生活二回目のルンルン帰寮を果たすとそれを見た先輩に珍しがられた始末だ。そういえば、引退してしまったルームメイトの代わりは誰が来るのかが、正直楽しみだった。元々小さなコミュニティが好きな私は、心待ちにしていたのだ。

 

コンコン。待ちに待ったドアノック。ついに開かれるドア。

 

 「初めまして、ヤスダ?さん。サガーナウィッチです。これからよろしくお願いします。」見事な青鹿毛のそのウマ娘は、少々儚げな独特の雰囲気をまとっていた。

 

 「こちらこそどうぞよろしく。ヤスキャって呼んでね。」と挨拶を返す。どうやらサガーナと名乗った彼女は新入生らしく、私の話すら聞きたがっていた。ああ、二年目にしてようやく楽しい学園生活が送れそうです。かあさん。

 

1Rおわり。




づらづらと文字の羅列は見にくかったため、修正しました。

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