稀代の暗殺者は、大いなる凡人を目指す   作:てるる@結構亀更新

4 / 20
凡人は凡人ななりに努力せないかんのよ

それからなにはともかくひたすらに纏を修練すること二週間。

どうにか父さんに合格とは言ってもらえたからよかったよ。

でも、私は纏を見せた時の父さんの最初の反応を一生忘れない。

 

『……フン、まあ見れるようなものにはなったんじゃないか。』

 

いやさあ、私の念が未熟を極めてることぐらい理解してますよ!?

でも一応合格じゃん。ちょっと褒めてくれたっていいじゃん。父さんのどケチ!

………ごほん、それはともかくとしてだ。

 

そこからは結構順調だった。

二つ目の課題、絶。これはやっぱゼノさんが見せてくれたのと同じだったよー。

ただ使う理由はもう少しあった。

隠密行動に用いるのはもちろん、どうやら体の回復能力を高めるはたらきがあるらしい。

そりゃあそうだよね。生命エネルギーを内側に入れてるってことだもん。

 

まあ理由はどうとあれ、絶の習得は結構生命線だった。

一応私に求められているのは暗殺者のスキルだ。暗殺者とは、闇に潜んで隠密に、確実に対象を抹殺するお仕事。

基本はこの絶で潜んで隙を衒い殺すっていうスタイルが無難だろう。正面戦闘より死亡リスク低いし。

………なに殺す基本スタイルとか確立し出してるんだろ、わたし。適応しすぎだよ。

 

はあ、とため息をつきながら、目下練習中の練に意識を集中させる。

 

練。四大行の三番目にして、肉弾戦の基本。

纏より多くのオーラを体表に出し、それによって肉体を強化する。

私の練のイメージは、硬くて柔軟性のあるっていうとてつもない矛盾を抱えた外骨格。

鎧っていうには体に依存しすぎてるけど、体表の一部とは考えられない。そんな感じ。

まあそんなの結構本当にどうでもいいんだけれど。

 

それより何より、これさえ習得できればあとは発。つまり特殊技を残すのみ。

要は超能力みたいなもんでしょ!ひゃっはー!これで私も人類の冒険譚の片隅に名を残す………

とはならないけど、別の意味で名は残りそう。人類史上最悪の暗殺一家の一員、とか。

 

そう、こないだ父さんからもらったパソコンで調べてみたのだ。我が家のことを。

完全に冗談の気分で検索エンジンにゾルディック、と打ち込むと、現れたのは大量の検索結果。

そして、アルカ以外の全てに大量の賞金首がかかっていた。あ、私はまだ大丈夫だったけど。

ミルキとキルアはまあ納得できる程度の賞金だったんだけど、といっても5億ジェニーね。

まあ、父さんとゼノさん、イルミ兄さんは異常だった。

 

イルミ兄さん30億ジェニー、父さん50億ジェニー、ゼノさん60億ジェニー。

 

頭狂ってるとしか思えないお値段。国家の金庫が立て続けに倒壊するようなお値段。

でもまあ、そこまでするぐらいには危険人物なんだろう。国家予算投じるぐらいには。

 

思わず見てから数分間は、ぽかんとしたままフリーズしちゃった。恐ろしい。

ていうか、これ全員捕まえられたら一生遊んでも遊びきれないぐらいのお金手に入るじゃん。スッゲー。

まあ、そんなこと不可能なのは火を見るより明らかなんだけど。

 

キルア、ミルキは念をある程度完成させて成長すれば不可能ではないだろう。

でも、上3人は違う。

破格の身体能力、毒を飲んでも死なない体、ナイフの刃すら通さない強靭な肉体。

恐ろしいまでに練度を高められた念。

 

そしてそれらを完璧に使いこなせる、実戦経験。

日常と戦闘の境目がないかのように、指令さえ入れば笑顔で笑いながら人を殺せる狂気。

 

全てが、何もかもが、強かった。

 

そう思って身震いすると、思わず練が乱れてしまう。

おおっと危ない。とりあえず今日はこれを30分維持を目標に。

 

