稀代の暗殺者は、大いなる凡人を目指す   作:てるる@結構亀更新

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殺人描写あり。
カニバとまでは言わないけど、血液を舐める描写があります。
苦手な方はバック推奨。


暗殺者の引き金は、誰がために引かれるか

自分と相手の距離、約5m。僕の間合いに入るまでの時間、約0.7秒。

おそらく相手の方が間合いは大きいけど、一撃の素早さは僕の方が上。いかにして急所に叩き込むかが勝負、か。

 

勢いよく間合いを詰めても、相手は動かずに静観してる。やっぱり早さに自信がないから故の行動と見て間違いない。

 

「おにーさん、いいの?動かなくて?」

 

嘲るように笑いながら、間合いに入ると同時に勢いよく跳躍する。

まずは一発。場所はどこでもいいや。

 

大男の上を飛び越えるように高く舞い上がって、そのまま足で一発蹴りをぶち込む。頭にクリーンヒット。

 

それを見た周囲の観客から、声援と沢山のヤジが飛ぶ。

 

「ほらほら、早く反撃しなくていいの?」

「黙ってろガキが!一発蹴れたからっていい気になんじゃねえよ!そんな軽い攻撃、いくら当たってもなんの意味もねえ!」

「ふーん、じゃあやってみる?」

 

大男のこめかみがピキピキと音を鳴らすかのように浮き上がる。うわー、これって漫画の中だけの表現かと思ってた。

と、そんなことを考えていると、真横をびゅんっと重い拳が通り過ぎる。

 

「チッ、ちょこまかと。」

「そんなおっそい拳、当たるわけないじゃん。子供だからって舐めすぎだよ。」

 

とか言いつつ、じんわりと背中に冷たい汗が流れる。

あれ、当たったら結構マズイ。今は絶状態だから、見た目通りの耐久力しかない。小学校低学年程度の体であの威力を受けたら、軽く吹っ飛ぶどころの話じゃ済まない。骨が数本はもちろん、当たりどころが悪ければ内臓まで行くかも。

いくら弱いって言ったって敵は大人。子供の身体能力しか持たない僕には圧倒的な不利がある。

 

敵の腕の動きを全力で注視しながら、考える。

確かにこうやって避け続ければこのまま試合は終了する。でも、それは勝利じゃない。

考えろ。どうやったらダメージを与えられる?どこを打てば行動不能に追い込める?

 

ちらりとレフェリーの方を見ると、残り時間の表示はあと2分に変わっていた。

 

思わず焦って動こうとする体にストップをかける。ここで慌ててもなんの意味もない。

相手の体をよく観察する。

 

鍛え上げられた上腕二頭筋、腹筋、背筋。上半身はほぼダメージが通らないと考えていい。かといって足腰に人間を一発で行動不能にできるような場所はない。と、なると………

 

後ろから首筋に一発。それしかない。

 

「おい、何よそ見してんだよ!殺されてえのか!」

「えー、おにーさんごときに殺されるぐらい僕、弱く見える?心外だなあ。」

 

そんな軽口を飛ばしつつ、相手の拳を避けて、くるりと後ろに回り込む。

慌てて振り向こうとする大男。でもそれも織り込み済み。

 

相手が後ろを向こうと回転する方向、それと逆の向きから思いっきり飛び蹴りを叩き込む。

よし、さすがに全体重をかければよろけるか。

 

ぐらりと重心がズレたタイミングを見計らって、首筋めがけて跳躍。

 

「ばいばーい。」

 

耳元でそう呟きながら思いっきり手刀を食らわせる。

打ち込み方。角度。力加減。すべて完璧。確実に昏倒させることができたと確証を持てる。

 

一瞬大男の動きが完全に静止して、それからぐらりと前向きに倒れる。

どしんという音が静かな場内に響き渡って、それから勢いよく歓声が上がる。

 

よし、これで勝負アリかな?

