稀代の暗殺者は、大いなる凡人を目指す   作:てるる@結構亀更新

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いつぶり?もう更新したの今更過ぎて笑ってしまった。おそらく読者はいないと踏んだのでもう自分のために書いてます……時間が……時間が無限に欲しい……

※シャルとカルトが仲良しっぽいのでそういうのダメな人は逃げてください


爆発物取り扱いにはご注意を

「では只今より1次試験を開始します」

 

試験官のその言葉でザワザワとどよめいていた会場が静まり返って、全員が動作を止める。あ、違う。1人だけ例外いた。それも真横に。

 

「ねーシャルさんってば、いつまでパソコンいじってんの?もう始まるよ」

「カルトうるさい」

 

ぴしゃり、と取り付くしまもなくシャルさんに会話を切られたので諦めて頬を膨らませながら試験官の方を向き直る。試験官さん、結構若いな。見た目年齢20歳くらいかも。しかも結構イケメン。……能力者としてはまあそんなにレベルは高くないかな。少なくともシャルさんだったら瞬殺できる。

 

ふわあ、とあくびをしながらぼんやりと試験官の方に集中する。そろそろ試験内容の話する感じかな?周囲を警戒しつつ聞き流していると、何やら面白いワードが耳に引っかかった。

 

「1次試験は鬼ごっこです」

 

試験官さんは目をキラキラさせながらそう発した。とはいえ周りの反応はきょとんとしてるか、つまらなそうに肩を竦ませたか、なんかそんな感じ。とか言ってる僕としては……

 

「シャルさんシャルさん!鬼ごっこだって!!!やったね!」

「うるさい……てか何が?」

「鬼ごっこだよ!遊んでたら試験終わるとか最高じゃん!」

「いやそういうことじゃないでしょ……いいから最後まで話聞いててよ俺の分まで」

 

あくまで自分は聞く気ないのかーいって突っ込む間もなくシャルさんは再びパソコン画面に視線を落とす。せつない。こいつやっぱり僕を便利使いする気満々じゃないですか。

まあそれはそれとして今は1次試験、もとい鬼ごっこだ。

 

「ルールは簡単。私が鬼、みなさんは逃げてください。1時間以内に私にタッチされたらその時点で失格、逃げ切ったら合格です。共謀しても罠にかけても、もちろん私を殺そうとしても構いません」

 

殺そうと、のところでぶわりと周囲の殺気が増す。キン肉マンたちはみんな大人しく遊ぶつもりは最初っからないらしい。はーやだやだ、これだから荒みきった大人たちは。

なんて考えているうちに、がたがたと音を立てて何やら試験官の後ろのシャッターが開いていく。そこから見えるのは……

 

「ここが今回のフィールドです。この森から抜ければその時点で失格としますから。よろしいですね?」

 

そう、言葉通り森。めちゃくちゃ森。

なんか鳥のさえずりとか聞こえてくる感じの森。もちろんみんなぽかんとしてその森を見つめている。

 

「はい、皆さん準備OKですか?それでは私、ここで5分数えますからその間に逃げてくださいね。はいそれじゃ……」

「ちょっと待てよ……アンタ殺すなりなんなりしていいっつったよな?」

 

試験官の言葉を遮って唐突によくわかんない男がずいっと前に出てくる。受験番号120番、僕が一番最初に円を外した人。まあつまりめちゃくちゃ弱い。

はあ、とため息をつく。僕としては早く鬼ごっこしたいのだけれど、そうも上手く行かないみたいだ。

 

「1時間経たなくてもアンタを殺したらその時点で試験終了ってことになるんだよな?」

「ええ、もちろん」

「なるほどな、よくわかったぜ」

 

にやり、と男は汚めの笑顔を浮かべて、それから懐から何かを取り出した。えっと、なにあれ、銃?