父さんから、この練を3時間キープできるようになれば、イルミの仕事に同伴させる、と言われた。

イルミ兄さんの仕事、つまり暗殺。

心臓にナイフを、いや兄さんの場合は針か、を心臓に突きつけるだけの簡単なお仕事。

てか、兄さんの能力は針を刺した対象を操作するものらしい。ので、心臓だろうが、鍼灸師が刺すような気持ちいいツボにささろうが、刺さればそれでお仕事は終了となる。正直、念能力者じゃなければ、兄さんに勝てる可能性なんて1mgもない。

だから、たかが四大行を覚えただけの私を足手まといとしてつけても、十分に余裕があるんだろう。ていうか、ターゲットはただの戦闘能力0に等しい豪商らしいし。ただ、ボディーガードがどの程度の実力か読めないのが唯一の不安要素。

まあ、それすらも兄さんの前では無力に等しい。

ある程度の人数がいる敵は兄さんにとっていいカモでしかない。

誰が操作されているのか。自分の後ろにいる仲間は、本当に仲間なのか。

兄さんの能力はそういう疑心暗鬼を抱かせて、そして全てを破滅に導く。

 

………冷静に分析すると怖すぎるな、この能力。

ついさっきまで命を預けられるとまで思えた相手に急に殺されるかもしれない。その絶望は舌筆に尽くしがたいだろう。

まあ操作されてるってわかればまだ幸せなんだけどね。もし見た目は変わらず、ただ正反対の行動を取るだけの人形と化してしまうような能力だったら………もうそれは、国家予算かけるレベルの凶悪犯罪人だよ。

 

と、そういえば、うち以外にもこのぐらいの賞金かけられてる人たちって結構いるのかな?

つまり、うちレベルの念能力者はその辺にゴロゴロいるものなのかってこと。

もしイルミ兄さんとかのレベルが普通とかなら、私はもうどうすることもできない。死ぬ。

そうよ、やっぱり事前に情報を知ることは大切。

だって考えてみなよ。いざ念取得してハンター試験会場に行ったらそこらじゅうイルミ兄さん、父さん、ゼノさんクラスだった場合の地獄絵図を。無理だろ。何もかもが詰むだろ。

 

よし、やっぱりそう言う時はパソコンを開いて、電脳ネットのアイコンをクリック。

電脳ネット、それは前の世界でいうインターネット。

ただひとつ違うのは、かける金次第では自身の情報を完全に見えなくさせたりとかそう言う芸当も可能ってこと。

ただそのセキュリティーを日々破っていく猛者たちも少なくない。例としてはミルキなんかが当てはまる。

そう言う人たちは、ネットサイバー犯っていう烙印がつく。罪の重さとしては、普通の窃盗よりは高いけど殺人よりは低いって感じ。

 

ちなみに父さんたちは罪名が多すぎてわけがわからなかった。

殺人はもちろん、器物破損に不法侵入、窃盗、電脳ネット使用法違反ーーーこれは、依頼主が料金払いきれなかった腹いせに、ありとあらゆる個人情報を完全情報公開モードで電脳ネットに載せた時についたらしいーーーなどなど。

面白いのは、脱税なんていうのも入ってたこと。暗殺者が報酬として得たカネも税としてカウントしていいのか………

 

まあそれはともかく、検索エンジンから賞金首リストのページへ飛ぶ。

開いてみると、そこには値段も罪名も多種多様の賞金首たちが。……私もいつかここに名を連ねるのかなあ。

料金が高額な順に並べてみる。

一位はゼノさん………と?

同率一位で、不思議な人物がランクしていた。

というか、人物じゃなかった。

 

『幻影旅団』

 

おそらく何かのグループ名だろう。

団員一人につき、60億ジェニー。顔や年齢、性別、何もかもが不明になっている。

ちなみにゼノさんは、お気楽にピースした写真とプロフィールがばっちり載ってます。好物は焼き魚だそうです。

………多少は自己主張を抑えろと思わなくはない。

 

でもそんなに情報もないのに、どうしてこんな賞金がついてるんだろう?