うつ伏せに倒れている男をてこの原理で足をつかって無理やりに仰向けに返す。

 

目を見ると、完全に気絶している。よかったー、あれで動くようなタフな相手に当たったら今は決め手がない。

ふう、と気が緩んで全身の力を抜くと、ぼんやりと相手の表情が視界に入った。

 

倒される恐怖と、屈辱に歪んだ顔だった。

 

思わずゴクリと喉が鳴る。

さっきのヒソカの言葉の意味、わかっちゃったかも。

倒される寸前の歪んだ顔。それはなぜだか……とっても美しく見える。

 

あー、ダメダメ。そういう戦闘に快楽を覚えるような事しちゃったら、戻れなくなる。普通の感覚に。

頭をぶんぶんと振って、さっきの邪念を消し去ろうと努力する。早く忘れよう。そういうのは弱い者にとっては命取りにしかならない。

 

もっといたぶれば、一撃で倒さなければ、それだったらもっとイイ顔をしてくれたんだろうか。もっととろけるような歪んだ顔を見せてくれたんだろうか。

 

思わず浮かんだそんな思いを揉消すように、大男から視界を離す。

 

「2381番、30階フロアへの入場を許可します。フロアの受付で、この紙を見せてください。」

 

レフェリーがかけた声が僕をどうにか正気へと引き戻す。

危ない危ない。変なスイッチ入るところだった。

 

レフェリーに向き直って、チケットを受け取る。

ふーん、こんなちっさい紙なんていくらでも偽造可能に見えちゃうけど、その辺は大丈夫なんだろうか。

あー、でも偽造して別のフロアに上がっても、そのフロアに見合った実力がなければ即落ちるだろうから、その辺の対策は別に必要ないのかもしれない。

だってねえ、今僕がいきなり100階とか行っちゃったら即ボロボロにされるだろうし。偽装によって得られる利益が全くというほどない。

 

そんなしょうもないことを考えながら、リングを降りてヒソカの方へと向かう。

あいつと行動を共にするのはとてもとても不本意だけど、護衛任務に抵抗しないって約束してるからなあ。破ったら、何するかわかんないし。

軽く溜息をつきながら、観客席の方へと階段を上がる。

 

30階かあ。まあ予想よりはよかったけど、でも微妙。早いところ訓練して、念なしでも余裕で戦えるぐらいにならないと。

ていうか、このぐらいのレベルだと、纏で殴っただけでも殺しかねない。さすがに騒ぎになるのは面倒。

 

とまあ、そんなことを考えながら、ヒソカの方を見やる。

 

えっと、ヒソカがいるのは入り口側のところか。うーん、このまま行ってもいいんだけど………

ヒソカ、こういう輩に絡まれたら、後先考えずに殺しちゃうような性格してるからなあ。それだったら自分で目立たずに処理すべきか。

目立ちたがり屋の奇術師は、こういう場合にはお引き取り願いたい。

 

 

例えば、後ろからずっとついてきてる見知らぬ男を、隠密下で処理したいときとか。

 

 

命懸けの尾行ごっこは兄さんと飽きるほどやってる。主に絶の訓練時に。気配を悟られないのはもちろん、視線や殺気、相手の表情から自分の尾行がバレていないか探る。そんな技術も教え込まれた。

だからまあ、こんなお粗末な尾行に気づかないほど耄碌してない。

 

そう、さっきリングを降りてからずっと尾けてるヤツがいるんだよね。具体的には僕の真後ろ5mのところに。

足音を頑張って殺そうとしているのはわかるんだけど、普段の相手が兄さんだったから、子供の遊びにしか思えない。

 

どーしよっかな。撒く?いや、それじゃあ懲りない。これからも付け狙われる可能性が高い。この天空闘技場において、アホな一部の輩からは僕はいいカモにしか見えてないだろうから。

現在尾行中のヤツと、遠巻きに様子を見てる数人を同時に威圧して、僕から確実に手を引かせる一手。それはなんだろう。

ほどほどに叩きのめすか。それとも気づいてることを教えて、実力の差をわからせるか。あ、いっそのこと家名を教えちゃうとか。

でもなあ、その辺はリスクが大きい。特に最後の一個は。しかも、目撃者を生かしておくのはそのあと変に恨まれる可能性があるし、周りから窺っているヤツらに与えるインパクトが小さい。

 

じゃあいっそのこと、尾けてるやつを殺すのは?