隣のシャルさんをつついて小声であれなに?って聞いてみると心底どうでも良さそうな声で返答が返ってきた。

 

「改造済み拳銃。威力は5割増しってとこじゃない?」

「じゃあ雑魚?」

「そういうこと。……よし、じゃああれはほっといて早く逃げようか」

「さーんせい!」

 

だって明らかにめんどくさいし。どうせ試験官にひとひねりされて終わるんだからもう今のうちに逃げちゃうのが正解でしょ。てかなんでみんな逃げてないの?逆に。

まあどうでもいっか。こそーっとできるだけ足音を殺してシャルさんと一緒にシャッターを越えて森の方に行こうとする、と。

 

「おい、そこの二人組!どこいくつもりだ!」

 

シャルさんがうげ、と顔をしかめて足を止める。うん、まあそりゃそうだよね。森に向かうには今言い争いしてる男の目の前を通らなきゃいけない。絶もしてない状態で人が横切って気付かないわけないわ。

 

「……カルト」

「ういっす、無視ですね」

「おい聞こえてんだよ!抜け駆けするつもりか!?それとも怖気付いて逃げ出すつもりか!!」

 

男の言葉に呼応して周りから笑い声が聞こえる。あ、ちょっとシャルさんの眉間がピクってした。怒ってるなこれ。

くい、とさりげなくシャルさんの袖を引っ張って嗜める。今ここでキレたら目立っちゃう。それは良くない。実によくない。

 

「はっ、テメエみてえな弱っちい男に子供なんてハナからハンターなんざ向いてねんだよ。さっさと帰りな!それとも殺られるのをご希望か?」

「シャルさん早く行こ」

「……」

「いや何そのにっこり笑顔。いいから早く行こってば〜!」

 

ぐいぐいともう一度腕を引いても今度はてこでも動かない。それどころか異常なほどに素敵な笑顔を浮かべて、問題の男の方をくるりと振り向きやがった。あーもうこれダメなやつだ。完全にキレてる。地雷踏み抜かれましたって感じか。

 

「ねえ、そんなにオレたち煽ってるってことは一応自分の方がオレたちより強いって認識でいるんだよね?」

「は?何当たり前のこと聞いてんだよ。頭の方まで抜けてやがるのか?」

 

男のその返答を聞いた瞬間、さらにシャルさんの笑みが深まる。そのまま足元に落ちていた石を拾い上げたシャルさんは……って!

 

「シャルさん!それアウト!」

「なんで?」

「死んじゃうからだよ!初っ端からそんなことしたら目立っちゃうでしょうが!」

「じゃあ掠らせるだけ」

「それならセーフ!」

 

いやセーフなのかいというツッコミは置いておいてもらおう。だってそんぐらいだったら目立たないでしょう、そこまで。僕だってそれなりにムカついているのだ。さすがにこの男、アホすぎて。

 

せーの、というシャルさんの間の抜けた掛け声とともにビューンと音を立てて手から石が投げ放たれる。と言ってももはやその軌道は見えない。男もあまりの速度で目をぱちくりさせてるだけで逃げる動作一つできてない。

そしてそのまま石は見事なコントロールで男の左足に接触。ナイスピッチング。音からして完全に骨は折れただろうし、筋肉もぐちゃぐちゃだろう。まあ消し飛ばなかっただけよかったね。

 

「っつぁああ!……て、テメエ!」

「じゃあ行こうか」

「りょーうかい」

 

当然のように足から崩れ落ちた男は放置して当初の目的通り森の方へ足を向ける。うん、自然の香りが落ち着くー。なんか後ろから男の悲鳴と絶叫とかざわめきが聞こえるような気がするけど気のせいだろう。うん。

 

あ、そういえば。

 

くるり、と試験官の方を振り向く。

 

「あの、五分経ったら追いかけるんですよね?もうカウントって始まってますか?」

「いいえ、乱入もあったのでカウントは今からとしましょう。それでは行きますよ、いーち……」

 

試験官がにこやかにカウントし出して、慌てたように他の人たちも森に向かって走り出す。絡んできた男は……うん、もう動けないでしょ。今回は諦めてもらうってことで。

 

ルンルンと鼻歌まじりにシャルさんに手を引かれながら森を進む。なんかこの感じ、実家な感じで落ち着くなー。兄さんとガチ鬼ごっこしてた庭も大体こんな感じだったし。

そんなことを考えながら張り巡らしていた円を薄ーく全体に伸ばしていく。試験官はっと……うん、オーラをキャッチ。これで試験官の現在地は常にわかる。し、他の受験生の居場所も、なんなら様子も盗聴器のおかげでこっちに筒抜けだ。情報面においては問題なしでしょう。

 

