稀代の暗殺者は、大いなる凡人を目指す 作:てるる@結構亀更新
ついでにイルミとの関係性捏造なんで、ご警戒を。腐ってないよー。
『天空闘技場は身分証明を一切必要とせず、ただ戦えば金が得られる、腕に自信があるものにとっては最高の舞台。100階以降のフロアに進出すると、一人に一つ豪華な個室が与えられる。しかし、100階エリアから負けて階が落ちた瞬間、チェックアウトとなるため注意が必要。
基本的には勝てばフロアが上がり、負ければ下がる。例外として200階以降では、200階エリアで10勝してフロアマスターと戦うことが目標となるため、勝利しても200階フロアから動くことはなく、待遇が変わることもない。』
兄さんから聞いた天空闘技場の基礎情報を脳内で再生しつつ、トボトボとアスファルトを進む。
そう、アスファルトだ。アスファルトなのだ。
真上には燦々と輝く太陽。と、僕をここまで連れてきたゾルディック家のプライベート飛行船。
そして目の前には、高くそびえ立つ天空闘技場とやらがいらっしゃった。
もう僕には、どうしてこうなったのか訳がわからない。
兄さんの針で急成長した。それはいい、とてもありがたいことだ。
だけど、じゃあもう大丈夫だろうと飛行船で半強制的に僕を天空闘技場に送り込んだ父さんは、僕が忘れるまで許さないから。
ぼんやりと真上を見上げると、なんの葛藤もなく飛び立っていく飛行船が小さく見える。ていうかこれ、僕どうやって帰ってくるんだろう。まさか自分で稼いだファイトマネーで帰れとか、そんなこと言われたら結構本気でキレるよ。
えっと、あの飛行船運転してた執事、なんて名前だっけ。ゴトー、さん?うーん、自信がない。
でもまあ、なんの躊躇もなく僕をこの雑踏の中において去っていったところを見るに、ゾルディック家の優秀な執事であることは間違いない。そして許すまじ。
ぐるりと周囲を見渡す。
明らかにカタギじゃなさそうな愉快なお兄さんたちがいっぱい。武器保有率の異常な高さについて小一時間ぐらい議論したいところだ。
ていうか僕武器とか持ってないんだけど。どっかで紙買って来なきゃ。
あー、でもそのお金すらないよなあ。
周りにはたくさんの店があって、その中には文房具屋みたいなのもある。多分コピー用紙とか売ってるだろうなあ。
でもなあ、どうせなら上質な紙使った方が強そうな気がしなくもないけど……まあそれは本当にガチ戦闘しなきゃいけない時とかの保険って感じで。雑魚にいちいち使ってたら金がいくらあっても足らん。
ん、よし。じゃあとりあえず数回戦って金ゲットしよう。そしたら念能力の媒介になる紙が買える。
200階エリアに入るまでに入手することが必至だね。がんばろ。
ていうか頑張るも何も、早いとこ戦って勝って、金を手に入れれば問題ないのだよ。そうそう。
じゃあそうと決まれば、早いとこ中に入っちゃおう。このままここで佇んでたら日照りで死ねる。燃える。
明らかに目つきが凄いおじさんとか、懐にナイフ隠し持ってるお兄さんとかの間を縫って、受付のお姉さんの前に立つ。
「すみません、受付をお願いしたいんですけど。」
「え?あ、あなた何歳?ここは天空闘技場って言って、運が悪いと死ぬ可能性もあるところで………」
お姉さんにとてつもなく怪訝そうな顔をされて、それからすごい止められる。
そっか、僕ってまだ未就学児ぐらいの見た目だもんなあ。そりゃ止めるか。
んー、でもここをどうにかしないと中に入れないわけで。そうするとお仕事できないわけで。
「とにかく親御さんが心配するし!」
「あー、それは大丈夫ですよ。むしろ親に行って来いって突っ込まれた感じなので。」
そう何気なく言うと、お姉さんが絶句する。
まあそうなるなあ。急なネグレクトか、もしくは虐待の危険ありの話ぶっ込まれたらそうもなるわ。
うーん、どうしよう。まさかここでこんなに詰まるとは思わなかった。
むむー、と打開策を考えていると……いると!?