その疑問は、罪名と過去の犯罪歴を見た瞬間に解決した。

 

殺人、窃盗、放火、器物破損、不法侵入、強盗、誘拐、違法薬物精製。

 

思いつく限りのありとあらゆる罪名が淡々と描かれていた。

そして犯罪歴。

少数民族を滅ぼすやら、希少な宝石を取るために市内を火の海にするやら、そんなのばっかり。

もはや、こいつら災害かなんかの一種なんじゃないかって感じ。

 

うちはあくまで暗殺が仕事だ。その他の部分はよっぽど相手が強力だったとかそういう事情がない限り、進んで破壊はしない。

だから基本は殺人一本。他への被害は少ない。

でも、幻影旅団は違う。

彼らは目標のためならば過程は気にしない。ちょっとムカついた奴がいたから。それぐらいの理由で、その人がいる街に火を放つような。そんな行動。動機に対しての結果が大きすぎるんだ。

 

こんな奴が、この世界にはいる。

もちろん少ない。ハンター試験全員こいつらだったとかそう言うことはない。

でも、もし私がある程度の実力を持つことができたら、確実に接触するような距離にいる。

 

ゴクリと喉を鳴らす。

感じたのは、恐怖だけじゃなかった。

驚くほどに、その状況を楽しんでいる自分がいた。

 

きっと今この瞬間に、こいつらが現れたら死ぬほど怖い。でもそれだけじゃない。

 

私は、それを心の片隅では期待している。

 

心の中で血気さかんに奴らと張り合おうとしている自分を抑える。

いやいや、まだ早いだろう。どう考えても。

もし将来奴らと一発やりあう時がくるとしても、それはどう考えても今じゃない。

 

私が彼らと同じ目線に立つその瞬間までは、この期待は傲慢以外の何物でもない。

 

そうだ、だからとりあえず今は、これが傲慢じゃなくなるぐらいに強くならないといけない。

唇をペロリと舐めながら想像する。

これほどの強者が、命を賭して全力で戦う姿はどれほど美しいのだろうと。

その美しい体を染める血は、どれほど鮮やかなのだろうと。

 

せっかく力を得ようと努力してるんだ。少しぐらいご褒美があったっていいだろう。

幸せで平凡な人生を送るのはそれからでもいい。

 

 

いまは、とにかくその血をみたい。

 

 

 

っと、そんな危ない方向へと飛んで行った思考が、強制的に元に戻される。

まあ具体的に何かと言うと………慌てて飛んできて部屋の扉を開いた執事たちによって。

 

さっきの興奮でちょっと練が乱れてしまったらしい。その代償として転がる、部屋に置いてあったオモチャの数々。

さすがにゼノさんみたいに風が吹き荒れるわけじゃないけど、周囲のものをぐちゃぐちゃに搔き回すぐらいの威力はある。いくら未完成な練と言えども。

まあ要因はそれだけじゃないんだけどね。

ちょっぴり眉をしかめながら、執事たちの声に耳をすます。

 

「さすがゾルディックの血を引くお方だ。オーラの量が……尋常ではない。」

「ええ、これは幼少期のイルミさまも超えておられるかも……将来が楽しみですわね。」

「当主の支えとして、な。」

 

最後に男の、おそらく先輩と思われる執事が、女性の執事を窘めるように最後の言葉を発すると、女性の執事はこっちを少し気まずげに見遣って、無言で片付けの作業に戻った。

 

そう、私のオーラ量は普通という領域を超えている。

これは私自身の才能とかそういう奴じゃなくて、単純な家系。遺伝的な問題。

私たちゾルディックの家系は、根本的なスペックも普通より高い。そしてそれをさらに、磨き上げていく。だから強い。

オーラの量、質、筋肉のつきやすさ。全てにおいて、平均以上の能力値を示すのはここに生まれたからには当然っちゃ当然。

 