「で、作戦は?」

「とりあえずカルトの円で居場所探知して一定距離保ちながら動き続ける。向こうが絡んできたら絶で逃げる」

「だよねー。じゃあとりあえずは待機か」

 

はあ、とあくびをしながら真上を見上げる。木、木、木。見渡すばかりに木。正直時間を潰すにしてもやることなさすぎる。って、あ。そういえば。

 

「ねーシャルさん、そういえば2番の刀についてなんかわかったことある?」

「もちろん。オレの手にかかれば」

 

ふふん、と自慢げに鼻を慣らしながら何やらパソコンのディスプレイを見せられる。うわー、なんかムカつく。この自信満々なとことか特に。

まあでもそんな不平不満よりは今は情報なので、大人しく覗き込む。

 

「前科は20犯以上。賞金もかかってる。特徴はその刀。通常の刃物としての効果に加えて念を斬ることができるんだって」

「念を斬る?何それ」

「刀で斬られると纏ってるオーラが一時的に消去されるし、念でできてるものは消去される」

「へー、じゃあそれが2番の能力ってこと?」

「それは違う。2番自身は念能力者じゃないんだよ」

 

え、何それ?

シャルさんの言ってることがよく分からなくてこてり、と首を傾げるとすごくめんどくさそうにシャルさんがパソコンを閉じて説明を始めた。

 

「ここからはオレの推測だけど、2番はあの刀に寄生されてるだけの一般人だ。まあそれを利用してハンター試験なんかに乗り込んできたんだろうけど」

「寄生?」

「そう、寄生。刀自体がオーラを込められた道具。なんらかの理由で所有者がなくなったそれを偶然2番が手にしただけってこと」

「じゃあ警戒すべきはその刀だけってことか〜」

 

うーん、と考え込む。寄生してる刀。じゃあ多分動くためにその2番の生命エネルギーを吸い取ったりしてるんだろう。てことは単純に考えれば2番は放置しておくだけで勝手に消耗して倒れる可能性が高い。僕たちが何か手を加える必要はないかも。

でもまああれだけ刀から血の匂いがするってことは、結構な人数を殺してるんだろう。多分今回のハンター試験で人数が少ないのもあの人が道中で殺してたからの可能性が高い。音声を聞くにデパートの地下にたどり着く前に何者かに襲われた人が結構いた。その犯人が多分あの2番だ。

 

「でもまあ、正直あんまり大局には影響しないよね〜」

「本人自体は一般人だからいくらでも殺す方法もあるし。そこまで気にしなくてもいいんじゃないかな」

 

そうのんびりと言ったシャルさんは、伸びをしながら木の枝の上で器用に寛ぎ出す。なんていうか、バランス感覚カンストって感じ。そういう軽業師みたいだ。多分あの状態から普通に戦闘姿勢にも持ってけるんだよな。こっわ、幻影旅団。

 

と、円が試験官の接近を感じとる。結構なペースで受験者は失格に追い込まれてるみたいで、もう30人は捕まってる。そのぐらいまで人数が減るとまあ、結構奥の方まで逃げた僕たちまで手が回ってくるかもしれない。

 

 

「シャルさん、近寄ってきた。どうする?」

「オレたち目当て?」

「多分。この辺り僕たちしかいないから。速度も早いし撒くのは無理そう」

 

そっかー、と全くペースを変えることなくシャルさんがゆったり呟く。そもそも最初から逃げる気はないようだ。あ、今ポケットのアンテナに触った。

 

「操作しちゃってもいいけどちょっと後が面倒かなあ」

「てかそもそもあんまり念使うのもよくないでしょ。……円使っといて今更だけど」

 

あ、また一人捕まった。試験官さんはおそらく敏捷性に優れたタイプの人だ。持久力はないけど瞬間速度がずば抜けてる。だから鬼ごっこなんて課題にしたんだろうけど。でもまあ、だからたとえ僕でもロックオンされたら完全に逃げ切れるかは結構五分五分だと思われる。シャルさん?この人捕まえられる人なんてそうそういないだろうから関係なし。

て考えるとどうにか迎え撃って行動不能にしちゃうのが多分最善策でしょ。

 

「よし、じゃあこうしよう」

「何、馬鹿みたいな案だったらカルト囮にして逃げるから」

「うわー、すごい堂々と裏切り宣言されたー。……でさ、まあとりあえずうまいこと試験官を拘束できればいいんでしょ。それならいい案思いついた!あのね……」

 