「へえ、キミすごいじゃないか。その年でそのレベルの纏、すごくイイね♣︎」
ぞわりと背筋が凍った。
全身のすべての感覚神経がアラートを鳴らした。今すぐ逃げろと。
オーラが即座に臨戦体制へと入る。
声がしたと思われる位置から飛びのいて、5mぐらい距離を離す。
そして、完全に警戒した状態でその声の発信源を見ると。
「その反応もイイね♢もしかしてもう、誰かに立ち回り方教えてもらってるの?特に危険に対する回避運動の瞬発性はすごく高い♡キミの師範に一度会ってみたいよ♠︎」
赤毛の、男だった。
ねっとりとしたオーラ。おぞましい殺気。
本能的に理解する。この人は。
兄さんと同じくらい強い。
ゼノさんや父さんや兄さん。途方もなく強いあの人達と同じくらいの念の練度。
勝てない。勝てる未来が見えない。逃げたい。でもそれも敵わない。
あの時の兄さんと同じぐらい、怖い。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。
頭を駆け巡るのはただそれだけ。硬直したかのように、体が動かない。
「兄さん。」
兄さん、助けて。
思わず口がそう動く。
そっとうなじに刺さっている針に触れる。
それに触れると一瞬落ち着く。大丈夫、じゃないけど、心は多少平静を取り戻した。
兄さんに針を刺されそうになった時。あの時もちゃんと生き延びられた。それはなぜか?
冷静に考えられたからだ。
冷静になれ。深呼吸深呼吸。大丈夫、絶対大丈夫。
硬直していた体が動きを取り戻す。動くようになった腕で、カバンを漁って所有物を探る。
財布、携帯、衣類、水、ん?まだ下の方に何か入ってる。
特に理由もなくそれを勢いよく取り出す。
「扇子?」
赤毛の男が不思議そうにそう呟く。
うん、僕も不思議だよ。なんでこのタイミングで扇子なんだよ。全然武器要素ないじゃん。……………んん?
多分母さんが持ってる扇子のうちの一つ。黒字に金の蝶。すごく綺麗だ。
そして大切なのはここ。これは……紙製だ。
びゅんと、扇子を一閃させる。
風を強く切る音。よし、行けそう。
扇子にオーラを込める。前コピー用紙にやった時と一緒。原理はよくわからないけれど、それでも使えるならなんでもいい。
この場を打開できるのは、これだけだ。
兄さんにもギリギリ通用した紙の操作。これだったら、この人にだって届きうるかも知れない。そのかわり倒れるかもしれないけど。
「ふうん、面白い武器だね♢どうやって使うの?」
もっと、見せてよ。
貼り付けたような気持ちの悪い笑顔を浮かべて、赤毛の男は開いた5mをじわじわと詰めてくる。
思わず下がろうとしてしまう足を、無理やり止める。この人は多分、今僕が背中を向けたら、即座に殺す。根拠はない。でもそうわかる。
ここに踏みとどまることが、僕の最低限守らなければならない条件。死にたくなければ。
チャンスは一度きり。それを逃したら、もう終わり。
赤毛の男の目つきが変わる。
この変化知ってる。いつも見てる。
兄さんが間合いに入った時にする動作と全く同じだ。
そう思った次の瞬間、一気に赤毛の男との距離が詰まった。
近距離のファイタータイプか!?くっそ、最悪!
仕方ない。今やるしかない。
さっきからスタンバイして足に溜めてたオーラを一気に放出して、思いっきり飛び上がる。
そしてそのまま、男の無防備な首筋へとオーラを込めた扇子を………って!
掴まれた。
足を、掴まれた。
折れるんじゃないかってぐらい、強い力で足を捕らえられる。
うそ、でしょ。
僕の姿を振り返って確認することなく、完璧なタイミングで手を出して、そして重力加速度を利用してるから相当な速さで落下してきているであろう僕を片手で押さえた。
普通の人間なら、軽く手首折れててもおかしくないのに。
ジタバタともがいても動けない。そのまま手首も押さえつけられる。
マズイ、完全に身動きが取れない。
「キミ、名前はなんて言うの?」
この生殺与奪権を完全に握られた状態で、そう問われる。
はあ?なんなのこの赤毛!殺すなら殺すでさっさと殺れよ!こんな時に何呑気に自己紹介始めようとしてるの!