そしてさらに私はそこに加え、幼少期からの記憶持ちっていうアドバンテージがある。

父さんによると、オーラ量は私の時期に鍛えるのが一番伸びがいい。だから私の最大オーラ量は、おそらく同じような才能を持って普通に育ったキルアを凌駕する可能性が高い。

でも、だからといって、何も変わらないのだ。

 

キルアが当主になるということも、私はあくまで彼が成長するための補助輪でしかないということも。

 

おそらくあの女性の執事は、少し期待したのだ。

私が、自分が仕えている子が、将来のこの家の当主になることを。

だけど、そんな日が来ることはない。

 

その理由は私の知るところはないし、別に知りたいとも思わない。

私が欲しいのは、平凡で幸せな人生。

 

……あと追加要素のスリルもちょっぴり。

 

まあ、とにかく何にしてもこの執事さんたちのご希望に私は沿うことはできないってこと。

 

 

 

そんなことを考えながら、ふわあとあくびをする。

そろそろ練の維持が辛くなってきた。ん、でもまだいける。

現在開始から約45分。目標時間は超えたけど、それでもできる限り早く3時間を超えたい。

もちろん早く強くなりたいってのが第一目標だけど、それともう一つ。

 

人の死に対して、自分がどれぐらいの拒否感を持っているのか知りたい。

 

私は近くで人が死ぬ瞬間を見たことがあまりない。

おじいちゃんが病院のベッドでゆっくりと息をひきとる瞬間。それに自分自身が死ぬ瞬間とか。

それぐらいしかないかなあ。死というものに触れたのは。

多分殺されるっていうのはそんなゆったりしたものじゃない。もっとショッキング。

血が飛び散って、ぐちゃりと音がして、そしてどさりと倒れる。

それが自分の眼の前で起きる。

 

いまいち、うまく想像ができない。

 

しかも、しばらくしたら私はそれを自分の手で引き起こすようになる。

殺し。文字で見る分には単純な話だけど、実際は違う。

その瞬間でその人の命を終わらせるという行為が、どの程度自分の心に影響を与えるのかは未知数だ。

だからこそ、早めに知っておく必要がある。

 

 

よし、と覚悟を決めて拳を作る。

早く、この念を完成させる。

ちゃんと戦えるようになる。

 

殺せるようになる。

 

 

そうじゃないと私は、生きていけないから。

 

幸せな人生もスリルも何もかも、生きているから味わえるんだ。

私は生きたい。死にたくない。願わくは血で染まるのは相手であってほしい。

 

そう考えながら、練の維持に努める。

 

あと、2時間必ず耐えきる。寝てても発動できるくらいに私のものにする。

 

そう思った瞬間、ブワッとオーラが広がって、また部屋の中がぐちゃぐちゃにかき乱される。……ごめん執事。お仕事全部パーにしちゃった。

うーん、これをキープできる時間を伸ばすのも大切だけど、そもそもの練度もあげたい。でもどうやって?

 

そう思って思い浮かんだのはイルミ兄さん。

ゼノさんとか父さんは、オーラの操作については説明できないって言ってた。どうやってるかわからないぐらい自然にやってるからって。

でもイルミ兄さんは、多分違う。あの人は……

秀でた才能を抑えきるほどの努力であのオーラ練度を達成している。

 

教えてもらうならイルミ兄さんだ。

私には天性の才はない。だから努力でドーピングするしかない。

 

今兄さんは確かお仕事に行ってるはず。

戻ってきたら部屋に突撃して教えてもらおう。

 

おっし、やること見えたらやる気出てきた!

 

とりあえずまずは時間を伸ばす。その基礎がないとどんなアドバイスも意味がない。

兄さんが帰ってくる予定日は2日後。違う大陸までお仕事に行ってるらしいから、移動に時間がかかるんだろう。

そうだ、その辺の地理とかも教えてもらいたい。基礎常識はいくらでもほしいし。イルミ兄さんは教えるの上手そうだし。

 

イルミ兄さんは、多分一番この家で普通で。だから一番曲がって見える。

そういう意味で一番私に近いのはイルミ兄さんだ。

あの人から学べることは全部学ぶ。私のために。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。