ゴニョゴニョ、とシャルさんに耳打ちする。ぶっちゃけできるかどうかはよくわかんないけど、でもできたらこのまま試験終了まで持ち込めるかもしれない。試験終了までは後30分。そのぐらいだったら拘束し続けられるはずだ。

ふふっとシャルさんと顔を見合わせて笑う。結構卑劣な策だけれど、でもまあ勝てればいいのだかてれば。そもそも最初っから暗殺者と盗賊なんだから卑怯卑劣なんてむしろ専売特許だろう。

 

 

 

「カルト、こっちは準備完了」

「さすがシャルさん。試験官ももうすぐそこまできてるよ。周りの受験者はほとんど全員捕らえられちゃったから後は僕たちだけかな」

 

この試験官結構容赦ない。100人以上いた受験者がもうこの時点で50を切ってる。1次試験からこんなに不合格者出すとかいいんだろうか。まあ僕たちには関係ないしどうでもいっか。

 

5、4、3、2、1

 

脳内でカウント。ゼロになったタイミングでシャルさんと目を合わせる。よし、作戦開始。

 

「鬼さんこーちら!」

 

そんなことを大声で叫びながら木の上にひょいって飛び乗る。うん、子供だからこその軽い体重って実に扱いやすい。しばらくこのままでもいいぐらいかも。木の枝に飛び乗ったところで茂みから、ニコニコと試験官が現れた。あんな森の中で鬼ごっこしてたのにも関わらず服は綺麗なまま。やっぱり相当な実力者だろう。いや、逆に捕まった受験者がよわよわだったとも言う。

 

「おや、ここにいるのは2人だったと思っていたのですが。あの青年の方はどちらに?」

「知らない。そもそも最初から知り合いじゃないから」

「……君を囮にして逃げている?それとも何か別の策が?」

「教えるわけないじゃん。ってことでさ、僕と鬼ごっこしよう!」

 

訝しげに眉を顰める試験官は無視してばいん、と木の枝から飛び上がる。そのままジャンプして木の上を移動。ただ地上で追いかけっこだったら多分僕に勝ち目はないけれど3次元的な動きであれば試験官もおそらくそう簡単に追いすがれない。

木の下を見下ろすと、試験官はピッタリと僕を追尾している様子。多分一瞬でも地面に降りたらその場でタッチされるだろう。でもなー、降りないとなんだよなー。

 

作戦は極めて単純だ。僕が走って罠に誘導して、シャルさんが迎え撃つ。まあそれぐらい誰だって考えるだろうけれど、何しろ僕達は操作系×2だ。罠とかそんなのいくらでも生産可能。

 

「よし、今!」

 

目を閉じて勢いよく木の上から落下する。一瞬びっくりしたようにぽかんと立ち尽くした試験官はそのまま僕をタッチしようと手を伸ばした。

空中でどうにか体勢を立て直す。よし成功。そしたらあとは……。

 

「とりゃ!」

 

手には触れないように器用に試験官の背中を足蹴にして吹っ飛ばす。これならタッチされたことにはならない。

その吹っ飛ばされた先には。

 

「ナイスキック、カルト」

「でしょ?それよりちゃんと作動したの?」

「だから今落ちてるんだろ」

 

当たり前のこと聞かないでよ、と肩をすくめるシャルさんの目線の先にはぽっかりと開いた落とし穴。罠の中でも1番古典的じゃないだろうか。でもまあそれだけじゃなくて、ほんのちょっぴり細工してあるけど。

 

なかからどごん、と何度も爆発音が聞こえる。どういう理屈かは知らないけどシャルさんが仕込んだ爆弾は誰かが接触すればそのまま爆発するらしい。狭い穴の中でこう何度も爆発が起きたらどうなるか。そりゃまあ出口は塞がって、しばらくの間出れなくなることは間違いなし。

穴自体も細工してある。そもそもこんな落とし穴なんてあったら試験官が最初から警戒しちゃうから、ものすごく隠蔽した。一帯全体を僕のオーラで覆って最初から感覚を鈍らせ、更にシャルさんが見えない状況を作り出すことで地形ではなく見えないシャルさんに意識を割かせるようにした。まああれだ、幻影旅団の絶は割と真面目に僕でも分からないレベルってことだ。

 

「……よし、これで1次試験は終わりー?」

「一応まだ時間は20分くらい残ってる。試験官死んだわけじゃないし、それまで待機じゃない?」

「うえー、暇。シャルさんなんか面白い話してよ」

 

そう言いながら足をバタバタと振り回すと、シャルさんに割とガチめにデコピンされる。いった!なにこれいった!!!