「早く答えないと、手首が折れちゃうかも♡」
「っカルト!」
「へえ、いい名前だね♠︎」
「うるっさい!いいから離せ!」
そう言ってバタバタと暴れると、ニンマリとした表情を浮かべられる。
何この人。怖い。強い云々以前に、怖い。
じっとりと背中に冷や汗が流れる。
なんだろ、この感覚。絶対に何があってもこの人だけには出会ってはならなかったと本能が言ってる。
「……殺すなら、早くしてよ。タダで死んでやるつもりはないけど。」
そう言いながら睨み付けると、明らかに状況に似合っていないような笑みを返される。
なんか、ぞわぞわするわ。むしろ逆に。
そんなことを考えていると、男の手が頭の上に伸びる。
あ、砕く系ですか。痛そうですね。できれば心臓一突きとかが良かったんですけど。でもまあ即死じゃなければ死にものぐるいでゾンビアタックできますから。覚悟しろやオラ。
兄さんごめん。多分針一個無駄にしちゃったね。これを今後の反省材料として、子供をいきなり怖いおじさんがいっぱいいるところに送り込むのはやめるようにしてくださいな。
「キミはここで壊すにはもったいない♡キミは育てばもっと美味しく実るだろうからね♣︎それまで待つよ、殺すのは♢」
握り潰されると思って頭の上に置かれた手は、予想とは違って僕の頭に損害を与えることはなかった。
そしてのたまうとんでもないコメント。何、待つって。殺すのは確定事項なの?
口をパクパクとさせていると、さらにまだ嬉々として言葉をつなげる謎の赤毛。
「今はどちらかと言うとキミに武術を教えた師範に会いたいねえ♡一度手合わせしたい♢」
「精孔を開いたのは父さん。念とか戦い方を教えてくれたのは兄さん。」
吐き捨てるようにそういうと、さらにニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべる。
何この人。拒絶されてるのに気づけ。ていうか多少それに対して傷つけ。
「へえ、どのぐらい強いのかい?君の兄さんとやらは♣︎」
「……あなたと同じくらい。でも兄さんの方が綺麗な殺し方をする。あなたみたいにいたぶるような戦い方じゃなくて、無駄がない。」
「興味あるなあ♡」
「じゃあ兄さんの電話番号、教えてあげようか?」
そう言いながら携帯を取り出してひらひらと振ると、赤毛の人が一瞬驚いたような表情を浮かべる。
それから、なぜか急に笑い出した。え、なにこの人怖い。
まあ、それよりも。
「あげる、代わりに約束して。」
「ああ、やっぱりそういうこと♢………キミは本当に面白いねえ♡」
相変わらず笑ってるのは無視して、条件を一方的に突きつける。
「僕が念を使えることを誰にも言わない。それを約束してくれたら。」
「……念能力者には見ればわかるよ?」
「だから今からはわからないようにする。」
そう言いながら纏を切って、絶に切り替える。
この際ポイントは、微妙にオーラを残すことで完全に気配を立たないこと。そうすると、あらまあ不思議、一般人の非能力者に見えるのです!
兄さんが潜入するときに便利って教えてくれてよかった。これなかったら乗り切れなかったよ。
どこかの赤毛がパチパチと拍手をしていたのは見なかったことにする。ていうか見たくもない。
「了解♡キミが能力者なのは誰にも言わないと約束しよう♢」
「じゃあ携帯出して。兄さんの番号、入れてあげる。」
なんの疑いもなく手渡された携帯に、兄さんの番号を打ち込む。
これ、携帯破壊されるとか考えないんだろうか。………いや、そんなことしたら即殺すのか。なるほど。
この人、絶対兄さんたちと同じ殺すのに躊躇い無い系じゃん。ははっ、何最初からこんなのに出くわしてるんだろ、僕。
そんな今更どうしようもないことを考えながら打ち込んで、赤毛の男に投げ返す。
「はい。間違いはないと誓う。」
「それは最初からわかってるよ♠︎キミはそんなしょうもないことで命を散らすようなバカじゃないだろ♢」
そう言いながら電話番号を確認する赤毛。あれ?そういえばこの人の名前、なんていうんだろ。まいっか、赤毛で。
改めて全身を見やると、そのすごさに戦慄がする。
鍛え抜かれた肉体に、恵まれた体格。おぞましいほどの念の練度。
なんというか、兄さんを近接戦闘型にしたような感じだ。
てことはこの人は強化とか放出とか変化とか、その辺の系統なんだろうか。ていうか普通に考えてそうだろ。
うわー、本当に関わりたくない系だよ。
だって僕、近接戦闘、できないもん。兄さんにざっくり護身術的なものは教えてもらったからその辺の一般人よりは絶対的に強い自信はあるけど、それでもきっちりその方向で鍛えた猛者からすれば虫みたいなもんだ。
つまりこの人は、僕と死ぬほど相性が悪い。
よし、じゃあ逃げよう。早くこの人から遠ざかろう。それが大切だと思うんだ、僕。引き際の見極めが生死を分けることって多いから。
そう思ってこっそりと走り出そうとすると、ぐいっと何かに引っ張られる感覚。
赤毛が掴んだ?いや、両手は空いてる。じゃあ何?
