銀の少女と戦争譚   作:球形屋根
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9 王立魔力研究所

 

 

 【標準暦725年1月26日/イベリアル王国/王都/王立魔力研究所付属病院/病棟】

 

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!ポーラっ!大丈夫かぁぁぁぁっ!」

 

「あっはい、その……だいじょうぶです」

 

 公務が一段落ついたアルフレッドは、(ポーラ)が入院すると聞いた途端に脇目も振らずに病院(ここ)まで来たらしい。

 先程からずっとこの調子である。

 

 オスカーがアルフレッド達に「遺物での検査だけでは不明な点もあるから、3ヶ月ほど入院して細かく検査する」と伝えた為、俺も口裏を合わせることになっていた。

 更に入院自体は一昨日から始まっているため、俺の魔力の調査も進んでいた。そして調査項目の関係上、既に俺は魔力を扱うことが出来るようになっていた。

 

 というのも、数日前に遡る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【標準暦725年1月24日/イベリアル王国/王都/王立魔力研究所付属病院/病棟】

 

「だがな、銀のお嬢ちゃん。別に人生が詰んだってわけじゃねぇぞ?」

 

「……」

 

「俺は、王国でも1、2位を争うほどの凄腕の魔術師だ。更に研究所には信頼できる奴らも多いし、設備も万全だ。外に出る時は護衛をつければいいし、月に1、2回、検査のために通院するってこと以外は基本的に普通の生活が出来ると思って良い。……元々公爵家の娘なんだから、護衛には慣れているだろ?」

 

「あ……」

 

 オスカーの言葉で、この6年間の生活を思い出す。

 確かについこの間まで外出したことは無かったし、いつも部屋には護衛がいた。

 

 確かに新属性がバレると危険だが、普段の生活にそこまでの変化は無いのかもしれない。

 

「だからお嬢ちゃん。もう一度言うが、そこまで心配しなくていい。何なら、今すぐ秘密を知っている奴らを皆殺しにして、俺も死ねば安心か?」

 

 俺はふるふると首を振って答える。

 

「はっ、良かった。もし肯定されたらどうしようかとヒヤヒヤしたぜ」

 

 どうやらオスカーは、俺を元気づけてくれているらしい。おかげで心が落ち着いた。

 

「もう大丈夫そうだな、本当に物分りの良いお嬢ちゃんだ。貴族の奴らが全員こうなら良いんだがな。……ところで、早速今日から入院になる。お前さんの連れには適当な理由を言っておくからここで待っていてくれ。後で呼びに来る」

 

 そう言うとオスカーは椅子から立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「あ、あの!」

 

 俺は、まだ遺物のせいでふらつく体をどうにか支えながら、上半身を持ち上げる。

 

「あの……。さっきは、ありがとうございました」

 

 オスカーはそのまま振り向くことなくドアを開けると、何でもないように片手をひらひらと振って答えながら、部屋を出ていった。

 

 

 

 その後、近くの部屋で待機しているセバスチャン達に説明を終えたオスカーに連れられた俺は、再び地下の空間に来ていた。

 

「あの……。さっきのところですよね?」

 

「まあまあ、そう焦るな。……ここだな」

 

 オスカーはとある柱の前で立ち止まると、大声を上げる。

 

「おいお前ら!聞こえてるんだろ?さっさとここを開けてくれ!」

 

 オスカーが叫ぶと目の前の柱の一部分が横に割れ、中には金属製のエレベーターのようなものが見えた。

 どうやらこれで「研究所」まで行けるらしい。

 

「はっ、驚いたか?これが一番近い出入り口だ。他にも似たようなのが王都内に5箇所ある」

 

「すごいですね……」

 

「まあな。じゃあ早く乗れ、出発するぞ」

 

「はっはい」

 

 エレベーターに乗ると、柱が再び閉じた。エレベーターの壁には明かりがあったため、暗くなることは無かったが。

 

 扉が閉じると、上向きに重力を感じた。

 どうやら研究所とやらは、遺物のさらに地下に在るようだ。

 

 

 

 暫くすると、エレベーターが停止するのがわかった。

 

「つきましたか?」

 

「ンいや、まだだ。もう少し、だな」

 

 何やら顔色が悪いオスカーが、そう言うや否や今度はエレベーターが横に動き始めた。

 

「ふえ……っ!?」

 

「あー……酔った……」

 