 

それだったら恨まれてあとあと変な刺客を送り込まれることもないし、見ているヤツらに与えるインパクトも大。リスクは小さめ。

だってたかだか人一人殺したぐらいで、この世界は犯人探しなんてしないし。現行犯で捕まらない限りなんの問題もないし、周りにバレないように綺麗に殺すのは、そうとう上手い自信がある。

 

殺す、という選択肢が思いの外すんなりと出てきてしまったことにちょっと動揺しつつ、向かう方角を調整する。

殺す殺さないはともかく、人気のないところに行こう。

 

闘技場の隅の方の、人気がない場所に移動する。

後ろのヤツはラッキーって思ってるだろうな。獲物がわざわざ自分からちょうどいい場所に移動しようとしてるんだから。

目的は何か知らないけど、後ろ暗い行為をしたいがために、尾行なんて手段をとってるんだろうしねえ。

 

でも、ここで尾行を止めないことからして、多分素人。もしくは素人しか相手したことがないのか。

だってターゲットが都合よくこんな人気のない場所に理由もなく行ったら、それはどう考えても罠でしかない。そんな稚拙な罠に引っかかっちゃうようなヤツがプロだったら笑える。

負ける可能性がないぐらい強いから、って可能性もゼロじゃないけど、限りなくゼロに近いし。

だって、念能力者じゃないから。

僕みたいに偽ってるってわけでもない、ズブの素人。自分がやってるから、わざとオーラを垂れ流してる能力者との見分けは絶対につく自信がある。

 

考えに考え抜いて、たとえ相手がどのような手を打ってきたとしても、僕に手を触れることは叶わないだろうという結論に達する。

ていうか、本当に僕では対処不能な相手だったら、半強制的にでもヒソカが来るはず。

僕がわざわざこっちに移動してることも、誰かにつけられてることもあいつは気づいてる。それでも護衛役として止めないということは、僕一人でも余裕で対処可能ということ。

 

 

きちんと考慮を重ねて、敵が自分に勝てる要素が完全にないという結論に達したら。

その場合のみ、殺すことを許可する。

 

 

その音が、兄さんの声で脳内で再生される。

いつも通り訓練していたら、唐突に兄さんに言われた言葉。あの時はなんで言われたかわかんなかったけど、今だったら理解可能だ。

 

兄さんはわかってた。なんだかんだ言いながら、僕には殺人に対する忌避感がない、もしくはとても薄いことに。

そしてそのトリガーは、僕が思っていた以上に緩かったってことに。

 

思わず笑い声が漏れそうになって、慌てて隠す。バレたらここまで誘導してきたのが水の泡だ。

完全に不審な動作を一切なくして、真っ直ぐに無人のエリアに向かう。

 

完全に自分の周囲に人がいないことを確認して、パタリと足を止める。

後ろのヤツには気づいていないように。

 

後ろのヤツも僕がまだ気づいてないと勘違いしてくれたようで、安心しきった様子で肩に手を置かれる。

 

びくんと肩を跳ねさせる。あー、ちょっとわざとっぽかったかな?

まあ向こうが気づいてないなら結果オーライでしょ。

 

そんなことを考えながら、表情を怯えたように作り変えていると、いよいよ後ろのヤツが交渉?恐喝、に入ろうとしているようで。

 

 

「なあ、嬢ちゃん。そのチケット譲ってくれねえか?」

 

後ろからドスのきいた声がかかる。そして感じる妙な威圧感。

ていうか、これは殺気?

 

声の主を見ようと後ろを振り向く。

うん、いたって普通の男。もちろん筋肉はついてるし、一般人よりは強いんだろうけど、僕よりは弱い。

まあ30階フロアへの入場許可ももらえないような雑魚ってことですかね。

 

と、思って油断していた部分はあった。

というか、あんまり予想してなかった。

 

 

男の手には、拳銃が握られていた。

 

 

そっか、さっき感じたかすかな殺気。それはこの拳銃が要因。

天空闘技場で銃火器を使用した戦闘が行われることはないけど、それでも持ち込み禁止なわけではない。こうやって一階フロアで、ある程度の階層のチケットを得た人に脅しをかけて奪い取る。姑息だけどよく考えられてる。

ある程度の階、具体的には20から30ぐらい。そのぐらいの実力の持ち主であれば、後ろから拳銃を向けられたら対抗手段はないだろう。レフェリーの判定結果によるものだから、誤差だって大してない。

 

思わず小さく笑いが口から漏れる。

 

「テメェ、何笑ってんだ!いいから早くよこせ!」

 

焦ったように語気を荒らげて、拳銃を強調するようにチラつかせる。

本当に、これぐらいしか脅す方法がないんだろうな。ちょっと可哀想。

 

強さを持とうと努力できない、その弱さが。

 