まさか、と思って周囲のオーラに集中する。
前一回だけやったやつ。感覚神経レベルの感度を持ったオーラを投げまくるやつの劣化版、ていうか薄めのやつ。
何回か訓練して、ある程度濃さを調節することに成功した。これ、父さん曰く円っていうらしい。
ゼノさんが得意みたいで、運よく僕はその遺伝子を継ぐことができたって感じ。
で、そのオーラを展開するとだ。
……僕と赤毛の間に、変なオーラが繋がってた。
引っ張っても取れない。ていうか衝撃を受け流されてしまう。てことは、ゴムみたいな素材か。
そこから推測すると、赤毛は変化系。オーラをゴムみたいでなおかつくっつくものに変化させる能力ってとこだろう。
「円がその年で使えるのは相当適性があるんだね♣︎さすが、ゾルディックの子だ♡」
したり顔でうなずきながらオーラを手繰り寄せる、ていうか縮める感じで引き寄せる赤毛。
ヤメロ。キモいから。触んな。僕一応女の子だから。
………て、へ?
今、なんつったこの赤毛。
「イルミの妹さんか♢通りで戦闘スタイルが似てると思った♡彼に教えてもらっているのかい?」
イルミ。兄さんのお名前。
ばーれーてーるー。僕がゾルディックだって、こいつわかってるよ。オーマイゴッド!神は信じてないけど!
なんで?いつ、どこで?そんな情報を与えるような言動はしてないはず。
だってゾルディックてバレたらすごい狙われるだろうし。だから細心の注意を払ってたのに。
逃げようとしてもオーラで固定されてて動けない。どうしよう詰んだ。
このままどこかに売られるんだろうか。噂の人身売買的な。毒耐性は多少ついてる臓器だから、臓器売買業界からするとゾルディック家の内臓は貴重だったり。まあそれよりも普通に賞金首として提出したほうがお金にはなると思うけど、僕にはまだ賞金首かかってないからなあ。あ、もしくは家族の情報吐かせて、兄さんとかの賞金首を捕まえるのに利用しようとしてる賞金首ハンターに売るとか。もしくはこの人自身が賞金首ハンターとか。うーわ、何それこわ。なんにしてもバッドエンドじゃん。
でもまあ一つだけ言えるのは。
「……兄さんの情報が目当てなら、絶対に売らない。」
兄さんのだけは売らない。
なんだかんだ兄さんにはお世話になっていますから。恩を仇で返せないですから。教えてくれた相手を売るとか目覚め悪いし。そうそう、僕の目覚めが悪いから売らないの。断じて兄さんを思ってでの行動でないことをここに表明する。
「携帯の番号はいいのかい♡」
「あれはゾルディック家の公式の番号。兄さんのプライベートのやつじゃない。でもまあかければ兄さんに繋がらないことはないと思うけど。一応参考までに言っておくと、この番号は既に裏では有名だから、情報売っても金にはならないよ。」
「じゃあその兄さんのプライベートの番号って、これ?」
そう言いながら赤毛が見せた番号。それは………
「っそれ、なんで!」
「うーん、マジックかな?」
そんなふざけたことを抜かしながら携帯を弄る赤毛。
そこに映っていたのは、兄さんの完全なるプライベート用の番号。
あの番号、家族と一部の人間しか知らないはず。兄さんの仕事上の協力者しか。
……まさか。
「もしかして、兄さんの仕事上の協力者って、赤毛のことだったの?」
「赤毛………ああ、ボクのことね♢うん、そう♡イルミのトモダチだよ♣︎」
そう言いながら赤い髪をキザっぽく搔き上げて、そうして一瞬にして手の内に一輪の花を具現化?する。
なに、今の。念じゃない。魔法?
「ボクは奇術師ヒソカ♠︎キミの兄さんにここにいる間の護衛と師範役を任された♡」
名乗りながら僕に出した花を極めて自然な動作で渡す。
「これからよろしくね♢」
ん?んん?
何が何やらわからないけど、とりあえず心を落ち着かせようと花をビリビリに引きちぎる。
ふう、ちょっと和んだ。
で、なんだっけ?イルミの友達?は?
「兄さんに、友達?」
口に出してみても全く理解不能。兄さんと友達という言葉は全く似合わない。
どういうこと?