 どういう仕組みなのか、だが少なくともこのエレベーター(?)は地球のものとは違うらしい。

 乗り心地も、地球のそれよりずっと悪い。その所為か、先程からオスカーは青い顔だ。心なしか口数も少なかった。まあこの乗り心地じゃ仕方ないか。

 

 そしてまたしても揺られること十数秒。ここでエレベーター(?)こと、暫定(ざんてい)謎の乗り物カッコカリは停止した。

 

「あー……着いたぞ。……降りろ」

 

 先程までの9割引きで口数の少ないオスカーがそう言うと、エレベーター(?)のドアが開く。

 するとそこには、驚きの光景が広がっていた。

 

「……?……??」

 

「はっ、どうだ。こんな研究所は他の国でも珍しいぞ?」

 

 エレベーターが到着したのは、長い廊下の突き当りだった。

 そしてその両側には沢山のダークブラウンの扉とロウソクが並び、さながらホテルの1フロアのようだ。ご丁寧にレッドカーペットまで敷いてある。

 

「ちかですよね?」

 

「そうだな」

 

「……けんきゅうじょ?」

 

「その通りだ。ここは寮だがな」

 

 なるほど寮か、いや分からん。

 大学じゃあるまいし、研究所に寮なんて在るものなのだろうか。

 

「まあ珍しいわな。取り敢えずお前さんは、名目上は病院に入院していることになっているが、普段はこの研究所で生活してもらう。安全上の理由でな」

 

「でもまだ、ほかのひとは、しらないんじゃないんですか?」

 

 精密検査からまだ1日も経っていない。こんな短時間で秘密が漏れることなどあるのだろうか?

 

「ああ、その通り。だがあらゆる可能性を考えたとき、こっちの方が安全だ。情報機関の奴らはどこに居るか判らねぇからな」

 

 なるほど、論理的だ。

 オスカーは見た目によらず、念には念を入れるタイプらしい。まあ俺も、安全な方が良いが。

 

「安心しろ、ここで働いている奴らの身の上は保証されている。なんたってここは、世界でも最先端の研究所だ。入る前に全員、身辺調査はされている。要はスパイ対策だな」

 

「な、なるほど……」

 

 若干、否、ドン引くほどの警戒態勢だった。

 確かにこれ以上安全な場所は早々無いだろう。

 

「じゃあ空いてそうな部屋を探すか。ついて来い」

 

「は、はい」

 

 何はともあれ、ここなら安心して生活できそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無いな」

 

「ないですね」

 

 うん、空いている部屋が無かった。

 

「これは参ったな……。一応聞いておくがお前さん、俺と相部屋になる気は無いよな?」

 

「え、いやですよ?」

 

「お、おう。……即答かよ。わかってたけどよ」

 

 当たり前じゃないですかー。

 こんなおっさんと3ヶ月間寝食を共に、なんて勘弁して欲しい。

 

「とは言ってもな……。しょうが無い。誰か女の研究員の奴に頼み込んで、相部屋にしてもらうか。若しくは誰かにここを出ていってもらうか」

 

「え、そこまでしなくても……」

 

 「出てもらう」って……。怖。

 

「じゃあ相部屋だな。……誰か受け入れてくれる奴が居ると良いんだが」

 

「じゃあボクなんてどうですかー???」

 

「「えっ」」

 

 ハモった。振り返ると、真っ赤なぼさっとした髪の毛。そしてやけにテンションの高い猫耳の白衣少女が居た。

 

 もう一度言う。()()()白衣少女が居た。

 

「えっとー、ボクはミリィ・ブロワ。見ての通り獣人で、ここで研究員をやってるんだよ!」

 

 ミリィというらしい。この赤い猫の獣人は。

 

 というか、そもそも赤い猫というものは居るのだろうか?

 赤い猫、赤猫……アカネコ。

 

 あ、大体察した。そして、予想通り難色を示すおっさん(オスカー)

 

「いや、コイツは……」

 

「ポーラたんに振られたおっさんは黙っててください!……それでさっきから話を聞いてれば、キミ、部屋に困ってるみたいだね?どうだいー?この素敵な女の子と相部屋ってのは!」

 

「いきます」

 

「おい」

 

 相部屋。

 その甘美な言葉の響きに、光の速さで即答する。

 こんなチャンスを逃せる訳がないだろう。

 

「うんうん、いいねー。やっぱり可愛いねー!じゃあボクの部屋に案内するから一緒に行こっかー?心配しなくても魔力の件は知ってるからね、ボクも計測に参加してたから!」

 