チケット、どうするんだろう。自分で上のエリアに入るわけではないだろうし。売るのかなあ?この程度の階のなんて、小学生のおこずかいぐらいの値段しかつきそうにないけど。

 

そんなしょーもないことを考えながら、拳銃を構えている男に歩み寄る。

 

「おい!近づくんじゃねえ!」

 

男が半歩後ろに下がる。

それを見て、思わず口角が上がるのが抑えきれない。

 

「いいね、もっと怯えてよ。もっと怖がってよ。もっと逃げてよ。」

 

そっちの方が、楽しめそうだから。

 

 

男との距離がどんどんと詰まっていく。

その表情が、恐怖に染まっていく。

 

さっきの相手と、おんなじ顔だ。

 

「僕のさっきの試合、見てたの?自分でも勝てそうだって思った?ならどうして今、僕から逃げようとしてるの?こんな弱そうな小娘から逃げることしかできないなんて、恥ずかしくないの?ほら、早く撃てばいいじゃん。その拳銃は見せかけだけなの?もしかして、人を殺す覚悟もしないでこんなことしてるの?」

 

鏡を見なくても、自分が相当な表情をしているのが容易く予想できる。

きっと、それはそれは残虐な悪魔のような笑みを浮かべていることだろう。

 

なんでだろう。そんな風に逃げることしかできないような無様な姿を見せられると。人としてのプライドを捨てたような怯え方をされてしまうと。

 

とっても、苛めたくなる。

 

 

うーん、なんでだろ?生まれてこのかた、ご飯に毒薬混ぜられたり電撃加えられたり、どこぞのマゾもびっくりな拷問受けてきたから、逆に変な性癖に目覚めちゃったとか?それともそもそも前の人格がそういうサディスティックな感じだったのかな?そんな覚えはないですけど。

 

まあそんなのどっちでもいいよね。今は今だ。

 

ズリズリと尻もちをついて後ろに下がる男を見下げながら、壁際へと追い詰める。

こいつは、間が悪かった。

丁度さっき、戦った相手の顔を見て興奮しちゃったところで、雑魚のくせに言い寄ってきちゃったから。多分いつもだったらちょっと軽く殴って気絶させるぐらいで済ませてたのに。本当に、間が悪い。

さっきの男との戦闘が、予測したとおりのものになって、つまらなかったていうのもある。僕より身体能力は絶対に上のはずなのに、戦い方が巧くない。まあそういう意味では、この目の前に転がってるやつも同じだけど。

 

とうとう男が壁際に追い詰められて、僕との距離が1メートルを切る。足先が、男に触れるほどに近づく。

 

「無様だね。」

 

男がひっ、と息を短く吸うのが聞こえる。

僕の今の言葉に怯えたのか、それとも表情か、それとも漂う狂気か。その三つ全てか。

まあどれでも、こいつが雑魚であるという証明にしかならないけど。

 

「お、俺をどうする気だ。ここで殺したら騒ぎになるぞ。」

「うん、そっか。で?」

 

にっこりと微笑みながらそう返すと、男の表情がより一層引きつったものへと変わる。

うん、とってもステキ。自分と相手の力量も測れないような雑魚には、お似合いの表情だ。

 

男が未だに手に持って構えている拳銃を、足ではたき落とす。

 

「か、返せ!」

「あー、ごめん。偶然足が当たっちゃったみたい。でもこんな危ないもの、ここで振り回してたら危険だよね?僕が預かっておいてあげる。」

 

そんな戯言を言いながら拳銃を拾い上げる。

えっと、実弾は装備済みか。兄さんに教えてもらった構造と同じ。ということは本物。

この世界に銃刀法とかそんな法律はなくて、銃は比較的誰でも持ってるらしい。ターゲットが持ってる率はナンバーワン。だから結構我が家の拷問メニューには、あえて銃弾を食らうとか、銃弾を1時間避け続けるとか、わけのわからないのがある。

まあそれは今はどうでもいいんだけど。

 

引き金を引く寸前で持ち上げて、男の頭にまっすぐと向ける。

ジャスト脳幹。当たれば断末魔をあげることさえできない即死が待っている。誰よりも綺麗に殺すことに長けている兄さんらしい教え。

こんな目立つ場所で殺るには、もってこいの技術だ。

 

 