 

額を抑えてぶう、と膨れっ面をしてみる。なんなんですかいきなり。頭割れるかと思ったんですけど。

そんな僕の不満を完全に無視したシャルさんは、はあ、とため息交じりに落とし穴の方を見やった。

 

「なんで殺さなかったの?」

「へ?」

「こんな手の込んだことしなくても殺せただろ。そっちの方が時間も費用もかからなかった」

 

じとっとした目でそう言われると確かに殺す方が早かったかもって気はしてくる。だってまあ、単純に僕達の方が強いし。てかそもそも向こうが感知できないレベルの絶ができる時点で割と僕達の勝ちなのだ。わざわざ落とし穴掘ったりする理由なんてどこにもない。けど。

 

「無意味はお仕事はしない主義なのです。殺すのは依頼された時か、それか先に向こうが手出してきた時だけ」

「ふーん、なにそれ」

「ルール。大事でしょそういうのって。後先考えずに殺してわけわかんないところから恨み買っても嫌でしょ?めんどくさいし」

「……暗殺者ってめんどくさいんだね。細かいこと考えずに欲しいものだけ奪ってけばいいのに」

「これだから盗賊は。そんなんじゃいつしっぺ返しくらってもおかしくないと思うんだけど」

 

遠くの鳥の鳴き声をぼんやりと聞きながらシャルさんの横顔を眺める。

幻影旅団。その被害はもはや災害クラス。こうやって話すことだって本来は避けた方がいいサイコパス集団。でもなーだけどなー。

 

マチさん、シャルさんはいい人だ。いや、別にいい人ではないけども悪い人ではないと思うのだ。多分この人たちがこうやって生きてるのは、そうじゃないと生きられなかったから。僕や兄さんと一緒。この世界で生まれる環境っていうのは生涯で多分1番大切なことだ。兄さんと僕はゾルディックに生まれたせいで人殺しにならざるを得なかったし、多分シャルさんも殺さないと生きていけない環境で生まれ育ったのだろう。細かい挙動からしてまあ、それぐらいは察した。

 

てわけでまあ。

 

シャルさんの綺麗な金髪をさらさらと撫でてみる。うわ、なにこれーどんな高級品使ったらこんなさらさらになるの?金か?金なのか!?

なんて思ったら当然のように手は振り払われる。むう、もう少し堪能したかったのに。

 

「カルトなにしてんの。普通に意味わかんない」

「えーだって暇だし。てかそれシャンプー何使ってんの!?教えて!」

「企業秘密」

 

ふふ、と唇に手を当てて笑ってるその仕草はまさか極悪非道の盗賊が浮かべるものとはちょっと思えない。なんというか、本当に年相応の普通の顔だ。

 

「ねーシャルさん」

「なに?」

「シャルさんがなんかやりすぎて誰かから盛大に恨み買って殺されそうになったらさ、助けてあげてもいいよ有料で」

「なにそれ、新手の悪徳商法?」

「ちーがーうー!だから、兄さんの次ぐらいには助けてあげてもいいよって言ってんのバーカ!」

「いやまだ意味わかんないけど。てかオレがどうにもならない状況でカルト来てもどうしようもないでしょ。オレより弱いくせになに言ってんの」

 

むにむにと頬をつつかれながらまたそう笑われる。いやまあ、正直その通りなので何も言い返せないんですけど。でもほら、人が割といいこと言ってんのに多少は感謝とかしろよと思わなくもない。

 

はー余計なこと言わなきゃ良かったー。ちょっと同情した僕が馬鹿だったー。

 

1次試験終了まであと10分。ごろりと地面に転がって目を閉じた。うつらうつらし始めてからしばらくして、遠慮がちに誰かの手がそっと髪を撫でた気がしたけれど気のせいだということにしておいてやろう。

 

 

 




シャルもイルミもカルトも好きなキャラはみんな生きててほしいなあ……シャル……

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