僕が脳内ぐるぐるにして考えていることに気づいたのか、赤毛、もといヒソカとやらがくっくっくとかキモチワリィ声で笑い出した。
びっくりするぐらいムカつくけど、死にたくないから黙っておくことにする。
「じゃあキミでもわかりやすいようにこう言いかえようか♣︎ボクは『イルミ・ゾルディック』の仕事の協力者であり、『イルミ』のトモダチだよ♡」
「………ああ、なるほど。」
この人も兄さんの呪縛による微妙な人格の変化に気づいてるのか。
ゾルディック家としてのイルミはあくまでヒソカを友達とは見なさず、協力者として考えている。
だけど、ただのイルミである部分は、不本意ながらもこいつを友達ってみなしてると。本人に言ったら針投げて来そうだから絶対に言わないけれど。
なるほどなあ、まあ兄さんに家の外にこういう人間がいるのはいいことだと思う。そうでもないと、兄さんは家の内側だけで生きちゃう気がするから。
で、まあそれはともかくだ。
それよりももっと理解不能な単語がある。
「護衛と師範役を任されたってどういうこと?」
「……昨日イルミから唐突に依頼が入ってね♢よくよく考えたらキミがまだ天空闘技場で戦えるほどの武術を持ってないことに気づいたから、護衛しつつ鍛えてくれ、と♡」
「兄さん、気づくの遅いよ。僕まだお子ちゃまなのに。」
「それもイルミから聞いてるよ♣︎まだ生後1年経ってないんでしょ♠︎記憶持ちの妙な子が生まれたって言ってたよ♡」
「……兄さんが言ったってことは、ヒソカにはバレても問題ないってこと?」
おっかしいな。そのことについてはあんまり外には漏らさないようにしようって言われたはずなんだけど、父さんに。
まあでも、兄さんの外の唯一の知り合いだろうし、別にいっか。兄さんが家族以外とそういうどうでもいい話できるのは、すごく嬉しいし。
……って、僕、誰ポジションだよ。どう考えても親目線だよそれ。
うーん、でもまあ精神年齢で考えればそんなに年の差ないしね。兄さん、強いけど危なっかしいしね。
仕方ない仕方ない。
まあそれはともかくだ。
護衛と師範。受け入れていいものか。
多分このヒソカって人もすごい裏の人間だ。殺人鬼とか、意外とそんな感じだったりして。まあ、世間一般に推奨されるような生き方をしてないことは、この短い時間でよくわかった。
でも兄さんがわざわざ依頼したってことは、すごい強いんだろう。まあ、見るからにわかるんだけど。身を以て体験したし。
ヒソカと友好関係を築いておいて、なんら悪影響はないはず。必ず僕の役に立つ時がくる。
まあ多少悪の一味だと認識されましたとかそういう弊害はあるけど、すでに暗殺一家に生まれちゃった時点でそこは諦めてるし、気にしたってどうすることもできない。
だからまあ、ヒソカと一緒にいて生まれる悪点は別に我慢できる範囲だ。
それにヒソカと一緒にいれば、自然と強くなれる。と、思う。
僕が不得手とする近接戦。それを教えてもらえるのはとても嬉しい。ヒソカは多分近接戦闘においては父さんとかゼノさんと同レベル、むしろ上。だったらヒソカから学べるものはきっと多い。
ヒソカはあの感じからして複数戦よりタイマンの方が得意そうだけど、兄さんはその逆。二人から学べば、どちらの強さも習得できる。……はずだ。
それに兄さんがせっかく僕のために頼んでくれたんだから、ありがたくこの人に頼ってもいいだろう。
兄さんの貴重なデレを無下にできるほど僕はメンタル強くない。
そう脳内で議論をまとめて、そしてヒソカに向きなおる。
あ、そういえばまだ僕、ちゃんと名乗ってないよね。
そう思ってきちんと改めて自己紹介する。
「僕はイルミ兄さんの妹のカルト。血縁的にはゾルディック家の一員だけど、でもゾルディックっていうファミリーネームを名乗るつもりは、これまでもこの先も一切ない。」
ぺこりと頭を下げて、そして短く。
「よろしくお願いします。」
そう言うと、今まで作り物の笑みしか浮かべなかったヒソカの口角が、本当の意味で一瞬上がった気がした。
「……こちらこそ♡」
カル「そういえばヒソカって、最初から僕がカルトだってわかってたんだよね?」
ヒソ「そうだね♡だから近づいたんだよ♢」
カル「だったらなんで知らないふりして、しかも戦おうとしてきたの?最初っから事情説明してくれれば良か
ったのに。」
ヒソ「最初はそうしようと思ってたんだけどね♠︎思いの外キミが美味しそうだったから♡」
カル「はあ?それだけの理由で、僕殺されかけたの!?最低!砕け散れ!」