「おい銀の嬢ちゃん、コイツんトコだけは止めた方が良いぞ?」

 

 外野が五月蝿(うるさ)いようだ。

 俺がこの娘についていくことはもう決まっているのだが。

 

「おすかーさん。わたしは、みりぃさんのところにいきます」

 

「まじかよ。……まあ良いか、3ヶ月だけだしな」

 

 兎も角こういう訳で、俺の部屋が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー!じゃあポーラたんはシルヴァール公爵のところのお嬢様なんだ!ボクも貴族の生まれで、侯爵家の娘なんだよ!」

 

「へっ?そうなんですか?」

 

「そう!『へっ?』って、もー!ポーラたんは可愛いなー!……あ、ここだよ!ボクの部屋」

 

「あっはい」

 

 オスカーには一旦待っていてもらい、俺は先に部屋の場所を確認することにしていた。

 

「じゃあ開けるよー!後でこの扉にもポーラたんの魔力を登録しておくからね!」

 

「……かぎ?」

 

「そう!この扉に魔力を登録しとくと、プライバシーが守れるでしょー!これを考えた人は天才だよね!」

 

 チラッと普通の鍵でも良くないか?と思ったが、口に出すのは止めておく。

 

「そうです……ね?」

 

「やっぱりポーラたんもそう思う!?まあ発明したのはボクなんだけどね!」

 

 今更ながらオスカーの言葉の意味がわかった俺。

 可愛いから全て許すが。

 

 そしてドアノブを回すミリィ。

 扉を開けると、中には夢の景色が……!

 

「にゃはは……。ボクの部屋、何にもないでしょ?」

 

「えっ。……えっ?」

 

 

 

 愕然とした。

 

 こんなこと、有り得るのだろうか?

 

 あまりのショックに膝から崩れ落ちる。

 

 

 

「この部屋はもう自由に使って良いからねー。……って、なんで落ち込んでるの?」

 

「ほっといてください……」

 

 部屋は確かに、片付いていたのだ。それは良いことだし、汚い部屋の100倍はマシだ。

 

 だが、ミリィの部屋は片付きすぎていた。

 

 備え付けのベットに棚、そして机と椅子が1セット。

 

 それだけしか無かった。

 

 もっと女の子な感じの部屋を望んでいたのに……!

 

「あ、あの……」

 

 よろよろと立ち上がりながら尋ねる。

 

「へや、つかってるんですか?」

 

「ん、ぶっちゃけ使ってないかな!」

 

「ぐはっ……!」

 

 なんたることだ、せっかく猫耳ライフが送れると思ったらこの仕打ち。

 沈む俺を見かねてか、ミリィがフォロー(?)に入る。

 

「あ、でもポーラたんが来たから、これからは毎日定時には帰ってくるよ!ううん、ボク、定時前に帰ってきちゃうかも!」

 

「ミリィさん……」

 

 定時前に帰ってきちゃ駄目だろうとか、そもそも定時なんて無いだろうとか、冷静な突っ込みができる人物は、今ここには居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあお嬢ちゃん、早速新属性の研究に移らせてもらう」

 

「……はやくないですか?」

 

 部屋を確認してからしばらく経ち、ちょうど落ち着いてきた頃、オスカーがやってきた。

 

「時間との勝負だ、遅くて良いことなんて無いからな。……とは言っても今日は簡単なことしかやらない。それよりも今は、早くここの環境に慣れてもらうことの方が大事だ」

 

「な、なるほど」

 

 正論すぎる。

 思うのだが、オスカーは意外と有能なのではなかろうか?

 

「一先ず研究室に来い。案内する」

 

「はい」

 

 どうやら研究室という場所が在るらしい。まあその名の通り、所謂(いわゆる)研究室なのだろう。

 それにしても、自分が研究対象だというのは変な感覚だ。

 

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ずんずんと進んでいくオスカー。

 やがて、俺達が乗ってきたものよりも大きい、別のエレベーターへと辿り着いた。

 

「これに乗れば、研究室のある階層まで行ける。……さっきのヤツよりかはマシだから、安心しろよ?」

 

 先程とは打って変わった様子で、そう話すオスカー。

 エレベーターの横の壁に付いている赤いボタンを押すと、扉が開いて乗れるようになる。

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

 こうして俺達は、研究室のある階層へと向かった。

 

 

 








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