人を殺したことは、前世今世合わせても一回もない。

ていうか、人に重傷を負わせたことすらない。そんなど素人。

こっちに生まれ変わってから、殺す技術についてはずいぶん教え込まれた。でも実際に命を絶ったことはない。

実際の人の形に限りなく合わせた人形になら、何発も銃弾を食らわせたことはある。なんども心臓を刺した。何度も殴りつけた。単純な殴る、蹴る等はもちろん、手刀でだって手加減しなければ首を飛ばせる。僕が本気で殺そうと思えば、ナイフや銃なんて必要ない。

 

男の表情をもう一度じっくりと見る。

 

 

確実に訪れるであろう死に、怯えて、逃げたくて、でも逃げることなんてできない。そんな絶望に満ち溢れた顔。

 

 

 

この世界における死は、とても軽い。

 

警察は殺人事件じゃ動かないし、ニュースにはならない。犯人探しなんて起きやしない。死体を適当に処理して、それで終わり。

大量殺人犯は賞金首になるけど、政府が公的に捜査することはしない。そんな歪んだ死生観。

 

それをわかっているから。理解しているから。だからこの男は、死を確実に訪れるものだと恐怖している。

 

 

ならば、容赦する必要がどこにある?

 

こいつは僕を害そうとした。だから殺された。ただそれだけのこと。

原因に対し、死という結果が導き出されたにすぎない。

 

 

「じゃあね。来世は相手は選びなよ?」

 

 

人差し指に僅かに力を込める。その瞬間、火薬の燃焼とともに、鉛が撃ち出される。

発砲音は騒々しい音にかき消されて、ほとんど聞こえない。

 

鉛は真っ直ぐに空気中を突き進んで、それから真っ青な絶望をその瞳に湛えた男の脳幹へと突き刺さった。

 

それから僅かに遅れて、返り血が舞う。

 

僅かに顔にかかったそれをそっと指で拭いとって、それから舌でペロリと舐めとる。

初めて舐めた他人の血の味は、ほんのり甘かった。

 

そっとしゃがみこんで、男の首へと指を当てる。

完全に脈が感じられない。体温はまだ残ってるけど、すぐに人形のような冷たさへと変わる。

 

やっぱり痛いのかなあ。死ぬのって。

銃弾を食らうのは正直耐えられる程度のものだ。まあせいぜい至近距離で食らうと熱いなあって感じ。

絶の状態では手足にしか撃たれたことはないけど、でもまあ何回も繰り返せば慣れる。

じゃあ死ぬのって、意外と苦しくないのかもしれない。

 

そんなことをぼんやりと考えながら、つんつんと男の顔を突く。

銃弾は………貫通してるか。放置でいいよね。そもそもこいつの持ち物だから、そこから何かが始まるわけでもない。意外と自殺処理とかされちゃったりして。

 

苦痛は本当にほぼなかっただろう。恐怖も一瞬だったはずだ。

上手く殺した。感謝してほしいぐらい。

 

 

 

 

「生きてる時より、ずっと綺麗だよ。」

 

 

 

 

聞こえるはずもない死体の耳元に、そうそっと囁く。

自分の弱さも理解できず、騒々しい声を立てていたあの時より、音一つ立てられない今の方が、数倍マシだ。

 

死んだほうが価値があるなんて、なんて可哀想な生涯だろう。

心の底からそう思う。

 

確かにこいつがやったことに対する対価として、死は少し大きいかもしれない。

でも、こいつを殺して得る罪なんて、何一つ感じない。

むしろ殺してやってよかったぐらい思ってる。

 

 

だって僕は、死という行為を通して、僅かでもこいつに価値を与えてやったのだから。

身動きも取れない人形へとその身を変えることで、生前よりも価値の高い生き物へと昇華してやったのだから。

 

 

そう考えながら、口元の笑みをそっと手で隠す。

 

この思想がどれほど人の道から外れているか、僕は自覚してる。狂ってるって、自分でもわかってる。

でも、それでも、僕はこの先も殺すという行動を止めることはできないだろう。

 

だって、こんなにも、美しいんだから。

こんなにも、愉しいんだから。

 

 

僕は自分が思っていたよりも、殺人に向いているみたいだ。

 

 

 

立ち上がって死体を見下ろしながら、自覚する。

僕はこの瞬間から、本当の意味で『カルト』に生まれ変わったのだと。

 




カルトの死生観は、あくまでこの世界だから存在を許されるものです。
現実との混濁はやめてねー。

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